株式会社ネクスト

2011年3月取材

※ 記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

偶発的なコミュニケーションでワークスタイルが大きく変わった。

プロジェクト担当

田中 信智氏

株式会社ネクスト
田中 信智氏

管理本部
業務統括部長

佐藤 博和氏

株式会社清和ビジネス
佐藤 博和氏

LOA システム研究所
デザイングループ部長代理

吉田 直司氏

株式会社清和ビジネス
吉田 直司氏

LOA システム研究所
デザイングループ課長

川﨑 茂樹氏

株式会社清和ビジネス
川﨑 茂樹氏

営業課リーダー

プロジェクト概要

1997年3月に設立された株式会社ネクストは、日本最大級の住宅・不動産情報ポータルサイト「HOME'S(ホームズ)」を企画・運営している。そのほかの運営サイトとして、地域コミュニティサイト「Lococom」や暮らしとお金のポータルサイト「MONEYMO(マネモ)」、アトピー有症者向けケータイサイト「eQOL(イコール)スキンケア」を企画・運営するなど、設立当時の予想を上回るペースで事業を拡大。スタート時は2名だった従業員も、今では500名超になるなど、今もっとも勢いのある企業の一つといえる。

今回の移転では、"顔と顔を合わせるコミュニケーションづくり"をコンセプトに、大胆なオフィスデザインを実施した。

はやわかりメモ

  1. 分散されたオフィスから社内全体を見回せるオフィスを求めて
    以前は分散されたオフィスだった。手狭になったことはあるが、今回の移転プロジェクトの大きな目的はコミュニケーション不足の解消。オフィスのさらなる進化を求めて、いくつかの条件・要望を出し合い立地面を検討、そしてオフィスビルの選定へ。
  2. 新オフィスの基本コンセプトづくりは、現在のオフィスの課題から
    コンセプトを確定させないとデザインに反映できない。コンセプトの立案には、まずは現オフィスの課題は何なのか、将来に向けてやりたいことは何なのかを明確にすることが重要。
  3. キーワードは回遊性、可視化、社員同士の動線、コミュニケーション...
    大まかなコンセプトを確定させたら、そこからキーワードに落とし込んでいく。キーワードを実現するために具体的なアイデアが生まれる。
  4. 従業員の働きやすさを追及して一つ一つの什器を開発
    大事なことは従業員の視点に立ったこだわり。ここで時間をかけることが結果的に従業員の満足度につながる。
  5. オフィスが変わる。そしてワークスタイルが変わる
    オフィス戦略は単なるオフィスレイアウトではない。ワークスタイルまで改革するつもりで取り組む。

分散されたオフィスから社内全体を見回せるオフィスを求めて。

1997年に横浜で設立後、急激な事業拡大とそれに伴う人員増で渋谷(渋谷区)、新川(中央区)、晴海(中央区)と移転を行ってきた株式会社ネクスト。次の企業沿革を見るとネクストの急成長ぶりがよくわかる。

1997年 3月 横浜市にて株式会社ネクスト設立

1997年 4月 住宅・不動産情報ポータルサイト  「HOME'S(ホームズ)」を開始

1999年 12月 業務拡張のため本社を東京都渋谷区に移転

2001年 7月 業務拡張のため本社を中央区新川に移転

2002年 1月 楽天株式会社との業務提携により資本金を増資

2003年 10月 「HOME'S(ホームズ)」の掲載物件数が 100万件を突破

2005年 4月 大阪支店開設

2006年 2月 業務拡張のため本社を中央区晴海に移転

2006年 10月 東京証券取引所市場マザーズ市場へ株式上場

2007年 9月 福岡支店開設

2008年 6月 名古屋営業所開設

2009年 2月 「HOME'S(ホームズ)」の加盟店が 10,000店舗を突破

2009年 12月 沖縄営業所開設

2010年3月 東京証券取引所市場第一部へ市場変更

2011年1月 業務拡張のため本社を港区港南に移転

移転プロジェクトは、今から3年前に始まる。当時入居していたオフィスビルが急激な増員により手狭になってしまったためだ。そこで、管理本部業務統括部長(当時)の田中信智氏をリーダーとして総務グループと合同のプロジェクト体制がつくられた。最初は現状の課題を出し合い、それらを一つ一つ整理していくといった作業をすることになる。まずは立地をどこにすべきかの議論があったという。

「立地としては、今後のグローバル化に対応できる環境として空港までのアクセスの便が比較的に良いエリアであること。それに加えて近年開設された大阪支店や名古屋営業所などのメンバーとの集まりが多くなってきたため、新幹線の停車駅にも近い場所であること。この2つの条件がクリアできる場所を探していました」株式会社ネクスト 田中信智氏

