旭テック株式会社

2014年1月取材

※ 記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

"働き方の変革"をコンセプトにして、オフィスの再構築に成功した

金属鋳造技術による素形材部品メーカーとして国内外で事業を展開している旭テック株式会社。「働き方の変革」をコンセプトに移転プロジェクトを実施。2013年8月の本社移転、2014年1月のサテライトオフィス開設を成功させた。
今回は、その目的や具体的な目標についてプロジェクトメンバーの方々からお話を伺った。

プロジェクト担当

安藤研一氏

旭テック株式会社
グローバル業務本部長

安藤研一氏

山下 晋氏

旭テック株式会社
グローバル業務本部
グローバルIT推進部長

山下 晋氏

越田 壮一郎氏

株式会社
ワークプレイス
ソリューションズ
代表取締役社長

越田 壮一郎氏

小澤清彦氏

ドウマ株式会社
代表取締役

小澤清彦氏

旭テック

はやわかりメモ

  1. 日々の業務にIT技術の「 いま」を取り入れる。そのために社内プロジェクトが発足した
  2. 移転前に行った事前調査と本社内トライアル
  3. 本社移転のコンセプトは" オフィスづくり"ではなく" 働き方づくり"
  4. 日々の業務改善推進プロジェクトを運営。当然、生産工場内でも適用される
  5. コンセプトである働き方づくりをサテライトオフィス開設でも実現
  6. 今後このサテライトオフィスを起点にさまざまなプロジェクトを企画していく

日々の業務にIT技術の「いま」を取り入れる。
そのために社内プロジェクトが発足した

旭テックは、静岡県菊川市にある菊川事業所に設けていた本社機能を同市内横地事業所へ集約した。

「菊川市堀之内の菊川事業所(本社)土地売却については、少し前から計画がありました。昔は鉄鋳物の生産を行なっていたのですが、愛知県の豊川工場に移管がされており、かなりの部分が遊休地になっていました。また、徐々に国内の生産が海外に移管されていることもあって、できるだけ国内の施設はスリム化させたい。そこで、本社を売却し、横地の事業所内に管理部門を集約させることにしたのです」(安藤研一氏

しかし、単純に本社の集約をすればいいというわけではなかった。コンセプトに「働き方の変革」を掲げるのが必要だったという。

「IT技術がこれだけ進歩しているのに関わらず、当社は上手く生かしきれていないという声が経営陣からあったのが発端です。そこで日々の業務にうまくIT技術を組み入れるためのプロジェクトが発足しました。2011年のことです」(安藤氏

当時、安藤氏は経営企画部に所属しており、情報システムの担当と連携しながら他社のIT現場の研究を行なうなどプロジェクトを進行させていた。その中で浮上してきたのが次の3つのキーワードだった。

「一つは、ロケーション・フリー。これはのちのフリーアドレスに繋がってくるのですが、どこでも仕事ができる環境を意味します。もう一つがペーパーレス。最後に経営情報の見える化です。これはクラウドを活用しながら拠点ごとに管理している在庫情報や損益に関するデータなど、リアルタイムで情報を閲覧できる必要性があると。現段階では構築途中のものもあるのですが、これらを可能にして初めて当社はITを活用していると言えるのではと考えたのです」(安藤氏

「メールやグループウエアにクラウドを活用する。そして拠点間の移動やモビリティが高い社員については、軽くて薄いモバイル用のパソコンに順次切り替える。どこからでもデータベースにアクセスできるようにiPadやiPhoneを導入する。そんなイメージが頭に浮かび、早速、ITインフラについての検証を始めました」(山下 晋氏

移転前に行った事前調査と本社内トライアル

企画にあたってはオフィスコンサルタントに数多くの実績を持つワークプレイスソリューションズの越田氏に声がかかった。

「フリーアドレスやペーパーレスといった施策をどのように実際のオフィス環境に組み入れていけばいいのかについて相談がありました。そこで調査を開始したのです。2012年3月のことですね」(越田 壮一郎氏

