あらた監査法人 東京事務所 丸の内オフィス

あらた監査法人 東京事務所 丸の内オフィス

2007年8月取材

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※ 記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

スペシャリティの発揮とコミュニケーションの活性化
2つのニーズに応えた「場所に縛られない」オフィス

2006年6月に設立された「あらた監査法人」は、当初、港区芝の住友三田ビルに本社オフィスを開設した。しかし急激な組織の拡大に伴い、9月には同ビル内で増床するとともに港区芝浦の三田ツインビル東館に新たなオフィスを設ける。そして今年7月、事業所の再編成を行い、千代田区丸の内の新丸の内ビルディングと三田ツインビルの2カ所を「東京事務所」とする体制に移行した。

両オフィスとも座席を固定しないフリーアドレス方式を採用し、また監査業務に携わるスタッフについては、勤務先も固定されていない。さらに広域LANにより、派遣先や自宅、出張先でも仕事ができる「場所に縛られないオフィス」を実現するなど、先進的な試みが注目されている。

プロジェクト担当

笹山勝則氏

あらた監査法人
笹山勝則氏

経営企画担当
執行役(CFO)

白川紀一郎氏

あらた監査法人
白川紀一郎氏

情報技術部

伊澤成人氏

株式会社
CWファシリティ
ソリューション
伊澤成人氏

代表取締役社長

信太智秀氏

株式会社
CWファシリティ
ソリューション
信太智秀氏

コンサルティング
第2部長
チーフソリューション
プランナー

綱川藤男氏

株式会社
CWファシリティ
ソリューション
綱川藤男氏

コンサルティング
第1部長
チーフ
コンサルタント

あらた監査法人

はやわかりメモ

  1. 経営と一体化したオフィス戦略
    設立、業務開始、組織の急激な拡大という「変化」の中でオフィスを構築していくには、しっかりしたオフィス戦略と計画が欠かせない。
  2. 分散型オフィスを選択した理由
    「会社の顔」として丸の内にオフィスを持つ意味は大きい。同時に分散したオフィスも併用することで、コストパフォーマンスを高めることができる。
  3. オフィスを飛び出すフリーアドレス
    フリーアドレスのメリットはスペースの有効活用だけではない。複数のワークプレイスを自由に利用できることで利便性が向上する。
  4. 「情報」が「分散」を可能にする
    データセンターを情報のコアにし、そこから広域LANやVPN(公衆回線上に仮想の専用ネットワークを構築する技術)によってオフィスや社員を結ぶことにより、場所に縛られず情報環境を整備できる。
  5. 「よりどころ」となるオフィスとは
    フリーアドレスだからといって均一な空間にする必要はない。作業の内容によって自由に場所を選べるように多様なワークプレイスを用意する方法もある。その結果、スペシャリティを最大限に発揮できるオフィスになれば、社員の満足度は高まる。
  6. 眺望はオフィスにとって大きな財産
    景色のいいオフィスは楽しさを演出するだけでなくリラックス効果も大きい。眺望が期待できるビルにオフィスを構築するなら、開放的な空間で全体が見通せるようにすべき。また接客スペースにもその効果を活用したい。
  7. 執務室とエントランスでは異なる演出を
    コミュニケーションを活性化する意味でも執務スペースは開放的な空間がベスト。一方、接客スペースは目的によりデザインを変えるべき。
  8. 百社百様のオフィスづくり
    社外で仕事をすることが多く、自社オフィスはタッチダウンのためにあるな
    ら、固定したスペースはできるだけ減らし、「どこでもオフィス」になる情報環境の整備を優先すべきだ。

急拡大が予測された組織だからこそ将来を見通したオフィス戦略が必要だ

1000人規模が収容できるワークプレイスを、わずか1年間で構築する。昨年6月に設立、翌7月から業務を開始した「あらた監査法人」にとって、それは最初に解決しなければならない経営課題の一つだった。

「社名にあるように、私たちは『新たな気持ちと行動で日本の会計・監査をリードしていこう』という意志のもとに発足した監査法人です。したがって、オフィス戦略においても新しい試みに挑戦し、未来につながる成果をあげていかなければなりません。一方で業務の急成長に伴って組織は拡大し続けており、走りながら態勢を整えていく必要がありました。このため、オフィスづくりの専門家にアドバイスをいただきながらプロジェクトを進めていったのです」

