コクヨグループ エコライブオフィス品川

コクヨグループ エコライブオフィス品川

2009年2月取材

※ 記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

空調と照明の省エネ化を大胆に進めながら
社員の創造性向上を実現する次世代オフィス

コクヨグループではこれまでも多くの次世代型オフィスを実現し、しかも実際に社員が働いている空間を「ライブオフィス」として公開することにより、新しいワークスタイルの提案を行ってきた。

そして2008年11月、品川の事業所内に開設した「エコライブオフィス」は、CO2削減とワーカーの意識改革をテーマにした先進的な実験オフィスとして、オープン以来、見学者が絶えない状況だ。屋外でも仕事ができる広いガーデン、屋外と連動した縁側のようなコミュニケーションエリア、執務エリア内に庭のように存在し人々を集めるシンボルツリーなど、自然と一体となったオフィス空間は、あえて季節を感じさせることで省エネと創造性への支援を同時に可能にしている。
さらに、人工知能を駆使した世界初の知的照明システムや複数のプロジェクトが共存できるシェアードプロジェクトルームなどの未来型ツールも注目を集めており、今後の成果が大いに期待されているオフィスの一つだ。

プロジェクト担当

齋藤 敦子氏

コクヨ株式会社
齋藤 敦子氏

RDIセンター
主幹研究員
CATALYZER
編集長

一色 俊秀氏

コクヨオフィス
システム株式会社
一色 俊秀氏

ソリューション本部
ソリューション開発室
次世代WS研究
開発グループ
主任研究員/
シニアデザイナー

海老澤 秀幸氏

コクヨビジネス
サービス株式会社
海老澤 秀幸氏

広報部
東京広報グループ
コクヨグループ
広報担当

はやわかりメモ

  1. 季節感が「エコ+クリエイティブ」を生む
    省エネなどの環境対策は、企業にとって成長とは逆のベクトルになると考えがちだが、オフィスにおいてはこの2つを両立させる方法がある。それがコクヨのエコライブオフィスで、「適業適季」という新しいコンセプトにより、オフィスに季節感を持ち込むことで、空調負荷の軽減と、感性の刺激による創造性の向上を目指した。
  2. 仕事を動かす四季のサイクル
    「適業適季」のベースにあるのが、企業における多くのプロジェクトが1年間、つまり四季の移り変わりを一つのサイクルとしているという点だ。従って、季節を感じるオフィスにすることで、かえって時間意識が生まれ、効率化が図れる。
  3. 屋外の「ガーデン」もオフィスの一部
    コクヨのエコライブオフィスで最も注目されるのが、広いルーフバルコニーを利用した「ガーデン」。従来のようにリラックススペースに使うだけでなく、屋内のワークスペースと一体化することで、ここでも仕事ができるようにしている。それにより、空調負荷の軽減と発想の転換が期待できる。
  4. 省エネ+知的照明システム
    執務エリア内は300、500、700ルクスの三段階にゾーニングしたほか、人が不在になると200ルクスに照度を下げる省エネ照明システムを採用。LEDの多用と外光の利用など照明の省エネによるCO2排出量は年間30トン削減を目指す。また同志社大学と共同研究中の知的照明システムを導入して、創造性への効果を実験中。
  5. 環境へのさまざまなアイデア
    執務室にも外気と外光を取り込むトップライトを設置し、下を小公園のイメージに。マイカップ使用可能な自動販売機を採用するこだわり。
  6. CO2排出量を全体で41.5%(56トン)削減!
    空調、照明、緑化、運用などによりCO2排出量を従来型オフィスより大幅に削減。適業適季への関心は予想以上に高く、今後もより効果的な活用を検討。

CO2の発生を少なくすることと企業の成長は同時に達成できる。

CO2の排出規制がますます厳しくなる中、オフィスも例外ではなく、省エネ化や廃棄物の低減などの具体的な対策が求められてくるはずだ。
「これらの環境対策は、企業の成長にとってはマイナスになると思われてきました。つまり、生産性の向上と省エネは、相反する考え方だったのです。しかし本当にそうなのでしょうか?そんな疑問から、私たちの新しいオフィスづくりが始まりました」コクヨオフィスシステム次世代WS研究開発グループ・一色 俊秀氏

コクヨ株式会社を中心とするコクヨグループは、これまでも多くの次世代オフィスを開発し、先進的なワークスタイルの提案を行ってきた。そして今回、「省エネ型でありながら、ワーカーの意識を変革し、知的生産性を高めるオフィス」の可能性を探っていったところ、生まれたのが「適業適季」というキーワードである。

