株式会社エイチーム

2016年2月取材

※ 記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

あらゆるビジネスシーンを想定し働きやすさを追求したオフィス

インターネット・モバイル端末をベースとしたコンシューマー向けサービスを主軸に、「エンターテインメント事業」と「ライフスタイルサポート事業」の2つの事業を展開する株式会社エイチーム。「みんなで幸せになれる会社にすること」「今から100年続く会社にすること」を経営理念に掲げ、事業を拡大している。
そんな同社は2015年12月、本社を名古屋市西区から名古屋駅前の大規模新築ビルへ移転を実施した。今回の取材では、その新オフィスの魅力やオフィスコンセプト、イノベーションを生み出すためのしくみなどについて語っていただいた。

光岡 昭典氏

株式会社エイチーム
社長室室長

光岡 昭典氏

尾崎 美鈴氏

株式会社エイチーム
社長室広報

尾崎 美鈴氏

株式会社エイチーム

はやわかりメモ

  1. 中期経営計画の「5年後の姿」を見据えて「働きやすい環境づくり」を目指す
  2. 全社員にアンケートを実施しオフィスに必要な物と足りない物を分析
  3. コミュニケーションを円滑にする内階段と地上150mの社員食堂
  4. 「やりたいことが、障害なくできる」ことが「働きやすさ」に直接つながる
  5. あらゆるシーンを想定したミーティングスペースを設け、未来を拓く

中期経営計画の「5年後の姿」を見据えて「働きやすい環境づくり」を目指す

エイチームの創業は1997年6月、林高生氏(現・同社代表取締役社長)が岐阜県土岐市で個人事業主としてソフトウェアの受託開発を開始したことに端を発する。個人事業ではあったが、当初から「エイチーム」の呼称を使用していたという。その後、2000年2月には岐阜県多治見市に有限会社エイチームを設立。2000年11月から愛知県名古屋市へ本社を移し、2004年11月に株式会社へ組織改編した。名古屋市内では、まず中村区にオフィスを構え、創業10年目となる2007年2月には、同年1月に竣工したばかりの西区の超高層オフィスビルに移転した。

「同ビルへ入居した当初は6階の4分の1のフロアを使用していましたが、半年後には32階の半フロア、その1年後には32階の全フロアへと拡大していきました。社員全員が同じフロアで働いていたので、誰が今どこにいて何をしているのかがお互いによくわかり、コミュニケーションも良好だったと思います。しかし、その後、会社の急成長に伴い、36階の半分を増床し、さらに分社化によって子会社が近隣にある別のビルへ移転しました。こうして3ヵ所に拠点が分散したことで、次第にコミュニケーションが取りづらい環境になっていたのです」(光岡昭典氏

移転前のオフィスの使用面積は、3ヵ所合計で約1,060坪。ここに子会社を含めて約350名の社員が働いていた。ビル自体の築年数はまだ新しく、まだまだ十分なスペースを有していたが、拠点をまたいだ部署間の連携がスムーズにいかないなど、経営上の課題も一部で指摘されるようになってきた。

「そんなとき、中期経営計画を策定することになり、当社の目指す『5年後の姿』として、いくつかのテーマが掲げられました。その中に『働きやすい環境づくり』というテーマがあり、具体的には『社員食堂が欲しい』『フィットネスジムのような設備が欲しい』『オシャレなオフィスで働きたい』などの項目が挙げられていました。どれも現ビルでは実現困難な内容であり、いずれどこかのタイミングで実現していきたいと考えていたところでした」(光岡氏

その頃、名古屋駅前の再開発計画が進行しており、2015年末には約10年ぶりとなる大規模新築ビルの竣工ラッシュが予定されていた。同社はこれを絶好のタイミングと判断し、建設中の超高層ビルの一つを移転先と定めて2013年11月に移転計画を決定。同年12月、社内に正式に発表した。移転実施時期は移転先ビルの竣工に合わせて2015年12月と予定された。

「計画の発表後、新オフィスの内装デザインを担当する会社の選定にかかり、数社にお声掛けをし、デザインコンペを行いました。選定基準は、当社について深く理解しているかどうか、会社の課題を見つけて解決してくれるかどうか。ですから働きやすくイノベーションを起こしやすい、企業価値を高められるオフィスをつくれるデザイン会社が望ましいと考えていました」(光岡氏