こう語るのはオフィス戦略の総責任者である経営企画担当執行役の笹山勝則氏だ。

そして、プロジェクトをサポートしたのが株式会社CWファシリティソリューションである。もっとも、これまで数々のオフィスづくりを手掛けてきた伊澤成人氏にとっても、「前例がないほど厳しいスケジュールだった」と述懐するほど、一連の作業は密度の高いものになった。

「業務を開始した当初、住友三田ビルに本社オフィスを開設したものの、ビル内で増床していっても急激に増える社員を収容することはできません。それで、近くの三田ツインビル東館にスペースを確保するとともに、併行して新たなスペースの確保と、これらの複数のオフィスをいかに無駄なコストをかけずに、また有効に活用するかの計画を薦めたのです」(伊澤氏

新丸ビルにおけるオフィス開設は、あらた監査法人も強く希望していた。

「新しく誕生した監査法人としての存在をアピールするため、ビジネスの中心地である丸の内への進出は効果的だと考えていました。同時に、会計・監査業務を担当させていただいている多くの企業との行き来を考えたら、スタッフが集まれる場所はいくつかあったほうがいい。そんな方針から、東京事務所を三田と丸の内に分散するかたちをとったのです」(笹山氏

もちろんその背景には、明確な経営方針に基づくコスト戦略もある。

「監査のような人材を必要とする業務では、組織の拡大とともについついオフィススペースを拡張してしまい、その結果、いつの間にか間接費が大きくなって経営を圧迫していたというケースが少なくないのです。私たちは経営面でも新しいスタイルを追究していこうという考えで監査法人を設立したのですから、オフィスコストについても計画と管理を徹底していきたいと考えていました。このため、三田のオフィスも残すという選択をしたのです」(笹山氏

分散型オフィスのデメリットを解消し場所に縛られないワークスタイルを実現

このような分散型のオフィスは、従来、社内のコミュニケーションが分断されるといったデメリットから敬遠されがちだった。しかし、あらた監査法人ではさまざまな新しい取り組みによって、この問題点を解決している。

それはフリーアドレスの採用と、画期的な情報通信システムの導入だ。

「フリーアドレスはスペースの有効活用という利点ばかりが強調されがちですが、もう一つ、自分のデスクに縛られずにどこでも仕事ができる利便性も重要です。このため、三田のオフィスだけでなく、丸の内でも全面的に採用することに決めたのです」(笹山氏

監査法人の場合、公認会計士や会計士補などの専門職員は顧客である企業に出向いて仕事をすることが多く、在席率は決して高くない。そういう意味ではフリーアドレスは非常に有効だが、最初にその意向を耳にしたとき、CWファシリティソリューションの信太智秀氏は少し心配があったという。

「監査法人やコンサルタント会社はスペシャリストの集団ですから、幹部社員は個室が当たり前ですし、専門スタッフもブース式のデスクなど、一般のオフィスより環境的に恵まれているケースが多いのです。それをフリーアドレスにしてしまうのは、文化的に問題があるように思いました」

信太氏自身、コンサルタント会社に勤務した経験を持つだけに、この疑問は当然だ。しかし新しい時代の監査法人を目指す笹山氏たちの考えはもっと先進的だった。専門職員だけでなく、それまで個室を与えられていた幹部たちもノンテリトリアルにしようというのである。

「幹部用に個室は用意するものの、人数に対して室数は50%にして共用するホテリングのスタイルにしたいといわれました。それを聞いたとき、この会社は本気でオフィス改革をしていくつもりだと実感したのです」(太氏

そしてミーティングを重ね、最終的に完成したのは、まったく場所に縛られない自由なワークスタイルを可能にしたオフィスだった。

「管理部門などの事務職員を除いた全スタッフは、丸の内と三田、どちらのオフィスに出勤してもかまいません。それどころか、支給されるパソコンを持っていれば、派遣先や出張先、自宅でもオフィスと同じように仕事ができる。つまり理想的ともいえる『どこでもオフィス』が実現したのです」(信太氏

外部のデータセンターと結ぶ広域LANがフレキシブルな情報環境を可能にする

オフィス内だけでなくあらゆる場所をワークプレイスにしてしまう究極のフリーアドレス。それを可能にするために信太氏たちが提案したのが、新しい情報通信システムの構築だった。

「基本的な考え方としてサーバをオフィスの中に持たず、業務上必要なデータはすべて、万全のセキュリティ対策をとった外部のセンターに置くようにしました。そして必要に応じてここにアクセスすることで、どこにいても同じ情報環境が実現できるのです」信太氏

