ゾーホージャパン株式会社

2017年8月取材

※ 記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

ソフトウエアは「工芸品」。より創造性を発揮できる古民家でのオフィスづくり。

2001年9月に外資100%子会社の日本法人として横浜市に誕生したゾーホージャパン株式会社。同社は創立15周年を迎えた2016年、「ITクラフトマンシップ」をコーポレートメッセージに掲げ、同年11月から約半年間の実証実験を経て、2017年4月より静岡県榛原郡川根本町にサテライトオフィスを開所しました。この「川根本町オフィス」で推進されているさまざまな取り組みについて、同社代表の迫 洋一郎氏にお話を伺いました。

satelite_zoho_01_linetouka.jpg

ゾーホージャパン株式会社
代表取締役社長

迫 洋一郎氏

「理念経営」をテーマに、財務基盤の立て直しと社内の意識改革を推進

ゾーホージャパン株式会社(旧アドベントネット株式会社)は、Zoho Corporation Pvt. Ltdの日本法人として2001年9月に設立されました。親会社は、1996年にアメリカのニュージャージー州で設立されたAdvent Network Managementを母体とし、2年後にカリフォルニア州シリコンバレー近郊のプレザントンに移転してAdventNet Inc.となります。2008年に現社名に変更、2011年からはインド第4の都市チェンナイへ本社機能を移転しています。

「親会社は世界125ヵ国に事業を展開し、ネットワーク管理システムである『WebNMS』、企業の情報システム部門向けの『ManageEngine』、一般部門向けの『Zoho』と、それぞれ約30種類のソフトウェア製品やクラウドサービスを提供しております。私たち日本法人では、ソフトウェア製品の販売、付帯するコンサルティングサービス、保守サービスの提供を行なっています」(迫 洋一郎氏)

アドベントネットの日本法人は、迫氏を含む3名でスタートしました。創業メンバー3名中2名が神奈川県在住だったことから、当初は横浜の小規模ビルの1室にオフィスを構えます。その後、横浜駅東口の築25年ほどのビルに移転しましたが、ここで東日本大震災に遭遇します。

「私は震災の年に代表に就任しましたが、この時期、日本法人は財務的にたいへん厳しい状況でした。そこで、2012年から『理念経営』をテーマに掲げ、財務基盤の立て直しと社内の意識改革を推進して、より良い会社を目指しました。会社が成長するのは当たり前ですが、それは"正しい"成長でなければならない。社会的意義があり、また、社会的弱者に向き合う経営ができている会社は、社会から受け入れられ、愛されています。そうなることが当社の使命であると考えています」(迫氏)

satelite_zoho_02_linetouka.jpg

テライトオフィスからの景観

実証実験を経てサテライトオフィスを開設し、コールセンター業務を開始

同社は2013年7月に現在のみなとみらい駅前へ本社を移し、さらに関内駅近郊に成長著しいZoho事業部門のオフィスを開設。そして2017年4月、国内第三の拠点として静岡県の川根本町にサテライトオフィスを開所しました。

「2016年5月、ある展示会をきっかけに静岡県庁の方と出会ったのが始まりでした。当社は理念経営の一環として、地方創生への参画を検討してきました。いくつかお話のあった中から2ヵ所に候補地を絞り、最終的に川根本町への進出を決定しました」(迫氏)

川根本町は当時、静岡県内でもっとも人口減少率の高い市町村と言われていました。これに危機感を抱いた町長は、町内全域に光ケーブルの敷設を実施した上で、住民と企業の誘致に取り組んできました。同社はこれを受けて、同年7月に現地視察を行ない、9月に親会社の承諾を取りつけ、11月から実証実験を開始したのです。

「これは、横浜本社から現地へ人を派遣し、本社と同じ仕事をストレスなくできるかの実証です。問題ないとわかったので、2017年1月には現地採用を行ない、4月23日に開所式を迎えました」(迫氏)

川根本町オフィスでは、同社の製品やサービスに関するユーザーサポートのうち、簡単な質問内容についてのみ対応するコールセンター業務を開始しました。より専門性の高い問い合わせについては、従来通り関内オフィスが対応することで、業務の効率化を図ることが期待できます。