立地について要望をまとめると、次はビルのスペックについての議論となる。

「今まで入居していたオフィスは敷地こそ同じでしたが、営業部門と管理部門ではビルの棟が分かれていたためお互いを行き来する無駄な時間が生じていました。そのほか、用件があっても顔を合わせずに、つい電話やメールに頼ってしまう。そのために起こるコミュニケーション不足の問題が出始めていたのです。次回の移転では、代表の井上も重要視している"会社を見渡せることのできる"ビルを探そうと思っていました。加えて、端から端までの見晴らしを良くするためにもオフィス内に柱が無いのが理想でしたね」田中氏

今回の移転プロジェクトは次の条件でオフィスを探すことになった。

  1. 羽田空港までのアクセスが良い
  2. 新幹線の停車駅に近い
  3. ワンフロア面積が広い
  4. フロア内に柱が無い
  5. 数年後に入居できる

通常、これらの「立地」「ビルスペック」「入居時期」と、いくつもの条件を全てかなえるオフィスを探すのは困難なことである。

「正直、どこかの部分で妥協しなくてはいけないのかとも思っていましたが、長年お付き合いのある三幸エステートさんに相談したところ、品川に大きなビルが竣工する情報をいち早くいただいたのです。しかも駅からも近いときている。半ばあきらめていただけに、まさに奇跡だと思いました」田中氏

立地、面積と条件が当てはまり、さらにこれから建築するビルであったために設計の段階で細かい指示や要望を出すことも可能になると思い、即座に交渉に入ったという。

ネクストが本社移転に選んだ品川駅港南口

ネクストが本社移転に選んだ品川駅港南口。

パブリックエリア中央に設けられたスタンドカウンター

パブリックエリア中央に設けられたスタンドカウンター。

多くのお客様を迎える3階の受付スペース

多くのお客様を迎える3階の受付スペース。

透明感あるガラス張りの接客ブース

透明感あるガラス張りの接客ブース。

新オフィスの基本コンセプトづくりは現在のオフィスの課題から

「今までのオフィスは、急激な増員もあり気軽に打ち合わせをするスペースがありませんでした。しかも備えられたミーティングルームはフォーマル用のため、事前予約が必要で、突発的に生まれた簡易的な打ち合わせには対応できませんでした。そのために、スピードの鈍化やアイデアの機会損失が発生しているのではないかと危惧していました」(田中

そんな従業員からの不満を解決するため、"社員同士が顔を合わせやすい仕組み"を基本コンセプトとした。そして何とかして今まで不足していたインフォーマルコミュニケーションを活発化させる良いチャンスにしようと思いを強くしたという。

基本コンセプトを確定させると、次の段階はデザイン会社の選定となる。今回は大規模なプロジェクトということもあって、5社でデザインコンペを行った。各社ともに見事なデザイン案の提案ではあったが、最終的にパートナーに選ばれたのは、株式会社清和ビジネスだった。清和ビジネスは、昭和37年の創業以来、全国でオフィスデザインを展開している会社で、今までも数々の優良会社のオフィスデザインを担当してきた実績を持つ。

「以前のオフィスでもデザインを担当させていただいたことがあり、何を求めていて、何が課題なのかはわかっていたつもりです」株式会社清和ビジネス 佐藤博和氏

「新オフィスをデザインするにあたり、まずは時間をかけて組織構造、増員計画、経営課題などをヒアリングすることから始めました。今後のオフィス戦略を考える上で、次の事業展開を聞くことは必須だと考えたのです」株式会社清和ビジネス 吉田直司氏

「ネクストという社名は、よりよい次(NEXT)を生み出し、現状に満足することなく発想を広げていきたい、という想いが込められていると聞いていました。会社の想いやプロジェクトメンバーからの課題・要望をもとにデザインを考えたときに、"自由な発想を広げる"ためには社員同士が触れ合う仕組み、動線の確保がポイントになると思いました。そして次のデザインコンセプトに到達したのです」株式会社清和ビジネス 川﨑茂樹氏

それではデザインコンセプト(要約)を紹介しよう。

ワークスタイル(活動・意識)

  1. ホスピタリティ
    お客様はもちろん、社員同士も相手を思いやる。

  2. オープン
    オープンで透明性が高く、信頼を感じられる。

  3. 情報・知識共有
    あたりまえのように情報・知識が共有できる。

  4. コミュニケーション
    フォーマル、インフォーマル共にコミュニケーション、チームワークが活発。

  5. クリエイティブ
    組織全体で相互に知識を活用。常に新しいアイデアや発見を追求する。

  6. スピード
    ICT(情報通信技術)を活用し、無駄なくスピーディに。

プランニングポイント

  1. 回遊性
    従業員の導線を明確にすることで、従業員間の新たなコンタクトを促す。
    各フロアを繋ぐ内階段を設けることで、フロアによる分断を最小限に。