「モニターとして本社の管理部門60名を調査対象にしました。『フリーアドレスとは何か?』といった初歩的な説明から始まり、何度も議論を重ねていったのです」(安藤氏

その後1週間かけて社員の行動調査を実施した。営業職と違って外出が少ないため、在席率は70%、在館率は88%という結果であった。通常それだけの高い在席率の場合、フリーアドレスには向かないという結論になることが多いという。

「しかし、今の在席率がどのようなパーセンテージであっても、今回のオフィスは次の世代を見据えた"働き方の変革"がテーマでしたので、当初の計画通りにフリーアドレスの導入を前向きに検討したのです。そのためには一人で抱え込んでいる書類が妨げになります。結果としてペーパーレスの実施も必須となりました」(小澤清彦氏

フリーアドレスやペーパーレスの導入がいい意味で会社全体の付加価値を上げるだろうと信じて敢えて取り組んだという。

「今の自分たちの働き方を絶対に変えていこうと思案していました。そして今後のグループ企業や国内外の拠点との円滑な連携を想像すると、今すぐに"どこでも仕事ができる環境を構築しなければならない"という思いが高まってきたのです」(安藤氏

まずは本社内だけでフリーアドレス導入のためのトライアルを開始した。その時に、LANのワイヤレス化やノートパソコンの配布など、ITインフラの見直しを実施。そして同時期に全員ではないが、マネージャー職と役員中心にiPadとiPhoneを支給したという。

「その時は、別にレイアウトを変更することもなく。書類はかなり廃棄しましたね。まさに机と椅子だけ。机の下に収納する移動式の引き出しも全て撤去しました。そして2013年に入り、本社の売却が決まり、横地事業所へ本社機能の集約移転が正式に決定したのです」(安藤氏

横地事業所には工場のほかに軽合金事業本部が事務室を構えていた。本社で実施していたフリーアドレスのトライアルも軌道に乗っていたこともあり、営業部や管理部をはじめとした軽合金事業本部への導入もスムーズな展開を可能とした。

本社移転のコンセプトは"オフィスづくり"ではなく"働き方づくり"

そうして約1年にわたるトライアルが終わり、本社の集約移転完了に伴って正式にフリーアドレスの導入が実施された。それは、旭テックにとって、「働き方の変革」の第一歩であった。

「将来的には、単なる座席だけの問題ではなくて、国内外の拠点とも自由に結ばれるオフィスを計画しています。もちろんWeb会議システムを活用して他拠点とスムーズに繋がりながら業務を行なうというのは大前提であると思いますが、まず社員の方々の意識改革、ロケーション・フリーへの布石としてのテリトリー意識の排除と機動性への対応。そのための働き方のスタート地点がフリーアドレス導入だったのです」(越田氏

「当社が導入したフリーアドレスはコストやスペース削減の手法の一つではありません。どの国であっても同じ環境となるスタンダードをつくりあげたい。日本企業発信で海外拠点でも展開できるシンプルなグローバル標準のようなオフィスを構築していく。そのために働き方はどうあるべきか。正直、部門間でも温度差や理解度に相当の違いもあり、全ての社員の認識やベクトルをあわせるという意味では、まだまだです。これからも課題は続いていきます。」(安藤氏

「そういう意味では、在席率を何%にしなければならないといった目標を掲げる必要もありませんでした。自分の席は専有されたものではないことを認識してもらう。この意識の定着こそが、『必要に応じて自由に動けるワークスタイル』への移行をスムーズにさせるためのポイントだと思っています。意識の転換ですね」(小澤氏

一斉に変革を進めるのではなく一つずつ課題を見つけてクリアしていく。きっとそのスタンスは今後も変わることがないだろう。

「オフィスを表面的にきれいにするのが目的ではありません。あくまでも"働き方の変革"です。したがって、既存の什器はそのまま使用しています。自分たちのリソースを使いながらどこまでできるか。一度見ただけでは新しくオフィスをデザインしたと感じられないかもしれませんが、一つひとつを見ていくと、オペレーションに工夫があるユニークなオフィスだということがわかると思います」(小澤氏

