スマートニュース株式会社

2015年6月取材

※ 記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

多様な情報と文化がなめらかに交ざり合う。そんな渋谷の街を意識してオフィスを構築した

ニュースアプリのパイオニア的存在であるスマートニュース株式会社。全世界で1200万ダウンロードを超え、2015年2月からは世界150カ国でインターナショナル版の提供を開始した。業務拡大による採用も活発に行っており、それに伴いオフィス移転にも積極的だ。
前オフィスでは、居心地よく快適なオフィスを目指して移転を実施(2013年10月に取材)。それから約1年後、更なる成長を理由に次のステージを求めてオフィス移転を行った。今回はハード的な機能の説明だけでなく、その背景にある考え方を中心にお話を伺った。

プロジェクト担当

松岡 洋平氏

スマートニュース株式会社
マーケティング
ディレクター

松岡 洋平氏

佐々木 真由美氏

スマートニュース株式会社
マーケティング・
アシスタント

佐々木 真由美氏

菊池 貴則氏

スマートニュース株式会社
情報システムマネージャー

菊池 貴則氏

エントランス

エントランス

はやわかりメモ

  1. 良質なプロダクトは良質なオフィスから生まれる。一切妥協なしのオフィス物件探し
  2. 街から受ける刺激も創造性につながる。渋谷にこだわり続ける理由とは
  3. 社内コミュニケーションを促進させるさまざまな機能の追加を検討する
  4. 良質なサービスを提供するためには良質な環境が必要となる
  5. 社内外とのつながりを念頭におき、新たに生まれた社員食堂SmartKitchenの機能
  6. ルールではなく推奨。個々の自主性に任せたオフィス運用を行っていく

良質なプロダクトは良質なオフィスから生まれる。一切妥協なしのオフィス物件探し

前オフィスは渋谷駅から徒歩5分という利便性の高い立地。6階建てのオフィスビルの2階125坪を、移転当初は8名の社員で使用しはじめた。しかし事業拡大により、段階的に社員数が増えていく。もともとスペースに余裕があったが、予想より早くオフィスが手狭になってしまった。より快適な職場環境を維持するために、移転を決めた。

街から受ける刺激も創造性につながる。渋谷にこだわり続ける理由とは

「今後の増員を見据えて、物件を探し始めたのは2014年6月くらいです。前のオフィスに入居したのが2013年10月ですから、移転から1年も経っていません。予定より随分と早い段階での計画となりました」(菊池貴則氏

移転先の条件はかなり限定的だった。300坪以上のワンフロア、そして渋谷という立地。

「前オフィスの周辺(渋谷桜丘町)がベストではありましたが、条件通りの物件はありませんでした。そこで少し範囲を広げて探したのです。恵比寿や中目黒といったエリアも検討したのですが、最終的には今回の移転先である渋谷神宮前で落ち着きました」佐々木真由美氏

「渋谷というのは新しい文化を生んできた街です。色々なノイズが溢れ、刺激がある。そして多種多様な情報がなめらかに交じりあっている。とても魅力的な街です。それが設立以来ずっと渋谷にこだわり続けている理由です」(松岡洋平氏

2014年11月に移転先を決定。契約を締結させたと同時に内装デザインに入る。

「非常にタイトなスケジュールでした。しかも本来の計画では3階フロアだけを賃借する予定でしたが、ちょうど契約締結の時期に2階部分に空室が出まして。当初考えていたレイアウトやスペース計画がだいぶ変わりましたね」(菊池氏

社内コミュニケーションを促進させるさまざまな機能の追加を検討する

そこで前オフィスのコンセプトをベースに、新たにコンセプトを見直すこととなった。参考までに当時の取材記事の中から、基社内コミュニケーションを促進させるさまざまな機能の追加を検討する本コンセプトについての記述を抜粋する。

「働きやすい環境のためには固定席とは別の自由な空間が必要だと考えたのです。アイデアが煮詰まってしまったときに気分転換できる場所を用意する。固定席で自分の居場所を確保しながら、そこから抜け出してくつろげる『場』。そこで一人で二つの空間を使うことを想定したデザインを考えてもらいました。そしてこれからも、単に空間効率だけを考えて人をギュッと押し込むのではなく、余裕のある空間を維持していきたいと思います」

今後の企業の成長をふまえてオフィスコンセプトを見直す。
その結果、下記の6つに生まれ変わった。

  1. 良質さを身にまとう
  2. 生産性よりも創造性
  3. 多様なワークスタイル
  4. なめらかなオフィス
  5. 成長するオフィス
  6. 良質なコミュニティづくり

