業界有数の知見者が参画するエキスパート・ネットワークを構築。
新規事業やM&Aに有識者の知見を活用

2018年5月取材

M&Aや新規事業に関するリサーチやアドバイザリーサービスを提供する株式会社ミーミル。最も価値がある情報は経験に裏打ちされた知見と考え、領域ごとの最高クラスの有識者をネットワーク化することでその知見活用を推進しています。2017年に開始したエキスパートリサーチサービスでは、そのような有識者のインテリジェンスを活用し、M&Aや新規事業創出のサポートを行う。2017年1月に創業した事業内容とサービスについてお話を伺った。

川口 荘史氏

株式会社ミーミル
代表取締役 川口 荘史氏

東京大学卒、東京大学大学院修了。UBS証券投資銀行本部に入社、M&Aおよびテクノロジーチームにて製薬業界、エネルギー業界、大手電機などの国内外のM&A、LBO案件などに従事する。その後、複数のベンチャーの創業に参画。ファイナンスや新規事業立ち上げに従事する。2017年1月、株式会社ミーミルを創業。同年、ユーザベース社の出資を受け、有識者の知見をM&Aや新規事業に活用するエキスパートネットワークサービス「エキスパートリサーチ」を提供開始。

新規事業やM&Aで感じた課題を解決できるサービスを

過去にはバイオ研究のほか、投資銀行でのM&A経験や、ベンチャー創業、新規事業創出などを経験してきた。

「実際にM&Aや新規事業立ち上げにおいては、情報の収集やその評価が非常に重要になっています。一方で、多様な情報の獲得経路の確保や、その情報の質の見極めが難しく、課題になっていました。専門的な知識がない業界について、意思決定に役立つ質の高い知見を得るにはどうすればいいのか。我々の事業によってこうした課題を解決することで、新規事業やM&Aにおいて質の高い意思決定が可能になると考えています」

加えて世の中の人材流動化の動きが活発になってきたことも起業を後押しした。

「流動化が高まり、パラレルワークやプロジェクト単位での働き方も増えつつあります。仕事の選択肢が増えている中で、誰もが自分のキャリアを見つめなおし、自分の持っているスキルや経験の市場価値を知りたい時代になっています。そうした背景がありながら有識者の知見共有の機会を増やすエキスパート・ネットワークの市場は海外に比べ国内では立ち上がっていない状況。今まさにこうした市場が拡大していくタイミングだと思います」

具体的には、業界での評価などに基づいたクローズドで高品質なエキスパート・ネットワークを構築し、インタビューやハンズオン支援によってエキスパートの知見やノウハウをプロジェクトごとに提供していく。提供先は、M&Aを軸に、新規事業、事業投資、海外進出、事業改革といった目的を持つコンサルティングファームやファンドが中心だが、大手企業からの直接の相談も増えてきているという。

「サービスの一つとして『エキスパートリサーチ』(https://expert-research-mimir.com/)を展開しています。事業担当者と有識者を電話、対面でのインタビューやレポートなど、さまざまな形式でおつなぎして価値のある知見を提供していくというものです。現在の主な対象分野は、ヘルスケア、医療・介護、AI、環境・資源エネルギー、食・農業、観光・地方再生など。最近では宇宙産業の有識者の特集なども行いました。(https://mimir-inc.biz/news/press/press_quality_expert_space_industry/)

こうした新規事業の対象として注目されているものから非常にニッチなものまで幅広いテーマをみていますが、お客様からのご要望にお応えする形で充実させていっています」

設立後1年間は独自のデータベースづくりに専念

設立後、経済情報サービスを提供する株式会社ユーザベースから出資を受けた。株式会社ユーザベースは経済情報のプラットフォーム『SPEEDA』やソーシャル経済メディア『NewsPicks』を運営。

「グループ会社のユーザベース社は、企業・業界分析を行うための情報プラットフォーム『SPEEDA』を提供しています。ミーミルのエキスパートリサーチは、有識者インタビューによる業界分析といえるので、サービスの親和性が高い。また、さまざまなバックグラウンドの有識者がニュースにコメントしていくことでいろんな切り口の示唆を与えてくれる『NewsPicks』とも考え方が近いといえます。ミーミル設立後1年間は、同社の事業も参考にしつつ、有識者の業界分布の把握や独自のデータベースづくりを中心に業務を行っていました。何をもって有識者とみなすかという点も含め、準備期間として、色々な業界の方々とお会いし、保有している知見の価値や評価の仕方、連携先からの推薦などエキスパートの獲得経路の把握や整理などに専念したのです」

