エールフランス航空 / KLMオランダ航空

エールフランス航空 / KLMオランダ航空

2017年6月取材

※ 記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

効率的なスペースの活用計画が社員間の風通しを好転させた

ヨーロッパ最大級の航空会社となる「エールフランス航空 / KLMオランダ航空」。同社は2004年5月に、フランスとオランダを代表する2つの航空会社の経営統合により設立された。エールフランス航空での「日本-パリ間」は、羽田、成田、関西空港を合わせて週22便、一方、KLMオランダ航空での「日本-アムステルダム間」は成田、関西空港から週14便、合計週36便を運航している。日本支社では以前チケットカウンターを設けていたが、数年前に発券業務を終了。スペースの有効活用を目的に2016年9月にオフィス移転を実施した。今回の取材では、同社が抱えていたオフィスの課題と解決策、今後のオフィス像について語っていただいた。

プロジェクト担当

マタイン・ガイケマ氏

エールフランス航空 / KLMオランダ航空
日本・韓国・ニューカレドニア

マタイン・ガイケマ氏

エントランス全景

エントランス全景

はやわかりメモ

  1. 有効活用されていないスペースの改善を目的にオフィス移転を計画した
  2. 適正な面積、適正な賃料、そして便利なロケーション
  3. 新オフィスのコンセプトは社員同士のインターアクション
  4. 透明感、開放感、自由度。それらを組み合わせた理想的なオフィス
  5. 社員間のコミュニケーションが好転。今後も快適空間の維持がミッションとなる

有効活用されていないスペースの改善を目的にオフィス移転を計画した

世界114ヵ国381都市を網羅するネットワークを構築している「エールフランス航空 / KLMオランダ航空」。日本支社東京事務所の業務は「営業」「マーケティング&Eコマース」「貨物」「アドミニストレーション」の大きく4部門に分けられる。

ここに移る前は、営団地下鉄「青山一丁目」駅上の大規模オフィスビルに入居していた。120名の従業員で約1100㎡(+倉庫76㎡)を使用。交通アクセスの良い環境だった。

「数年前に航空券の発券業務が終了したにも関わらず、チケットカウンターのスペースが残されたままでした。その他にも有効活用されていないスペースがあり、効率の良いスペース計画を立てようと思ったのです」

「それに加えて、会議室が充分に用意されていませんでした。全社員に向けてセッションをするにもデスク付近を利用するしかありません。また、旧オフィスのレイアウトでは社員同士が自然にコミュニケーションをとる『場』もなかったのです」

旧オフィスは中央に社員の執務エリア、両窓際にマネジャー用の個室が配備されていた。レイアウトの構成上とはいえ、自分のチーム長の席が必ずしも近くにあるとは限らなかったという。

「その他、マーケティングイベント用の物品やIT関連の部品、法令などで管理を義務付けられている書類は、別途借りていた地下倉庫に保管していました。そのスペースに対するコストも軽視できないため、移転を機に書類の徹底的な見直しを行ったのです」

法的に保管義務が必要な書類に関しては、別途に収納スペースの調達を行い、使用予定のない文房具などの物品はカートン単位で施設に寄付。そして社内にあった絵画やレトロポスターなどは美術館や博物館に贈呈した。

適正な面積、適正な賃料、そして便利なロケーション

ガイケマ氏をプロジェクトリーダーとして移転ワーキンググループが結成されたのが2016年1月。メンバーは、各部門の社員から4名、IT部門から1名の計6名。毎週開催される定例会と日本支社上層部による決定機関による会議で進行を確認していった。

ワーキンググループ結成後、すぐに移転先ビルの検討に入る。新オフィスを探す際の必須条件は、「社員が通勤しやすく」「営業がクライアントビジットに便利なロケーション」「適正な賃料」「適正な面積」であること。そして先に述べた使用スペースの調整により、大幅な面積の削減の中で適正なオフィス面積を割り出した。

「新オフィスの面積は約650㎡。移転前に比べて半分程度の面積になりました。オフィスに関連するコストは、何と約5割ダウンとなっています」

新オフィスを探すにあたって立地に関してはそれほどのこだわりは無かったが、オフィスビル情報の提案やビル側との交渉が必要と考え、オフィス戦略の専門会社と連携を図る。

「三幸エステートさんには、2015年の大阪事務所の移転時にもお世話になったこともあり、今回も迷わずお声掛けしました。そして本国から来日した移転担当者に対して、物件の案内だけでなく市況情報やオフィストレンドなど、説得力のある説明をしていただいたのです。しかも本国の担当者に直接英語での説明でしたので、彼らも納得した上でスムーズに検討に入ることができました。また、契約して終わりではなく、入居後の現在まで、常に柔軟に親身になって相談に乗っていただいています。本当に依頼してよかったと思っています」