日々の業務改善推進プロジェクトを運営。当然、生産工場内でも適用される

旭テックでは、現在AW(I Asahi Workstyle Innovation)というプロジェクトが展開されている。日常的に業務改善を推進するためのプロジェクトだ。それは「働き方の変革」の一環となる。

「当然に生産工場内でも展開されています。例えば、工場の生産現場の点検作業一つとっても、日々の生産管理や費用管理、消耗品の管理などのデータ集計やグラフ化が可能なため、事実とデータに基づいたトレンドを認識することができます」(安藤氏

「iPadのアプリケーションと内製のWebアプリで構築しました。ゆくゆくは国内だけでなく、タイや中国といった国外の拠点間とも同様の管理をしていければと。どこの拠点からでも同じように使用できるようなシステムを築き、最終的に経営に繋げられるようにしたいですね」(山下氏

モノづくりの会社であるため、工場での勤務者が大半となる。そのため管理部門と生産現場では、目指すものも違っているという。

「管理部門は全体の業務効率やグローバル展開に目を向け、生産現場では作業の効率化や標準化、事実とデータの見える化を目指します。製造ラインでの例では、今までで管理者がデータを入力しなければならない場合、わざわざ事務所に行ってパソコンで入力していました。しかし今その場でiPadを使って入力ができる。入力されたデータがアップロードされるとリアルタイムで閲覧可能となる。もちろん、工場でもペーパーレスになっていきます。ゆくゆくは現場の「いま」が世界中のどこからでも把握できる。当社の考える『働き方の変革』とはそういうことです」(安藤氏

現在、工場内では多くの社員が肩からiPadをぶら下げて動き回っている。そのほか、IT技術との融合による効果はどのようなことが考えられるだろうか。

「若い社員にとっては身近なところでITの進化に触れられるチャンスでもありますので、見ているとモチベーションの向上につながっているように感じますね。また、利益の貢献としては大幅な時間の短縮があげられます。会議前のわずかな時間でもメールの返信ができますし、移動時間の合間にデータを確認することも可能です。直接の売上利益ではありませんが、格段に利便性や業務効率は上がっていますね。いずれはiPadのようなスマートデバイス無しでは日常業務が回らなくなるような仕組みを検討していきたいと思います」(安藤氏

「2012年の調査時にiPadの使用頻度が一番高かったのが役員でした。役員が率先して新しいものに目を向け、自らが陣頭指揮を執っていくという姿勢。それが、ここまで一気にIT化を浸透させた要因になっているように思えます」(小澤氏

コンセプトである働き方づくりをサテライトオフィス開設でも実現

東京にサテライトオフィスを開設する計画は数年前から経営課題の一つにあがっていた。しかし、今回の承認を求める経営会議までのプロセスは、本社移転が完了していないこともあって時間がかかったという。

「東京には神田岩本町にオフィスはありますが、あくまでも営業拠点としての役割です。それとは違う、もっとグローバルな視点でのグループ経営、拠点間を動き回るマネジメントの足場として、戦略的な役割を持つオフィスの必要性を訴えました」安藤氏

本社は静岡にあるが、国内の生産は徐々に縮小されている。今後も生産に関しては海外での工場が中心になることが想定される。タイや中国などのアジアに生産工場を移行している中で、いつまでも静岡に経営戦略部門を置いておいていいのか疑問だった。さらに、一部の特定の工場と本社が隣接していることで、グローバル化をしていくなかで、どうしても身近な課題だけがクローズアップされてしまう危険性を感じていたという。

「今後、生産の中心となるアジアの各国とどのように向き合っていくべきか。グローバルな視点で物事を考える必要はないのか。本社を『業務』から『戦略』にする必要はないのか。ITと併用しながら活動的に拠点間を動き回る必要はないのか。その役割を担う場所は、今の当社の現状から静岡がいいのか。それらを考えたときに東京に戦略的なオフィスが必要だと思ったのです。もちろん、静岡がふさわしくないという意味ではありませんし、現場と距離が空いたら元も子もありません。だから、一つの工場の近くにいるだけでなく、全体を俯瞰し、情報のアンテナを高くしながら動き回る必要があるのです」安藤氏

