ディップ株式会社

2017年7月取材

※ 記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

「日本一コミュニケーションが取りやすい」オフィス空間を目指して

アルバイト・パート求人情報サイト「バイトル」、総合求人情報サイト「はたらこねっと」などのサービスで飛躍的に成長しているディップ株式会社。20周年を迎え、最近では石灰石を主原料とした紙やプラスチックの代替となる新素材「LIMEX(ライメックス)(注)」製品の販売を開始しており、同社の企業理念である「社会を改善していく」新たな取り組みにも積極的。

2017年3月14日の会社設立記念日に本社の拡張移転を行い、長年の懸案事項であった「本社オフィスの手狭感」を解決し、いくつもの新機能により社員同士のコミュニケーションの活性化を図った。今回の取材では、それら具体的なオフィス機能についてお話をお聞きした。

(注)「LIMEX」とは、株式会社TBMが開発・製造する、石灰石を主原料とする新素材の商標です。
株式会社TBMのオフィス事例は2017年4月取材記事をご覧ください

プロジェクト担当

本間 忠俊 氏

ディップ株式会社
総務部
部長
本間 忠俊 氏

藤川 淳 氏

ディップ株式会社
総務部
ファシリティ・
マネジメント課課長
藤川 淳 氏

上(左右):オープンミーティングスペース  下:エントランス

上(左右):オープンミーティングスペース  下:エントランス

はやわかりメモ

  1. 総合的な情報提供サービスから求人情報に絞ったサービス提供へ
  2. 経営課題の一つだった「オフィス移転」。5年先を見据えて本格的に検討した
  3. デザインコンセプトは「20周年を迎え、新しいステージに立ったディップを体現する
    働きやすいワークプレイスの実現」
  4. 日本一コミュニケーションをとりやすいオフィスを実際に体感してみる
  5. 新たな機能の利用頻度を見れば働き方が換わったことが認識できる

総合的な情報提供サービスから
求人情報に絞ったサービス提供へ

今回の取材先であるディップ株式会社は、「バイトル」「はたらこねっと」といった求人情報サイトの企画・運営で急速に事業を拡大している。創業は今から20年前。現代表取締役社長兼CEOである冨田英揮氏が出身地である名古屋で起業した。オフィスもない、資金もない、社員もいない、あるのは自らのアイデアに対する自信と強い気持ちだけだったという。そうして、自らのアイデアを実現するための営業活動を続けた結果、首都圏のコンビニエンスストアで「無料カタログ送付サービス」を開始する。

「当時はインターネットが普及する前でしたから、首都圏のコンビニエンスストアに置かれた専用の端末に情報提供することから始めたそうです。続けていくうちに、多くの利用者のニーズは『派遣のお仕事情報』にあることが分かり、その情報の提供だけに絞ることにしました。それが今の『はたらこねっと』の前身となっています」(本間氏)

創業間もない段階で活動ステージを東京に移す。その当時も、紙媒体を使った求人情報は数多く存在していたが、「派遣」に絞った求人情報サービスは決して多くない。情報が集まる東京なら、この分野で勝負できると強く感じたという。

その後、2002年に「はたらこねっと」からアルバイト情報を独立させた「バイトル」を開始。今では日本最大級のアルバイト・パート求人情報サイトに成長している。

ちなみに社名であるdipは、企業理念である「夢(Dream)とアイデア(Idea)と情熱(Passion)で社会を改善する存在となる」の頭文字だという。

経営課題の一つだった「オフィス移転」
5年先を見据えて本格的に検討した

東京進出にあたっては、まず都内のインキュベーションオフィスを活用。渋谷区神宮前に1年、渋谷区初台に1年、千代田区有楽町に3年。そして地盤を固めた上で、港区六本木の大規模オフィスビルに移る。

「六本木のオフィスビルに2003年に入居し約13年が経過していました。オフィスレイアウトの設計思想は一昔前のまま。会議室も足りず、気軽に行えるミーティングスペースもない状態でした」(本間氏)

旧オフィスの面積は600坪。そこに300名が在席していた。現在は950坪に拡張したが、すでに社員数が400名に増えている。

「旧オフィスに移転した2003年の従業員数は全社で42名。業績拡大に伴う増員で、今では1,620名の会社に成長しました。従業員間コミュニケーションが活性化されるように、オフィス環境を改善することはもちろんですが、それに伴い一人ひとりの生産性を上げられるのではないかと考えていました」(藤川氏)

移転先は旧オフィスの目の前にある新築オフィスビルに決まった。

「六本木はもちろんのこと、赤坂、丸の内、大手町など広範囲で移転先を探しました。そして数棟のビルに絞りこんだのち、比較表を作成。最終的に希望条件に一番合致したビルを選びました。また、これは主たる理由ではありませんが、最寄駅も移転前と同じです。通勤定期の変更手続きがないのもよかったですね」(本間氏)

「具体的には、ワンフロアに本社の全社員が収容できること、駅へのアクセスが良く移転前のビルよりグレードが劣らないこと、入館時のセキュリティが高いこと、入居フロアが安全性の高い免振構造だったこと、が大きな理由となります。まさに私たちの20周年に相応しいビルだと思います」(藤川氏)