データセンターと東京、名古屋、大阪の事務所は広域LANによる専用回線で結ばれている。さらにインターネット経由でもサーバへのアクセスが可能なため、派遣先である顧客のオフィス内にクライアントサイトを構築できるほか、ADSLや光ファイバー、公衆無線LAN、移動体通信網(携帯電話ネットワーク)などを利用してのアクセスも可能だ。

使用する部屋を予約するためのタッチパネル
使用する部屋を予約するためのタッチパネル。

「もちろんセキュリティの対策は完璧にしてあります。インターネット経由の場合はVPN(Virtual Private Network=公衆回線上に仮想の専用ネットワークを構築する技術)によって安全性を確保していますし、スタッフが持ち歩くPCはハードディスク上のデータをすべて暗号化してあるだけでなく、USBポートに厳重な接続制限をして、情報の漏洩を防ぎました」信太氏

データセンターに情報を集約し、広域LANを利用してアクセスする方法は、「どこでもオフィス」を実現するだけでなく、今後、オフィスの再編成をするときにも有利だという。あらた監査法人 情報技術部の白川紀一郎氏が期待するのは、むしろこの部分のメリットだ。

「業務上の利便性を考え、サテライトオフィスを何カ所かつくろうという計画があります。そういうときでもインターネット環境さえ整えればすぐに仕事ができるのですから、こんな便利なシステムはありません」

ちなみに電話網もVoIP(インターネットやイントラネットなどを利用する音声通信)によって広域LANに組み込んでいるため、別回線を用意しなくても通話が可能だ。

「オフィスを構築するとき、ネットワークや電話の設定は常に頭を悩ます問題の一つでした。しかし今回導入したシステムであればその手間はほとんどなくなり、工事にかかるコストも大幅に軽減できます。フリーアドレスと新しい情報通信システムにより、今後のオフィス計画は、かなり柔軟に立案していくことができそうです」白川氏

開放的なコミュニケーション空間と自由に選べる多様なワークプレイス

それでは、新しく生まれた丸の内オフィスを紹介しながら、あらた監査法人の新しい試みについて説明していこう。

東京駅の目の前に完成した新丸の内ビルは交通の便の良さでは申し分ないが、もう一つ、大きな魅力を持っている。それは眺望だ。今回のプロジェクトで中心的な役割を果たしたCWファシリティソリューションの綱川藤男氏は、こう語る。

「最初に驚いたが景色の良さでした。皇居側に高いビルがないので都内が一望できますし、南側もレインボーブリッジから東京湾まで見通せます。この眺望を活かすため、フロア全体を使った開放感のあるオフィスにしようと思ったのです」

その考えは、あらた監査法人側も同じだった。デザインの方向性を決めるコンセプトワークは、約60名の若いスタッフの声を集めて行われたが、そこで重要なキーワードになったのが「風通しの良いオフィス」である。

「会計・監査業務は担当する顧客ごとのチームで行われるため、オフィスが分断されていると組織横断的なコミュニケーションがどうしても阻害されてしまいます。そこで、エントランス付近の接客と会議室のスペースを除いたすべてを一つの大空間にし、眺望も楽しめる開放的なオフィスにすることになったのです」(綱川氏

なお、フリーアドレスの採用については、「若いスタッフは三田のオフィスですでに慣れているので、まったく抵抗はなかった」という。

「それでも、同じようなデスクを並べただけの均一的な空間は合わないと思いました。フリーアドレスだからこそ、さまざまなワークプレイスを選べるようにしたかったのです」(綱川氏

そして最終的に決まったコンセプトは「高品質なプロフェッショナルサービスを支えるため、個々のスペシャリティが活かされ、活発なコミュニケーションがなされる場」となる。

「あらた監査法人はスペシャリストが集まる組織です。しかも彼らは顧客のところに派遣されて仕事をする時間が長いだけに、自分のオフィスに戻ったときには、そこが心のよりどころになるような高品質の空間を用意しておかなければなりません。そんな考えから、My Firmという言葉をデザイン上のキャッチフレーズにしました」(綱川氏

法律事務所を「a law firm」と呼ぶように、firmには専門的な仕事の場といった意味がある。つまり、フリーアドレスでありながら、着いた席がスペシャリティを活かせる環境になっていることが重要なポイントになる。

「見ていただければわかるのですが、オフィス内にはさまざまなタイプの"デスク"が用意されています。したがって、集中作業からグループワークまで、そのときどきで最高のパフォーマンスを発揮できるはずです」(綱川氏