良質なサービスを提供するためには良質な環境が必要となる

そうして具体的な移転プロジェクトが始動する。プロジェクトは共同代表の鈴木氏を中心に、その周りを複数部署のメンバーたちがサポートしていく。そんな緩やかなチームが編成された。
情報システムマネージャーの菊池氏が全体のオペレーションと電気系を統括、ボタニカルデザイナーでRE代表の江原理恵氏がデザインをディレクション、株式会社ヴィスの金谷常務が実際の設計・施工を担い、財務担当ヴァイスプレジデントの堅田氏が契約まわりをみた。

「打ち合わせの基本はメールとメッセンジャー。デザイン案の確認などは全員で集まるようにしました。リアルな打合せとオンライン上での打合せ。うまく併用して出来たと思います」(菊池氏

新オフィスへの要望を、週一回行われる全員参加のランチミーティングの議題にするなどして、大まかな要望を把握した。そのあと、デザインディレクションの江原氏を中心に、個別に全社員にヒアリングを行い、様々な要望を聞きだした。

「少しでも多くの回答を得るために質問もシンプルなものにしました。『どんなオフィスにしたいか?』『今のオフィスでいいと思うところはどこか?』など。全員に聞きました」(松岡氏

回答数は120件以上。社員数を大きく上回る回答が集められた。

「活発なコミュニケーションを生み出すにはどうすればいいのか、いかに刺激を与えることが出来るか、そのためにはどのような設備が必要なのか、多面的に意見交換が行われました」(松岡氏

「本当に時間との戦いでしたね。2月に移ってきたのですが、その時点では完成していない部分のほうが多かったかもしれません」(菊池氏

コンセプトと社員からの要望、それにデザインディレクションの江原氏やオフィス設計会社のヴィスからの提案とをうまく組み合わせる。コンセプトの一つである「なめらかなオフィス」というのは、ワンフロア内での区切りのないオフィスにもあらわれている。

「先ほども少しお話しましたが、渋谷の街は色々なものが交じり合うことで新しい価値を生み出しています。感じ取ったイメージはフラットな環境だからこそ誰もがキャッチできる。それと同様にオフィス内でも、区切りを設けないことでひらめきや発想をキャッチしやすい環境にする。それが結果として創造性と生産性に関わってくればいい。そう思っています」(松岡氏

また、同社では在宅勤務や完全なリモート勤務は推奨していない。仕事をする場所は原則オフィスの中となる。

「業務効率を考えると一人で黙々と進めるほうがスピードは速いのかもしれません。しかし生産性を突き詰めていくよりも、色々な人と話し多くの刺激を受けながら生まれる製品プロダクトのほうが圧倒的に高いクオリティになると思っています」(松岡氏)

「そのほか、軽食や飲み物のコーナーをあえて1ヵ所にすることで、メンバーが自然と同じ場所に集まるような仕組みをつくりました。普段接しない人同士の接点を増やすことを目的としています」佐々木氏

「入居後、1ヵ月くらい経った時期に全社アンケートを実施しました。そこで空調などの改善要望を頂き、4月に工事を完了させたところです。今後も要望を聞きながら随時対応していきたいと思います」(菊池氏

そうして2015年5月末、移転プロジェクトは終了した形となる。

社内外とのつながりを念頭におき、新たに生まれた社員食堂SmartKitchenの機能

「新オフィスは、2階が多目的なイベントスペースとインタビュールーム、3階が執務スペースとなっています。合計の面積が約540坪。それを40名で使用しているわけですから、現時点ではずいぶんと贅沢な使い方ですが、今後の増員を見据えたものです」佐々木氏

「2階のイベントスペースは今まで無かったフリーランチの社員食堂SmartKitchenとしての機能を持ちます。部署を超えて活発な会話が生まれていますね。最近は社員だけでなく、お客様(ゲスト)との利用も増えています」〈写真④〉松岡氏

社員食堂のアイデアは最初からあったという。それを行うパートナー、調理場所、配膳方法、運用など、考えられる課題をクリアするのに時間を要したが、見切り発車するわけにもいかない。じっくりと検討期間を設けて結論を出したという。

「10社以上を検討し、試食会も何度も開きました。最終的には、前オフィスの近くにあったオーガニック・カフェ『デイライトキッチン』に依頼。特別に引き受けて頂きました」佐々木氏

そのために万全の設備を整えた。オフィスの中に専用のキッチンを用意し、その中の設備はできるかぎりシェフの要望を叶えた。そうして毎日人数分の日替わりメニューを用意する。食材も調理方法も高い水準でコンセプトもしっかりしているため、社員の満足度も高いという。

社員食堂「SmartKitchen」

④社員食堂「SmartKitchen」

「新オフィスの周辺は、国内外からの観光客が多いため、並ばずにランチをとれるお店が多くありません。そうなると待ち時間を惜しむあまりついつい手を抜きがちになる。その結果、栄養面の低下はもちろん、コミュニケーション不足という弊害が起きてしまいます。それを防ぐ意味でも食堂の導入は意味のあるものになりました」松岡氏