とはいえ20周年はあくまでもきっかけ。移転理由ではないという。

「オフィスの改善はここ数年の役員会の議題になるなど、解決しなければならない課題の一つでした。旧オフィスを全面改修すべきか、違う場所に移転すべきか。定期的に物件情報を三幸エステートさんにいただいており、常に準備はしていました」(本間氏)

「費用対効果や移転メリットについても、こと細かに議論を重ねました。物件を選ぶ際にも5年先を見据えた議論をしてきました。結局、旧本社の全面改修では増員やコミュニケーションスペース不足の問題が解決できないため、最終的に移転をすることになりました」(藤川氏)

デザインコンセプトは「20周年を迎え、新しいステージに立ったディップを体現する働きやすいワークプレイスの実現」

移転プロジェクトを遂行するにあたり、パートナー会社を選定するためのコンペを行った。

「社内には移転プロジェクトやデザインに特化した専門部署は存在しません。全体のプロジェクトを一緒に進めていくパートナーが必要だったのです」(本間氏)

最終的な条件面をクリアさせ、パートナー会社を決定した。想定していた以上に色々な側面から提案していただいたという。以下が簡単なスケジュールとなる。

2016年6月:移転先ビル確定
2016年7月:パートナー会社決定
2016年8月~11月:レイアウトプランの検討
2016年12月:オフィス家具・什器の発注
2017年1月:オフィス内装工事スタート
2017年3月14日(設立記念日):移転完了日

設立20周年。つまり会社として「20歳の成人・新しいステージに立つ」ことになる。その新しいステージに相応しいデザインを演出するために、どのような機能を持たせ、どのような素材を使用すべきなのか。社内のやり取りをスムーズに行うために各部署の代表となるレイアウト委員を選出。それぞれが各部署の代表として移転プロジェクトに参加した。また新しいステージに立つディップのデザインについては、何度も納得のいくまで役員やパートナー会社を含めて打合せを重ねた。

左:特徴的な天井と床面  右:ピクトサイン

左:特徴的な天井と床面  右:ピクトサイン

日本一コミュニケーションをとりやすいオフィスを
実際に体感してみる

「旧オフィスは、急速に人が増えたということもあり、雑多な空間になっていました。その反省も含めて、社員・お客様を問わずいつでも自由に打ち合わせができる環境をしっかりと構築することにしたのです」(本間氏)

「特にエントランス及び執務フロアの両方に設けたオープンミーティングスペースは、社員からの要望の中でも最も重要な機能となっていました。計算されていない偶発的なコミュニケーションが生まれるような仕組みをオフィス家具でも演出しました。人により様々な使い方ができるスペースとなっています」(藤川氏)

オフィスコンセプトの「日本一コミュニケーションをとりやすいオフィス」を目指し、そのコンセプトに適した多くの新機能が追加された。


それでは具体的にオフィスを見ていこう。
エントランスホールに入ると床面のデザインに魅了される。そこには実際に使用されたPCや携帯電話、周辺機器がまるで標本のように展示されている。

「床面で当社の20年の歩みを、そして天井で今後の当社の成長を感じられるようにデザインしてもらいました。そういったことを各自が感じながら、新オフィスで新しい働き方を見つけてほしいと思っています」(本間氏)

エントランスから見たミーティングエリアは、先ほど述べたオープンスペース以外にも計算されたコミュニケーションができるクローズな会議室で構成される。計算されたコミュニケーション、つまり目的を持って使用するため、完全予約制で来客や社内会議やマネジメントが集まる役員会などが開催される。予め目的と時間が決まっていてそれに準じて必要な装備も整えられている。全国34拠点とのテレビ会議も可能な部屋がある。今回の移転プロジェクトの見学会や説明会もそこで定期的に行われた。

「本社移転の後に名古屋オフィスがオープンしたのですが、エントランスはここのデザインと統一感を持たせています。今後も新たに開設する全国の拠点にも共通のデザインイメージを展開していきたいと思っています」(本間氏)

続いて見通しのよい空間が広がる執務フロアだ。

「視野を妨げないようにパーテションをつけていません。場所と組織の枠組みに捉われない働き方を実現できるようにレイアウトプランをつくりました。そのためとても開放的な空間になっています」(藤川氏)

固定席とフリーアドレス席をバランス良く配置。営業、人事、総務のセクションはフリーアドレスでノートPCを使用。その分、個人ロッカーが与えられている。室内を歩いていくと所々に四角い箱が見えてくる。これがオフィスステーション、通称「マッチ箱」だ。

「ステーション内には、ゴミ箱や複合機、コートハンガー、デジタルサイネージによる情報発信などの機能がまとめられています。執務フロア内に4つ。100名に1つの割合で配備しています。そのため一日のうち数回はここに立ち寄ることになり、偶発的な出会いが生まれることを期待しています。『マッチ箱』というのは、社内公募でつけました。『誰かとマッチングする』という意味が込められています」(本間氏)

