freee株式会社

2016年2月取材

※ 記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

IT企業の新たな聖地となる五反田でさらなる進化を目指すfreeeの新本社

中小企業向けクラウド会計ソフトの普及を通じて「クラウド完結型社会」の実現を目指すfreee株式会社。「スモールビジネスに携わるすべての人が創造的な活動にフォーカスできるよう」を合言葉に急成長を遂げている。2012年7月に自宅兼用マンションの一室からスタートした同社は、増員によって短期間にオフィスを拡張してきた。そして2015年12月、西五反田2丁目に通算5つ目のオフィスを構えるに至る。今回の取材では、新オフィスが体現する同社の理念と思いについてお話を伺った。

プロジェクト担当

鈴木 康弘氏

freee株式会社
採用マネージャー

鈴木 康弘氏

古塚 大輔氏

freee株式会社
メンバーサクセス
チームマネージャー

古塚 大輔氏

freee株式会社

はやわかりメモ

  1. 日本の開業率向上に貢献するためクラウド完結型社会の実現を目指す
  2. 会社の成長とともに従業員数が急増し前回からわずか1年半で次の移転
  3. IT企業が集まりつつある五反田に自社カルチャーを体現できるオフィスを構築
  4. 大小のスペースでコミュニケーションの取りやすい環境を形成する
  5. クラウド活用やペーパーレス化で自らが提唱する考え方を体現する

日本の開業率向上に貢献するためクラウド完結型社会の実現を目指す

現在、日本に存在する企業の90%以上は中小企業によって占められているといわれる。これらの中小企業の中には、会社の規模は小さくても世界トップクラスのシェアを誇るビジネスを展開している優良企業も決して少なくない。数万人規模の従業員を擁する大企業といえども、これら多くの中小企業の存在なくしてそのビジネスは成立しえないといっても過言ではないだろう。

だが、中小企業が自社の強みを十二分に発揮するためには、本業に専念できる環境が整っていることが重要だ。逆にいえば、本業以外の、経理・財務、あるいは従業員の給与計算などのバックオフィス業務に忙殺され、貴重な人員や予算、時間を割かなければならないという現状では、中小企業はその強みを十二分に発揮することができない。これは、単にその会社にとっての損失にとどまらず、大企業をはじめとする関連業界にも、ひいては日本経済全体にとっても、大いなる損失となる。

「当社の代表である佐々木大輔がfreeeを立ち上げた動機の一つとして、日本における開業率の低さにあります。現在、OECD諸国で最低レベルにある5%程度の日本の開業率、これを何とか向上していきたい。起業の参入障壁となっている煩雑なバックオフィス業務を自動化することで、スモールビジネスに携わる多くの人が、本当にやりたい創造的な活動にフォーカスできるようになります。その結果、中小企業でも、大企業より強くてかっこよくなれる――そのための環境を実現することがfreeeのミッションです。そうすることで、もっとワクワクする世の中が実現できるはずだと考えたのです」(鈴木康弘氏

規模は小さくても会社組織である以上、運営していく上で数多くの必要な実務が発生する。組織運営のための実務は、必ずしも本業に直結する領域のことばかりではない。独立・起業に果敢にチャレンジする人々は当然、大いなる夢や目標を追い求めているはずだ。しかし健全な組織運営のために必要な作業や勉強に忙殺され、「本当にやりたいこと」にフォーカスすることがなかなかできないというのが現状である。そのせいで起業に二の足を踏んだり、起業しても早々に挫折したりするケースが多く、結果としていつまでも日本の開業率が向上しないのだと同社は指摘する。

「開業率だけでなく、事業を立ち上げてからも、バックオフィス業務は中小企業にとって大きな負担となります。大企業であれば高価なシステムを導入することも、専門のチームを持つこともできますが、中小企業の場合はそれが困難です。日本企業はもともと、IT化の段階では世界に先駆けて導入が進んでいました。その後のイノベーションをもたらすビジネスプラットフォーム構築の段階で、欧米はもちろん、アジア諸国にも大きく後れを取ってしまったのです」鈴木氏

こうした現状に対して、同社はイノベーティブなプロダクトおよびサービスの提供を通じて「クラウド完結型社会の実現」を目指しているという。

会社の成長とともに従業員数が急増し前回からわずか1年半で次の移転

2012年7月、佐々木代表の自宅兼用マンションの一室からスタートした同社は、社員2名からスタートして急速に成長していった。まもなく港区麻布十番に所在する神社の中にオフィスを構えるようになり、従業員数が30名を超えた2014年6月、本社を品川区西五反田のビルに移転した。このオフィスは約230坪の面積があり、30名前後の会社としては十分すぎるほどの広さであったが、その後も積極的に採用を続けていった結果、最終的には従業員数150名に達し、「席が足りない」という状況を呈することになる。

「以前のオフィスは1フロアなので会社としての一体感はあったと思いますが、どんどん人を増やして、席が増えていくうちに、非常に動線の悪い、機動性に難のあるオフィスになっていました。また、ミーティングルームの数も少なかったので、予約が取りにくいという問題が生じていました」(鈴木氏