「これまでのオフィスでは、1年中温度・湿度をコントロールするように設計されていました。このため、外気とは切り離され、空調に多くのエネルギーを費やしていたのです。しかし、ここで発想を変え、四季に合わせた働き方ができるようにすれば、室温設定はそれほどシビアにする必要はありません。特に春と秋には大胆に外気をオフィス内に取り込むことにより、大きな省エネ効果が期待できるはずです」(コクヨグループ広報担当・海老澤 秀幸氏)
従来と全く異なる視点でオフィスを設計する。具体的には空調システムを根本から見直し、屋外と一体化した空間づくりを進めたのである。そのことが、ワークスタイルに新たな変革をもたらせた。

「人間は本来、四季の移り変わりを感じながら生活してきました。従って、オフィスにも季節感を持ち込むことで自然のリズムを取り戻し、かえって働きやすい空間になったのです。省エネ意識が高まるとともに、感性が刺激されるのか、創造性をより発揮されるようになり、知的生産性の向上に大きな効果があると期待されているのです」一色氏

四季を感じるオフィスこそが創造性を発揮する仕事に最適。

それでは、コクヨの提案する新しいワークスタイル「適業適季」について、もう少し詳しく見ていこう。
エコライブオフィス品川にはコクヨグループのいくつかのチームが社員を置いているが、商品開発をするチームの場合、基本的には1年を一つのサイクルとしてプロジェクトを進めていく。従って、季節感のあるオフィスのほうが、時間の経過と業務の進行状況をリンクしやすくなり、仕事の効率が上がる可能性がある。
ちなみに、商品開発チームの場合、四季の移り変わりと業務フェーズの関係は、次のようになっているという。

冬...「感じとる」

プロジェクトの最初の段階では、とにかくいろいろなことを感じとるよう努力する。日が短い冬なら、いつもより早めに家を出て普段と違う街や人の様子を観察してみる。クリスマスをはじめ、何かとイベントも多いことだし、たくさんの刺激を受けてデザインに生かそうと思う。

【想定される仕事の一例】

  • 海外にいるマーケティング担当者との情報交換
  • メンバーによる情報共有のための気軽な打ち合わせや雑談
  • デジカメで働いている人のさまざまな動きを観察・記録して新しい商品のヒントを探す
  • トレンド分析やユーザースタディーなどからの情報収集

春...「アイデアを出す」

たくさんのことを感じ取ったら、次はそれをアイデアとしてアウトプットする。芽吹きのパワーを受けながら、じっくり腰を据えて仕事ができるこの時期、オフィス内外の空間をフル活用しながら、今までインプットしてきたものをできるだけ多くアイデア化する。

【想定される仕事の一例】

  • みんなで情報交換しながらアイデア出し
  • アイデアをホワイトボードに書き出して検討
  • 屋外で気分を変え、さらにアイデアを練る
  • 通りかかった他のメンバーとの意見交換
  • 社内アイデアコンテスト

夏...「形にする」

アイデアを出し、絞り込む作業を経て、徐々に形にしていく。実際に形にしてみると、新しい発見と同時に問題点も次々に浮かんでくる。トライ&エラーを繰り返しながら、アイデアを理想の形(商品)に近づけていく。

【想定される仕事の一例】

  • アイデアのプロトタイプをつくるため、試作品を囲んでディスカッション
  • アイデアをもう一歩先に進めるためのデザインコンテスト
  • プロトタイプを社内で使ってもらい、定点観測や意見を聞いて、さらなる検討
  • 商品検討室で修正をかけ完成度を高める

秋......「発信する」

新しい商品の製作もいよいよ大詰めになり、各方面からさまざまな意見が入ってくる。コクヨグループのほかの会社のメンバーとも交流しながらプロトタイプの実現性を検討し、最終的に完成度の高い商品として市場に発信していく。

【想定される仕事の一例】

  • プロトタイプを商品検討室にディスプレイして異業種の人たちからも意見を収集
  • 製品化を進めているプロジェクトの社内プレゼン
  • 生産へ移管

「ここにあげたのは、企業における業務の一例に過ぎませんが、商品開発でなくても創造性が発揮される仕事であれば、何らかの時間的なサイクルがあるはずです。従って、四季の移り変わりという『時間』を意識させるほうが、かえって効率的に仕事を進められるのではないでしょうか」一色氏

実際、季節感のないオフィスでは、仕事をついつい後回しにし、少しずつスケジュールが遅れていくということがよくある。
「エコライブオフィスでは、『適業適季』のワークスタイルが自然に持続できるように、さまざまな工夫をしています。その結果、省エネと創造性・生産性の向上という、2つの目的を達成できるオフィス空間になったのです」一色氏