たしかに、あらた監査法人のオフィスは、ユニバーサルプランのレイアウトとはまったく異なる。個室タイプやブースタイプ、窓際のカウンターといった集中できるコーナーがあると思えば、3人用から12人用まで、大きさや形の異なる共同作業用のテーブルも用意されているからだ。またリラックスできるカフェタイプのコミュニケーションスペースもかなり広くとってあり、それぞれの場所ごとに色調や照明を工夫して、変化のある空間になっている。

「とにかく、ここに戻ってくることが『楽しい』と感じられるようなオフィスにしようと思いました。このため、カフェ以外にもコーヒーなどが自由に飲めるコーナーを複数設置していますし、夜景が見やすいように窓際の照明を落とすといった演出もしています」(綱川氏

監査法人としての信頼感を演出するエントランスからの二重ガラスドア

一方、エントランスまわりの接客と会議室のスペースは、「楽しさ」を演出した執務スペースと異なり、シンプルでありながら高級感あふれるデザインになっている。

「やはり丸の内にあるということで、あらた監査法人の表玄関にふさわしい空間づくりを心がけました」(綱川氏

大きなポイントの一つが、エレベーターホールから続く廊下とを分ける二重のガラスドアだ。

「監査法人の場合、それほど頻繁に来客があるわけではありません。したがって、ここは開放的にするよりも、二重のドアによって『セキュリティのしっかりした会社』というイメージを与えるようにしました」(綱川氏

そして受付を通ると、オープンな接客コーナーと、ガラスパーテーションで区切られた会議室が並ぶ。ここからも、北西方向の眺望が楽しめる。

「この景色は、新丸ビルにオフィスを持った会社にとって最大の財産の一つですから、最初に全体レイアウトを考えたとき、接客スペースはここにしようと思ったのです」(綱川氏

眺望の良さを強調する目的もあって、会議室に続くスペースはあえて照明を落としている。

「会議室に入ったとたんに広がる窓の外の風景に多くの人が感動しますね。その効果は、どんなに豪華な内装をしても得られない。それだけでも、ここにオフィスをつくった意義はあるのではないでしょうか」(綱川氏

タッチダウンのためのオフィスではスペースよりも便利さを優先すべき

7月に丸の内オフィスがオープンし、三田オフィスとの2カ所による業務を開始した、あらた監査法人だが、今のところ、分散によるデメリットはまったくないという。

「フリーアドレスにより、どちらで仕事をしてもいいとしたため、便利だという声のほうが多いですね」(笹山氏

フリーアドレスについては、先ほど説明したように、ほとんど抵抗がなかっただけでなく、むしろ歓迎するムードすらあったほどだ。

「資料を広げて作業したいときには大きなデスクを使え、リラックスしたいときには休めるスペースもある。固定席のオフィスよりもかえって使い勝手はよく、これからはこういうワークスタイルが主流になってくるような気がしますね」(白川氏

また、幹部社員用の個室を固定席ではなくホテリングによる共用室としたことについても、戸惑いが見られたのは最初のうちだけだという。

「それまで個室を使い慣れていた人の中には、出社した段階で部屋を選んで予約しなければならないと知ったとき、『どこを使えばいいんだ?』と苦情を言ってきたケースがありましたが、それも数日間だけでしたね。彼らも毎日、オフィスに来るわけではなく、あくまでタッチダウンのためのスペースなのですから、共用することによる経営上のメリットについてはすぐに理解してくれました」(笹山氏

あらた監査法人は、世界149カ国で監査、税務、アドバイザリー業務を行っているプライスウォーターハウスクーパース(PwC)のメンバーファームである関係から、海外のスタッフが来日し、ここのオフィスで仕事をすることも多い。そんなときでも会議室兼用の部屋や執務室の一画を利用してもらうほどで、無駄なスペースはつくらない方針が徹底している。

「自分のオフィスでしか仕事をしない時代はとっくに終わっているはずです。それだけに、固定的なスペースを多く確保するよりも、どこでも自由に仕事ができる環境を整備したほうが社員にとっての満足度は高いのでないでしょうか」(笹山氏

それについては、多くのオフィスを見てきた伊澤氏も同意見だ。

「もちろん職種や業種によりますが、多くの仕事を社外でし、自分のオフィスはタッチダウンの場所になっているのだとしたら、そのニーズに合ったスタイルにするべきなのです。オフィスづくりの答は一つではなく百社百様なのですから、経営方針に基づき、思い切った挑戦をしてみるのも必要だと思いますね」

オフィス全景

オフィス全景。開放的な空間となっている。

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