東京スクエアガーデン

2013年6月取材

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記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

東京・京橋に誕生したワンフロア1000坪超の環境配慮型複合大規模オフィスビル

東京駅周辺に位置するビジネスエリアの一つ「京橋」に大規模オフィスビルが竣工した。このエリアでは希少なワンフロア面積1,048坪の広さを誇り、オフィスだけでなく、商業施設、子育て支援施設、医療施設、コンベンションホールなど、多様なビジネスサポート機能を備えているビルだ。
また、数々の新たな環境対策にも取り組んでいることでも注目されている。それでは「東京スクエアガーデン」の概要と特長について紹介していこう。

藤井顕司氏

東京建物株式会社
都市開発事業部
事業推進グループ

課長 藤井顕司氏

田邊秀治氏

東京建物株式会社
都市開発事業部
事業推進グループ

課長代理
田邊秀治氏

京橋の丘(全景)

京橋の丘(全景)

東京駅周辺エリアでも希少な広いワンフロア面積を誇るオフィスビル

東京スクエアガーデンの「スクエア」は、整形の敷地形状やフロアごとに積み重ねた正方形、「ガーデン」は、緑豊かな低層部を表現しており、それら外観の2つの特長を組み合わせたものが名称となっている。
基準階ワンフロア面積は約1,048坪。この広さは、東京駅周辺
エリアでも最大級で、さらに整形無柱空間のためフレキシブルにレイアウトを構築できるのが魅力だ。

「八重洲から京橋にかけてのエリアは、丸の内と比べると大規模ビルの供給が少ないエリアです。航空写真を見ると明白ですが、丸の内側は一つの区画が大きいことがわかります。それも一つの区画の中にビル1棟がまるまる建っているケースが多い。それに対して、八重洲・京橋エリアは、区画そのものが小さく、その小さい区画の中に複数のビルが建っています。ですから、このエリアで大規模ビルを建てるには、まずは敷地の一体化から始めなければなりません。もちろん時間をかけて周辺地権者の方々と調整していかなければならない。それが八重洲・京橋エリアでの開発の難しいところですね」(事業推進グループ藤井顕司氏)

11年におよぶ年月が、街区再編による開発計画の完成を可能にした

今回のプロジェクトは、6社での共同開発となっている。その始まりは、11年前にさかのぼる。

「当時、鍛冶橋通りに面した場所に3棟のビルが建っており、第一生命保険株式会社様、片倉工業株式会社様、清水地所株式会社様、ジェイアンドエス保険サービス株式会社様がその不動産を所有しておりました。その中の一部を当社が関連したSPCで取得したのがちょうど11年前になります」(藤井氏)

「その後、共同建替の検討が始まり、開発事業主6社およびプロジェクトマネジメント業務を受託している当社による区画一体の開発計画が現実的になりました」(同、田邊秀治氏)

都市計画の提案が平成21年10月。都市計画の決定告示が平成22年3月。工事の着手が22年9月末と開発が進められた。
そして、平成25年3月に無事竣工を迎え、同年4月18日に商業ゾーン「ショップ&レストラン」が開業した。

「ショップ&レストラン」は、ビルの地下1階から3階に全30店舗が出店。入居店舗に関しては、100店以上をリストアップして、その中から厳選して決めたという。さまざまなシーンを想定した店舗構成となっており、入居テナントの方々はもちろん、近隣エリアにお勤めの方、ショッピングに訪れた方たちに心地よい空間を提供する。

「老舗が多い土地柄というのも考慮して誘致する店舗を検討しました。その結果、日本料理店もあれば、有名なフレンチのお店もある。美食通の方が興味を持つお店もあれば、サラリーマンが楽しめるお店もある。多彩な店舗がバランス良くご出店いただけたと思います」(田邊氏)

江戸文化の中心だった京橋を、周辺一帯との連携でより一層アピールさせる

今回の再開発は、東京メトロ銀座線「京橋駅」駅上部分に誕生した。

「京橋と聞いて、具体的なエリアのイメージがわかない方もいらっしゃると思います。そういう意味では、日本橋や八重洲と違って色のついていないエリアといえるのではないでしょうか」(藤井氏)

「実際に歩いてみると、東京駅からものすごく近い。非常にポテンシャルの高い場所であるにもかかわらず、そういう認識が浸透していないエリアでした。ですからこの開発によって、京橋自体が注目されるのは、とてもうれしいことですね」(田邊氏)

京橋スクエアガーデンMAP

「京橋エリアは、その立地から東京駅前として八重洲とも一体のアピールが可能です。その意味合いでは、東京駅八重洲口の大屋根のある歩行者用デッキ「グランルーフ」の誕生は、八重洲・京橋エリアをアピールするいいタイミングになります」(田邊氏)

八重洲・京橋エリアは、丸の内エリアに比べるとこれまでは大型の開発が少なく、機能更新が進んでいない側面もあった。その一方で丸の内にはない京橋特有の面白さをアピールしていきたいという。

「実は京橋には、多くの骨董ギャラリーが集積しています。そのほか、この地には「東海道五十三次」で知られる歌川広重が住居を構え、剣術北辰一刀流の創始者である千葉周作の道場がありました。一般の方には意外と知られていないことですね」(藤井氏)

