アイリスグループ Tokyo Antenna Office(TAO)

2019年3月取材

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※ 記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

ABWやWell-beingなどの最新理論を
採り入れたアイリスグループの新拠点

生活用品の企画、製造、販売などを中心に事業展開を重ねてきたアイリスオーヤマ株式会社。現在、グループ企業は26社を数え、多岐にわたった商品群で事業拡大を続けている。2018年11月、創業60年事業の一環でアイリスグループは東京本部を新設。一層の開発力と営業力の強化に取り組むという。今回の取材では、拠点新設の背景、コンセプト、具体的なワークスタイルについてお話を伺った。

大山 紘平 氏

アイリスチトセ株式会社
マーケティング本部
取締役 本部長

大山 紘平 氏

Lounge Space 全景

Lounge Space 全景

Contents

  1. グループ各社が互いの強みを活かしてコラボを組み、2022年に売上高1兆円を目指す
  2. 新たな取り組みをするために新たな環境をつくる必要があった
  3. グループのHUB機能をコンセプトに、「つながる」環境づくりを目指す
  4. 実証実験の蓄積こそが、お客様にとって本当に役立つデータとなる

グループ各社が互いの強みを活かしてコラボを組み2022年に売上高1兆円を目指す

アイリスグループの原点である大山ブロー工業所は1958年4月、創業者である大山森佑氏によって大阪府東大阪市に誕生。創業時は養殖用ブイなどの工業用品の製造・販売を主に行っていた。6年後の1964年7月に長男の健太郎氏(現・アイリスグループ会長)が代表を継承。1971年4月に株式会社化された。その後、ガーデン用品事業などに手を拡げ、1986年4月に株式会社オーヤマを設立。ペット用品や収納用品など段階的に事業拡大を重ねていく。1989年12月より本社を仙台市青葉区へ移転し、1991年9月に現在のグループ中核企業であるアイリスオーヤマ株式会社が設立された。

「2019年3月現在、アイリスグループに属する企業は26社を数え、それぞれが手がける事業領域は多岐にわたります。アイリスオーヤマで発売される新商品は年間1000アイテムを超え、数多くのヒット商品を誕生させています」

今回の取材に対応いただいた大山紘平氏が所属するアイリスチトセ株式会社の前身はチトセ株式会社。2001年9月にアイリスグループに参入した老舗家具メーカーだ。

「新オフィスが出来てからアイリスオーヤマの持つLED照明・OAフロア・建装材・家電とアイリスチトセのオフィス家具などの商材を合わせた販路の拡大が大きく進んでおります」

このように、自社だけでなく、グループ各社の強みを活かせるチャネルであれば積極的にコラボレーションを行い、事業を拡大できるのがアイリスグループの特色の一つだ。その時代に合わせて主力商品を新陳代謝しながら、2万3,000アイテムを取り扱っている。その結果、グループ総売上高4,750億円、従業員数1万2,661名の規模に達するまでになった。(2019年3月時点)

「アイリスオーヤマとして本社を仙台市青葉区に置きながら、2010年に飯田橋に東京オフィスを開設しました。そして2017年から次世代オフィスとなる入居先を探し始め、2018年11月に現在の港区浜松町の新築ビルへアイリスグループ東京本部を新設したのです。東京本部は『アイリスグループ「Tokyo Antenna Office」』とし、頭文字をとって『 TAO(タオ)』という名称にしました」

「TAO」は、同社が最重要事業と位置づけているLED照明・家電の研究開発拠点および法人営業拠点としての機能を持つ。首都圏に拠点を設けることで、さらなる開発力と営業力の強化に取り組むことを目指すという。

新たな取り組みをするために新たな環境をつくる必要があった

今までのアイリスグループのオフィスは、デスク配置は島型対向式の固定席。オフィス全体のレイアウトには大きな問題こそないものの、特にコミュニケーションが高まるような工夫は備えられていなかったという。

「新オフィスがつくられた2018年はアイリスグループ創業60周年の節目に当たり、これを機に社長交代も行われました。新社長は『2022年にグループ総売上高1兆円』という目標を掲げていますが、目標を達成するためには約4年間で売上を2倍以上伸ばすことになります。そのためには我々が過去に積み重ねてきたリソースだけで売り上げるのは不可能です。新たな取り組みにチャレンジしなければなりません。そしてより働きやすい環境をつくる必要がありました」

新オフィスの構築に際しては普段他社にオフィスのあり方を提案しているグループ会社のアイリスチトセが担当した。コンセプトづくり、レイアウトの作成、家具・照明・床材などの調達、システム構築など、全てグループ内での連携によって進められた。

グループのHUB機能をコンセプトに、「つながる」環境づくりを目指す

アイリスグループが提唱する「ジャパンソリューション」を推進していくにあたっては、中途採用による人員増員と商品開発力の強化は必須である。開発拠点としての機能を持つ「TAO」には、アイリスグループの採用戦略(新卒・中途)を支えるという重要な役割が与えられており、グループの新たな顔となることが期待されている。

「本格的な開発拠点としては大阪の『心斎橋オフィス』に続き2拠点目です。TAOの評判が非常に好評だったので2019年5月に心斎橋オフィスもリニューアルオープンします。TAOは、HUB機能というコンセプトを持ち、全ての従業員がここを通じて『つながる』環境づくりを目指しています」

Window Front Area

Window Front Area

執務室のレイアウトコンセプトは、①企業理念、②働き方改革・ABW、③Well-beingの3つとなる。

「企業理念は5つの項目で構成されており、社員のあるべき姿や会社の目指すべき方向がまとめられています。そうした理念を達成するために社員の働き方を変える設計としました」