2つの目的を達成できるオフィス空間2

大きな「庭」を持つだけでなく屋外でも仕事ができるオフィス。

コクヨ品川オフィスの5階に構築されているエコライブオフィス品川に足を踏み入れて、最初に強い印象を受けるのは、大きなガラス窓の向こう側に広がる庭のような明るい空間だ。ルーフバルコニーの部分を利用した「ガーデン」の面積は約500m2で、このフロアの約4分の1を占める。

「以前は普通のバルコニーとして使っていたスペースで、休憩や煙草を吸うのに活用される程度でした。しかし今回、CO2排出量の削減、ワーカーのエコ意識と知的生産性を高めていくワークスタイルの実現というコンセプトを考えたとき、この屋外空間の重要な価値に気づいたのです」一色氏

コクヨは早くから環境問題に真剣に取り組んできた企業の一つだ。環境配慮が充分でないと判断した自社製品に自ら「エコ×(バツ)」マークを表示するという先進的な試みは話題になったが、オフィスにおいても空調システムの見直しを続け、消費電力の削減を図ってきた。
「省エネ型の機器やシステムに取り替えるのは確かに効果的ですが、それだけでは限界があり、根本的な解決にはなりません。そこで、春と秋にはできるだけエアコンを使わないようなオフィスにすればいいと考えたのです」一色氏

それには窓開けによって外気を室内に導くのも有効だが、コクヨではもっとシンプルに考えた。
「せっかく広いバルコニーがあるのだから、ここで仕事もできるようにしてしまえばいい。そこから『ガーデン』と呼ぶ屋外型オフィスの開発が始まったのです」一色氏

屋外で働くという発想は、新しいワークスタイルやオフィスの潮流を紹介するワークプレイス戦略誌『CATALYZER(カタライザ)』(コクヨオフィス研究所発行)で編集長を務める齋藤敦子氏も、「最初に思っていた以上に快適だ」と絶賛する。
「開発の段階では、気分を変えてアイデアを出すのにいい空間だと思っていたのですが、実際に使用を始めてみると、『メールを書くのに落ち着ける』とか『雑談からいつの間にかブレストになっている』とか、いろいろな用途で思わぬ効果が確認できています。つまり、快適なだけではない、もっと大きな成果が期待できる、全く新しいオフィス空間だったのです」齋藤氏

もちろん、ルーフバルコニーを「オフィス」として活用するには、さまざまな工夫を加えている。
「造りつけのベンチやテーブル、池を囲むカウンターなどを配し、所々に配した電源コンセントと無線LANによってパソコンが使えるようにしました。また大きなポイントとして、ガーデンに続くスタジオ(コミュニケーションエリア)との間の段差をなくし、キャスター付きのテーブルを移動できるようにしてあります。これにより、室内外のギャップを感じず、続きの空間として利用できるのです」一色氏

照明システムの大胆な見直しでも省エネと知的生産性に大きな効果が。

エコライブオフィス品川において、空調システムの見直しと並んでCO2の排出量削減に大きな貢献をしているのが、新しい照明システムの採用だ。「コクヨでは、オフィスの照明に関してさまざまな研究を続けてきました。その結果、従来のようにフロア全体を700~1000ルクスにするような照明は、エネルギーの無駄遣いにつながるだけでなく、仕事面でも必ずしも効率が上がらないということがわかったのです」齋藤氏

このため、執務エリアも用途によって細かくゾーニングし、300、500、700ルクスと明るさに強弱を付けるようにした。
「照度を自由に変えられ、しかもエネルギー効率を高めるために、蛍光灯ではなく白色LEDによる照明システムを、エコライブオフィス用として開発しました。さらに人感センサーにより、ワーカーが不在の場所は自動的に200ルクスまで照度を落とすようにして、省エネ効果をアップさせています」一色氏

300ルクスというと、かなり暗いと思いがちだが、実際にその空間で作業をしてみると、会議はもちろん、ノートを取るにも充分な明るさである。
「暗いという印象を受けるといけないので、所々に電球色の蛍光灯を配して赤めの色の光を加えたほか、デスクでは必要に応じてタスクライトを併用できるようにしました。しかし運用を始めてみると、暗すぎるという声はほとんどありませんでした」一色氏

照明におけるもう一つの試みは、同志社大学の三木光範教授と共同研究中の「知的照明システム」を導入し、実用化実験を行っていることだ。「知的照明システムとは人工知能によって照度や色温度を調整し、個人の好みや作業内容に合わせた最適な空間の実現と省エネを同時に可能にします。まだ実験の段階ですが、明るさや光の色が変わると作業や思考に影響があるのは明らかで、ここで得られたデータは、さらに実用的な開発に役立てていくつもりです」齋藤氏