コラム1 経済・交通・文化の中心地だった「京橋」

その昔、この地(現在の首都高速道路の位置)には京橋川が流れており、川の上には橋が架けられていた。京橋の地名は、東海道を使って日本橋から京都に向かう際に、最初に渡る橋だったことに由来するという。当時は、川の水運を利用して野菜売り場が設けられていた。現在、土地の一角に「京橋大根河岸青物市場跡」の碑を確認することができる。そのほか、名奉行大岡越前守忠相が勤めた「北町奉行所跡」、「江戸歌舞伎発祥の地」、「煉瓦銀座の碑」などがあることでわかる通り、経済・文化の中心となっていた。

残念ながら、京橋川は第2次世界大戦後、瓦礫処理のために埋め立てられ、京橋は昭和34年に取り壊されている。

東京スクエアガーデン

【建物概要】

所在地 東京都中央区京橋3-1-1

構造 地上部鉄骨造、地下部鉄骨鉄筋コンクリート造、耐震構造

階数 地下4階・地上24階・塔屋2階

【貸室概要】

基準階面積 約3,465㎡(約1,048坪)

天井高 2,800mm(7階:3,300mm)

OAフロア 150mm

床荷重 500kg/㎡
(ヘビーデューティゾーン800kg/㎡)

コンセント容量 60VA/㎡

天井システム グリッド式システム天井(LED照明)

空調 エアハンドリングユニット方式

(50~100㎡単位でVAV制御)

【主な特長】

■ 集中制震システム
■ スポットネットワーク受電方式
■ ビル用非常用発電機
■ CASBEE最高ランク「S」相当
■ DBJ Green Building認証 最高ランク「プラチナ」

東京スクエアガーデン

立体的に緑化空間を見せるためのアイデアが100尺ラインの「京橋の丘」

5年前の都市計画の提案時には、色々な視点から建物機能や環境対策についての検討を重ねたという。

「開発の最重要課題は敷地の一体化でした。そして街区再編を行い二つの街区を統合。貫通道路や歩道状の空地を整備し、賑わいのある歩行者空間を創出したのです」(藤井氏)

当ビルは、都市再生特別措置法にもとづく都市再生緊急整備地域に属している。それにより開発者は、都市再生の趣旨を踏まえ、環境に配慮したビジネス拠点の構築を図ることが義務付けられる。その中で生まれたアイデアの一つが「京橋の丘」だった。

京橋の丘(3階)

京橋の丘(3階)



「今回の開発では、次世代を見据えた多面的な環境対策への取り組みが特長の一つになっています。その中で、大々的な『緑化』を行なおうと。ボリュームのある緑化空間を、どのように見せていくかということを考えた結果、『丘』というアイデアに行きついたわけです。緑のある一番上の層が5階になります。その高さが昔でいう建築線の100尺ライン、31mラインです。このラインまでを全て緑化する計画です。中央区はまだ31mラインに規制がありますので、街並みに対して周辺のビルが建っている高さまで緑で覆ってしまうというコンセプトでした」(藤井氏)

「たくさんの緑をつくりたいという思いはあるものの、その一方で限られた敷地の中で大きいビルもつくりたい。両方を併存させる中でどういったことができるかを考えたときに『丘』のアイデアが生まれました」(田邊氏)

そうして、今までこのエリアになかった約3,000㎡におよぶ緑化空間が誕生する。

「3階部分までは、一般の人でも自由に回遊できます。いわゆる公開空地です。ビルの銀座側、京橋側の両側にビルの外から利用できるエレベーターがあり、誰もが出入りできる開放された空間になっています」(田邊氏)

「京橋の丘」の誕生は、単に緑化空間を設けただけではない。東京都の海側の風を都心に向けて通す「風の道」計画。その風の通りも考慮してビルを設計しているため、ヒートアイランド対策に寄与したクールスポットの形成に一役買っている。

コラム2 東京都の「風の道」

東京都は10年後の東京の姿として、水と緑の回廊で包まれた美しい街の再生を目標に掲げている。お台場、晴海、築地、皇居、新宿御苑、明治神宮といった都内の大規模な緑地を、街路樹による緑のネットワークでつなぐ計画だ。このつながれた緑地帯は海からの風を都市の内部に導く「風の道」として機能させ、その緑地によって冷やされた風が、都心部のヒートアイランド現象を抑える効果をもたらす。

ヒートアイランド現象とは、人工排熱の増加、人工被覆の増加及び自然空間の喪失という都市における人工化の過剰な進展から生ずる、熱大気汚染であり、熱中症等の健康影響や二酸化炭素排出量の増加などの影響をもたらす環境問題である。(環境省「平成12年度ヒートアイランド現象の実態解析と対策のあり方について」より)