全社員にアンケートを実施しオフィスに必要な物と足りない物を分析

デザイン会社として選定した株式会社ミダスと協力して、全社員を対象にアンケートを実施した。これは、単に新しいオフィスをどんなものにしたいかという要望を求めるのではなく、社員一人ひとりが自らの現状をふり返り、改善すべき問題点を自分自身で発見していくためのアンケートだった。

「まず、自分の1日のスケジュールを振り返り、いつ、どこで、どんな仕事をしているのかを記入してもらいました。そうすることで、『何が足りない』とか『何が必要だ』といった、普段は気づいていないものが見つかります。そして、回収したアンケートを分析し、必要な物、足りない物を定性的・定量的に検討していきました」(尾崎美鈴氏

例えば、「会議室が足りない」という問題点があったとして、ただ闇雲に会議室の数を増やせばいいというものではない。現状で1日に何回くらいのミーティングが行われており、それぞれ参加人数や所要時間、シチュエーションなどを調べることで、「どのくらいの大きさの会議室を、どれだけの数が必要なのか」が分析できる。この結果をもとに、今後の増員計画や事業計画、オフィスの面積や予算による制約などを加味して、最終的な会議室の数や種類を決定していった。

「社員へのアンケートをもとにしたオフィスの最終デザインには約10ヵ月かけて検討を重ねました。ミダスさんは単なるオフィスデザインだけでなく、ワークプレイスコンサルティングを手がけている会社です。アンケートの分析やコンセプトの策定などについても多くの意見やアドバイスをいただくことができました」(尾崎氏

アンケート調査・分析は光岡氏ら社長室主導で実施され、移転プロジェクトの推進は社内の各事業部門から選出されたPJメンバーによって検討を重ねた。PJメンバーの人選には社長の林氏も立ち会い、積極的に発言できる人、ディスカッション能力の高い人、また女性社員の多い会社であることから女性ならではの感性を活かした意見の出せる人といった基準で選出されたという。

コミュニケーションを円滑にする内階段と地上150mの社員食堂

「2014年夏から2015年3月頃まで、月1回程度の頻度でPJメンバーによるミーティングを開催していきました。社長室や管理部門がリーダーシップを取り、PJメンバーが意見を出し合って、『社員食堂』『執務スペース』『会議室』など、それぞれのテーマについて調整し、仕様を決定していったのです」(尾崎氏

新オフィスの使用面積は、31階・32階の2フロア合計1,550坪。通常、この規模であれば、内装工事の期間には2~3ヵ月程度見ておけば十分だと考えられる。したがって、2015年12月入居予定であれば、同年の秋口頃までに詳細が決まっていれば余裕で間に合うはずだった。ただし、同社の場合、上下2つの使用フロアを連結する内階段の設置と、社員食堂をつくることが計画に織り込まれていた。

デザイン会社が決まった時点で、移転実施までにはまだ1年以上の時間が残されていたが、ここで同社は思わぬ状況に直面する。

ビル建設工事の工程上のスケジュールから、計画に織り込まれた2つの構成要素、すなわち内階段と社員食堂の厨房設備関係については先行して2015年3月までに仕様を決めなければならないことが判明したのである。

「内階段をつくるためには、階段の幅や大きさなどの仕様をあらかじめ決めておかなければなりません。また、社員食堂をつくるには、厨房の広さやレイアウトなどを決めておく必要があります。これらの内装工事用の資材を高層階まで運び上げるためには、ビル内に設置された大型資材運搬用のエレベーターがありますが、これはある程度工程が進んだ段階で撤去されてしまいます。エレベーターが撤去された後だと資材の運搬に手間がかかり、それだけ工事費用も割高になってしまうため、この2つの要件だけは早急に決めておかなければならなかったのです」(光岡氏

内階段は、2フロアに分かれたオフィスのフロア間コミュニケーションを円滑にするとともに、移動時間の短縮とそれによるストレスの解消、さらに社員の運動不足解消にも役立っているという。

「旧オフィスでは36階にエントランスを設けていましたが、応接用の会議室は32階にあり、お客様がいらっしゃると、エレベーターで32階までご案内していました。そのため、お客様をお待たせするストレスや、時間のロスが生じていたのです」(尾崎氏

