新ダイビル

2014年4月取材

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記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

大阪のビジネスシーンを演出する広大な「緑」を創出した大規模オフィスビル

大阪のビジネス街の中心である中之島・堂島エリアで進行している「新ダイビル」の建替え計画。地上31階建の新たなランドマークは2015年3月に竣工予定だ。
487坪のフロア面積を持ちながら無柱整形空間を実現。そのほか非常用発電72時間など、最新のBCP対応能力を有する。今回は、開発と技術の両面から計画の概略と取り組みについて語っていただいた。

吉川泰正氏

ダイビル株式会社
大阪営業開発部

副部長 吉川泰正氏

對中秀樹氏

ダイビル株式会社
建設・技術統括部

副部長 對中秀樹氏

旧・新ダイビル屋上樹苑を継承した「堂島の杜」

旧・新ダイビル屋上樹苑を継承した「堂島の杜」

大阪ビジネス街の中心地である中之島・堂島エリアの大規模再開発

堂島川や土佐堀川の水路を利用して栄えてきた中之島・堂島エリア。この地に現存するいくつもの歴史的建造物が経済・商業の繁栄を物語る。JR、地下鉄4線、京阪・阪急・阪神電車が全て利用できる立地も魅力で、大阪市役所をはじめとする官庁や大企業の集積エリアとして名高い。

「このエリアは、江戸時代は全国から廻送された米が取引された「堂島米市場」として発展し、諸藩の蔵屋敷が並んでいた。その後世界初の先物取引が行われるなど、大阪で最初に誕生したビジネス街といってもいいでしょう。しかし歴史があるということは竣工してから年数が経過したオフィスビルも多いということ。ちょうど数年前から数々の大規模ビルの建替えのタイミングになってきており、大阪を代表する高層ビル街区に生まれかわりつつあります」(吉川泰正氏)
その中の一つが今回取材の新ダイビルだ。建替え計画が決まったのは7年前だという。

「最初に建替えに関するプレス発表を行ったのは2007年5月のことです。そこから順次設計や計画、工程などを確定させていきました。そうして2010年9月から解体工事を始めていったのです。新ダイビルは日本を代表する建築家・村野藤吾の代表作の一つで、1958年の竣工以来、大阪のシンボルとして市民に愛されてきた建物です。もちろん私どもも簡単に壊したくはありません。しかし賃貸ビルとして今後長い将来にわたって競争力を保つためには建て替えが最善と判断しました」(對中秀樹氏)


羊のオブジェ

羊のオブジェ



旧・新ダイビルから継承をしたビジネス街の中心に誕生する1,000坪の緑

ダイビルの環境方針の1つである「自然環境との共生」の観点から、豊かな自然の保存を検討。それは、オフィスビルの屋上とは思えぬほど生い茂った樹木の継承だ。

「旧・新ダイビルには約1,000坪の広さの屋上樹苑がありました。そこにはケヤキやモミジ他数十種類の樹木があり、野鳥や昆虫も共生する森と呼べるような樹苑でした」(吉川氏)

「屋上から地上へ。配置する場所こそ違いますが、自然環境を考える思いは変わりません。旧ビルと同様の樹苑を再現します。それが『堂島の杜』です。それも単に植樹するだけではありません。解体前に屋上にあった樹木を専門家に見てもらい、植替えが可能な樹木の選定をしました。そして郊外に仮移植を実施。最終的には『堂島の杜』に戻す計画です」(對中氏)

「堂島の杜」は公開空地のため誰もが足を踏み入れることが可能となる。周辺のワーカーやここを訪れた方にとって、憩いの場になることは間違いない。 また、樹木以外にも保存するものがある。

「旧・新ダイビルでは道路に面したビルの外装に『羊』のオブジェを配していました。2m近くあるこの彫刻は、見る方の心を和ませていたと聞いています。そこでビルの魅力の一つであった『羊』を取り外して敷地内の四隅に置くことにしました」(吉川氏)

「自然環境との共生」という観点で、周辺環境との調和も念頭において設計を行っている。

「中之島・堂島エリアは『水都大阪』の象徴です。都心のビジネスエリアにこれだけの川が流れている光景は世界的にも珍しいのではないでしょうか。そこで新ダイビルは、川沿いに水平方向に展開する豊かな眺望に呼応した横連窓のデザインとし、堂島川に対して伸びやかに開いた旧ビルの横基調のイメージを継承しました」(對中氏)

「川だけでなく、御堂筋の銀杏並木も視界に飛び込んできます。『自然環境との共生』が実践された魅力的な空間になることは間違いないですね。「堂島の杜」とあわせて、世界に誇れる都市空間づくりの一翼を担えるのではないでしょうか」(吉川氏)