環境配慮の一番の特長は、ビル外側に設けられた1.8mのひさし

「京橋の丘」が、緑化という面で環境を配慮しているのに対し、もう一つの特長は省エネやCO2の削減という観点から見た環境への配慮だ。

「東京スクエアガーデンの一番大きな特長は、ビル外側に取り付けられた大きなひさしになります。このひさしは、外から見ると大きく伸びており特長的なデザインとなっていますが、執務室内から見る分には全然気になりません。ガラス張りの高層ビルでは足元が怖いという声をよく聞きますが、当ビルのひさしは1.8mもあるので足元の地上部は全然見えません。眺望を確保した中での安心感。そして日射の遮断を可能にします。窓周りの熱負荷を軽減する数値としてPALという指標があるのですが、その数値を見ると都内トップクラスのグレードとなっています」(藤井氏)

それ以外にも、太陽光発電や高効率熱源機器などの最先端の省CO2技術の導入、地域全体における省CO2化の推進に取り組む「京橋環境ステーション」の設置など、ビル単体に留まることのない広域的な環境改善に取り組んでいる。

本国の基準が関係しているのか、このような環境配慮に関しては外国企業も強い関心を持っており、国内企業も含めて竣工前から多くの問合せがあったという。

入居者や周辺地域の方々のためのビジネスサポート機能も充実

地下広場

地下広場



東京スクエアガーデンは、東京メトロ銀座線「京橋駅」直結。JR東京駅からも歩いてたったの6分。さらにビルから歩いてすぐ銀座に。さしずめ銀座0丁目といった位置にある。
京橋駅地下1階のビルとの直結部分は、地下広場として整備。開放的な空間で、ここは帰宅困難者の支援場所にもなるという。

「帰宅困難者の支援に関しては、東日本大震災の起こる前の提案でした。震災以降、より一層BCPや、防災に対するニーズが強まっており、今後もさらに強まると感じています」(田邊氏)

さらに周辺東京都の「風の道」地域の方々も含めたサポート機能として子育て支援施設と医療施設の誘致があげられる。

「このビルにテナントが全て入居した場合、7000人程度の就業が予測されます。それを想定して提案したのが、保育所と病院といったビジネスサポート機能でした」(藤井氏)

保育所については、最初の企画段階から提案をしていた。最近の待機児童の多さが注目されている中で、住宅街ではなく、あえてオフィス街に子供をあずける選択肢を用意したという。

オフィスフロア

オフィスフロア

「当初は、通勤電車で小さな子供を連れてくることが負担にならないかという議論もあったのですが、そのデメリットより、自分たちの近くにお子さんがいる安心感のほうが重要だというニーズも把握でき、計画を進めました。入居テナント以外にも、一般の方も使える施設ですので、周辺地域の方々もうまく利用していただきたいと思っています」(田邊氏)


基準階平面図


医療施設の誘致では、亀田総合病院が入居。専門外来のほか、日帰り人間ドックを中心とした健診を実施する。

「亀田総合病院は、千葉県鴨川市にあるのですが、国内初のJCI(非営利・非政府の国際的医療認証機関)を認定取得している医療機関です。国際的な基準を満たすのが非常に難しく、高度な医療技術を持っているため、海外から人間ドックを受けに来る方もいるそうです」(田邊氏)

保育所、医療施設のどちらもバイリンガルで対応する。今回の開発エリアは、総合特別区域法に基づく国際戦略総合特区(アジアヘッドクォーター特区)であることからエリア全体の国際競争力の向上が求められている。そのため、外資系企業の方々にとって働きやすいオフィスインフラの整備が必須となる。

そのほか、コンベンションホールを設置し、ビジネスをサポートする。ビルの5階に小会議室から大ホールまで用意。新製品発表会や展示館、パーティなど、用途に応じて使用できる多目的ホールとなっている。

今後もビル単体ではなく、周辺地域が一体となった街づくりをしていく

「今まで銀座に用事のある方は、銀座駅か有楽町駅を利用していたと思います。今回の開発を機に、これからは東京、八重洲、日本橋、京橋、銀座を一体とした回遊ゾーンとなっていけばうれしいですね」(田邊氏)

「街づくりは、ビル単体だけ考えていればいいというわけではありません。幸いにして八重洲から京橋にかけての一帯は、今後集中していくつもの再開発計画が控えていますので、地域全体で魅力ある街をつくっていきたいと思っています」(藤井氏)

地域が一体となって街づくりを行う。東京建物は、地元企業の一員としての思いが強い。それは、決してハード面だけの整備ではない。社員が参加する道路清掃は、その気持ちの表れであろう。また、本ビルには周辺エリアのCO2削減に少しでも貢献できるように、近隣の中小ビルオーナーの皆様を対象にした相談窓口を設けている。あまり知られてはいないが、さまざまな形で地域一体となった街の魅力づけ、地道な社会的活動を行っている。

「今までの京橋を知っている方が、久しぶりに京橋を訪れたとき、その変化に皆さんとても驚かれるそうです。また、地元の方々にも、新しい開発により街が活性化することに対して感謝の言葉を頂くことがあります。そうした驚きや喜びが人を引き付けるきっかけになると思っています。」(田邊氏)

「開発は、ビル単体だけではなく街全体の賑わいを考えてのこと。今後も、ビルの魅力と地域の魅力を融合した街づくりをしていきたいです」(藤井氏)

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