株式会社インテリジェンス

2007年4月取材

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※ 記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

経営と一体となったオフィス戦略を展開することで
都心「集中」と機能「分散」を計画的に進めていく

人材紹介、人材派遣、求人情報媒体などを手がける総合人材サービス大手の株式会社インテリジェンスが丸の内ビルディング(丸ビル)に本社を移転したのは2002年10月のことだった。その後、立地を活かした積極的な営業展開によってビジネスは大きく拡大。大規模なオフィスリニューアルのプロジェクトを経験したことでファシリティマネジメントを経営上の重要な戦略の一つと位置づけられるようになったという。現在、全国で約50カ所の事業拠点を持つが、すべて統一したオフィススタンダードに基づいて設計することにより、効率的な運営・管理を可能にしている。

株式会社インテリジェンス

プロジェクト担当

西田 弘氏

株式会社
インテリジェンス
西田 弘氏

コーポレート
ヘッドクオーター
経営戦略本部
FMサービス統括部
統括部長

はやわかりメモ

  1. 丸ビル移転によるブランディング効果
    総合人材サービスという新しい業種で成長を続けるインテリジェンスにとって、ビジネスと会社の認知度を高めるのに丸ビル移転の効果は大きかった。また従業員や家族の満足度向上、採用面でのプラス面も計り知れない。
  2. 綿密なシミュレーションで移転を決定
    移転によるコスト増を吸収するには、その後の業績拡大に関する正確なシミュレーション
    が必要になる。また「オフィスの機能」を再整理することで、立地条件を活かすワークプレイスを実現できる。
  3. 機能ごとの明確なゾーニング
    プランニングのコンセプトとして第一に掲げたのは情報セキュリティ。1フロアを「お客さま対応ゾーン」、1フロアを「従業員用執務ゾーン」と明確に分けることで社外にも安心感を与える。
  4. 会社のイメージを決めるデザイン
    「お客さま対応ゾーン」はそこで伝えたいイメージを念頭にデザインすることが大切。また運営・管理の手間やコストを抑えて最大の効果を発揮する工夫も必要。
  5. デスクスペースは大部屋方式へ
    全体が見通せるオフィスにすれば自然にコミュニケーションが生まれる。固定席かフリーアドレスかは「働き方」で決める。
  6. 移転プロジェクトを次のオフィス戦略に活かす
    オフィススタンダードの確立、経営方針と一体化したオフィス計画など、プロジェクトの成
    果を無駄にしないことが重要。

ブランディング戦略としての丸ビル移転がビジネスと会社の認知度を大きく高めた

株式会社インテリジェンスのオフィス戦略において、2002年10月の丸ビルへの本社移転は、経営上の大きなターニングポイントになったという。

「それまでは『設立の地』である港区青山周辺にこだわっていたのですが、組織が拡大し、人が増えてくるに従って特定のエリアでスペースを確保するのが徐々に難しくなってきていました。それなら思い切って都心の、しかも最も有名なビルに進出すれば大きなブランディング効果が期待できるはず。そう考えてスタートしたプロジェクトでしたが、それは同時に、私たちが本格的なファシリティマネジメント(FM)を導入するきっかけにもなったのです」

こう語るのは、オフィス計画を担当するFMサービス統括部部長の西田弘氏だ。採用コンサルティングサービスを主な業務としてインテリジェンスが設立されたのは1989年6月のことである。当初のメンバーは、現在の代表取締役兼社長執行役員である鎌田和彦氏と、取締役会長の宇野康秀氏(株式会社USEN代表取締役社長)など4人。しかしその後、人材派遣サービスや人材紹介サービスなどへと積極的に業務を拡張していくことで急成長を遂げ、1996年12月には青山通り沿いのカナダ大使館ビルに3フロア、約700坪(約2300㎡)のオフィスを開設するまでに至っている。

「私がオフィス計画を担当することになった2001年ごろの従業員は400名ほどでした。しかし、すでに本社は手狭になりつつあり、ちょうど次の移転先を検討している段階だったのです」

そのころ、オフィスマーケットでは、その翌年に竣工する丸ビルが大きく注目されていた。そして西田氏たちは、本社の候補の一つとして考えるようになる。

「当時の会社の規模からいえば丸ビルへの移転はかなり大胆なプランだったと思います。何しろ、売上を倍増しなければ無理だろうと話していたほどですから(笑)。それでもこの計画を進めたのは、インテリジェンスという会社だけでなく、総合人材サービスという私たちのビジネスそのものをもっと知ってもらいたいという熱い思いがあったからなのです」