執務室から見た内階段

執務室から見た内階段



オープンスペースから見た内階段

オープンスペースから見た内階段


また、厨房については、そこで実際に調理を担当する業者の選定も急がなければならなかった。選定にあたっては、他の会社で社員食堂を運営している複数の業者を訪ね、食べ比べてみるということもしてみたという。

「当社は社員の平均年齢が若いので、社員食堂はメニューの種類や味付けなどが若い社員たちの好みに合うかどうかということを考えて選定しました。また、どちらかといえば夜の喫食率が高いというデータがあったので、営業時間も遅くまで営業することとし、仕事を終えて帰る前に軽く一杯、ということもできるようにしています。ネーミングはPJメンバーが考案して『ラピュータ』と命名し、ロゴマークも社内のデザイナーが制作しました。ほかにも、ワインセラーつきのバーカウンターを設けるなど、社員のアイデアを積極的に採用しています」(尾崎氏

社員食堂のネーミングについては、「天空」をイメージして命名されたという。また、座席については、画一的な長テーブルだけではなく、対面型テーブルやボックス型のファミレスタイプなど、さまざまなタイプの座席を混在させている。ひと口に食事といってもいろいろなスタイルがあり、一人で食べることもあれば二人で向き合って食べることも、また、ミーティングしながら数人で食べることもある。そうした食事のスタイルやその日の気分に合わせて、好きな席を選べるようになっている。

「社員食堂は、多目的ホールでもあると位置づけています。社員の昼食に使用するだけでは資産効率が悪くなるので、たとえば新卒向け会社説明会など、さまざまな用途で使用しています。業者さん相手の説明会など、数時間におよぶ場合もあります。こうしたイベント時には、正面の大スクリーンの他に、角度的に見づらい席のためにモニターを増設しており、テレビ会議システムなどでも中継されるなど、高い稼働率を実現しています」(光岡氏

220の席数を持つ社員食堂「ラピュータ」

220の席数を持つ社員食堂「ラピュータ」
220の席数を持つ社員食堂「ラピュータ」

220の席数を持つ社員食堂「ラピュータ」

「やりたいことが、障害なくできる」ことが「働きやすさ」に直接つながる

今回の移転により、同社は名古屋駅正面という絶好のロケーションを手に入れることになった。もともと旧オフィスも名古屋駅から7~8分の距離にあったが、移転後はさらに至近距離となり、アクセシビリティは飛躍的に改善されている。

「物件の選定や賃貸契約など、裏方の部分に関しては三幸エステートさんにお世話になりました。契約を決めたタイミングも良かったのか、コスト面でもまずまず順当だと思っています。移転してからまだ1ヵ月弱なので、厳密な効果測定はできていませんが、今まで色々な面でロスしていた移動時間が大幅に短縮できただけでも移転は成功だったと思います」(光岡氏)

「広報の立場から申し上げますと、駅から近いだけでなく、移転をきっかけにメディアに取り上げられることも多くなり、露出が増えて、会社に『箔がついた』という感じです。入社志望者の方に『こういう環境で働きたい』と思っていただければ、採用戦略の面でも間違いなく有利になったと思います」(尾崎氏)

移転に際して同社が掲げた「働きやすい環境づくり」についても、さまざまな取り組みがなされている。

「『働きやすさ』といってもいろいろあると思いますが、私たちは『やりたいことが、障害なくできる』ということが『働きやすい環境づくり』につながると考えております。そこで、個人のスペースや収納スペースを減らし、共有スペースを増やしました。デスクサイズは変わりませんが、個人用キャビネットの廃止や、『隠す収納』から『見せる収納』へ変革することでスペースを有効活用し、働く上での障害を取り除くようにしています」(光岡氏)

例えば、一人あたりのファイルメーター(fm:書類を積み上げた高さ)を定め、収まりきれない分はすべて廃棄。また、私物は極力持ち帰らせ、個人が所有する書籍は共有の本棚スペースに収納するようにした。社内に何冊も同じ書籍があると、それだけムダにスペースを消費することになるからだ。

「『個人のスペースを奪われるのでは?』という社内の抵抗も予想していましたが、意外とそういうことはありませんでした。移転後、新オフィスの使用ルール構築などの体制づくりについては社長室が中心になって進めてきましたが、今後は総務へ移管するか、オフィス運営委員会を立ち上げることになると思います」(光岡氏)