  2. コミュニケーション
    フェイスtoフェイスをベースとした、バリエーションのある「場」を提供する。
    1000名が着席できる会議室。

  3. 情報利用
    必要な時、必要な場所で情報の取り出しや、記録ができる。

デザインポイント

  1. オープン・透明性
    遮蔽物は少なく、ガラス素材を多用する。

  2. あたたかみ
    コーポレートカラーのブルーを 貴重としつつコミュニケーションスペースなどには木目調を多用して雰囲気を一新。

「単なるオフィスレイアウトに終わらず、ワークスタイルそのものを変える必要性をアピールされたのが印象的でしたね」田中氏

そして、ネクストの移転プロジェクトメンバーから出てきたさまざまな要望に対して、具体的な設計・デザインプランで応える。そんな良い関係が生まれていった。

ファミレス風休憩所

オフィス内に1カ所だけ設けられたファミレス風の休憩所。自販機上の壁には運営サービスのイメージキャラクター「ホームズくん」が。

執務室全景

執務室全景。オフィス内に柱が無いためとても見晴らしが良い。

オープンミーティングスペース

窓際のオープンミーティングスペース。気分一新できるデザインだ。

プロジェクトルーム

フォーマルな少人数での会議に使用されるプロジェクトルーム。

ブレイクパーク

ブレイクパーク。ここでの話が発展してフォーマルな会議になることもある。

フロア間を結ぶ内階段

フロア間を結ぶ内階段。コミュニケーション促進の重要なアイテムになっている。

キーワードは回遊性、可視化、社員同士の動線、コミュニケーション...。

「今回の移転では、将来的な人員計画も踏まえて3フロアを借りることにしました。当初は1フロアで全社員を収容したいと考えていたのですが、それが無理に。そうした中で誕生した案が内階段だったのです」(田中氏

「内階段は、ビルの完成後に作ると無駄なコストや余分な廃棄物が増えてしまい、地球環境的にもよくありません。幸いなことに、建築中に契約を決めることができたので、ビル側の設計に組み入れてもらえました」田中氏

「とはいえ、建築中ですからダクトの位置が明確でなかったりしていましたので、ビル構造を確認しながらデザインを確定させていきました。予算が決められている以上、進行していてやっぱりできないということは避けなくてはなりません。発注者側からの要望をビル側と調整し、その要望に応えられるように解決案を考え、ネクスト側に理解してもらう。そんな作業の繰り返しでした」吉田氏

今回の移転プロジェクトで、最大の目的は従業員同士のコミュニケーションの促進だ。内階段は、フロアとフロアを縦方向に結ぶ重要なアイテムとなる。当然、その周囲には多くのオープンコミュニケーションスポットを用意した。

「内階段や通路部では、予想以上の"偶発的なコミュニケーション"が発生しています。そこから発生したアイデアを形にするためにオープンスペースに、そしてよりビジネスの話に発展させるために個室のプロジェクトルームを使う。そんな3段階での行動が理想です」田中氏

 内階段とコミュニケーションスポット
内階段とコミュニケーションスポット。

  • ステップ1: 内階段・通路
    すれ違ったときに何気ない会話からアイデアを築く
  • ステップ2: オープンミーティングスペース
    興味があったら少し深い話をする
  • ステップ3:個室のプロジェクトルーム
    具体的に時間をかけて話し込む

「内階段は各フロアの東側に設置し、そこからフロア中央に執務スペース。窓際にオープンミーティングスペースを配置しました。回遊性の動線をつくり社員同士のより多くの接触を考えてのことです」佐藤氏

誰もが気軽に立ち寄れるオープンなコミュニティスペースを充実させた。プロジェクトルームと合わせると、以前のオフィスと比較してミーティングスペースは実に1.7倍に数が増えているという。

「月に1回、社員同士の親睦を図るためにピザパーティを行っているのですが、それでも部署の違う社員は顔と名前が一致しないということもありました。新オフィスに移ってからは間違いなく動線が良くなり、社員間のコミュニケーションは格段に増えています」田中氏
窓際のオープンミーティングスペース

窓際のオープンミーティングスペース。

従業員の働きやすさを追及して一つ一つの什器を開発。

今回の移転プロジェクトでは、従業員の働きやすさを追求して、多くの家具・什器が生み出された。

「ここにあるテーブルの天板一つとっても、コストと質感を確認してもらうために8種類くらいの案を出しています。毎回、提案の段階で数種類のバリエーションを用意するようにしました」吉田氏

