キクデンインターナショナル株式会社

キクデンインターナショナル株式会社

2017年6月取材

※ 記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

時代に合わせた働く環境に進化させた貿易商社の新オフィス

重電機・産業業界を主戦場とし、貿易商社・国際物流・技術支援・技術系シニア人材開発・製造投資といった5つの顔を持つキクデンインターナショナル株式会社。1970年に菊池稔氏によって創業されて以降、信頼と実績を培ってきた。その後、2009年に菊池文武氏が代表取締役を引き継ぎ、様々な経営課題の解消のためにオフィス移転を行った。今回は、そんな老舗の文化とベンチャー精神の融合を図る同社のオフィス移転の事例についてお話しを伺った。

プロジェクト担当

菊池 文武氏

キクデンインターナショナル株式会社
代表取締役社長

菊池 文武氏

執務室全景

執務室全景

はやわかりメモ

  1. より働きやすさを求めて。事業再編を図った会社が選んだ新天地
  2. 半年間で移転プロジェクトが完了。思いのままアイデアを詰め込んだ
  3. 新オフィスのコンセプトはコミュニケーションを活性化できる環境
  4. ビジネススタイルの変化と社内外へのイメージアップ

より働きやすさを求めて。
事業再編を図った会社が選んだ新天地

キクデンインターナショナル株式会社は、1970年6月に神奈川県横浜市鶴見区で創業し、その後、都内に本社を置き、貿易商社として発電機、変圧器といった重電機向けの絶縁物、電気部品を海外から輸入販売していた。また、事業の多角化を進め、電子材料向け製品の製造工場を持ちながら自社製品の販売を行い、IT事業への進出でソフトウェア開発など順風満帆に事業を継続してきたが、リーマンショックの影響を打開するために現在の代表取締役社長である菊池文武氏が会社を引継いだ。そこで菊池氏は「時代環境の変化に適合しながら100年生き残れる企業を目指す」ことを表明する。

その後、2014年に財務強化を目的とした本業回帰への事業再編を図る。そこで長年のノウハウと信頼を培ってきた事業だけに集中させることを決断。製造部門事業やIT事業の売却を完了させる。そして2015年、北新横浜に構えていた工場を正式に手放す。

会社が掲げるミッションは、「ヒトを中心に国境・国籍・人種・文化を超えて、関わる方々と"Win-Win"にLinkさせていく」。常にこのミッションを掲げ、事業を推進している。

現在の事業は「貿易商社」「国際物流」「技術支援」「人材開発」「製造投資」の5つの柱に絞り、お客様の満足度を高めている。こうして事業を集中させて、工場を手放す。菊池氏の手腕はそうした切り替えの早さに発揮される。

「多くの貿易・重電機業界が少し堅いイメージを持つ中で、同社は柔軟でチャレンジャー精神に溢れている会社だと思います」と菊池氏は語る

そうして同社が新しい拠点として選んだのは、新横浜駅から徒歩圏内の駅前通りに面した地上9階建てのオフィスビルだ。

「今までは『工場の管理』を意識する必要があったため、工場と事務所が一体となった比較的広い面積を持つ建物が条件となっていました。しかし工場を手放した今、利便性の高い場所を第一優先としてビル探しを行ったのです」

とはいえ、移転の目的は立地を改善するだけではない。目的はあくまでも「より働きやすい環境の構築」。今まで抱えていたオフィスの課題を解消することにあった。そこで社員同士のコミュニケーションのとりやすいワンフロアで入居できるビルを探したという。

「ちょうどタイミングよく現在のビルに空室が出た情報を掴みました。以前のオフィスは70坪程度でしたが、現在は145坪。特に大幅に社員が増えたわけではありませんが、倍以上の広さとなりました。旧オフィスは、単に机が並べられただけの空間。使用している人数が少ない割には余裕が感じられない。そんなオフィスでした。ですから今回の移転を、オフィス全体を見直すためのいいきっかけにしよう、と思ったのです」

同社は女性比率が高いこともあって、女性をはじめとする多様な人材が活躍できる環境を整える「ダイバーシティ」の精神でオフィスづくりを行ったという。

「当社には数名の外国人スタッフが働いており、同じフロアには当社が古くから付き合いのあるドイツ企業の日本支社を招いて同居しています。そうした日常も、自然に『ダイバーシティ』を採り入れられた要因なのかもしれませんね」

