- 医師を支援することで患者を救う。医療の変革を目指して10年前に設立した
- 横のつながりを重視してITベンチャーの集まる渋谷エリアを選んできた
- 対象エリアを少し広げて空室情報をキャッチ。理想のオフィスビルに入居できた
- 社員全員参加でのワークプレイス調査を実施。メドピアの理想のオフィスについて議論
- 社員の想いを盛り込んだオフィスが誕生。今後も機能の追加を検討中
- 会社もオフィスもまだまだ発展途中。本当にベストなオフィスづくりはこれからの課題
メドピア株式会社
2014年12月取材
※ 記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。
医療分野の変革。そのためにIT技術を駆使して医師の集合知を活用する。メドピア株式会社はそんなビジョンを掲げて設立。社名はメディカル(医療)+ピア(仲間、洞察)の造語である。昨年、創業10年で東証マザーズに新規上場。ほぼ同時期に本社移転を行った。今回はそのオフィス移転の中心メンバーとなった管理部の平林利夫氏と藤野敦子氏にお話を伺った。
メドピア株式会社
管理部 部長
平林 利夫氏
メドピア株式会社
管理部 広報担当
藤野 敦子氏
コンセプトは 『集合知ジェネレーターとしての創造オフィス』
2004年に設立されたメドピア株式会社(設立当時の名称は株式会社メディカル・オブリージュ)。同社の代表は現役の内科医。今でも医療現場にこだわり、週一回の診療を継続している。医師が情報交換を行うコミュニティサイトとして「Next Doctors(現MedPeer)」をオープンしたのは2007年。今ではそれが事業基盤となっている。
「当時、ミクシィのSNSが社会的に注目を集めていました。当社の代表もよく利用しており、その中の医師コミュニティに参加していたそうです。しかし医師に限定している場所ではないため、医師以外の人が医師に質問する場所に変わっていき、次第に医師同士が専門的なやり取りをする場ではなくなってきたようです。それを見て、医師同士でやりとりするために、医師限定となるコミュニティサイトの必要性を感じた。それがNext Doctorsを立ち上げたきっかけだったようです」(藤野氏)
2009年にはサイト名を「MedPeer(メドピア)」に改称。ミッション(存在意義)とビジョン(実現したいこと)は以前からぶれることなく会社の原動力となっている。以下、同社のサイトから抜粋する。
Supporting Doctors, Helping Patients.
(医師を支援すること。そして患者を救うこと)
集合知によって医療分野の変革を行うこと。
我々は異端の挑戦者である
我々は最高体験を提供するプロフェッショナルである
我々は家族である
「ひと昔前の医療は、自身の経験に基づいて治療を行ってきたところがあります。それは悪いことではないのですが、個人の知識や経験には当然に限界がある。それに対して近年では、根拠に基づいた診療ガイドラインを元に医療を行うことが主流になりました。ですが、ガイドラインだけで全てのケースに対応できるわけではなく、そこに複数の医師の臨床経験や知識を集めた『集合知』を組み合わせることで理想の医療を実現できるのではと。それが当サイトで目指しているところです」(平林氏)
メドピア内の「薬剤評価掲示板」が理解を深め、製薬会社からの信頼を得たことを背景に業容が拡大する。
「医師会員や掲載薬剤数の数に応じて書き込みも増えてきます。それによって生まれたMedPeerサイトの課題の解決、加えて新たなマーケティング活動が必要となってきます。それらを一つずつ乗り越えるためにも計画的な採用を行う必要が出てきたのです」(平林氏)
過去、増員による手狭感の解消には本社移転を行うことで対応してきた。移転先の立地としては渋谷エリアにこだわりを持つ。それは今でも変わらない。
「当社は『ヘルステック(医療×IT)』に立ち位置があると思っており、ITベンチャー系企業とも積極的に情報交換しています。先輩企業の皆様には、技術的なこと、採用や組織運営に関する相談もできます。そうした横のつながりを考えるとこのエリアから離れることはできませんね」(平林氏)