インテリジェンスの提供するサービスの一つに人材紹介サービスがある。今でこそ中途採用は多くの大手企業で積極的に行われ、転職を考える個人も多いが、転職経験のある西田氏自身、「昔はそんなにオープンではなかった」と笑う。

「転職には長い間マイナスのイメージがつきまとい、採用する側も応募する側も隠密行動をとるケースが多く見られました。しかし人材流動化のニーズは高まっており、誰かが行動を起こさなければならなかったのです。実際、私たちが丸の内という日本のビジネスの中心地で転職支援・人材派遣等のサービスを始めたことにより状況は大きく変わりました。多くの企業や人が中途採用のメリットに気づき、利用するようになってきたのです」

移転による効果を調べるシミュレーションと
オフィスに必要な機能の整理が重要な事前作業

結果としてインテリジェンスへの認知度も大きく高め、予想以上のブランディング効果があった丸ビルへの移転だが、それは決して無謀な冒険ではなかった。プロジェクトを進めるにあたって西田氏たちは綿密なプランニングを行っている。

「当初、本社として使うのは1100坪(約3630㎡)のスペースで、それまでの約1.5倍の広さになるだけでなく、『近・新・大』のビルに移ることで賃料コストは大幅に増えてしまいます。したがって、それに見合った業績をあげられるのか、正確なシミュレーションをしておく必要があったのです」

丸の内という立地を得ることでどんな営業上の効果があるのか。その計算はこのように行われたという。

「たとえば人材派遣ビジネスはそれまで新宿の拠点を中心に展開していました。周囲にはテレフォンサービスなど多くのスタッフを必要とする企業が多かったからです。しかし、上場企業が2500社近くある丸の内・大手町で同じ事業を展開していけば、それまでインテリジェンスの人材派遣サービスをあまり利用していなかった外資やIT企業などもお客さまになっていただけるかもしれません。それらの予測をもとに、このエリアに関するさまざまなデータを加えて計算し、業績拡大は充分に可能だと確信を得ることができました。それでようやく、移転に最終的なゴーサインが出たのです」

その過程で西田氏は、改めて「オフィスは何のために必要なのか?」という問題を何度も考えたという。

「仕事がほしい個人と人材がほしい法人の仲介をし、情報をつなげるマッチングを行うのがインテリジェンスのビジネスです。したがって、対象となる情報が日本で最も集まる丸の内は最高の立地なのです」

ただ、その立地条件を活かすにはオフィスのスタイルが重要になってくる。

「そこから具体的なプランニングが始まりました。幸い、経営トップもオフィスへの関心は高かったため、私たちは何度も意見を交換し、インテリジェンスという会社がこの場所でビジネスを展開していくにはどういう職場が必要なのか、じっくり考えていけたのです」

「完全なセキュリティ」を追求した明確なゾーニングが与える安心感

インテリジェンスの本社オフィスは、丸ビルの27階と28階にある。最大の特色は、それぞれのフロアを機能ごとにゾーニングしてある点だ。

「新オフィスのプランニングコンセプトをつくるにあたって経営トップとの話し合いの中で出てきたのは、完全なセキュリティ体制の確立でした。個人や企業の情報を扱う会社なのですから、訪れた人に安全や信頼を感じてもらえるオフィスにしなければなりません。このため、27階はお客さまへの応対をするゾーン、28階は従業員だけが出入りできるゾーンと明確に分けることにしたのです」

27階を顧客用のエリアとしたのは、中層階用と高層階用のエレベーターの乗り換えフロアに当たり、ビルにおけるターミナル駅のような位置づけだったからだ。ただし、オープンなエリアでありながら、入口は総合受付カウンターの前の1カ所に限定することで情報漏洩の心配がないことをアピールするように工夫している。そして内部も、セキュリティを考えて個室が並ぶレイアウトになっている。

「このフロアには、2人用と4人用のブースと呼ばれる小部屋と、もう少し広い応接会議室しかありません。個人のお客さまへの面接も、法人のお客さまとの商談も基本的にはここで行い、執務スペースと完全に区別しているのです」

当初、50室用意したブースだが、その後の業績拡大に合わせて現在では140室ほどに増設されている。これに伴い27階の全フロアを使用することになり、28階と合わせた総オフィス面積は1600坪(5280㎡)に拡張された。

