経済産業省 製造産業局日用品室

2009年5月取材

※ 記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

コミュニケーションの活性化は全てのオフィスの課題
中央官庁で始まった「部門を超えた交流促進」への挑戦

経済産業省製造産業局では、日用品室が中心になってオフィスのリニューアルを進め、2009年1月には本館6階西側のレイアウトを一新した。官庁においても民間企業と同じように部門間のコミュニケーションの活性化や、働き方の多様化、情報セキュリティの強化は重要な課題になっており、「オフィス改革によるワークスタイルへの影響」を積極的に活用したいという考え方に基づくものだ。

今回のプロジェクトでリニューアルの対象になったのは、繊維課、紙業生活文化用品課、伝統的工芸品産業室、デザイン・人間生活システム政策室を含む2課3室のオフィスだが、一つのモデルとして提示しつつ、これからもこのような動きをもっと広げていきたいとしている。

プロジェクト担当

内野 絵里香氏

経済産業省
内野 絵里香氏

製造産業局 日用品室
室長補佐(企画担当)

小保方 勉氏

経済産業省
小保方 勉氏

製造産業局 日用品室
オフィス係長

はやわかりメモ

  1. 官公庁でもオフィスの生産性向上に高い関心
    経済産業省では業務の生産性を向上させるため、省内で取り組み案の募集を行っていた。これまでクリエイティブ・オフィス推進運動などに携わり、民間企業のオフィス改革にも強い関心を持ってきた職員がいる製造産業局日用品室では大胆なレイアウト変更を提案し、承認される。
  2. 「明るいオフィス」は全てのワーカーの希望
    レイアウト変更に先立ち、書類の整理や電子化などを進めることでスペースの効率化を図る。その結果、ロッカーの上の山積みになっていたファイル類を無くすことができ、フロア全体が見通しの利く明るいオフィスに。職員の満足度は大幅に上昇した。
  3. コミュニケーション用のスペースは捻出できる
    書類の整理により書棚63本の処分に成功。そこで生まれたスペースにコミュニケーションコーナーを設けた。課や室を超えた交流が進むようにマグネット効果を生むアイテムなどを揃えている。
  4. レイアウト変更には発想の転換も必要
    デスク配列を一部「斜め」にした大胆なレイアウトを採用。従来、窓際にあった管理職席の場所を変え、会議卓などを配置。無駄なスペースを生じさせず、オフィスイメージの一新に成功した。今後は、このような「変化」から創造されるアイデアに期待。

コミュニケーションの促進、働き方の多様化、
セキュリティの強化がオフィス改革の目的。

官公庁のオフィスといえば、狭い机や山積みされた書類による旧態依然とした事務所のイメージが強いが、最近では少しずつ変わりつつある。その一つが、千代田区霞が関にある経済産業省本館6階の製造産業局日用品室だ。
「このフロアの西側部分には、日用品室と伝産室(伝統的工芸品産業室)が共有するスペースに加え、繊維課、紙業課(紙業生活文化用品課)、デザイン室(デザイン・人間生活システム政策室)がおります。3年前にもデスクやテーブルなどの入れ替えをしたのですが、今回、私たちが提案する形で、これら2課3室の大胆なレイアウト変更を行ったのです」(日用品室・小保方 勉氏

目的は大きく3つあった。

第一は「コミュニケーションの活性化」だ。
「官庁では業界ごとに担当が分かれていますが、今は従来型の業界区分の枠を超えた融合ビジネスが盛んになってきているので、私たちの間でも頻繁な情報交換が重要になってきました。そのためにはオフィス全体を見通せるようにし、課や室をまたがる交流の場を設けるべきだと考えたのです」(日用品室・内野 絵里香氏

第二の目的は、働き方の多様化だ。
「個人による集中作業、会議などのコミュニケーション、リラックスなど、行動のパターンに合わせた場を用意することで、メリハリの利いた働き方を実現しようと考えました」内野氏

そして第三の目的が、情報セキュリティの強化だ。
「これまでのオフィスは書類に溢れ、しかも、頻繁に人事異動があるせいか、誰が管理しているかも分からない書類もありました。これでは仕事の効率が落ちるどころか、情報漏洩の危険性も増してしまいます。従って、リニューアルを機会に不要なものを一気に廃棄するだけでなく、必要に応じて電子化していく計画を立てたのです」小保方氏

経産省全体で進められている生産性の向上
クリエイティブ・オフィスが切り札になる。

今回のオフィスリニューアルは、経済産業省が全省で進めている生産性向上プランの一環でもある。
「2008年5月、省内に『仕事の生産性向上ワーキンググループ』が発足し、そこから各部局に対して、取り組み案の募集が行われました。そこで私たちは、クリエイティブ・オフィスの考え方をベースにしたレイアウト変更を提案したのです」(内野氏

もともと内野氏と小保方氏は、経済産業省と社団法人ニューオフィス推進協議会(NOPA)が連携して進めてきたクリエイティブ・オフィス推進運動に関わりがあり、知識創造時代にふさわしいワークプレイスの必要性を訴え続けてきた。それだけに、自分たちのオフィスも機会があれば変えていきたいと考えていたのだ。