旧オフィスのミーティングルームは、来客用が3室、社内用のクローズドスペースが2室。このほか、社内のミーティング用にオープンスペースも用意されていたが、採用面接や個人面談に使用できるクローズドスペースの数が不足していたという。

「採用面接の場合、最初のカジュアルな雰囲気の面接にはビルの階下にあるカフェなども利用していましたが、採否を判断する最終面接ではそういうわけにもいきません。また、当社は『人の成長を支援する会社』を理念に掲げており、そのために一対一の社員面談を毎週1回設けていますが、これを行うためにもクローズドスペースが必要でした」(鈴木氏

こうした社内の状況を踏まえ、前回の移転から約1年後の2015年6月頃には早くも「次」の移転を検討し始める。夏には本格的に候補物件を探し始め、同年9月にはある程度の目星がつけられ、現オフィスのあるビルも候補に挙がっていたという。

「その後も『ほかにもっと良い物件はないか?』とは思いながらも、最終的にはこちらのビルに決定いたしました」(鈴木氏

IT企業が集まりつつある五反田に自社カルチャーを体現できるオフィスを構築

移転先となったのは、旧オフィスからもほど近い西五反田のビルである。この五反田という立地の選定には、佐々木代表独自のこだわりが反映されているという。

「当社のようなITベンチャーというと渋谷、恵比寿あたりが人気ですが、これらのエリアでは空物件も乏しく、あっても駅から遠かったり、急坂を登る必要があったりします。その点、五反田なら駅から近い物件も多く、賃料相場も渋谷・恵比寿よりは割安。また、近在に居住している従業員も多いため、職住近接の環境が実現できます。それと、『すでに多くのIT企業が集まっている渋谷・恵比寿に加わるより、我々が旗を振って五反田にIT企業を集めたい』という佐々木の考えもありました」(鈴木氏

実際に、近年は飽和状態にある渋谷・恵比寿エリアより、再開発著しい五反田・大崎エリアへIT企業が移転してくるケースが目立っている。

「佐々木は以前から『ワーク・ライフ・インテグレーション』ということを提唱しており、ビジネスと、遊びや家族間のコミュニケーションを両立させ、オンとオフの融合を実現できる環境、新しいイノベーションが起こりやすい場所として、五反田という街に魅力を感じているようです。また、五反田は食事のできる店も多く、価格帯もリーズナブル。さらに、JR山手線・東急池上線・都営地下鉄浅草線の3線が利用可能で、交通アクセスの利便性が高いことも魅力の一つです」(古塚大輔氏

ちなみに、五反田は、佐々木代表ともう一人の創業メンバーである横路氏が初めて出会った街でもあるという。オフィス移転にあたっては、鈴木氏をはじめ社内各部門から選抜された5名によるプロジェクトチームが編成された。移転先ビルでは8・9・10階の3フロアを使用することになっていたが、まず、先行して8階への移転が実施されることになる。

「というのは、当社のお客様である個人事業主の確定申告の時期に向けて、サービスを担当するカスタマーサポート部門の拡充が急務であったからです。確定申告の繁忙期から逆算すると、人員採用と研修期間などを含めて11月上旬にはオフィスを開設する必要がありました」(鈴木氏

物件選定から8階への入居までの期間は実に1ヵ月余り。この短期間の中で、プロジェクトチームは全社アンケートを行い、さらにデザイン会社を選定するコンペを実施した。決定したのは以前からつきあいのあるデザイン会社であり、同社の企業理念やコンセプトを理解した上で、同社のカルチャーを体現するオフィスデザインを提案してきたという。

「非常に慌ただしいスケジュールの中での設計・施工になりましたが、なんとか11月1日には予定通り8階フロアを先行して開設することができました。ただし、この時点では、9・10階はまだ図面しかできていない状態で、『はたして年内に間に合うのかな......』と内心ヒヤヒヤしていましたね」(鈴木氏

8階はカスタマーサポート部門のほか、経理・総務・人事・広報などのバックオフィス部門の執務室。遅れて施工され、12月23日までに入居を完了した10階にはエンジニア部門、セールス部門、マーケティング部門の執務室を置き、中間層の9階に来客用および社内用のミーティングルームや「asobiba」と命名されたラウンジなどのコミュニケーションスペースが配置されている。

各部門の従業員の座席は固定席だが、所属フロアの自席だけでなく、他のフロアのオープンスペースやラウンジ、集中ブースなど、さまざまな場所を選んで仕事をすることができるという。

9階の集中スペース

9階の集中スペース

「これまでのオフィスは1フロアでしたが今回は3フロアに分かれます。組織としての一体感をどのように維持するか、これまで同様の活発なコミュニケーションをどうつくりだしていくかが一番の課題でした。そこで、執務室を8階と10階に置き、中間階である9階には全員が集まれるスペースを設けました。9階は誰でも働ける場であり交流の場としました。そのため9階のみ食べ物を配置し、メンバーが自然に集まれる仕組みをつくったのです。代表の佐々木からは『従業員が、会社が次の段階に成長していることを感じられるオフィスにしたい』という要望があり、これを基に全体的なデザインを考えていきました」古塚氏
個人用スペース