第一段階では土地勘のある旧オフィスの周辺だけでなく、水道橋近辺、西新宿、晴海といった広範囲にわたるエリアで検討が開始されたという。それから同社の条件や優先順位の中で絞り込んでいく。実際には書類の段階で絞り込んだ8棟のビルを見学した。

「8棟のビルを見学後、さらに6棟に絞り込みました。そしてビル見学ビジットごとに異なったデザイン会社の担当者にも同行をお願いし、専門家としての意見も参考にしました。最終的には、本国から来日したオフィス移転のスペシャリストによる候補ビルの見学。その中から、一番バランス良く私たちのニーズを満たしていたビルを選んだのです」

オフィスデザイン会社は、当社の考えを理解している会社をピックアップ。それら数社の中からデザインコンペを実施した。結果として、同社の他の拠点を担当したことがあるオランダのデザイン会社に依頼することに決まった。

「当社の考えるモダンなイメージと提案いただいたデザイン案がとてもマッチしていたのが選考理由です。数々の要望をとてもスタイリッシュに表現していただきました」

新オフィスのコンセプトは社員同士のインターアクション

新オフィスのコンセプトは、「社員同士のインターアクションが自然にできる空間」だと語る。

「社内コミュニケーションの一環として移転プロジェクトの進捗状況だけでなく、その時点のアクションプランも週1回配信していきました。そしてオフィスに勤務する社員全員の参加プロジェクトだということを意識してもらったのです」

並行してデザイン会社によるアンケートも実施する。どんな些細なことでもいいからと、社員からの要望や意見を集めた。

「全社員を対象にオフィス環境や設備・機能についてのアンケートを行いました。目的は全社員の要望を考慮しながら当社のオフィスイメージを具現化するためです。Webでのアンケート方式で3日間の実施期間ではありましたが、回答率はとても良かったですね。社員の興味の高さを実感しました」

「会議室不足」「社員が自由に交流できるエリアの新設」といったオフィス機能に対する要望から、「椅子の座り心地」や「照明」「ノイズ」といった環境面に対する問題点まで意見が寄せられたという。

それらの回答をデザイン会社に伝える。漠然とした内容ではあったが、丁寧にこちらの希望や問題点を引き出していただき、一つひとつ理解したうえでデザイン会社がレイアウトプランを提案する。いくつもの案からイメージの近いものを選び、少しずつブラッシュアップさせていく。そんな地道な作業が繰り返された。

デザイン案が固まると、オフィスの内装工事が急ピッチで行われる。そして予定していた9月末に遅れることなく引越しを完了させることができた。ビル探しと平行してオフィスデザインのコンセプトを詰めていたのが功を奏したといえる。また、今回のプロジェクトマネジャーを担当したガイケマ氏であるが、過去にも他地域でオフィス移転を何度も担当した経験を持つ。それも本プロジェクトがスムーズに進行した要因といえる。

「当社の場合、航空会社ならではのIT事情が特殊なため、準備や手配などすべてにおいて本国との調整が必要になります。しかし、今回のオフィスはチケットカウンターの設置がなく、一般のお客様が訪れることがありません。そのためコーポレートブランディングや使用カラーなど、従うべきスタンダードが緩和されたのも救いでした」

透明感、開放感、自由度。それらを組み合わせた理想的なオフィス

同社が考えるモダンなイメージとそれをスタイリッシュに具現化したオフィスは、来訪者からの評価も高いと聞く。それではオフィス内部を順番に紹介していこう。

エレベーターを降りると機内から見た富士山の写真が壁一面に広がる。ヨーロッパと日本をつなぐイメージとして、同社社員の撮影データを元につくられたという。そして入口のガラス扉を開けると、最初に正面に見える光景がカフェスペースとなる。

「ここだけ見るととても航空会社のオフィスには見えないでしょう。そんなギャップの効果も狙っています。根底にあるのはリラックスできるための優しい色合い。ですから配置している家具も木目調のものが中心になっています」

カフェスペースでは、自然発生的に社員が集まるマグネット効果に期待がかけられている。使い方も、コーヒーブレイク、ランチ、ノートPCを持ち寄っての打合せと多岐にわたる。置かれているハイチェアやデスクはセミオーダーメイド。座った時の目線の高さにこだわってつくられた。天井には収納型スクリーンとプロジェクタを装備。いつでもプレゼンテーションを可能にする。このカフェを中心にワーキングスペースが左右に展開されるというレイアウト構成だ。

「中央にカフェスペースを設けたことで、左右の社員同士の交流をしやすくしました。内部の動線を変えたことにより、社員同士のコミュニケーションは間違いなく増えていますね。カフェスペースが木目基調のデザインに対して、執務室は白を基調にモダンな素材を使用。あえて異なった素材にすることで、変化のある空間づくりができたと思っています」