そして2008年8月にプレゼンテーションの内容が採用され、予算が降りたことで一気に作業が加速した。事前の環境満足度調査、局内関係課との調整、購入する什器の決定などを経て、2009年1月にレイアウト変更と引っ越しを行っている。
「官庁の場合、備品の使用期間は耐用年数に応じて厳格に決められているため、その時期がこなければ廃棄も交換もできないなど、オフィスのリニューアルには厳しい条件が多くあります。もちろん、今回もそのルールは守っていますが、それでも、全省で進める生産性向上計画の一部に認められたおかげで、かなり思い切った改革が出来ました」内野氏

「斜め」配列のデスクレイアウトでもスペースの無駄はほとんど生じない。

それでは、リニューアルされたオフィスについて見ていこう。

まず「変化」を強く印象付けるのが、斜めに配置されたデスクだ。
「日用品室と電産室は執務スペースを共有しており、室長席も2つ、島も2つだったため、思い切って動的なイメージのある配置にしました。隅に内部用の会議卓を設けたことで、スペースの無駄は生じません」小保方氏

さらに周囲を囲っていた「ロッカー+積まれたドッジファイルによる壁」をなくして見通せるようにしたことにより、明るい印象を与えるのに成功している。
「斜めのデスクレイアウトは画期的だったのか、訪ねてきた他部局の職員やお客様はみなさん驚きますね。開放的な空間になり、評判はかなりいいようです」内野氏

なお、従来のレイアウトでは室長席や課長席は窓を背にした奥側に置かれるのが普通だったが、あえて1席を通路側に移動させた点も、新しい試みだった。

「室長がクリエイティブオフィスの実行に前向きでしたのでレイアウト案にもすぐに賛同してくれました。ただし、訪問者が直接室長に声をかけて業務を妨げないように、室長席の一部をパーテーションで囲むなどの工夫をしています」(小保方氏

もう一つ、開放的な空間を演出しているのが、窓際に並べられた打ち合わせ用のテーブルだ。

「窓際を共有スペースにする試みは3年前から行っていますが、そのときは周囲からもどのような打ち合わせをしているかを見えるようにしました。今回は奥の1卓だけはパーテーションで仕切り、フリーディスカッションだけでなく機微な内容を含む打ち合わせも気兼ねなくできるようにするなど多様な目的に応じられるスペースにしたのです」内野氏

奥のスペースは打ち合わせ以外に集中作業にも利用されており、多様な働き方に対応できるオフィススタイルを具現化している。

「斜め」配列のデスクレイアウトでもスペースの無駄はほとんど生じない

書類を整理するだけで余剰スペースは生まれる
せっかくなら働き方を変える新しいコーナーへ。

リニューアルの目玉ともなっているのが、フロアの中央部分に新たに設置されたコミュニケーションコーナーだ。
「以前、このスペースには書棚が並んでいました。オフィスのリニューアルにあたり、書類の整理と電子化を強力に推進したことで大量の書類が不要になり、新たに利用できるスペースを生むのに成功したのです」(内野氏

廃棄した書棚は63本に及ぶ。
「規定上、保存の必要がある書類についてはほかに保管庫がありますから、オフィスにこれだけの書棚を置いておく必要はなかったのです。おそらく、どこの職場でも、こういった工夫の余地のあるスペースはあるはずで、それを有効利用するのは、オフィス改革の第一歩だと思いますね」小保方氏

そして、コミュニケーションエリアの雰囲気づくりにも気を使った。
「複数の課や室で共有するスペースは初めてだったため、新しいコーナーであることを印象付けるためにここだけカーペットの色を変え、家具も斬新なイメージを与えるデザインのものにしました」内野氏

また、マグネット効果を生むアイテムも配置している。
「給茶スペースやカラープリンターなどの共有物をまとめて配置することで、自然と人が集まるように工夫をし、各課や室の関係するイベントなどのパンフレットを並べて、情報交換ができるようにしました」内野氏

コミュニケーションエリア設置の効果は予想以上に大きく、職員がお互いの仕事内容に関心を持つようになったという。
「限られた予算の中でオフィスづくりをするのは大変ですが、アイデアや工夫によって充分な成果はあげられます。私たちの取り組みを広く知っていただけることで、クリエイティブ・オフィスの重要性を多くの官公庁や企業にアピールしていければいいですね」小保方氏

リニューアルで大幅に改善された執務環境満足度
コミュニケーション生むオフィスは組織を変える。

最後に、レイアウト変更前後に各課室の職員を対象に行ったアンケート調査の結果から、今回のオフィスリニューアル・プロジェクトの成果をまとめておこう。

まず、執務環境については、以前は「不満+やや不満」が68.4%と、大半の職員が満足していなかったが、リニューアル後は「満足+やや満足」が93.1%と、完全に逆転している。

リニューアル後は「満足+やや満足」が93.1%と、完全に逆転

次に、コミュニケーションコーナー設置の効果を示す「他課室とのコミュニケーション 会話の頻度」については、以前は「少ない+やや少ない」が94.7%と、交流はほとんどないになどしい状況だったが、リニューアル後は20.7%が「やや多い」と答えるまでになっており、働き方は確実に変化してきたようだ。
「執務環境への評価が大幅に改善したのは、書棚や積まれた書類などによる"壁"がなくなり、フロア全体を見通せる明るいオフィスになったからだと思います。これだけでもイメージは全く変わり、他の課や室の職員から羨ましがられますね」内野氏

「コミュニケーションの活性化はオフィスだけで実現できるものではないと思っています。ただ今回のリニューアルが幅広い交流のきっかけになったのは確かで、これをスタートに、もっといろいろな取り組みを考えていきたいですね」(小保方氏