個人用スペース

「全社アンケートを通じて、従業員から『どんなオフィスにしたいか』『どういう設備が欲しいか』といった要望を吸い上げ、自然発生的に、あるいはボトムアップ的に形にしていきました。たとえば、新オフィスには畳敷のスペースをつくりましたが、これは旧オフィスにあったゴザを敷いたスペースがグレードアップしたものです」(鈴木氏

畳敷のスペース

畳敷のスペース

大小のスペースでコミュニケーションの取りやすい環境を形成する

asobibaと命名されたラウンジ

asobibaと命名されたラウンジ

9階の「asobiba」は、旧オフィス時代にあったフリースペースからその呼称とコンセプトを受け継ぎ、さらに発展させたものだ。特に使用ルールのようなものは設けておらず、原則として「何をやっても良い」。従業員の自由な使い方ができるスペースとなっている。ここに置かれた卓球台は、ただのインテリアではなく、実際に卓球をプレイすることもできるし、社内パーティなどの際にはテーブルとしても使用される。

「夜にはここに集まってゲームで盛り上がることもありますし、社内でミニ四駆の大会を開くこともあれば、ごろ寝をしている人もいます。また、昨年の『スター・ウォーズ』の新作映画公開に合わせて、シリーズ作品の上映会を開いたこともありました」(古塚氏

こうした名前の通りの「遊び場」としての機能、休憩スペースとしての役割だけではない。「asobiba」にはひな壇が設置され、最大で200名が着席できます。新しいプロダクトや機能のデモ、新メンバーの紹介などを行なう集まり「テンション上げてこ」や会社としての重要な学びや取組みを共有する「ALL-Hands」なども開催しているという。

asobiba内のひな壇

asobiba内のひな壇

「9階には、セミナールームやミーティングルームなども設置しています。セミナールームは全社アンケートの要望に応えたもので、税理士さんなどを集めてスクール形式のセミナーを開講するほか、新入社員の研修や多人数でのミーティングなどにも利用されています。ミーティングルームの大きさについては、旧オフィス時代のデータをエンジニアと協力し分析した結果、4名部屋と6名部屋を設計しました」鈴木氏

旧オフィス時代のデータとは、ある一週間における社内の各ミーティングルームの使用状況を、人数や目的、使用時間などについて詳細に調査したものである。旧オフィスでは16名部屋・8名部屋・6名部屋が各1室ずつ用意されていたが、実際にはこれらの大部屋を少人数で使っているケースが多く、スペースのムダが生じていたという。そこで、新オフィスでは少人数用の部屋を数多く用意することになり、8階と10階の執務室にもクローズドのミーティングルームを各3室、さらにオープンミーティングスペースを多数設け、コミュニケーションの取りやすい環境を形成している。

「これらのミーティングルームには、当社にちなんで、8階は勘定科目、9階はロゴマークにちなんでツバメの種類、10階はクラウドにちなんで雲の名前になっています。9階のツバメは、旧オフィス時代からの当社の伝統を受け継いだものです」古塚氏

9階のセミナールーム

9階のセミナールーム

執務スペース

執務スペース

クラウド活用やペーパーレス化で自らが提唱する考え方を体現する

「当社のビジネスは、クラウドの活用により、ユーザーが本業にフォーカスできるようにすること。そのためには、当社自身がそれを実践していなければなりません。新オフィスでは、こうした価値基準に基づき、クラウドを徹底的に活用していくことで本業にフォーカスできる環境づくりに取り組んでいます」(鈴木氏

新オフィスのエントランスに設置された受付システムは、同社の自家製ソフトウェアを利用し、来客は訪問相手をチャットで直接呼び出すことができる。来客の利便性に加えて、アポなしの飛び込み営業などを抑止する効果もあり、時間の効率化が図れるという。

さらに、徹底したペーパーレス化が図られ、社外の人間にも、契約書や請求書などは「紙でなくPDFで」と依頼しているという。自らが提唱する考え方を体現するためだ。紙書類を使わせないため、デスクには引き出しさえ付けていない。

「すべての従業員が、自分が主役となってさまざまなことに取り組むのも当社の企業文化。会社公認の部活動なども活発で、今回本格的に導入した観葉植物も『Green部』が自主的に水やりなどを行なっています。また、1階の駐車スペースは内部デザインやシャッターの自動開閉装置の設置など、『自転車部』が中心になってつくりあげました」(古塚氏

「移転の効果として、社内の生産性は向上していると思います。オフィス内のCO2濃度や湿度などは数値で測定していますが、以前より快適な環境が保たれています。今後は8階と10階をリアルタイムで相互にテレビ中継するなど、さらなるコミュニケーションの改善に取り組んで参ります」(鈴木氏