2014年、さらなる採用計画によりオフィス移転を検討することになった。まずは物件のリストアップから始まる。気になる物件は全て自分の目で確認をした。決定するまでに30棟以上のオフィスビルを見学したという。渋谷駅周辺では希望していた150坪前後の広さを持つほとんどのビルに空きは無かった。そこで対象エリアを渋谷から少し広げる。そうした繰り返しの中で恵比寿の大規模ビルの空室情報をキャッチする。何回かの内見後、正式に契約締結となった。
「選んだビルは築年数こそ経過していますが、耐震構造で管理もしっかりしている。さらにランドマーク的な建物で誰もが知っている。他のITベンチャーも集まってきており、今後のリクルーティング活動を考えたときにも効果的だと感じました」(平林氏)
同時期に東証マザーズへの上場を果たし、大事なお金を色々な方から預かることになる。有効に使うために、同社では業務効率を改善し、生産性向上のためのオフィス構築が必要と考えた。そうして11月の移転完了に向けて今までにない「オフィスづくり」が始まる。
「以前から当社のビジョン実現のためには社内外のコラボレーションを活性化できるオフィスが不可欠だと考えていました。しかし私どもには経験もノウハウもありません。そこで過去数々のオフィスを手がけてきたオフィスの専門家にコンサルティングで入ってもらうことにしたのです」(平林氏)
当時の社員数は40名弱。全社員に対して「この1週間、あなたはどの場所でどんな仕事をしていましたか」というWEBでのアンケート調査を実施した。
「調査結果を見ることで、現オフィスの課題や実態を探ることが可能となりました」(藤野氏)
「そのほか、全社員をいくつかのグループに分けてオフィスに対しての要望やオフィス本来のあり方など、テーマごとに議論しオフィス構築の前段となる下地づくりを進めていきました」(平林氏)
管理職以上には個別ヒアリングを実施。そうして色々な角度からたくさんの意見や要望を集めた。それから一つひとつを検証し、どのような機能を設けるのが相応しいかを考察する。
「調査からは、集中できる自席環境と、必要なときにその場ですぐにコミュニケーションが取れる環境が、共に充実している必要があることがわかりました。そこで新オフィスでは、パーソナルワークとコミュニケーションをバランスよく進化させるために、可能な限り多様な場を設定するよう検討しました」(平林氏)
「また、メンバーの多様なワークスタイルにオフィス環境がマッチしていないこともわかりました。働く場の流動性の高い『モバイラー』や、社内で様々なコミュニケーションを必要とする『ノマド』、基本固定席で執務を行う『レジデンツ』といった、異なるワークスタイルが存在することが分かったのです。そこで、それぞれに相応しいワーク環境を与えられるオフィスづくりを目指すことになりました」(藤野氏)
「そして、新オフィスのコンセプトは『集合知ジェネレーターとしての創造オフィス』と決定しました。医師の集合知を活用して新たな価値を創造する場、となることを目指しています」(平林氏)
そうして、ようやく社員の想いをデザインにする作業に入る。しかし余裕を持っていたはずのスケジュールが予定日まで残り2ヵ月。そこからは毎日のようにデザイン会社を交えて侃々諤々の打合せが続いた。
11月初旬、完成前に全社員に対し途中経過を報告。過去のオフィスにはなかった工夫や機能が取り入れられていることもあり、高評価だったという。
「11月下旬、予定通り新本社オフィスが完成しました。今までのオフィスと違って、メンバーも積極的にお客様を呼んで社内に案内しています。それだけでも移転して良かったと思います」(藤野氏)
「サポートをしていただいている医師の方々にも気軽に来ていただいています。今後追加で考えている機能もありますので、その機能を含め、更にオフィスを進化させていきたいですね」(平林氏)
それではオフィスの特長的な部分を具体的に紹介していこう。
まずエレベーターを降りるとコーポレートカラーで表された受付(写真①)が現れる。そのエリアには社外とのコラボレーションを促進させるためにコンセプトごとに分けられた3つの会議室が設けられている。