コンセプトは「見せる収納」

コンセプトは「見せる収納」



コンセプトは「楽しさ」

コンセプトは「楽しさ」

あらゆるシーンを想定したミーティングスペースを設け、未来を拓く

和をコンセプトにしたオープンスペース

和をコンセプトにしたオープンスペース

同社では今後、特に「ライフスタイルサポート事業」の充実を図り、1年に1~2個のペースで新たなコンテンツを増やしていく予定だという。社員一丸となってこの目標に取り組み、未来を拓くため、新オフィスにはコミュニケーションを活性化するさまざまな仕掛けが施されている。

「旧オフィスは、会議室は9室しかなく、来客用も社内用も共通でした。新オフィスでは、来客用だけで10室、社内用に10室以上のクローズドの会議室と、『ワイガヤゾーン』と名づけたオープンミーティングスペースを執務室の周囲に多数配置しました。会議室は予約制ですが、『ワイガヤゾーン』は予約なしで気軽に使用でき、目的に応じて使い分けるようにしています」(光岡氏)

ミーティングにも多様なスタイルがあり、5分程度の打ち合わせもあれば、長時間腰を据えた話し合いもある。旧オフィス時代は限られた会議室の数ゆえに1時間ほどの予約しかできないことが多く、こうしたケースに対応できず、ムダが生じていた。また、密室である喫煙ルームで重要な決定が話し合われることが多いという問題も指摘されていた。

「新オフィスでは、オープンスペースで煙も臭いも外に漏れない喫煙エリアを導入しました。エリア外の非喫煙者にも声が聴こえるので、『喫煙ルームの密室性』はほぼ改善されました。また、『ワイガヤゾーン』ではデスクのガラス天板に設置したマーカーでメモを書くことができ、デスクやホワイトボードのメモはスマートフォンで撮影してネット上で全員が共有するなど、少しでもコミュニケーションの取りやすい環境を心がけています」(光岡氏)

移転プロジェクトメンバーからの声

山根 裕美子氏

株式会社エイチーム
管理部副部長

山根 裕美子氏

移転を機にオフィス環境という面で会社の目指すべき姿に沿えるよう、当時の課題や今後課題になりうることを解決しようと思っていましたが、竣工前のビルのため、CGパースを見て判断することになり、イメージがつかみにくいという大変さはありましたね。デザイナーさんと電話でやりとりする際にも、こちらの状況をきちんと伝えられているかという不安も常にありました。ただ、実際に竣工後のオフィスに入居してみると、当社が課題としていた部分はほとんど解決されており、社員の感触も良かったです。時間をかけた甲斐がありましたね。

東辻 寛子氏

株式会社エイチーム
社長室アシスタント
マネージャー

東辻 寛子氏

当初、社員へヒアリングした際、会社の目指すべき姿と社員からの要望に多少のズレがありましたね。当たり前のことなのかもしれませんが、プロジェクトメンバー側では先進的なオフィスの事例を研究して提案しているのに対し、どうしても社員側は現状のオフィスの延長線上で物事を判断せざるを得ない。そこでミダスさんとも話し合って、できるだけ最近のオフィス事情を伝えるようにし、社員の意識改革を図っていきました。

浅沼 伸哉氏

株式会社ミダス
デザインチーム
部長

浅沼 伸哉氏

エイチーム様のプロジェクトでは全社員にアンケートを実施し、その内容を分析。そこから全体的な方向性を導き出し、我々からの提案内容をまとめて提示いたしました。当時の提案資料と完成したオフィスとを比較してみると、さほど大きく変わっていないことに気づきます。今になって思うと、最初のコンセプトづくりに一番時間をかけたことが成功の秘訣だったのだと実感しています。

社領 充氏

株式会社ミダス
デザインチーム
課長代理

社領 充氏

これだけの面積やプロジェクトの規模にしてはやりやすかったですね。とはいえ最後までスムーズに進んだわけではありません。今回の案件は、ビルの竣工とエイチーム様の入居がほとんど同時のタイミング。ビル側のルールが決まる前に厨房施設や内階段などのデザインを先行させる必要もあり、ビル側との折衝には苦労しました。そんな中で無事にお手伝いでき、ほっとしています。