「私どものこだわりにお付き合いいただきました。移転プロジェクトのリーダーという立場ではありましたが、常に頭の中は"従業員の視点で"を心掛けました。私自身が総務畑の人間ではないこともあって、使う側の立場で物事を考えられたのが良かったのでしょう」田中氏

それでは、両社がその都度要望を出し合って誕生させた特徴的な什器を紹介しよう。そのどれもがオリジナリティに溢れたこだわりの作品である。きっと多くの企業にとってオフィスづくりのヒントになるはずだ。

立ち会議用打ち合わせ机

「これは実験的に一つだけ作ったものです。机上面にはホワイトボードが取り付けられており、立ち話で行うミーティングに利用されています。普通のミーティングではホワイトボードに向かって人が並びますが、この机は、ホワイトボードを囲むように人が集まるミーティングをイメージしたものです。検討する対象物があるときに、それを中心に置いてアイデアを出し合うと言うやり方がありますが、それにホワイトボートを用いてみました」田中氏
立ち会議用打ち合わせ机

巨大ホワイトボード

各フロア共通で備えられた全長40mのホワイトボード。各部署の所属長の後ろに設けられ、部署ごとの行動目標共有やスケジュール管理などに用いられることが多い。

「IT系の企業ですが、あえてアナログの要素を取り入れてみました。ホワイトボードはここだけでなく、全てのプロジェクトルームに導入しています」吉田氏

「ホワイトボードの良さは、フリーハンドで書けること、ミーティングに動きが出ることだと思います。特に後者は、図や文字だけでは表現できない"熱意"を伝えるのに有効だと思います」(田中氏

巨大ホワイトボード

デジタル・サイネージ

フロア内の数箇所に設置した大型モニター。会社から、または部署ごとにメッセージを発信し、現在どのようなプロジェクトが進行しているかが視覚的にわかる。ビル側のご好意で共用部の廊下部分での設置も可能となった。共用部では、ネクストの会社紹介ビデオなどを放映している。
デジタル・サイネージ

1人用テーブル

5階の社内用セミナールームに備えられた1人用のテーブル。車輪がついていて動かす事ができるため、教室形式、車座形式など自由にレイアウトを組むことができる。「社内にはさまざまなミーティングがありますが、その中には、四角い長机が邪魔になるミーティングがあることに思い至りました。例えば、フリートークで業務上の悩みを解決したい場合や、アイデア出しをしたい場合には、より自由な雰囲気をつくり出すレイアウトが必要と考えました」田中氏
一人用テーブル

オフィスが変わる。そしてワークスタイルが変わる。

それでは、ネクストのオフィスを見学していこう。驚くべきことに、これらのデザインは当初の段階で図案化したCGデザインとあまり相違なく出来上がったという。いかにヒアリングの段階から内容の濃い打ち合わせをしてきたかがよく分かる。

受付スペース

3階に設けられた多くのお客様を迎える受付スペース。ガラス張りの透明感ある接客ブースであるが、プライバシーやセキュリティを守るために視点の位置に模様入りのすりガラスを使用している。「視線の遮蔽と採光性のバランスを取るために、決定まで何通りものすりガラスを用意し、その透明感を確認しました」佐藤氏

ブース内のカーペットは部屋ごとに色を変えており、コーポレートカラーで統一された空間にバリエーションある色彩を取り入れた。「そのほか、スペースの中央窓側にグリーンとホワイトの色で構成された植栽を模した癒しのスペースを設けています」川﨑氏

受付スペース

1000人会議室

3つある大会議室(それぞれ40名前後の会議ができる)の占有部側の壁は全て可動式となっている。これらの壁を取り外すことで、1000名まで着席できる大空間に変わる。「1000人会議室」と呼ばれており、全社総会や会社説明会など用途はさまざまだ。さらにキッチンとドリンクカウンターも設置されているので大人数でのパーティーも可能である。

「1000人会議室には前方に大型のスクリーンを配置していますが、後方の席では視認性が不足します。この解決には、点在するデジタル・サイネージが大いに役立ちました」田中氏

1000人会議

プロジェクトルーム

3階~5階窓際のプロジェクトルーム。全ての部屋でパソコンと大型モニターの使用が可能で、少人数でのフォーマルな会議に使用される。

これらの部屋もガラス壁を多用し、社内の透明性を高めている。

プロジェクトルーム

「今回の案件を経験して、オフィスを変えることがここまでワークスタイルに影響があるとは驚きでした。今回は実現できませんでしたが、フリーアドレスの実施やコンビニにあるような情報端末を通路に置くなど、頭の中にはまだまだたくさんのアイデアがあるんですよ。それらは次回の楽しみに取っておこうと思います」田中氏