窓際には「ブレストBOX」と名付けられたソファ席。フロア内に9ヵ所用意されている。

「一般のソファ席よりも背もたれを広くしています。それによって周囲からも見えにくく、集中してミーティングができると評判がいいですね」(藤川氏)

スタンディングのミーティング用デスク「Talk Stand」は、執務フロア内に6ヵ所用意した。短時間の打合せに最適で小型ながらホワイトボードも備えられている。

クローズな会議室

ダミーキャプション

執務室内

執務室内

オフィスステーション「マッチ箱」

オフィスステーション「マッチ箱」

ブレストBOX

ブレストBOX

執務フロア左右の両奥には「こもルーム」。これは集中作業用のスペースで、音が漏れないように吸音ボードで囲んだ構造になっている。

「こもルームは旧オフィスにはなかった機能で、本社内に7ヵ所用意しています。これを見た他拠点の社員からの設置リクエストも増えています」(藤川氏)

執務フロア中央に設けられた部屋が「セキュリティルーム」だ。ここでサイトの本番環境の確認操作を行っている。

「あえて執務フロア中央の目立つ場所に位置させ、ガラス間仕切りにより見られていることを意識し、情報の機密性と透明性の両方を高めることを演出した部屋となっています」(藤川氏)

その手前には、社内外で使用できる短時間のカジュアルなプレゼンができるスペース「Pitch Square」。約50名が参加できるエリアと10名程度のmini版の2つが用意されている。ソファに着席できるのと、周囲には立ち席があり、そこからでもこのPitchに参加できる。大型プロジェクタやモニタもこれらの場所には常設されている。

他には、「オープンテーブル」というタッチダウンスペースを用意している。本社ということで、全国の拠点から来る出張者も多い。使用する大半が他拠点の社員ではあるが、もちろん本社内の社員も使用可能だ。

メインとなる多目的ルーム「dipカフェ」は眺望もよく採光もある窓際のいい場所に。

「ビルの形状に少し出っ張りの部分があり、そのスペースを有効に使っています。眺望もよいことからリラックスでき、目的も時間も制限することなく誰でも使用できます。席数は40席。ランチ時は込み合うため各自で時間を調整しながら使用しているようです。18時半以降はアルコールの持込みを可としました。部署の親睦会や新入社員の歓迎会などに使われています」(藤川氏)

これら新機能ごとにピクトサインを作成。執務フロア内の色々な場所で表示している。機能別の使い方やルールについては、総務部が中心になって社内周知を行った。

また、より多くのコミュニケーションスペースを確保するため、必要なものは最低限にし、ファイルスペースなどは今までの半分以下にするよう、入居部門と調整を行った。

「なにしろ六本木の一等地です。紙の保管のために毎月膨大なコストをかけられないこと、書類に面積を割くよりも働く場を充実させるほうが重要であることを納得してもらいました。そうして全社員協力の元、半分以上の書類を減らすことができました」(本間氏)

こもルーム

こもルーム

セキュリティルーム

セキュリティルーム

Pitch Square

Pitch Square

オープンテーブル

オープンテーブル

新たな機能の利用頻度を見れば
働き方が変わったことが認識できる

移転当日、初めてこのオフィスを目にした社員からは大きな歓声が上がったという。

「今までが必要最低限の機能があっただけのオフィスでしたので、まさかここまで変わるとは誰も想像していなかったのでしょう。エントランスを目にし、まるで高級ホテルのようだと言った社員もいました。モチベーションがあがっているのが伝わってきましたね」(藤川氏)

こうしてオフィス移転完了から3ヵ月が過ぎようとしている。はたしてオフィスの生産性は向上したのか? それを数値化するのはとても難しい。

「数値化は困難ですが、新たに加えた機能を社員が使いこなしているのをみると働き方が変わったことを認識させられます。まずはそこからではないでしょうか」(藤川氏)

「今までお呼びできなかった反動もあるのでしょうが、お客様の来社がかなり増えましたね。それは広告代理店やデザイン会社といった協力会社だけでなく、新たな取引をご提案されるお客様も同様です。お客様との結びつきが深くなることで、ビジネスの広がりに期待しています」(本間氏)

まずはコンセプトである「日本一コミュニケーションがとりやすいオフィス」を構築した。もちろんこれで終わりではないことは自覚している。

「これからは、『どうやって維持していくか』『生産性を上げていくか』が大きな課題となります。運営していく中でさらに新しい機能の追加を検討しなければならない場面もあるかもしれません。そして今後は、全社的に美化活動にも力を入れていきたいと思います」(藤川氏)

「今回は、限られた予算、遅れることのできないスケジュールの中で、効率的にプロジェクトを推進できました。当然、私たちだけではできなかったと思います。物件探し、プロジェクト立案、現状調査、課題の明文化、プロジェクトの実施・管理など、様々な場面で専門家の方々にお力添えをいただきました。継続して働きやすい環境を提供できるように、今後も色々な方々の力をお借りしながら会社を支えていきたいと思います」(本間氏)

dipカフェ