「また、親会社の開発した製品を国内向けにローカライズしたり、Webサイトのページやマニュアルなどを翻訳したりする業務の拠点も、川根本町オフィスに置く予定です。それと、現地には今のところ寝泊りできる施設が温泉宿くらいしかないので、近隣に社員寮を設けて、寮でもサテライトオフィスでも仕事ができるように考えています」(迫氏)

なお、川根本町オフィスは元駐在所だった建物を改装したものですが、現地には空き家となっている古民家が多く、社員寮もこれらの古民家の利用を検討しています。

「当社の掲げる『ITクラフトマンシップ』とは、ソフトウェアは人間が想いを込めて作ったクラフト(=工芸品)だと考え、そのクラフトを、さらに使いやすくするために「おもてなしの心」で工夫し、洗練し、より良い製品を追求していくことです。その意味でも、都心のオフィスビルよりも田舎の古民家の方が、より優しさと創造性を発揮できると思います」(迫氏)

satelite_zoho_03_linetouka.jpg

サテライトオフィス内

土地の「人柄の良さ」が進出の決め手。地方創生のモデル都市を目指す

サテライトオフィスの人材採用に関しては、現地および近隣市町村在住者のほか、Iターン・Uターン希望の首都圏在住者も対象とし、社会的弱者の雇用なども想定しています。

「コールセンター業務については現地採用とし、3名面接し女性1名を採用しました。現在は、特にシングルマザーを対象に募集をかけています。採用活動の難しさは今後の課題となりそうです。その後、8月1日付で男性1名を翻訳・開発業務で採用しており、海外と国内での研修に参加した後、今秋から川根本町オフィス勤務となる予定となっています」(迫氏)

こうした幅広い採用方針を可能としているのが、同社の「スーパーフレックス制度」です。これは、朝7時~夜10時の間であれば、何時にスタートしても何時間働いてもOK、というもの。たとえば、子どもが急に熱を出したら、その日は在宅勤務に切り替えることも可能で、病院へ連れて行ったり、家事などの用事を済ませた後、配布されている専用のノートパソコンでZoho クラウドサービスの各種アプリを用いて自宅で仕事ができます。

「労働時間の管理については、『性善説』に基づいて自己申告としています。昨年度の平均残業時間は13時間。理念経営以降は、当社は右肩上がりの成長を続けておりますし、スーパーフレックス制度導入後、正しい成長を維持しクリエィティブな働き方にチャレンジしています」(迫氏)

なお、現地である静岡県榛原郡川根本町は、鉄道ファンの間では「SLの動態保存」で有名な大井川鐵道の千頭駅から徒歩約15分の距離にあります。同社にとってそれまで地縁のまったくなかった土地ですが、ここを選んだ理由として、迫氏は「人柄の良さ」を挙げています。

「どんなに通信環境が整備されていても、私たちは外からやってきた人間ですから、町の人たちが受け入れてくれなければやっていけません。私は鹿児島県の薩摩川内市の出身なのですが、この町の人たちと接する中で、どこか郷里の人たちにも似た、あたたかい雰囲気を感じたのが決め手になりました」(迫氏)

もちろん、川根本町には豊かな自然と良質の温泉、名産のお茶、本物のSLが走るなど、さまざまな魅力があります。しかし、それらは何もこの町だけにある特徴ではありません。

「以前、地方創生のプロから『それ、普通だよね』と言われてしまいました。その人は続けて、『ただし、ここにしかない特徴が一つある。それは、外資企業であるゾーホージャパンが進出したことだ』と言うんです。そこに化学反応が生まれるんだ、と」(迫氏)

現在、川根本町では「プロジェクトK」という町の活性化のためのグループが誕生し活動を開始しており、同社も積極的に関与しています。迫氏も、株式会社経営参謀の主催する経営セミナーなどに登壇し、川根本町の魅力やそこにオフィスを構える意味などを講演してきました。

「川根本町を地方創生のモデル都市に、と考えています。今後は、企業誘致に留まらず学校教育や観光客誘致など、さまざまな角度からこの土地を盛り上げて参ります」(迫氏)

satelite_zoho_04_linetouka.jpg

川根本町オフィス


\サテライトオフィス特集を一括で読む/

サテライトオフィス特集