半年間で移転プロジェクトが完了。
思いのままアイデアを詰め込んだ

新オフィスへの移転計画は2016年4月からスタートする。4月から移転先を探し始め、6月に現在のオフィスの賃貸借契約を結んだという。

「今回は、特に要望などを社員に聞かずトップダウンで決めていきました。知り合いのデザイナーと密な打ち合わせを行って。実質3週間くらいでしたね。そうして内容を固めてから一気に内装工事に入ったのです」

同社のスローガンは、

  1. 新化:新たな時代を創っていく。
  2. 進化:激変する市況に柔軟に適応し高度に変化する。
  3. 真価:お客様よりご評価頂けるよう、結果を追求する。

お取引先のすべての方々に対してモノづくりの繁栄に貢献し、常に挑戦する心を持ち続けている。そんな気持ちを少しでもカタチにし、今回のオフィスデザインに反映させたという。

もともと菊池氏は、同社を引き継ぐ前は、米国の大学に進学後、映像制作会社でクリエイティブ関係の仕事に就いていた。そんな自身の経歴も良質な「カタチ」づくりに関係しているのかもしれない。

新オフィスのコンセプトはコミュニケーションを活性化できる環境

新オフィスのコンセプトは「社員同士がコミュニケーションを活性化できる環境」だという。今までは休憩中の会話さえ少なかった。それこそオフィスに問題があった。

「旧オフィスの周辺では、ランチを取れるお店が多くなかったこともあり、お弁当を買うか、持参する社員が大部分を占めていました。オフィス内には全員でお弁当を広げる場所もなかったことから、各自が自席で食べるのが日常となっていました。当然、そこには会話はありません。スマートフォンでのSNSやインターネットを見ながら、黙々と食べるだけ。新たなコミュニケーションが生まれることはありませんでした。そんなこともあって、仕事以外でも違う分野の人同士がコミュニケーションを取り合える仕組みづくりが必要だと感じていたのです」

移転を機にロゴマークやホームページなど、大幅に改良してイメージチェンジを図った。そのホームページを閲覧すると、社内風景を紹介するページが目に入る。そこには、「社員の能力を最大限に引き出し、継続した仕事の品質向上に繋げるため、働き方の多様性に重点を置いた環境整備を行っている」というメッセージが多くの画像とともに掲載されている。

エントランス

エントランス

それでは業界の堅いイメージを払拭させた新オフィスを紹介していこう。

入口の扉を開けると、「ポート(港)」を想像させるエントランスが目前に現れる。圧迫感を無くすために天井板は取り外されている。物流コンテナをイメージさせた壁面には、「KIKUDEN」の社名が刻まれている。その一角には、港の酒場をモチーフにした休憩用のバーカウンター。ここでは全社員を集めてのパーティや会議を行うこともある。また新たに設けたフリードリンクエリアが、ほど良い社内の動線となり、社員同士の偶発的な出会いが生まれることもあるという。

その奥には、主に社外の来客用に用いられる6人用の応接室を設置。日中は陽が差し込む暖かい空間だ。

エントランスを抜けてガラス扉を開けると、そこは「タウン(街)」と呼ばれる執務室が広がる。執務室はグループごとにブロック分けされた固定席となっている。机は正方形のものに買い換えられた。これは全員の顔が見やすくなるという考えからだ。大きなパーテーションで仕切られていることも無く、開放的な空間が広がる。執務室左側には、「パーク(公園)」と名付けられた気分転換や休憩を目的としたコミュニケーションエリア。靴を脱ぐ決まりとなっている。ランチ時は、社員同士の会話が弾む場となっている。もちろん利用時間に制限があるわけではないので、ここにPCを持ち込んで作業をする社員も多い。

その手前には10名が座れる「大会議室」。ガラス張りの透明感のある空間で、海外拠点とTV会議を行うための設備も取り付けられている。

そしてその奥に新設されたのが今回の新オフィスのポイントとなる「キッズルーム」だ。同社では、30代の社員が多いこともあり、「育児支援制度」を重視している。今後、社員の中には、産休や育児期間に入ることも多く想定されるための処置だ。

