株式会社BANDAI SPIRITS

2019年3月取材

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※ 記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

ホビーエンターテインメント企業が仕掛けた
オフィスデザインによる働き方改革

「夢・遊び・感動 世界で最も期待されるエンターテインメント企業グループ」を企業理念とするバンダイナムコグループ。2018年4月から新たな中期計画をスタートさせた。その目的は、従来のビジネスモデルや常識にこだわることなく、挑戦・成長・進化をし続け、次のステージに向けてCHANGEを図ることにある。その達成に向けた1つとして株式会社BANDAI SPIRITSが誕生した。今回の取材では、新会社設立の背景や統合移転、新オフィスのポイントなどについてお話をお聞きした。

川瀬 達也 氏

株式会社BANDAI SPIRITS
総務部 総務チーム

川瀬 達也 氏

フリースペース

フリースペース

Contents

  1. グループ会社のハイターゲット事業を統合してBANDAI SPRITSが誕生した
  2. 4つの拠点を一気に集結。物理的に効率的な動きになった
  3. 社員の姿を思い浮かべながら使いやすさの検証を重ねていった
  4. 新会社の事業内容を考えてエントランスデザインにはこだわった
  5. オフィスの構築を通して自社の働き方改革を目指す

グループ会社のハイターゲット事業を統合してBANDAI SPRITSが誕生した

株式会社バンダイ(創業当時:株式会社萬代屋)は、1950年7月の創業以来、一貫してトイホビーを提供してきた。そしてキャラクター商品としての知的財産(IP:Intellectual Property)を日本発信で行いグローバルビジネスでの拡大に向けて走り続けてきた。

その後、2005年5月に株式会社バンダイと株式会社ナムコが経営統合を発表。同年9月に株式会社バンダイナムコホールディングスが設立された。以降、積極的な海外展開(現在12ヵ国)を行い、海外向けのビジネスを推し進めている。近年では、日本国内のキャラクターが世界中で人気を呼んでいることもあり、世界中の人々に『夢・遊び・感動』を提供している。

2018年4月、バンダイナムコグループは新たな中期計画をスタートさせた。トイホビーユニットの主幹会社であるバンダイは、今後、ワールドワイドでのハイターゲット事業の成長を目的に、主にハイターゲット向けに事業展開している部門を統合する。それにより株式会社BANDAI SPIRITSが誕生した。

「まずは、2018年2月に株式会社バンダイが行っていたハイターゲット向けフィギュアや超合金、プラモデルを企画開発する部門と、株式会社バンプレストが行っていたコンビニエンスストアや書店向け専用景品などの企画開発部門との事業部統合になります。ターゲット層を明確にして共に一つの事業として展開することでイノベーションの幅が広がるのではと考えたのです。さらに2019年4月には、アミューズメント施設向け専用景品などを展開する株式会社バンプレストと合併することで、ハイターゲットにこだわることなく、子供のころからのバンダイホビー世代、歴女や戦国女子といった女性層、深夜アニメの視聴者やイベントの参加率の高い若年層など、さまざまなお客様にハイスペックの商品をラインナップしていこうと考えています」

4つの拠点を一気に集結。物理的に効率的な動きになった

新会社設立後、すぐにオフィスの統合が出来なかったため、しばらくは台東区のバンダイ本社内、港区に立地するバンダイナムコ未来研究所内など、数拠点に分散したまま業務を続けていた。

「もともとバンダイナムコ未来研究所の中にバンダイナムコホールディングスが入居していました。その近くに新会社を構えるのが相応しいということで2018年1月に現オフィスビルが竣工した時点でいち早く空室フロアを確保していたようです。ホールディングスに近いほうが何かと便利ですし、移動にかかる時間やコストも削減できる。ここを移転場所に選んだのは正しい選択だったと思います」

分散していたオフィスが1ヵ所にまとまっただけで業務はだいぶ効率化されたと語る。新オフィスはJR線、都営地下鉄2線が使用できるアクセス良好な立地に建てられた大規模ビルの7フロアを使用する。ほぼ正方形のレイアウトしやすい形状も魅力的だった。

社員の姿を思い浮かべながら使いやすさの検証を重ねていった

「私が正式にBANDAI SPIRITSの総務担当となったのは2018年4月のことです。それまではグループ会社の一つである株式会社バンプレストの総務でオフィス移転やレイアウト変更を担当してきました。短い周期でかなりの数のレイアウト変更を手掛けたことはありますが、今回のようないくつもの拠点を一つに統合させる経験は初めてのことでした」

担当を任命された4月の時点ですでに内装デザインの工程会議は始まっていた。その時点で、9月1日から新オフィスで全員が業務を開始すること、賃借した6階から12階を事業部ごとにフロアで分けることが決定されていた。

「約400名を一斉に移動させるかなりタイトなプロジェクトでした。社内調整を私の上司が行い、主に私がプロジェクト全般の現場作業を担当しました。今までと違う文化を持つ企業同士の集積ですからスムーズに進まないこともありました。実際に行った業務も広範囲に。ざっと思い浮かべるだけでも、家具・什器の廃棄計画、新規調達、オフィス収納に合わせた書類廃棄指示、社員に対する説明資料の作成、内装デザイン計画の策定、プレスリリースの配信準備、社内印刷物の変更、関係官庁への届け出、荷物の梱包手配、搬出・搬入計画、引越し後の確認など、本当に多岐にわたりました」

ある程度のオフィスレイアウトが確定していた。しかし実際に打合せを重ねる中で多くの変更点が見つかったという。

「当初のレイアウトでオフィスを使っている社員の姿を思い浮かべてみたんです。そうすると当社の文化や社風とはかけ離れている部分があって。このままスタートさせてしまったら遅かれ早かれ改修する時間や費用をかけることになります。それだけは避けなければと。そうしてデザイナーさんと何度も顔を突き合わせて、意見交換をしながら少しずつ進めていきました」

