アビームコンサルティング株式会社

2014年2月取材

アビームコンサルティング株式会社

※ 記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

わずか4ヵ月で完成させた3,000坪の移転は 多様なプラスの効果を生んだプロジェクトになった

1981年の会社創設以来、日本発のグローバルコンサルティングファームとして事業拡大を続けているアビームコンサルティング株式会社。2013年8月に都内5ヵ所に分散していたオフィスの統合移転を完成させた。今回はその移転プロジェクトのメンバーである総務部のお二人にお話を伺った。

プロジェクト担当
津田弘毅氏

アビームコンサルティング株式会社
総務部マネージャー

津田弘毅氏

川端美佳氏

アビームコンサルティング株式会社
総務部

川端美佳氏

7,000冊の蔵書を閲覧できる27階ライブラリー

7,000冊の蔵書を閲覧できる26階ライブラリー

はやわかりメモ

  1. 都内5ヵ所に分散していたオフィスに、コミュニケーションの不便さを感じていた
  2. タイミングで決まった移転。そして決定された移転日に向けて一つずつ内容を詰めていく
  3. 移転概要の社内報告を目的としたメールマガジンの配信を実施する
  4. 偶発的にコミュニケーションが生まれるための仕掛けと工夫が詰まった新オフィス
  5. 移転から1年。多様なプラスの移転効果が生まれる

都内5ヵ所に分散していたオフィスにコミュニケーションの不便さを感じていた

「移転前は有楽町駅前のビルに本社機能として3,000坪、それに加えて、その近辺である日比谷や勝どきにオフィスが分散していました。事業部ごとに分けられているとはいえ、不便さを感じていたのは事実です」(津田弘毅氏

分散しているオフィスを一つに統合する。その効果として "コミュニケーションの向上"に期待したという。

「もちろん統合するわけですから使用面積の縮小やそれに伴ったランニングコストの減少というのは結果としてついてくることもあるでしょう。しかし我々が一番期待した効果はコミュニケーションのスピードを上げることだったのです」(津田氏

「実際に顔をあわせて会議を行う必要がある場合、そこに行くまでの移動時間が無駄に感じていました。勝どきのビルに入居している事業部と打ち合わせをする場合、バスを使って移動します。それが最短の交通手段なのですが、それでも30分はかかってしまいます。日比谷オフィスの場合も同様で、有楽町まで歩いて10分くらいは必要です」(川端美佳氏

「また、直接会えない場合は、どうしても電話やメールで連絡をすることになります。やはり顔を見ながら話すのと相手の顔が見えないのとでは伝わり方が変わってきますよね。仮に、遠隔会議システムなどのI T技術がいかに発達したとしても、直接対面してのコミュニケーションに勝るものはないと思います」(川端氏

タイミングで決まった移転。
そして決定された移転日に向けて一つずつ内容を詰めていく

実は今回の移転はこれだけのの大掛かりな計画であるにもかかわらず、時間をかけて準備をしたわけではない。移転後のビル、移転日が決められたあとで、詳細のスケジュールを組み立てた珍しいケースとなった。

「もともと今までオフィスが入居していたエリアは再開発の計画もあり、いずれ移転しなければならないと思っていました。しかしエリアの変更までは考えていない。そこで本社がある有楽町の近辺で大きな面積を確保できるビルの情報を待っていたのです。そんな中、タイミングよく新築ビルの竣工情報を聞き、早速に見学。経営陣の判断でここのビルに2013年8月に移ることの検討が始まりました」(津田氏

「ちょうど2012年12月のことでした。社外はもちろん社員にもまだ公表できません。秘密裏で、直ぐに移転費用の算出やランニングコストの試算、資産管理などを行いました」(川端氏

2013年1月には数字の集計を済ませ、社内的な手続きを経て、2月に具体的な行動スケジュールの立案を行い、各事業部から検討メンバーを選出。移転の準備は急ピッチで進められた。

「実質のスタートは3月で、ゴールは8月初め。約3,000坪の大型移転をわずか4ヵ月強で行わなくてはならない。移転日は遅らせることができない。そんな状況でした」(津田氏

最初のステップとして、オフィスへの要望や課題のまとめに着手する。そのために移転プロジェクトメンバーとブレーンストーミングを中心とした定期ミーティングを実施。そこで出た意見を会議で報告、相談するといった流れをつくった。役職関係なく色々な層からの意見や考えを収集できたという。
その後、まだ漠然とした内容ではあったが社員からの意見も踏まえ、提案資料としてまとめた。

