- オフィス戦略は経営課題の翻訳
オフィスをリニューアルするには、その時々の経営課題に合わせた具体的な方向性を決めていく「翻訳」作業が欠かせない。例えば情報共有や可視化、ワークスタイルの多様化といった言葉も汎用的に考えるのではなく、今、何が不足し、何を実現すべきか、精密なプランニングをすることが大きな成果につながる。 - 徹底したスピード化の追求
ファーストリテイリングでは、「会議は罪悪」と経営トップが言いきる。情報共有や協同行動のレベルを上げながら同時に業務のスピードアップを図るため、テレビ会議システムを大幅に増やした。単に「場」を増やすだけではなく、目的と手段と効果をしっかりつなげることが重要だ。 - 変化と前進の繰り返しが進化
オフィス戦略は事業構造や組織の変化によって常に変わってくる。したがって以前のオフィスで実現したことをそのまま継承するのではなく、メリットとデメリットを冷静に検討し、変化と前進を繰り返しながらレベルを高めていくべき。 - フリーアドレスからグループアドレスへ
新オフィスではマネジメントの強化とチーム力の最大化を目指し、部署ごとに座席を自由に決める緩やかなグループアドレスを採用。
以前のオフィスの長所と短所を分析し新しい経営課題に合わせて進化させる。
六本木のミッドタウン・タワー内に誕生した株式会社ファーストリテイリングの東京本部オフィスを紹介するには、移転前のオフィスについても触れておかなければならない。2006年3月、九段下交差点に面した北の丸スクエアに開設された旧東京本部は、当時、さまざまな革新的な取り組みにより、「経営戦略とオフィス戦略をうまく融合させたケース」として話題になった。概要を簡単にまとめておくと、次のようなものだ。
単なるフリーアドレスではなく選択式ワークスペースへ
固定席ではなく業務内容に合わせて最適な「場」を社員が選ぶオフィスにすることで、同時に各業務の重要度を考えさせる。多様なミーティングスペースを用意し、思いついたとき、タイムラグなくプロジェクトが始められるオフィス環境を構築した。
あらゆる部分で「可視化」を実現
デザイナーやパタンナーの執務室には商品やサンプルがオープンに置かれ、「現場・現物・現実」が見える状態で開発業務を行えるようにした。また全面ガラス張りの会議室などの多用で違う部門の人の仕事まで見えるようにして情報の共有化を促した。そしてもう一つ、移転前のオフィスを紹介した本誌の記事では、このような文章が加えられている。
事業や組織に合わせた継続的なオフィス戦略を
成長を前提とする企業にとって、事業構造や組織の改変、人員増は日常茶飯事。フリーアドレスによってスペースの柔軟性が生まれ運用は簡便になるが、そこで満足せず次のオフィス戦略を考えていく姿勢も大切だ。
「あれから4年の間に事業構造や内容に変化があり、次の成長に向けての経営課題も明確になってきました。したがって、さらに進化した形のオフィスにしようというのが、今回の移転の最大の目的です」
こう語るのは、現在、株式会社ファーストリテイリングで人事総務部長を務めている植木俊行氏だ。また取材には、前回と今回の2度の移転プロジェクトでコンサルティングを任された株式会社CWファシリティソリューションの伊澤成人氏と加藤泰子氏に同席していただいている。
「移転プロジェクトは、昨年7月に私どもの代表取締役会長兼社長である柳井 正から直接伝えられた経営上の課題をオフィス戦略に落とし込んでいくところから始まりました。当然、オフィスについての専門知識が必要のため、伊澤さんたちにも参加していただき、今後のオフィスの方向性について話し合ったのです」(植木氏)
そのとき、柳井会長が伝えた言葉を伊澤氏が整理したのが次のメモだ。
- 全部のことを全員が知っている
協同行動
情報共有 - スピードが足りない(業務品質のさらなる向上へ)
仕事の効率をあげる習慣づけ
残業は罪悪
会議は仕事ではなく「結論を出す」「実行する」が本当の仕事 - マネジメント層の強化
部下の成長を支援する
マネジメント層同士の情報共有、コミュニケーションをもっと密に! - 部署を越えたチームワーク
仕事はチームでするもの
組織だけで完結しているのではない(単独で完全な組織などない)
「柳井さんの言葉をもとにまとめたものですが、経営トップの思いと現在のファーストリテイリングの課題が完結に表されていると考え、ここから具体的なオフィスの方向性を探っていったのです」(伊澤氏)
例えば「全部のことを全員が知っている」という中の"全部"と"全員"は正確には何を示しているのか......といったところから、新オフィスのコンセプトづくりが始まる。
「当然、社内のすべての情報を社内の全員が知るという意味ではありません。どんな情報を誰が共有するのか考え、それまでのオフィスの長所と短所を冷静に分析し、柳井さんの言葉を解きほぐしていく。そういう作業を一つひとつ繰り返すことで徐々に新オフィスの考え方を整理し、以下のオフィスコンセプトに到達しました」(伊澤氏)
- マネジメントを通じた教育と社員の自律的成長への支援
基礎的教育(原理原則、知識、知恵)の徹底
基礎的教育を超えた「+α」がイノベーションエンジンとなる本部オフィス - マネジメント層の働き方の変革
情報とコミュニケーションが重要
現場と経営の両立