新規開設にあたり、東京の中でも色々なエリアで比較検証を行った。静岡、愛知、福島といった国内事業拠点や羽田や成田といった空港とのアクセス面、今後海外のトップマネジメントや顧客の皆様が来訪することを考えたときの利便性、それらを考慮して京橋に決定した。とても満足できるロケーションだという。京橋駅近くのオフィスビルに新設されたサテライトオフィス。もちろんITインフラは最高のものを備えている。

「今後、Web会議システムを活用したアジアの各拠点との頻繁なやり取りを考えると、決してネットワーク環境が万全とはいえないエリアであることも想定されます。そこでWeb会議システムに関しては、"いつでも、どこでも、だれとでも"を考えて選定しました」(山下氏

Web会議システム

各拠点との頻繁なやり取りを想定して構築されたWeb会議システム。

「ゆくゆくは、このサテライトオフィスをハブにしてグローバルに情報発信していくつもりです。そのために、いくつもの拠点と並行してWeb会議が行えるようなキャパシティも完備させています」(山下氏

3つの会議室。効果的に社内外の打合せが行われる。

3つの会議室。効果的に社内外の打合せが行われる。

社内外での打合せで使用する会議室。壁にはデザイン的にも優れた 吸音板を備えている。

社内外での打合せで使用する会議室。壁にはデザイン的にも優れた吸音板を備えている。

今後このサテライトオフィスを起点に、さまざまなプロジェクトを企画していく

「当サテライトオフィスは、グローバル本社準備室という位置づけだと思っています。現状は経営戦略、グローバル人事、法務といった部署間を横断した活動が想定される部署が主となります。今後のグローバル化の施策において、このオフィスの役割がより重要視されることになるでしょう。グローバルに活躍できる人材も東京まで人材プールを広げると積極的に採用できるようになります」(安藤氏

「今回のオフィスをプランニングする上で一番ユニークに感じたのは、オフィスを道具としてみている点です。現在はここが戦略的なオフィスと位置づけていますが、将来的な戦略の中では全く違う場所になっているかもしれない。極端な話、東京である必要もないのかもしれませんね」(澤氏

「ここまで何年もかけてやっとフリーアドレスを完成させました。そのほか色々な部署の方が行き来できる仕組みづくり。いつ来ても集中できるスペース。他部署ともコミュニケーションがとりやすいレイアウト。他拠点ともスムーズに繋がるWeb会議システム。全て"働き方の変革"を前提としたオフィス構築のお手伝いをしたつもりです。本来はこの考え方こそがオフィスづくりの本質なのではないでしょうか」(越田氏

「今後は簡単なシンクライアントの端末を使って大きな解析処理ができるようなシステム構築の構想を持っています。IT技術は日進月歩していますので、上手く活用してさらにステップアップしたオフィスを構築できればと思っています」(山下氏

机下には可動式の引き出し。スマートフォンや鞄の置き場所になる。

机下には可動式の引き出し。スマートフォンや鞄の置き場所になる。

「今後、ここからさまざまなプロジェクトを開始していくわけです。社内はもちろん社外のパートナー企業の皆様との熱い議論を交わす場としての使い方が多くなるでしょう。いうなれば当社のグローバル化に向けたベース拠点です。どんな些細な情報でも察知できるようにアンテナを張っていきます。社会情勢は日々変化していますので、常に次の展開を考えてそれをオフィス戦略にも生かしていきたいと思っています」安藤氏

自由に動けるワークスタイルを象徴している執務室内に設置されたコミュニケーションエリア。

自由に動けるワークスタイルを象徴している執務室内に設置されたコミュニケーションエリア。

ペーパーレスとフリーアドレスを徹底させたシンプルな執務室。

ペーパーレスとフリーアドレスを徹底させたシンプルな執務室。