- 日々の業務にIT技術の「 いま」を取り入れる。そのために社内プロジェクトが発足した
- 移転前に行った事前調査と本社内トライアル
- 本社移転のコンセプトは" オフィスづくり"ではなく" 働き方づくり"
- 日々の業務改善推進プロジェクトを運営。当然、生産工場内でも適用される
- コンセプトである働き方づくりをサテライトオフィス開設でも実現
- 今後このサテライトオフィスを起点にさまざまなプロジェクトを企画していく
日々の業務にIT技術の「いま」を取り入れる。
そのために社内プロジェクトが発足した
旭テックは、静岡県菊川市にある菊川事業所に設けていた本社機能を同市内横地事業所へ集約した。
「菊川市堀之内の菊川事業所(本社)土地売却については、少し前から計画がありました。昔は鉄鋳物の生産を行なっていたのですが、愛知県の豊川工場に移管がされており、かなりの部分が遊休地になっていました。また、徐々に国内の生産が海外に移管されていることもあって、できるだけ国内の施設はスリム化させたい。そこで、本社を売却し、横地の事業所内に管理部門を集約させることにしたのです」(安藤研一氏)
しかし、単純に本社の集約をすればいいというわけではなかった。コンセプトに「働き方の変革」を掲げるのが必要だったという。
「IT技術がこれだけ進歩しているのに関わらず、当社は上手く生かしきれていないという声が経営陣からあったのが発端です。そこで日々の業務にうまくIT技術を組み入れるためのプロジェクトが発足しました。2011年のことです」(安藤氏)
当時、安藤氏は経営企画部に所属しており、情報システムの担当と連携しながら他社のIT現場の研究を行なうなどプロジェクトを進行させていた。その中で浮上してきたのが次の3つのキーワードだった。
「一つは、ロケーション・フリー。これはのちのフリーアドレスに繋がってくるのですが、どこでも仕事ができる環境を意味します。もう一つがペーパーレス。最後に経営情報の見える化です。これはクラウドを活用しながら拠点ごとに管理している在庫情報や損益に関するデータなど、リアルタイムで情報を閲覧できる必要性があると。現段階では構築途中のものもあるのですが、これらを可能にして初めて当社はITを活用していると言えるのではと考えたのです」(安藤氏)
「メールやグループウエアにクラウドを活用する。そして拠点間の移動やモビリティが高い社員については、軽くて薄いモバイル用のパソコンに順次切り替える。どこからでもデータベースにアクセスできるようにiPadやiPhoneを導入する。そんなイメージが頭に浮かび、早速、ITインフラについての検証を始めました」(山下 晋氏)
移転前に行った事前調査と本社内トライアル
企画にあたってはオフィスコンサルタントに数多くの実績を持つワークプレイスソリューションズの越田氏に声がかかった。
「フリーアドレスやペーパーレスといった施策をどのように実際のオフィス環境に組み入れていけばいいのかについて相談がありました。そこで調査を開始したのです。2012年3月のことですね」(越田 壮一郎氏)
「モニターとして本社の管理部門60名を調査対象にしました。『フリーアドレスとは何か?』といった初歩的な説明から始まり、何度も議論を重ねていったのです」(安藤氏)
その後1週間かけて社員の行動調査を実施した。営業職と違って外出が少ないため、在席率は70%、在館率は88%という結果であった。通常それだけの高い在席率の場合、フリーアドレスには向かないという結論になることが多いという。
「しかし、今の在席率がどのようなパーセンテージであっても、今回のオフィスは次の世代を見据えた"働き方の変革"がテーマでしたので、当初の計画通りにフリーアドレスの導入を前向きに検討したのです。そのためには一人で抱え込んでいる書類が妨げになります。結果としてペーパーレスの実施も必須となりました」(小澤清彦氏)
フリーアドレスやペーパーレスの導入がいい意味で会社全体の付加価値を上げるだろうと信じて敢えて取り組んだという。
「今の自分たちの働き方を絶対に変えていこうと思案していました。そして今後のグループ企業や国内外の拠点との円滑な連携を想像すると、今すぐに"どこでも仕事ができる環境を構築しなければならない"という思いが高まってきたのです」(安藤氏)
まずは本社内だけでフリーアドレス導入のためのトライアルを開始した。その時に、LANのワイヤレス化やノートパソコンの配布など、ITインフラの見直しを実施。そして同時期に全員ではないが、マネージャー職と役員中心にiPadとiPhoneを支給したという。
「その時は、別にレイアウトを変更することもなく。書類はかなり廃棄しましたね。まさに机と椅子だけ。机の下に収納する移動式の引き出しも全て撤去しました。そして2013年に入り、本社の売却が決まり、横地事業所へ本社機能の集約移転が正式に決定したのです」(安藤氏)
横地事業所には工場のほかに軽合金事業本部が事務室を構えていた。本社で実施していたフリーアドレスのトライアルも軌道に乗っていたこともあり、営業部や管理部をはじめとした軽合金事業本部への導入もスムーズな展開を可能とした。
本社移転のコンセプトは"オフィスづくり"ではなく"働き方づくり"
そうして約1年にわたるトライアルが終わり、本社の集約移転完了に伴って正式にフリーアドレスの導入が実施された。それは、旭テックにとって、「働き方の変革」の第一歩であった。
「将来的には、単なる座席だけの問題ではなくて、国内外の拠点とも自由に結ばれるオフィスを計画しています。もちろんWeb会議システムを活用して他拠点とスムーズに繋がりながら業務を行なうというのは大前提であると思いますが、まず社員の方々の意識改革、ロケーション・フリーへの布石としてのテリトリー意識の排除と機動性への対応。そのための働き方のスタート地点がフリーアドレス導入だったのです」(越田氏)
「当社が導入したフリーアドレスはコストやスペース削減の手法の一つではありません。どの国であっても同じ環境となるスタンダードをつくりあげたい。日本企業発信で海外拠点でも展開できるシンプルなグローバル標準のようなオフィスを構築していく。そのために働き方はどうあるべきか。正直、部門間でも温度差や理解度に相当の違いもあり、全ての社員の認識やベクトルをあわせるという意味では、まだまだです。これからも課題は続いていきます。」(安藤氏)
「そういう意味では、在席率を何%にしなければならないといった目標を掲げる必要もありませんでした。自分の席は専有されたものではないことを認識してもらう。この意識の定着こそが、『必要に応じて自由に動けるワークスタイル』への移行をスムーズにさせるためのポイントだと思っています。意識の転換ですね」(小澤氏)
一斉に変革を進めるのではなく一つずつ課題を見つけてクリアしていく。きっとそのスタンスは今後も変わることがないだろう。
「オフィスを表面的にきれいにするのが目的ではありません。あくまでも"働き方の変革"です。したがって、既存の什器はそのまま使用しています。自分たちのリソースを使いながらどこまでできるか。一度見ただけでは新しくオフィスをデザインしたと感じられないかもしれませんが、一つひとつを見ていくと、オペレーションに工夫があるユニークなオフィスだということがわかると思います」(小澤氏)