「あらためて見直してみるとコミュニケーションという言葉がよく出てきますよね。当社の場合、プロジェクト単位で行動することが多いためチームワークが非常に重要になってきます。それだけに誰もがチーム力を最大限に発揮できるようなオフィスの構築を求めていたのでしょう」(津田氏

4月上旬に、作成した資料をもとにしたレイアウトプランの提出を依頼する。

「今回デザイン会社4社に声をかけさせていただきコンペを行いました。幸いにコスト面は各社とも近い金額だったため、純粋にデザイン力だけで判断することができました。コンペ参加メンバーに各社の提案について意見をもらい、一旦総務部で集計。最後は経営判断としました。そうして決定した1社と具体的な検討を進めていくことになったのです」(津田氏

「自動扉や空調システムなどの工事は時間を要するため、早く決断しなければなりません。一方、家具や什器は在庫さえ確保できれば直前でも間に合います。全体のスケジュールに関わってくることでもあるので、まずは優先順位を明確にすることが必要でした」(津田氏

「デザイン会社決定後は、関係各社集まっての全体会議を毎週定期的に行いました。総務部のメンバーは基本全員参加。それ以外にプロジェクトマネジメントをお願いしたデザイン会社、工事会社、セキュリティの専門会社など、総勢30人近い人数が一同に毎回集まったのです」(川端氏

全体会議は引越し直前の7月まで実施されていたという。そうして無事に遅れることなく工事は完了を迎えた。

移転概要の社内報告を目的としたメールマガジンの配信を実施する

東京エリアのオフィス集約という大規模な移転計画のため、総務部として計画の進捗状況を社員に報告する必要があった。社内向けのメールマガジン「永楽ニュース」がその役割を担うことになる。

「メルマガを月1回の頻度で配信しました。もともとは周囲からの発案によるものだったのですが。新たに導入予定の『会議予約システム』、執務室数箇所に設置する『デジタルサイネージ』、規模を大きくした『ライブラリー』など、写真を盛り込みながら紙面づくりを行いました。また、読みやすくするために口語調の文体にするなどの工夫もしています。結果としてかなりの方に興味を持って読んでもらえたようです」(川端氏

偶発的にコミュニケーションが生まれるための仕掛けと工夫が詰まった新オフィス

移転前のオフィスの総面積が約5,000坪に対し、移転後は約3,000坪。かなりの面積を削減したように見えるが、実はそうでもない。以前は使っていなかった無駄なスペースも存在しており、オフィスを見直すいい機会だったという。今回入居したのは24階~26階だが、どのフロアも余裕を持たせたレイアウトになっている。
それでは新オフィスのポイントについて触れていこう。
24階は、受付、バックオフィス、プロジェクトルーム、会議室を備えたフロアとなっている。来客エリアには、少人数用から大人数用まで全部で15部屋。社内用の会議室全てに設置したプロジェクタも新たに追加された機能の一つだ。

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受付エリア

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左側に見えるのはプレゼンテーションルーム

「コンサルタントの会議はたくさんの文字や図を書きながら進行しています。とにかく書く量がとても多い。そのため、以前使っていたホワイトボードを廃止し、壁一面に文字が書けるように変更しました」(津田氏

「会議室の稼働率は非常に高く、足りないくらいです。8~10名で使用する会議室の頻度が一番多いですね」(津田氏

そのほかの特長として「会議室予約システム」を導入したことがあげられる。それによって効率的な会議室の使用を可能にした。

「予約システムは、Outlookとの連携ということもあり誰でも簡単に使いこなしているようです。Outlookで予約すると会議室前のディスプレイに会議名や予約者が表示される。予約時間が来ても開始ボタンが押されなければ15分後に予約がリリースされてしまいます。以前のオフィスでは『仮予約が入っているが時間通りに開始されていない』といったクレームも多く見受けられましたので使い方を徹底するようにしました」(川端氏

「実際に、会議室の使用状況を分析してみますと約20%の予約が未使用でした。それが解消され効率的に会議室の使用ができるので、社員からも好評です」(津田氏

25階は執務室と研修センター。多くのコンサルタントがこのフロアに在席する。

「執務室はスペース効率を考えたレイアウトにしています。大半がクライアント先に出向いて業務を行っている社員のため基本はフリーアドレスにしています。そのほか、クライアント向けシステムの導入後の保守・運用業務等を行う部署は固定席となっています」(津田氏

「自席周りで変えた部分として、パーテーションの取り外しがあります。今回のオフィスではコミュ二ケーションがテーマになっていますので、できるだけオープンにしようと。そこで思い切って取り外しました。現場からは周りが見渡せるので声を掛けやすくなったという意見があがってきています」(川端氏