カフェの右側に配置されているのが大会議室となる。大会議室のガラス壁は可動式となっており、カフェとつなげてホールとして使用することが可能だ。全社員向けのセッションやお客様を交えたパーティなどを行っている。パーティや本社のトップマネジャーが来日して行うスピーチセッションは年に数回開催されているという。各会議室の名称は各国の都市名が付けられ、ちなみにこの大会議室の名前はフランス南西部の都市「ボルドー」。これも社員からのアイデアによるものだ。

「欧米人は身長が高いため、このオフィスでは天井に圧迫感がありました。そこで天井板を取り外し、開放感のある空間づくりを心がけたのです。会議室をすべてガラス張りにしたのは、透明感を出してオフィス全体を明るく演出するのが目的です」

エレベーターホールの壁

エレベーターホールの壁

カフェスペース

カフェスペース

ハイチェアとデスク

ハイチェアとデスク

大会議室

大会議室

大会議室を抜けると、そこは営業部隊のエリアとなる。フリーアドレスとなっており、外出先から戻ると空いている席で事務作業を行う。その横には個室ブースが用意されている。

「この個室ブースは、両サイド合わせて4室用意しています。予約無しで使用できるということもあり、使用頻度はかなり高いですね。以前のオフィスには無かったもので、集中作業やTV電話会議などで多くの社員が使用しています。電話についてはどこからでも自由にかけられるように一部の部署を除きPHS端末に切り替えました」

その奥には、営業関連部門のエリアがある。日本支社長もこのエリアに席を設けている。以前はもう少し広い個室が用意されていたが、移転を機にフラットな構成に変わった。

「マネジャーの個室スペースをつくらず、社員と机を並べることでチームメンバーとの距離感を縮めることができました。様々なレベルでコミュニケーションが取りやすくなりましたね」

今回のレイアウトの特長は、フリースペース部分の広さにある。個々のデスクサイズを小さくし、その分フリーの共有スペースの割合を多くした。用意した席数は社員数の倍以上になる。

「社員数76名に対して、席数は会議室も含めて130席を用意しています。そして今回のオフィスでは椅子が重要な役割になると考えて、数社の什器メーカーから見本を取り寄せました。社員の座り心地のアンケート結果をベースに採用する椅子を決めたのです」

その他、個々の床置きのゴミ箱も撤去。徹底的にスペースの有効活用にこだわった。

「各デスクに小さいマグネット式のゴミ入れを設置しました。個々のゴミが貯まると、カフェスペースにある大きなゴミ箱に捨てに行く。そこで起こりうる偶発的なコミュニケーション効果に期待しています。また、それによりゴミ削減の意識が高まり、自然な流れの中でペーパーレス化も進んだように感じますね」

フリースペース部分には、デニーズと名付けたファミレス風のミーティング席を2席設けた。1席に6人が座ることができ、ここも予約不要で使用できる機能の一つとなる。

「座席の内部には、人数分の緊急災害セットを収容しています。こうした効率的なスペースの使い方も、今回のオフィスの特長となっています」

そしてミーティングルームの仕切り壁も特長的だ。それは本国のファシリティ担当者は、自然の光をとても大事にしているからだという。

「壁はすべて透明性のガラスを使用しています。新オフィスは窓も多く自然光が多く差し込む形状になっていますので、その点も理想的なビルを探したといえるでしょう」

営業エリア

営業エリア

個室ブース

個室ブース

アドミニストレーション・貨物部門エリア

アドミニストレーション・貨物部門エリア

ファミレス風のミーティング席

ファミレス風のミーティング席

シートに収容された緊急災害セット

シートに収容された緊急災害セット

社員間のコミュニケーションが好転。今後も快適空間の維持がミッションとなる

新オフィスは開放的な空間を目指す。そのために机上のパーテーションさえも撤去した。

「旧オフィスでは高さ30センチ程度のパーテーションをデスクに設置していましたが、移転を機に思い切って取り外しました。機密書類の扱いなどを考えてパーテーションの必要性を唱える意見もありましたが、あえて社員間の風通しを優先したのです。想定していなかった効果として、社員全員が机上の整理整頓を心がけるようになったことがあげられます。おかげで移転後半年以上経過するのですが、入居直後の綺麗さがそのまま残っていますね」

移転により、間違いなく業務効率も向上し、生産性にもプラスの影響を与えている。

「快適な空の旅で皆様を世界へお連れするのが私たちのミッションです。そのためには、社員にも風通しの良い快適な空間を維持することが大事なことだと思っています。今後もオフィス環境についての社員の意見はできるだけ採り入れていきたいと考えています」