「転職の相談は1人1人の転職希望者に丁寧に接することが大切ですから、キャリアコンサルタントの人数によって、1日に面接できる人数が決まってしまいます。したがってブースの数も人員計画に合わせて計画的に増やしていきました」

多くの人が訪れるフロアだけに、デザイン的には明るく、温かみのあるイメージを大切にしている。

「全体的には木材を多用した内装で、優しさを感じてもらうようにしました。転職相談や派遣相談で面接に来られる個人のお客さまは、当然、不安な気持ちもあるはずです。それを少しでもやわらげていただくためにも、このフロアのイメージづくりは重要だと考えました」

受付横の待ち合わせスペースには熱帯魚の泳ぐ水槽もデザイン上の工夫の一つだ。

「目隠しに何か置こうと考えたとき、パーテーションより水槽のほうが明るくなると思ったのです。一見、豪華に見えますが、管理をすべて専門 会社に任せることでコストはかなり抑えることができました」

運営・管理の手間やコストを省いて最大の効果をあげる方法を見つけることも「ファシリティマネジャーの腕の見せどころ」と説明する西田は、他にもこんな試みを採用している。

「応接会議室にはお客さまにお出しする飲みもの用の冷蔵庫があるのですが、これは会社の備品ではなく、飲料販売会社に設置してもらっているものです。このため、私たちは一切管理しなくても補充されるので便利ですし、サプライヤーにとっても充分な収益が期待できる。つまり、お互いに得な話なのですから、こういう工夫はもっと多くの会社でしてもいいと思いますね」

「全体が見通せるオフィス」であればコミュニケーションは活発になっていく

一方、28階の従業員ゾーンは、機能と効率を徹底的に考えたデザインとなっている。

「基本的に大部屋スタイルで、コアに近いスペースに1人あたり1400mm幅のデスクを効率良く並べるレイアウトにしてあります。しかも、全員が席に着いたままでも朝礼などができるように、『全体が見通せるオフィス』にこだわりました。パーテーションなどの高さはすべて1400mm以下としましたので、立てば視界を遮るものはありません」

さらに窓側に会議室や打ちあわせコーナーなどを配置することで、デスクスペースとのシームレスな交流を実現している。

「見通せるというのはオフィスにおいて非常に重要なポイントです。これにより、情報交換したい相手を見つけられる、気軽にデスクまでいって話ができる。そういう意味では、個人作業とコミュニケーションを両立できるスタイルになっていると思います」

仕事上、打ち合わせの機会は多く、会議室も「平均以上には用意してある」ものの、それでも足りなくなることはあるという。「幸い、他のオフィスの会議室など、借りることのできる場所はたくさんあるので、今のところ不自由はしていません」

もちろん、もう少しスペース的な余裕があれば「リフレッシュコーナーなどを増やしていきたい」という願望はあるものの、今のところ、従業員から特に不満の声は出ていないという。

「むしろ丸ビルに会社があるという満足感のほうが大きいのかもしれません。実は移転を機会に、家族の方にオフィスを見ていただくファミリーデーを設けたのです。すると、誰もがこの立地に驚き、そして『いいオフィスだ』と言ってくれます。それが従業員にとってもうれしかったのではないでしょうか」

ちなみに、丸ビル効果は採用面でも大きく、応募者が急増したという。

「そういう意味でも、知名度の高いビルへの移転が経営にもたらすメリットは計り知れないと思います。ただ、その効果を持続させるためには、オフィスを常に進化させていかなければなりません。そこからが、次のプロジェクトになっていくのです」

社員の「働き方」を分類するモデル化でオフィススタンダードを確立していく

丸ビルへの移転プロジェクトは、インテリジェンスにとって「オフィスのあり方」を考える最高の機会になったという。そしてその成果は、オフィススタンダードの確立といったFM上の実績につながっている。

「たとえば個人デスクにするのか、テーブルでフリーアドレスにするのか、その場合の1人あたりの幅はどのくらいがいいのかと、さまざまな検討を重ねることで、徐々にインテリジェンスのワークスタイルモデルが決まっていったのです」