「それぞれ公園の中をイメージした名前を付けています。『Trees(木)』(写真②)はアイデアを生み出すための部屋、『Pond(池)』では知識とアイデアを溜め、『Bridge(橋)』(写真③)は知識とアイデアをつなげる、というのをコンセプトにしています」(藤野氏)
②会議室『Trees(木)』
③会議室『Bridge(橋)』
その横には手術室をイメージした「Operating Room(オペ室)」(写真④)。短時間で効率的にディスカッションをするための部屋としてつくられた。
会議室横には「MedPeer Wall」(写真⑤)と呼ばれる壁が。0と1でつくられた雲(クラウド)の上に、集合知の象徴としてサイトを支えている多くの医師の方々の写真を掲示。まさにメドピアのコンセプトを具現化したデザインといえる。
④Operating Room
⑤MedPeer Wall
執務エリア内には「特診室」(写真⑥)と「第1診察室」。特診室は電話部屋となっており、防音性が高い部屋になっている。第1診察室は1対1で面談するための部屋。色々なコミュニケーションニーズに合わせてクローズな部屋も用意した。オフィスの中心には「セントラルパーク」(写真⑦)というコミュニケーションエリアが広がる。壁は黒板になっており、大型のスクリーンが上部に設置。モニタも2台備えられ、用途や使用人数によって使い分けが可能だ。
「セントラルパークは今回の一番の特長といえますね。木の歩道でサークル型に囲み、自然に人が集まるようにしたオープンミーティングスペースです。社内での動きを知らないとコラボレーションは生まれません。だから積極的に見せていく。そしてそれを見た別の社員がさらにアイデアを膨らませていく。そんな意義のある空間にしたいと思っています。ここができたことで、移転後に社内から自然発生的に社内勉強会などが開催されるようになったことは、想定外の嬉しい効果でした」(藤野氏)
⑦セントラルパーク
そのセントラルパークを囲むように執務席を配している。モバイラーである営業メンバーは基本的にフリーアドレスのため、個人用ロッカーも備えた。エントランスから窓に向けて床と天井に描かれているラインは、集合知を未来に向かって発信していくイメージを表現している。
執務室内にはモニタが2台置かれた「チャットテーブル」(写真⑧)。内側の壁はホワイトボードになっている。
「お互いのパソコン画面をモニタに映し合いミーティングを行う姿をよく目にします」(藤野氏)
そして窓際には気分転換の場として新設された「Peer Cafe」(写真⑨)。ここは最も多目的要素の高いスペースとなる。
「『ランチを取る』『気分を変えて仕事をする』『少人数でのミーティングをする』など、気軽に社員が集まれる場所です。天気の良い日はここからきれいな富士山が見えて、気分の良いスペースなので、ここでランチを食べている人が多いですね」(藤野氏)
⑧チャットテーブル
⑨Peer cafe
現在のオフィスの面積は141坪、使用人数は50名弱。程良く余裕もあり、コミュニケーションもとりやすい。セントラルパークでは盛んに勉強会が開催され、これまで個々に留まっていた情報が積極的に共有され始めている。
「今期のテーマは『Re-Design』と置いています。働き方やビジネスモデルを壊すわけではなく、見直していく。積み重ねてきた資産を活かして新しい何かをつくっていく。2014年は創立10周年を迎え、東証マザーズへの上場も果たしました。組織体制を変えていくには丁度いいタイミングなのかもしれません。当社にとって何がベストなオフィスなのかはこれからの課題だと思っています。ただ変化に敏感に反応し、社内外の人たちが使いやすい環境になっているかを常に確認していきたいと思っています」(藤野氏)
「今後も集合知を高めるために改良を続け、新たなサービスを生み出していきます。そして『我々は異端の挑戦者である』という意識を忘れず、慣例に捉われずにチャレンジをしていきます。その考え方はオフィスづくりでも同じです」(平林氏)