緑に面した1階スペースには店舗を配置する。店舗は全面ガラス張り。さらにテラス席を設け、都心にいながら豊かな緑を楽しめる。大阪の都心でこれだけの広さの緑を敷地内に確保したオフィスビルは他に類を見ないだろう。 また、1階エントランスホールの壁、およびエレベーターホールの壁も大部分をガラス張りとすることで、「森に迷いこんだ」雰囲気を味わえる。まさにビル内部も含めて一帯となった緑の大空間を演出する計画だ。

土地開発は人間の生活に、或ひはその向上に、必要である。それは、土木建築の形で行はれるのであるが、現今の土木建築は多かれ少なかれ自然の破壊を意味するものと一応認めざるを得まい。自然保護の要請と矛盾衝突するのが土木建築の宿命と言ふ結論に一応はなりさうである。宿命だとあきらめるならば、それでは萬物の霊長の自負に値しまい。

・・・(中略)・・・

自然を保護しつつ、生きとし生けるものの生活環境を維持しつつ、土地を開発し人間生活の為の土木建築を進めるのが、人間の叡智であり萬物の霊長たる所以であると言はねばならぬ。

大阪建物株式会社(現ダイビル株式会社)
社長 工藤友恵
(1967年(昭和42年)4月号「建築と社会」より抜粋)

地上31階建・高さ148mの新ダイビル外観

地上31階建・高さ148mの新ダイビル外観

柱を窓の外側へ設置。「環境への配慮」から考えられたフロアの形状

ワンフロア約490坪の無柱・整形空間

ワンフロア約490坪の無柱・整形空間

新ダイビルの特長は、前述の「自然環境との共生」のほかに、「環境への配慮」「充実したBCP対応」が開発テーマとなる。

「新ダイビルは、ビル外壁に大きな庇を張り出しています。東西方向に3.2m、南北方向に1.8m。それぞれ太陽の入射角度を考えて設計をしており、日射負荷の軽減を可能にしました。さらに断熱性の高いLow-e複層ガラスを採用することで空調負荷を抑制します。それらの結果、エネルギーの使用量は大幅に削減できるのではないでしょうか」(對中氏)

「足元から天井まで全面がガラス張りですから自然光も採り入れられます」(吉川氏)

 一般的に無柱空間といっても、実は室内やコア壁面側にいくつかの柱があることは少なくない。そのため柱がデットスペースになることもありえる。

「その点、新ダイビルでは、窓の外側の大庇部分に柱を設けていますので、執務室内は完全な無柱空間といえます。ですからデットスペースも無く、広い面積を有効活用できるのです。その効果はレイアウトにしてみると明確になります。室内の隅々まで無駄なく使用できる。非常に使い勝手がいいはずです。また、北側にコアを寄せることで東西に幅70m、奥行き18m超の整形な長方形の空間が確保でき、見通しが良くさらに利用効率が上がると思われます。そのほか、基準階の窓下には手動で開けられる自然換気口を設置。高層ビルでありながら窓側より直接外気の取入れを可能にしています」(對中氏)

そのほか、いくつもの環境に優しい機能を採用している。

環境に配慮した機能例

LED照明
従来の蛍光灯に比べて消費電力を約30%削減(ダイビル試算)
自然調光エコシステム
机上照度を自動調節することで照明消費電力を約30%削減(ダイビル試算)
細かいインテリアVAVゾーン
ワンフロア57ゾーンの細かいゾーン(20㎡~80㎡)で温度設定が可能
エネルギー管理システム
前日までの照明、コンセント、空調のエネルギー消費量をWEB上で確認できるシステム

これらの機能等により、「CASBEE大阪みらい(大阪市建築物総合環境評価制度)」で最高ランクの「S」を取得予定だ。

徹底的にこだわったBCP対応で安心・安全をサポートする

新ダイビルの魅力はBCP対応にもある。安心・安全にこだわり隅々まで行き届いた設計になっている。「BCP対応には徹底的にこだわりました。一つは、ビル用非常用発電機の電源供給。停電時でも、貸室に㎡あたり15VAを連続で72時間稼動できます。ビルの受電方式は安心の3回線スポットネットワーク方式を採用。入居者の皆様にとって安心の電源供給システムといえるでしょう」(吉川氏)