「そのほか、執務室内のゴミ箱を撤去しました。今までは自席の近くにかなりの数が置いてありましたが、今はフロア内に2ヵ所。ゴミ捨てへの行き帰りの動線の中で新たなコミュニケーションが生まれることも期待しています」(津田氏

偶発的に生まれるコミュニケーションの重要さはあらためて感じると語る。そして26階が執務室とコミュニケーションスペースとなっている。26階のエレベーターを降り、オフィスに入るとその右側が執務エリアだ。執務エリア内はコンサルタントのフリーアドレス席以外に役員や事業部長の個室がレイアウトされている。

「窓際の見晴らしのいい場所には、少人数用のミーティングスペースを設置しています。簡単な打ち合わせでしたらここで十分ですし、わざわざ予約する必要もありません」(川端氏

受付横の打合せエリア
受付横の打合せエリア受付横の打合せエリア。眺望も良く人気が高いエリアとなっている

一方、オフィスの左側にはコミュニケーションスペースがあり、その中にはライブラリーとサービスカウンターが設置されている。

「ここは大きく改善した部分です。コンサルタントは知識や情報を常に得ていかなければなりません。そういった情報を集約した場所がライブラリーなのです。個人や部署で購入した書籍などはライブラリーで保管し、閲覧できます。閲覧できる書籍や資料は印刷物、CD-ROMとさまざまですね。現時点で7,000冊の蔵書となっています」(津田氏

「設置と同時に貸出システムも導入しました。手続きはカウンターで社員証を提示するだけ。PC上でも24時間、資料の検索や予約が可能です。ライブラリー管理者として、業務委託契約を結んで専門スタッフの方に日常の運営をしてもらっています」(川端氏

「コミュニケーションスペースの中にはサービスカウンターもあります。当社のコンシェルジュみたいなものです。PCのヘルプデスク、メールや書類の受け渡し、総務への質問、文具の手配など、全てここで完結できます。」(川端氏

ライブラリーの先には、24時間使用可能なコミュニケーションスペースが設けられている。打ち合わせをしてもいいし、一人で資料を読み込む場所に使ってもいい。昼時は食事にも使えるインタラクティブなスペースだ。

「以前のオフィスエリアに比べてランチのお店が限られてしまいました。外に食べに行くと他の企業の方たちとピーク時間が重なってしまう。そんな昼時の混雑を考えて、毎日お弁当の販売を行っています。このスペースで食べることもでき、結構利用者は多いですね。毎日200食程度が完売しています」(川端氏

手続きを行う27階カウンター

手続きを行う26階サービスカウンター。コンシェルジュの役割を果たす

24時間使用できるコミュニケーションスペース

コミュニケーションスペースは毎日多くの社員が訪れる場所である

移転から1年。多様なプラスの移転効果が生まれる

移転から1年近くが経過した。その中で、いくつものプラスの効果を実感しているという。

「一つのビルに統合したおかげで、社員と頻繁に顔を合わせることができるようになりました。間違いなくコミュニケーションが増えた。それがたった一言の挨拶だとしても、顔を合わせられるからできることです。単純ですが一番実感している点ですね」(津田氏

「確かに今まで分散されていましたから、名前は知っているけど顔はわからないということもありました。統合してからそれがなくなりましたね」(川端氏

「また、離れているところとはメールや電話でのアクションとなるのですが、どうしてもワンテンポ遅くなってしまう。その点、時間効率も良くなっていると思います」(川端氏

そのほか、エリア立地の面からも大きなメリットを生んでいる。

「交通の利便性が大きく向上しました。当社の社員は出張が多いため新幹線の駅が近くにあるのはいいですね。またお客様のもとに伺う時もJR東京駅は複数の路線とアクセスしていますからどこに行くのも便利になりました。さらに丸の内という日本有数のオフィス街へ変わったわけですから、今後リクルート活動にも効果が出てくると思います」(津田氏

訪問する側だけではなく、来客数にも変化が表れた。綺麗になったオフィスを多くのお客様に見せたい意識があるのか、気軽に立ち寄ってもらうことが多くなったという。社員のモチベーションアップにもつながっているようだ。

「そのほか社員の意識も大きく変わりましたね。今まで以上にドレスコードを意識して身なりに注意を払う社員が増えたように思います。それは、誰に言われたとかでなく、あくまでも自主的にです。丸の内という街の雰囲気や周囲の企業で働いている方、同僚たちの行動。周りを見て自分も身なりを整えようと感じるのでしょう。これは大事なことだと思います」(川端氏

「日本を代表するハイクラスビルが集積しているエリアに移転しました。当然賃料も安くはない。それでも、多様なプラスの効果があり、この移転は成功だったと自信を持って言えます」(津田氏