たとえば従業員の「職種」は、次の3つに分類されている。

タイプ1

求人情報媒体の営業職。在席率は3割程度であり、テーブルによるフリーアドレス化が可能。

タイプ2

人材紹介、人材派遣サービスの営業職。電話による法人顧客との連絡と企画が主な仕事となるので在席率は約6割。1400mm幅個人デスクを採用。

タイプ3

キャリアカウンセラーや管理部門などの企画職。在席率は高く個人デスクが必要。


「外回り中心の営業職の場合は、1 人あたり8 0 0 m mで計算し、
2400mm幅のテーブルを6人ごとに設置することでスペース効率を大幅に上げられます。個人への書類伝達もクリアトレーがあれば充分なのでフリーアドレスは効果的でしょう。しかし企画を含めた仕事をする従業員の場合は行き来する書類も多いので、確実に相手に渡せるために個人用のデスクが欠かせません。つまり業務の内容によってパターンを整理することで、効率的なオフィス運営が可能になるのです」

インテリジェンスでは、全国展開により50カ所以上の事業拠点を持っているが、そのすべてのオフィスにおいて、ここにあげたスタンダードによる環境の統一を進めている。

「スタンダードは個人席だけで決めているのではありません。たとえば会議室も、テーブル、コピー機能付きホワイトボード、プロジェクター、スクリーン、配線システムなどをすべて一つのモジュールとして揃えてあります。このようなモデルをつくっておけば調達面でも有利になりますし、計画も立てやすい。そして従業員にとっては、一定の機能は必ず与えられるのですから、満足度は高くなるはずです」

経営方針に基づく中長期的なFM計画で事前に解決策を考えていくことができる

これらの経緯をみればわかるようにインテリジェンスのオフィス戦略は常に計画を立てて進められている。それが可能なのは、FM部門と経営トップとが常に情報交換を怠らないからだという。

「私がオフィス戦略を担当することになったとき、社長の鎌田は『すべて任せる』と言ってくれました。そして丸ビルへの移転プロジェクトにおいて頻繁に打ち合わせを重ねていくうちに、自然にFM部門と経営トップとの距離が縮まっていったのです。今でも経営会議で決められた営業や人事などの方針はすべて私たちのところに報告されますから、それをもとに5年先、10年先のオフィスをどうすればいいか計画的に検討していくことができます」

経営と一体化したオフィス戦略の成果は、たとえばこんなところに表れている。2002年に丸ビルに移転したとき、インテリジェンスは社内の多くの部門を集約したが、その後の業績拡大や、2006年7月に株式会社学生援護会と統合したことで、首都圏のオフィスだけでも、現在、10カ所近くに分散している。しかし、それでもデメリットはほとんどないという。

「一度、集約を経験したことで、オフィスに求める機能はコミュニケーションであり、情報や文化の共有であるとわかってきました。それなら、たとえ場所は離れていても、同じことをできるようにすればいいと考えたのです」

そして活用されたのがテレビ会議システムだ。先ほどの会議室のモジュールも、これに対応したものになっている。

「全社で100カ所以上のテレビ会議室がありますから、通常の打ち合わせのときでも気軽に呼び出し、全国レベルで情報交換ができます。今のテレビ会議システムは100Mbps以上の通信網で結ばれているので、慣れてしまえばほとんどストレスを感じません」

さらにIPログイン方式の電話システムや統一した無線LANにより、ノートパソコンがあればどこのオフィスでも自分のデスクと同じように仕事ができる。そのためのタッチダウン席も用意されており、必要に応じてどこでも働くことが可能だ。

「もちろん、一つの部門を分散してしまえばデメリットが生じますが、事業分野や業務分野ごとにオフィスが分かれているのであれば、情報通信システムの活用によってコミュニケーション上の問題はほとんど生じません」

ただしそれも、計画的なオフィス戦略が前提になる。

「今はオフィススペースを確保するのが難しい時代になってきましたので、いきなり人員増をしたいといわれても、すぐに対応することができません。インテリジェンスの場合は中長期的な経営計画に基づいてオフィスを確保し、設備も整えていけます、また逆に、私たちから『この部門のオフィスは拡張ができるので人員を増やしてもいい』と提案することさえ可能なのです。つまり経営とオフィス戦略が完全に一体化していることが、FMには絶対に必要なのではないでしょうか」

西田氏がリーダーを務めるFMサービス統括部はコーポレートヘッドクオーターの経営戦略本部に置かれ、拠点開発を行うだけでなく、全社的な購買まで担当しており、業務の領域は従来のFMの枠を大きく超えている。

「PDCAサイクルを回すことで改善を進めていくFMの手法は、実は会社の業務のいろいろなところに応用が可能です。そしてオフィス以外の分野も見ることで、もっと広い視野から従業員へのサービスを提供していけるかもしれない。これからは、そんなプランも考えていきたいですね」

待ち合わせスペース

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