執務室のベースとなるのはABW(Activity Based Working)。個々の業務の特性に適したワークプレイスを自由に選び、オフィス内を移動しながら業務を行うという働き方だ。ただしもともと欧米の考え方のため、そのまま欧米スタイルを採り入れるのではなく、自社用にローカライズしたABWとして導入した。

「アイリスは即断即決のスピード経営であり新規事業が毎年増える会社です。オフィスもそのスピードについていけないとダメなわけです。そのためにオフィス内のいたるところで部署を越えた偶発的なコミュニケーションが創出される機能が必要だと考えました」

オフィス家具、照明、床材、家電などを組み合わせて顧客に提案できるところに、同社の強みがある。そのためにもグループ内のそれぞれの部署が有機的につながることが意味を持つと語る。

「単にフリースペースを配置するだけでは何も生まれません。運用次第ではただの自由席になってしまいます。ですから会社の方針として実行することを明確に示し、ABWの考え方を理解するために何度も説明会を行いました。今では、『B to B』、『B to C』関係なく、部署を横断したコミュニケーションが活発になっています」

そしてWell-beingの採用。「個人の権利や自己実現が保障され、身体的、精神的、社会的に良好な状態を定める」という考え方を反映した最先端のオフィス空間の構築を目指した。特に認証評価の一つ「光」に関しては同オフィス最大の特長を持つ。

「ここに実装した照明機器はアイリスオーヤマ製の法人向けLED照明です。同じく自社開発した無線方式の照明制御システム『LICONEX(ライコネックス)』と組み合わせることで、より省エネ性能を高めることが可能で『サーカディアンリズム(circadian rhythm)』の概念を採り入れた照明設計となっています」

サーカディアンリズムとは、1日の時間に応じた自然光の移ろいのこと。大多数の人間は「朝になったら起きる」「夜になったら眠る」という行動パターンをとるが、これは時計で測定される物理的な時間経過よりも、自然光の変化による体感的な時間経過に影響されると考えられている。例えば、自然光の入らない地下室などに一日中閉じこもっていると、仕事の生産性の低下や体調不良を訴える人も少なくないという。つまりサーカディアンリズムをオフィスに採用することで、本来の体内リズムを再現し、健康的に働けるオフィス環境を構築することになる。これもまたアイリスグループが推進している『働き方改革』の一環といえる。これらの照明システムは使用する規模を問題とせず、安定した照明制御を可能とする。また、在席者が少なくなる時間帯やエリアによって照度を下げることを可能にする仕組みはオフィスの省エネ対策にも有効だという。

Expert Area

Expert Area

それではオフィス内に構築された、いくつものワークスタイルを紹介しよう。

●Window Front Area
窓際の眺望のいいビューフロントエリア。気分転換を図りながら個人の集中席として仕事をすることが可能だ。

●Expert Area
家電開発やデザインを担当する部署など専門性の高いエリア。真ん中にタッチミーティングを配して、いつでも集まれるようにしている。

●Relax Area
フリーコミュニケーションエリアの一角。ソファタイプのワーキングエリア。リラックスしながら柔軟な発想を生み出すことを目的とする。

●Trend Showcase
最新のトレンドを採り入れた9つの異なるクローズのミーティングルーム。毎月2000名前後のお客様が来社しているため、満室に近い状態で稼働している。

●Touch Down Area
ほんの短い時間で立ち寄ってメールチェックや資料整理などを行うスピードワークのためのエリア。出張者などが使うことが多い。

●Standing Meeting Area
スタンディングのため、短時間で効率的な議論をするためのエリア。TV会議システムを利用した別拠点とのミーティングも可能。

●Lounge Space
昼食時と終業時には飲食も可能。100席超の席が用意されている。プロジェクタを使用して会社説明会などの用途でも使用される。

Relax Area

Relax Area

Trend Showcase①

Trend Showcase①

Trend Showcase②

Trend Showcase②

Touch Down Area

Touch Down Area

Standing Meeting Area

Standing Meeting Area

実証実験の蓄積こそがお客様にとって本当に役立つデータとなる

「TAO」のもう一つの顔はショールームとしての機能があることだ。これはアイリスグループ初の試みとなる。実際の取扱商品である照明機器やオフィス家具、オフィス用品などが置かれたオフィスを見学する中で、訪問者に具体的な導入シーンをイメージしてもらうことを目的とする。いわば、発売前の新商品の実証実験の場。

「お取引先の皆様には当社の設計・デザイン、施工能力を再評価していただくいい機会になりました。また、ショールームの設置により、確実に来客される方の数が増えていますね。オフィスが効果的な営業ツールになっているといえるでしょう」

今後もワーカーからの要望にはできるだけ応えていきたいと語る。

「移転直後からワーカーからの要望は絶えることがありません。早速、フォーンブースやサイクリングチェアの導入、フリーアドレス内の居場所探知の開発を検討しています。加えて、それぞれの商談室やワークエリアの稼働率を調査・分析も行っています。そのデータをもとに人気のあるエリアの拡張など、オフィスの改善に役立てていきたいですね。最終的にワーカーのパフォーマンスが向上できればと思っています」

「また、僕らがこうした実験・実証を繰り返すことで得たデータは、ABW導入を検討しているお客様にとって最高のケーススタディになります。これからも社内外のさまざまな声を参考にしながら、次世代のオフィスを構築していきたいと思っています」

Lounge Space

Lounge Space