「子供をあずける施設が確保できないために母親が職場復帰できないというケースが存在します。せっかくご縁があって一緒に働いてきた仲間が、産休や育休によって辞めることのないようにつくりました。今後、必要であれば、ベビーシッターさんに来ていただいて、仕事に集中する環境を整えることも考えています。キッズルームの中には授乳室も用意しています」

このように時代に合わせた働く環境を整備することで、人材採用にも大きな効果を発揮すると語る。

「私どものような中小の貿易会社では、優秀な人材を採用するのは難しい状況です。そのためにはしっかりと働く環境を整備しようと。また、そうして入社した方はモチベーション高く働いていただけると思っています」

そしてオフィスの奥には隠れるように書庫が配置されている。

「貿易業という業界自体、膨大な紙の書類が発生します。しかし書類には7年間の保管が義務付けられているものもあり、簡単に処分することができません。そこで奥のスペースに書庫を設けたのです」

移転後に入社した社員に話を聞いてみた。

「面接でオフィスに足を踏み入れた瞬間に、この会社の持つ自由な社風が伝わってきました。そして、その雰囲気がここで働く意思を固める決め手になりました」

移転後、約9ヵ月が経過した今も、オフィスは綺麗なままだ。

「毎朝、業務開始前に全員で掃除をしています。結構、会話が生まれるのが想定外の効果でしたね。これは継続していきたいと思っています」

バーカウンター

バーカウンター

6人用応接室

6人用応接室

タウンと呼ばれる執務室①

タウンと呼ばれる執務室①

タウンと呼ばれる執務室②

タウンと呼ばれる執務室②

パークと名付けられたコミュニケーションエリア

パークと名付けられたコミュニケーションエリア

10人用の大会議室

10人用の大会議室

キッズルーム

キッズルーム

ビジネススタイルの変化と社内外へのイメージアップ

移転後、社内外のどこからでも仕事ができるようにセキュリティを強化したノート型パソコンに入れ替え、サーバーをクラウド化にし、VPN化やWiFi環境も整備した。結果として、社員のビジネススタイルに大きな変化が生じたという。

「パソコンを持ち運べるようになったことで、取引先へのレスポンスが素早く行えるようになりました。当社は海外企業とのやり取りで、どうしても時差が生じてしまいます。サーバーのクラウド化をしたことで、社内で待ち残業や休日出勤せずに、出張先や自宅で空いている時間にどこからでも社内と同じ環境で仕事ができるようになりました。また気分転換や集中したい時など場所を変えて仕事をすることで時間を有効に使うことができています」

その他の移転効果として、社内コミュニケーションの活性化が大きいと語る。その一例が社内で開催されるパーティにも現れている。

「業務の区切りごとに行っているパーティですが、社内エントランスのバーカウンターを利用し、夕方から立食パーティをするようになりました。それによって、店探し、参加者が遅れてくることが無くなりました。加えて、今まで参加できなかった家庭を持っている社員も早い時間から開始できることで、少しでも参加出来るようになりました。また、仮に業務の話題になったとしても外部に漏れることを心配せずに会話ができるようになったのもいいことですね」

さらに取引先の皆様にも足を運んでいただく回数が増えているという。

「当社を訪れるお客様は、たいてい遠方からお越しになる方です。そうなると新幹線の停車駅である『新横浜駅』からすぐの場所にあるこのオフィスの立地はとてもわかりやすいと評判です。海外からのお客様も、新オフィスの環境は評判が良く、また必要に応じてテレビ会議システムを使い、一緒になって海外各地とのミーティングを行うことが可能になりました」

「また、このオフィスからは、ある種の宣伝効果が生まれています。中には写真を撮影していかれる方もいらっしゃいます。その写真が拡散されることで当社の名前が広まる。会社のイメージアップがお客様との距離を短くしている。そんな感覚が実感できますね」

最近では、仕事と生活の調和を意味する「ワークライフバランス」という考え方も一般的になってきた。それについてもさらに踏み込んでいきたいと語る。

「当社で働いている社員は、20代後半から30代全般の方が多い。今後、『結婚』や『出産』『育児』について考え始めることになるでしょう。もし、そういった事態に直面しても継続して働けるような環境を整え、新たな仕事のスタイルを模索してもらいたいですね。今回のオフィス移転ではハード面の環境を整備しました。今後は、社内ルールや現状に合った人事制度といったソフト面の改善に積極的に取り組んでいきたいと思います」