停電時の対応はそれだけではない。

ビル用非常発電機によるオフィスへの電源供給例

*ワンフロア(486.6坪)のオフィススペースを300名で使用した場合

設備など

平常時

停電時

非常時の
給電状況

サーバー類

サーバー6台、
冷房専用空調

サーバー6台、
冷房専用空調

100%

電話交換機

300台

300台

100%

パソコン

300台

75台

25%

FAX複合機

8台

2台

25%

照明器具

312台

78台

25%


「緊急排水槽という新ダイビルで初めてチャレンジした機能があります。最近はトイレや手洗いのセンサーが電動になっているため、停電時にトイレの使用ができません。そこはビルの非常用電源と接続することで使えるようになるわけですが、仮に下水道の接続部分が水害や液状化現象などで不具合が出てしまった場合、トイレは使えても排水ができなくなってしまう。せっかく72時間も電源が使えるのにトイレが使えないのでは意味がありません。そこで、緊急時には地上からの排水を一旦ストックできる排水槽を用意しました」(對中氏)


「この機能については、皆様ご評価してくださいますね。水害対策という観点では機械室を3階に設置しているというのも特長です。主要な機械は全て3階に。ここの立地は大阪府の発表では南海トラフ地震による『津波浸水想定は無し』とされていますが、あくまでも万が一のリスクに備えての設計です。
そのほか、4万リットルの防水型オイルタンクを設置。仮に浸水した場合でも問題なく燃料の供給を可能にする機器を選定・配置しています」(吉川氏)

それ以外にも、オイルダンパーを配置することにより建物の揺れを低減させる制振構造。
5段階(ビルエントランス、エレベーターホール入口、エレベーター内、各フロア(オプション)、オフィス専用部)での制御を行う万全のセキュリティなどがあげられる。これらの対応は、「BCP意識の高い企業」や「継続性が求められる企業」にとって非常に魅力的なものになっている。

カフェテリア(食堂)

カフェテリア(食堂)

「BCPに対する要望は年々レベルが上がってきている気がします。
今後も企業の皆様のご要望をお聞きしながら、常に技術革新を行っていきたいですね」(吉川氏)

「ワーカーに優しく」への実践が使いやすいオフィスを生み出す

ダイビルでは、4階の共用スペースにワーカーのための機能を提供する。その一つがカフェテリア(食堂)の設置だ。館内テナント以外の使用も考えているという。

「合計で約200席分を用意します。新ダイビルの周辺にはランチを楽しめるお店はたくさんありますが、テナントの皆様の利便性を考え、ビル内にカフェテリアを設けています」(對中氏)

「そのほかリフレッシュサロンも用意しました。ここは入居企業専用の自由スペースになります。詳細な利用ルールの設定はこれからですが、ネイチャーカラーを取り入れた落ち着いたデザインになりそうです」(吉川氏)

入居企業専用の貸会議室もあり、オフィスレイアウトをさらに効率化できるスペースとして最初の設計段階から企画されている。

「最大収容人数は156席。使用人数によって部屋の大きさの変更が可能です。防音設備も万全で、商品の展示会や学生向け会社説明会など多様な用途で利用できます」(吉川氏)

最後にダイビルが掲げてきた企業理念を紹介しよう。今回の開発が、1923年創立時から全くぶれることなく引き継がれていることが理解できる。

ダイビルが掲げてきた企業理念

SINCE1923

ビルを造り、街を創り、時代を拓く。
ミッションステートメント

  1. 顧客の信頼と愛着をかち得るオフィス空間と環境を提供します。
  2. 顧客とともに企業価値を高めます。
  3. 美しい都市景観と品格ある空間を創出します。

ダイビルはオフィスワーカー一人一人が、また来館者一人一人が気持ちよく働ける空間を提供するためグループ一丸となった取組を進めている。取組の一つとして、営業、設備、警備、清掃他オフィスに携わるスタッフが一緒になり各ビルを巡回することで、テナントサービスの意識、目線の共有化を図っている。
また今後、よりよい街づくりのためにはダイビル単体だけでなく周辺地域とも一層の連携を深めていくことが必要とのことだ。

旧ダイビルのDNAを引き継いだダイビル本館

1923年、ダイビル株式会社(当時は株式会社大阪ビルヂング)が創立。その後、延床面積約1万坪、鉄筋コンクリート造、8階建、当時西日本一の規模を持つダイビル(当時は大阪ビルヂング)の建設が開始された。関東大震災の直後ということもあり、構造設計を当時の耐震構造の権威である内藤多仲、設計は日本を代表する渡辺節、製図主任は村野藤吾が担当した。1925年に竣工。ビル正面にネオロマネスク様式の列柱を配し、中央玄関の半円アーチ上に飾られた「鷲と少女の像」が格調を高めた。「大ビル」の愛称で親しまれた名建築である。

旧ダイビルのDNAを引き継いだダイビル本館

その後、保存の声もありながら、老朽化という避けられない理由からやむなく建替えを行う。建替えにあたっては約90年にわたる旧ダイビルのDNAを引き継ごうと、ビルの外装レンガや「鷲と少女の像」等の彫刻類を再利用し低層部に外観を復元している。そして最新のビルスペックと融合しながら2013年2月に生まれ変わった。

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