オフィスの中央に「公園」をつくり紙コップなしでもOKの自販機を開発。

その他、エコライブオフィス品川の新しい試みとしては、次のようなポイントが注目されている。

シンボルツリー


シンボルツリー

執務エリア「オフィス」のほぼ中央に位置する4500mm×4000mmのトップライト(天窓)の下に木を植えて公園をイメージする空間にした。そこでは、季節ごとにアイデアを展示するイベントなどを行うほか、周囲をベンチにして座れるようにしたため、移動式のマルチタスクテーブルを移動させて仕事をすることができる。
なお、トップライトには自動開閉機能付きのサッシが付けられており、屋内とガーデンの境界に設けられたセンサーと連動しながら、外光の採り入れや外気の取り込みを行い、オフィス内の照明や空調設備の無駄な稼動を抑えるようになっている。
「やはり緑があり、外光の入るところに人は集まろうとするのか、オフィスでは最も人気のあるコーナーになっていますね。自然風で緑がそよぐので、室内にいても天候や季節を肌で感じることができます」齋藤氏

シェアードプロジェクトルーム


シェアードプロジェクトルーム

限りあるプロジェクトルームを複数のプロジェクトでシェアしながら効果的に活用できるように、簡単に可動できるテーブル、スクリーン、ワゴンを新たに開発した。

「プロジェクトチームの構成も流動的に変わっていく時代だけに、ツールも柔軟性のあるものにしていくべきだと思いました。中でもプロジェクトウォールやワゴンは、必要な資料をひとまとめにしておけるため、この周辺に集まるだけで、いつでもすぐに会議が始められます」一色氏

マイカップ式自動販売機


マイカップ式自動販売機

社員は自分のカップで飲みものが買えるように、マイカップと紙コップのどちらも使用できる自動販売機を導入。これにより紙コップの使用量が大幅に減り、この効果もCO2排出量の低減分に換算できる。
「社員が自らの行動でエコを意識する。意識改革には有効なアイデアではないでしょうか。今後はこういう自販機が増え、デザイン的にも優れたものが登場してくることを望みますね」齋藤氏

間伐材家具


間伐材家具

会議室の大テーブルや椅子、オフィス用のシェルフなどに、スギ、カラマツ、ヒノキの間伐材を使用したエコロジー家具を採用。通常なら端材としてしか使えない木材を有効活用している。
「間伐材といっても節が多いだけで、材料としての強度などは全く問題がありません。これからのオフィスは、こういう家具をもっと採用すべきでしょう」一色氏

CO2排出量を4割以上削減するだけでなくクリエイティブ環境を実現した適業適季。

これらの新しい試みによって誕生したコクヨのエコライブオフィス品川は、CO2排出量の削減という本来の目標において、大きな成果をあげている。
「従来型のオフィスに比べてCO2の排出量を約41.5%、量にして年間56トンの削減を目指しています」一色氏

その内訳は次のようになっている。

項目として大きいのは、省エネ型のLED照明と、ワーカーの在・不在を検知して風量をコントロールする新しい空調搬送システムの採用だが、「自然換気による効果は、今後、もっと大きくなるかもしれない」と期待している。

「まだ運用を始めたばかりなので通年の効果は分かりませんが、冬の時期でもガーデンの人気は予想以上に高く、もっと大胆に外気を採り入れて良いような気がしています」海老澤氏

自然との共生を「適業適季」というコンセプトで実現したエコライブオフィス品川は、全く新しい思想のワークプレイスとして、多くの企業から注目を集めている。

「オープン以来、ほぼ毎日のように見学に来られるお客様があり、関心は高いようです。これまでのように環境対策だけに特化せず、『エコ+クリエイティブ』という思想を明確にしたことが、やはり企業の求める方向性と一致したのではないでしょうか。

項目

CO2削減量(年間)

全体の削減量における割合

自然換気

5トン

9%

自然採光

5トン

9%

照明に省エネLEDを採用

25トン

45%

空調搬送の省エネ化

14トン

25%

屋内緑化

1トン

2%

運用による削減

6トン

10%

このため、私たちとしても、適業適季を効果的に事業に活かしていく方法を、今後も探ってくつもりです。日本にせっかく四季があるのなら、それを遠ざけようとせず、むしろ積極的に利用していく。これからのオフィスは、そういう発想で構築されていくべきではないでしょうか」一色氏