ある程度のレイアウトデザインを確定させて内装工事に入る。家具・什器の選定や細かい備品まで、一つひとつ確認していった。そうして新オフィスへの移動となる。引越し作業は8月の3週間を使ってフロアごとに順次行われた。

新会社の事業内容を考えてエントランスデザインにはこだわった

それでは新オフィスの特長的な部分を紹介していこう。

「6階には2つのホールとサンプルルーム、3Dプリンタを置いた加工ルーム、そしてグループ会社といった配置になっています。2つのホールは可動式の壁で仕切られ、壁を移動させることで300人超を収容できる大ホールに変わります。当社は事業部ごとに集まるという文化があり、かなり使用頻度は高いですね」

ホール

ホール

ホール内部

ホール内部

7階がエントランスと会議エリアとなる。

「このフロアのコンセプトやデザインイメージはかなり自由な発想でつくることができました。新会社はハイスペックの商品を提供する会社ですから、今までのバンダイナムコグループのポップな色合いではなくシックであるべきと考えたのです。ですから黒を基調色としています」

デザイン会社には、オフィスが入居するビル名に合わせて「基地」のイメージで構築するように依頼したという。

「エントランスには数々の商品が分かるようにショーウインドウを設けました。当初、さらなるグローバル化を意識して大きな地球儀を置く案もあったのですが、もっと新しい視点からのワンポイントにしたくて。考えた末、プロジェクションマッピングを使用して近未来的な映像を映すことにしました」

あくまでも目指すのは訪問いただいたお客様に感動を与えること。それが新たにグループ全体で掲げたビジョン「突き破り創り出せ! そして世界を "あっ" といわせよう!」に通じると考えたという。

「新しいエントランスの情報がどんどん独り歩きしていき一般の方に波及していきました。当社を訪れた方々からも高い評価をいただいています」

例えば日本を代表するロボットアニメ「機動戦士ガンダム」などのプラモデルのボックスアートを手掛ける天神英貴氏が、このエントランスに魅せられてツイッターにアップしたところ、実に420万回(2018年3月現在)の再生数となった。それを見た媒体各社の記者からの取材も増え、立派な広告効果を生み出している。

特長的なプロジェクションマッピングの扉を抜けるとフリースペースが広がる。

「企画当初は社員のための多目的エリアとして考えていたのですが、最終的に社内外問わず自由に打ち合わせできるオープンなスペースにすることにしました。もちろん社外秘の内容もありますのでクローズの部屋も15室用意しています。それらは全て予約制で宇宙船の内部を意識したデザインにし、使用人数に応じて大・中・小のサイズを使い分けられるようにしました」

設計当時はモニターだけで会議をするルールになりかけたという。途中の段階でさすがに現状の働き方では無理があるとホワイトボードを急遽購入した。また、お客様への接客対応としてペットボトルの提供を考えていたが、現在はウォーターサーバーや給茶機も備えた。社員からのリクエストに迅速に応えた例である。そこに必要性があると感じればスピーディーに変えていく。改善規模にもよるが基本的に申請や役員決裁は不要だ。そんな社風は今後のオフィスづくりでの大きなメリットとなる。

「15室の中には違う観点や新しい発想が想像できるようにと2部屋のコンセプトルームも用意しました。バンダイナムコグループのコーポレートカラーであるオレンジと当社のブルーを基調色としています。机はあえて円卓にしました。これでしたら上下関係を意識することなく座れますし、自由な意見が出やすくなったと社内からの評判もいいですね。時間を表示させる時計も部屋のイメージを壊さないように投影型の時計を採用しました」

「7階応接室には、全ての部屋にTV会議システムを備えています。いつでも海外オフィスとの打ち合わせが可能です。すでにバンダイ香港やバンダイナムコアジアとのやり取りが増えています。やはり顔を見ながらのほうが、思いが伝わりやすいですから。これだけTV会議ができる部屋が増えると効率的な仕事ができますね。当社のこれからの業務を考えると必須機能の一つといえると思います」

ホールフロアエントランス

ホールフロアエントランス

会議フロアエントランス扉

会議フロアエントランス扉

フリースペース

フリースペース

会議エリア

会議エリア

オレンジの部屋

オレンジの部屋

青の部屋

青の部屋

そして8階から12階が執務室となる。各フロアともに平行に机が並べられている。パーテーションを低く設定し、オープンな環境を形成した。窓際にはファミレス式のブースやミーティングテーブルを配置しているが使用頻度を考えるとまだ足りない。現状、事業部内の打ち合わせは6階や7階を使用することも多いという。

「本来はフロアごとにコミュニケーションエリアをつくりたいと思っていました。また、1フロアまるまるレストスペースにするという構想も描いていましたが、スペースの関係でそれもできず。脳や身体を適度に休ませることが生産性の向上に繋がることは今や常識です。これからも新しい文化や発想を生み出すために意味のある機能をつくっていきたいですね」

執務室

執務室

オフィスの構築を通して自社の働き方改革を目指す

今後のオフィス改善に関しては総務部が中心となって運営することになる。

「会社に魅力を感じてモチベーションが向上するのも一つの働き方改革ではないかと思っています。そのためにも遊び心やデザインに優れたオフィスづくりを継続していきたいですね。就業時間や福利厚生といった制度はなかなか変革するのが難しいので、オフィスといったハードの面から何かできればと思っています。結果的に、それがお客様へのおもてなしにも繋がると思っています。オフィスの改善はゴールのない世界ですから、常に情報にアンテナを張って。これから採用活動も活発になってきます。いい人材に少しでも興味を持ってもらえるような、そして社員が自慢できるオフィスをつくっていきます」


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