フリーアドレスは帰属意識の低下につながる席数を減らさないフリースタイルなら効果的。
会議室やコミュニケーションスペースなどに加え、もう一つ、小野氏が「隠れ打ち合わせコーナー」として設置したのが、背の低いロッカーだ。
「コア側の会議室と窓側のデスクスペースの間に個人用のロッカーを並べたのですが、そのままだと上にダンボール箱などを積まれてしまう心配があるので、斜めの覆いを付け、なおかつ上部をホワイトボードにすることで、メモ書きや連絡用に使えるようにしました」(小野氏)
ロッカーの高さは人の胸より少し低いくらい。このため、カウンター感覚で自由に話ができるのだが、そこには小野氏らしい細かい工夫も盛り込まれている。
「ロッカーの上部は全面を斜めにせず、両端に5センチほどの平らな部分を残しました。飲みものをちょっと置けるようにして、人が集まりやすくしたのです」(小野氏)
デスクスペースについては、人数分の席が用意されているものの、同じ部門内であればどこに座ってもいい「フリースタイル」を採用した。
「フリーアドレスという言葉は『自分の座るところがなくなる』と心配するスタッフが多いため、禁句になっています。しかし完全固定席では働き方が制限されてしまうことから、自由席という意味でフリースタイルにしました」(古川氏)
この制度の導入にあたっても、フリースタイルのメリットを最大限に発揮できるように運用上のルールを徹底した。
「せっかく自由席にしているのに、自分の場所を決められては困るので、個人用のワゴンは置かず、私物は全てロッカーにしまうようにしました」(小野氏)
各デスクに「個人の色」が着かないように、ごみ箱も排除した。
「これは分別を完全に行うという目的のためでもあるのですが、一人が使うものはデスク周りに一切置かないことで、自由席であることを徹底しています」(古川氏)
ごみ箱がデスク下にないことで、スタッフは定期的にごみの集積コーナーがあるカフェなどに集まるので、そこでも交流が活発になるというメリットもある。
「今回のプロジェクトでは事前に多くのスタッフと話し合いを行い、『こんなオフィスにしたい』という意識を共有していきました。ごみ箱をなくすことにしたのも、そんな中で出てきたルールです。スタッフにしてみれば、自分たちの意見が反映されたオフィスだから、そのルールを守ろうとする。その結果、オフィスはいつまでも、初期の性能を維持できるのです」(小野氏)
オフィスにはめずらしい「曲面」の多用が、
余裕を感じられる空間につながっていく。
トムソン・ロイター・ジャパンのオフィスを訪れた人が最初に気付くのは、さまざまなところに曲面が活かされたデザインの生み出す独特の雰囲気だろう。セミナールームや会議室を区切るパーテーション、カフェのカウンター、テーブルやデスク、天井に開け開けられた吹き抜けの穴など、通常なら直線や平面だけで構成されるアイテムの多くが曲線や曲面になっている。
「オフィスのデザインというと、とにかくスペースの有効利用ばかりを考え、直線的なデザインしか許されません。しかし、曲面を活かした空間はそこにいる人の心が安まる効果があり、ぜひ一度、試してみたかったのです」(小野氏)
デザインについては明豊ファシリティワークスに一任していた古川氏は、そのアイデアに賛成した。
「図面を見せてもらったところ、曲面を多用したからといって、それほど無駄なスペースが生じるわけではないことがわかっていましたので、反対はしませんでした。むしろ、余裕があって居心地がいい空間になったのではないでしょうか」
古川氏によると、オフィスにおいて無駄なスペースが生じるのは、「デザインよりも時間」だという。
「神谷町のオフィスは約25年にわたって使い続けていたため、誰も管理していない書類が部屋の片隅に積まれているなどして、無駄が多かったのです。このため、赤坂に移転してスペースはそれほど広くなっていないのに、ゆったりしたレイアウトが実現できましたね」
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