食堂としての時間は12時から14時まで。それ以外は多目的なイベントスペースとして使用される。壁は可動式。取り外すことで250名収容の大空間に変身する。〈写真②〉

「エンジニアの勉強会やメディア向けの討論会、同業他社を集めての発表会などさまざまな使い方をしています。この場所がコミュニティのハブになればいいですね」佐々木氏

「イベントスペースを新設したことで格段に来訪者が増えました。セミナーを通じて、当社から情報発信をすることもあれば、僕らの知らなかった最新の情報を手に入れることもある。予想以上に重要な機能になりつつあります」菊池氏

イベントスペース

②イベントスペース

それでは、オフィスの特長的な部分を一つずつ解説していこう。

入口で受付を済ませると、ガラス扉の向こう側に落ち着いたエントランスが見える。

「ここはホテルのロビーのような、お迎えしたお客様にゆっくりとお待ちいただくことで出会い、仕事、休息が兼ね備えられた場となっています」佐々木氏

フロア全体の右側がフリーアドレスとなる。〈写真①〉

「ここに置かれた家具は中古品も含めて、あえて統一していません。座る場所によって違う気分を体感してもらうためです。30席以上用意し、自由に使ってもらっています」佐々木氏

「実は今後の人員計画によってここはその都度使い方をフレキシブルに変えるためのエリアとなっています。現状は社員数80名まで対応可能なレイアウトですが、40名増えた場合、80名増えた場合といったように、先々の社員数に合わせた最適なレイアウトになるようにデザインプランを考えていただいています」松岡氏

フリーアドレスにはクローズドの部屋も設けられた。

フリーアドレスエリア

①フリーアドレスエリア

面接や面談用の部屋と〈写真⑤〉スカイプ用の部屋だ。〈写真③〉

面談用個室

⑤面談用個室

スカイプ用個室

③スカイプ用個室

「当社は、海外でのサービス提供を開始したこともあり、スカイプを使って海外オフィスとの会議を頻繁に行なっています。また、最近ではスカイプを使った英会話の学習も増えてきました。3室用意したのですが、使用頻度は高いですね」佐々木氏

そしてガラス張りのキッチン。キッチン横にはコーヒースタンドがつくられた。

「まだ正式に稼動していませんが、秋から専門のバリスタを常駐させることになっています。シリコンバレーでは一般的なことで、それだけアメリカではコーヒーを通じてのコミュニケーションが重要視されています。間違いなく人の動線が増えることになりますので、今後大切な場所になるでしょうね」〈写真⑥〉松岡氏

キッチン

⑥キッチン

カウンターを少し歩くと新聞や雑誌が置かれたニューススタンドが。ここは単に個人が新聞や雑誌を眺めることだけを目的としていない。あくまでも根底はコミュニケーションの活性化となる。〈写真⑦〉

「当社は情報を提供する企業ですから、メディア各社の情報に常にアンテナを張っています。話題のニュースをテーマに会話が弾めばいいですね」(佐々木氏

一方、フロアの左側が固定席で、窓際には、集中席エリア〈写真⑧〉、スタンディングデスク〈写真⑨〉、ファミレス席。用途ごとに使い分けられるように各種機能を持つ席を用意した。

その奥には前オフィスにも採用していたフリースタイルゾーン。面積を広くしてリニューアルされた。利用頻度の高いハンモックは3つに。ここで早朝にヨガや筋トレなどをしている人が増えているという。〈写真⑩〉

ニューススタンド

⑦ニューススタンド

集中席

⑧集中席

スタンディングデスク

⑨スタンディングデスク

フリースタイルゾーン

⑩フリースタイルゾーン

「スポーツジムと契約もしていますし、1週間に1回、サッカー日本代表のアスレチックトレーナーの方にマッサージに来ていただいています。常に最高のコンディションを維持することが良いプロダクトづくりにつながると思っています」松岡氏

2階はイベントスペースの他に駐輪場を備える。

「当社は自転車通勤の社員も多いため、新たに駐輪場をつくりました。ビルの設備ではなくオフィス内の施設としては珍しい機能といえるでしょう」佐々木氏

少し行くとインタビュールームが。毎日のように採用面接に使われている。

「今後は各室にテーマごとの本棚を置き、部屋ごとに変化をつけていく予定です」松岡氏

ルールではなく推奨。個々の自主性に任せたオフィス運用を行っていく

今後も変わることなく、「推奨」といった自然な流れの中で行動を起こさせるようなオフィス運用を行っていくという。

「例えばドリンクが飲める場所で人が集う。ルールを決めているわけではなく、そこに行ったら人が集まっていて、自ずと会話が生まれる。こんな自然な流れを大事にしたいと思います。『~してください』から『~したくなる』へ。これからも個々の自主性に任せた緩やかなオフィス運用をしていく予定です」(松岡氏