ミーミルの有識者は、広く募集し誰でも登録できるということではなく、品質を保つためにあくまでもクローズの中で行われる。

「広告などによって広く応募者を収集するという方法は用いていません。なぜなら業界有識者といわれる方々は、必ずしも仕事や副業先を求めているというわけでもない。むしろ自分の知見が業界外の方々と接することでどういった価値が生まれるのかなどに興味を持っている。したがって誰でも登録できるようにするのではなく、推薦等でのエキスパート獲得に絞っています。手軽に人とつながったり情報を獲得していくこと自体は容易になりつつあります。ただ、難しいのが本当に質の高い情報や専門家を見極めること。まだまだ途上ですが、我々は事業の意思決定に役立つ質の高い情報を有する有識者の見極めと、その知見の価値を高めていくことにフォーカスしていきたいと考えています」

そして今後は、クライアントへの提供実績や自社でのインタビュー結果などを基に、「本当に価値ある知見を持っている」エキスパートの価値を高めていく仕組みを創ることを目指しているという。

まずは「情報の価値」を見出している企業での活用を拡大

グループ会社であるユーザベース社のクライアント層と同社のターゲット層は重なる部分も多い。

「提供しながら気づいたのですが、企業や担当者によって「情報の価値」の捉え方が大きく異なる。こうしたエキスパートネットワークサービスの利用企業はSPEEDAを活用していることが多い。つまり「知は力なり」を実践しているような情報リテラシーが高く、情報に価値を見出しそれらに積極投資をしている企業がクライアントとなります。コンサルティングファームや一部のファンドなどではこうしたインタビューでの情報獲得は日常的に行われています。他にも、企業調査レポートを購入したり、M&Aの際にビジネスDD(デューデリジェンス)に予算をかけている企業もあります。我々のクライアントでもあるこうした企業は、常に多様な情報獲得経路を求め、同時に質の高い情報を求めています」

将来的には、新しい情報活用の仕組みとしてより幅広い層に広がっていくことを想定しているという。

「情報に価値を感じてはいるが、そこまでの投資ができる体制にない、もしくは有識者に直接聞くという手法に慣れていない企業も多い。有識者へのインタビューを実際に利用してみてその価値を実感し、情報獲得手段の一つとして高頻度で活用されている企業もあります。プロジェクトなどのニーズが発生するごとにインタビュー依頼する企業や、学習用の時間を抑えて定期的にテーマ別のエキスパートの推薦を受けインタビューを行っている経営者もいます。今後は、こうしてインタビューを使いこなしていく企業や担当者が増えていくでしょう。より一般化が進めば、新規事業やM&Aに限らず事業活動をさまざまな形で支援していけると思います」

オフィスに求めるものは使い分けとスペースの効率性

川口氏がオフィスに求めるものは使い分けとスペースの効率性だと語る。

「我々のサービスでは自社の会議室でインタビューをすることも多く、人とお会いする機会が多いので、スペースの使い分けができるオフィスに魅力を感じています。コワーキングスペースと会議室スペース、執務スペースが容易に使い分けられること。そうした点を踏まえて、起業したばかりということもあり、今はサービスオフィスに魅力を感じていますね。

この1年でも、執務スペースを移転したり、部屋を追加したりしていますが、急に増員した場合でも広い部屋にすぐに移ることができる。そんな拡張性もサービスオフィスの利点の一つだと思っています。企業やサービスによって重視する部分が違ってきますので、自社の現状を把握したうえで検討するのがいいと思います。

また、コミュニティ形成においても場は一定の役割を果たすと考えています。ただ、場を作っただけでコミュニティができるというのは幻想で、スペースだけでは意味がない。ミーミルでは昨年から50-60名規模のイベントを定期的にやっていますが、開催場所としてさまざまなスペースを試しています、将来的にはそうしたコミュニティのためのスペースも確保するかもしれません。そうした課題や可能性を念頭において次のオフィスを考えたいと思っています」

※ 記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。