株式会社イーブックイニシアティブジャパン

株式会社イーブックイニシアティブジャパン

2019年7月取材

この事例をダウンロード
バックナンバーを一括ダウンロード

※ 記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

マンガというコンテンツを随所に散りばめた自社のイメージにふさわしいオフィスを構築した

コンテンツの電子化および配信サービスの運営で2000年5月に設立した株式会社イーブックイニシアティブジャパン。以後、2016年にヤフー株式会社と資本業務提携を締結。新たな電子書籍サービスの提供などで、着々と事業を拡大していく。事業規模の拡大に伴ってオフィス移転を行ってきたが、フロアの拡張に反して社員同士のコミュニケーションは薄れていく。そんな課題を解消すべく2019年2月に大規模な本社移転を行った。新たに構築されたオフィスは電子書店らしい数多くのアイデアが散りばめられているという。今回はそんなオフィスの全容についてお話を伺った。

高橋 将峰 氏

株式会社イーブックイニシアティブジャパン
代表取締役社長
社長執行役員CEO

高橋 将峰 氏

辻 靖 氏

株式会社イーブックイニシアティブジャパン
取締役
執行役員COO

辻 靖 氏

フリースペース全景

フリースペース全景

Contents
  1. 「SAVE TREES!」を創業の志として電子書籍配信サービスの会社を設立した
  2. 旧オフィスのさまざまな課題を解決するために移転を決意した
  3. プロジェクトチームを立ち上げて新オフィスのデザインの要望を出す
  4. 主力事業であるマンガをイメージさせたアイデア満載の新オフィス
  5. フリーアドレスを導入してから各自が考えて仕事をするようになった

「SAVE TREES!」を創業の志として電子書籍配信サービスの会社を設立した

大量の紙資源を消費する日本は、世界で有数の木材輸入量の多い国といわれている。しかし日本の文化の一つである読書を無くすわけにもいかない。そんな思いもあり、株式会社イーブックイニシアティブジャパンは、創業時から「SAVE TREES!」を訴えて紙を使わない電子書籍での読書を提案してきた。

設立後、講談社、小学館などの大手出版社とライセンス契約を締結し電子書籍の配信を開始。現在は「日本の豊かな出版文化で世界中を幸せにする」をミッションとし、国内最大級の電子書籍販売サービス「ebookjapan」と紙書籍オンライン販売サービス「bookfan」の2つのサービスを運営している。

サービスを始めた当時はブロードバンドの黎明期であり、電子書籍1冊をダウンロードするのに一晩の時間を要する時代だった。10年くらいは苦しい時代が続いたという。その苦しい時代を支えてくれたのは現日本漫画家協会会長でもあるちばてつや先生や松本零士先生、手塚プロダクションの方々だった。そうした方たちの協力もあり、作家が持っていた電子化に対するイメージも改善。それ以降iPhone、iPadの普及に伴い電子書籍は急速に世の中に広まった。

「昨今は電子書籍ビジネスも乱立しています。他社との差別化を図るにあたり、2016年、ヤフー株式会社と資本業務契約を締結しました。今後はマーケティング力の拡張やユーザーデータベースの共有といったメリットを生かしてさらなる顧客へのサービスを向上させていきます。そうして中期ビジョンを『電子コミック取扱高ナンバーワンを目指す』と掲げました」(高橋将峰氏)

「ヤフー社との提携を生かして新規の顧客獲得も視野に入れています。例えばヤフーショッピングでオートバイのヘルメットを購入した方にモータースポーツ関連のマンガや雑誌を提案する。そんな個々のユーザーさんへのレコメンドサービスも今後検討していきたいと思っています」(辻靖氏)

旧オフィスのさまざまな課題を解決するために移転を決意した

水道橋にあったオフィスを事業規模の拡大に伴って御茶ノ水へ、そして現在の半蔵門へと移転した。御茶ノ水の旧オフィスにはいくつかの課題があったという。

「最終的にはオフィスビルの2階、4階、7階と多層フロアに入居していました。そのためメンバー間のコミュニケーションがとりにくい環境で。本当は、ヤフー社からの出向社員と当社のプロパー社員が密に連携しなくてはいけないのですが、フロアが分かれることでだんだんコミュニケーションも遠ざかってしまって。さすがに業務提携をして2年経っても会話が進まない状態はまずいと。大きな課題として受け止めていました」(高橋氏)

「本来はエンジニアとマーケティングのような他部署同士が気軽にディスカッションをしている姿が望ましいのですが、どうしても部署中心の打ち合わせが多くなっている。ですからできるだけ会議室を予約することなくその場で解決できるスタイルに変えたかったのです。そのほか食事をとる場所が確保されていない、トイレの個数が少ないなどの細かい要望も。まさに人が増えたことによる弊害がありました」(辻氏)

プロジェクトチームを立ち上げて新オフィスのデザインの要望を出す

オフィスの契約更新のタイミング、決算時期などを考慮し、9月までに移転先を決めて2月に引っ越しを完了させるというスケジュールを組んだ。いくつかのオフィスビルを内見し比較していく。そうして半蔵門にほぼ条件通りのオフィスビルを見つける。1フロア400坪の新築の大規模オフィスビル。当初希望していた1フロアではなかったが2フロア合計で655坪の面積を確保した。周辺の景観もよく、自然が豊かなエリアである。

「移動効率の良さを最重視しました。取引先である出版社が集中している神保町とヤフー本社のある紀尾井町のほぼ真ん中に位置しています」(高橋氏)

「本当は1フロアで完結させたかったですね。しかし連続階ですしコミュニケーションエリアと分かれていたほうがオンとオフが切り替えられるので結果的にはよかったのかもしれません」(辻氏)

社内でコーポレート部門を中心に少数精鋭の移転プロジェクトチームを立ち上げる。社員の要望を聞きながら大まかなレイアウトの要望をオフィスデザイン会社に出していく。

「当社から必須のオーダーとして提出したのはフリーアドレスとクイックにミーティングができるスポットを散りばめることでした。いたるところにミーティングスポットをつくりましたね。部署の垣根を超えて気づいたことをその場で議論できる。そんな効果に期待しています。エンターテインメントを扱っている会社ですので、閉じこもって仕事をするよりはそういった和気あいあいとしたオープン形式のほうがいいかなと思っています」(高橋氏)

新オフィスで初めて採用したフリーアドレス。デスクの配置にもこだわりを見せた。

「社員の動線を意識してジグザグに配置しました。それだけでも雰囲気は大きく変わりますね。今までのオフィスとイメージを変えるためにオフィス内の色調もできるだけポップに整えました」(辻氏)

主力事業であるマンガをイメージさせたアイデア満載の新オフィス

マンガをイメージさせるオフィス、それが今回のコンセプトだった。

「マンガやエンターテインメントを扱っている会社ですので、『楽しさ』や『遊び心』、『マンガへのリスペクト』といった気持ちを絶対に具現化したかったのです。担当したデザイン会社さんの中にマンガがとても好きな方がいらして、斬新で面白い案をたくさんご提案いただきました」(高橋氏)

それでは具体的にオフィスを見ていこう。あらゆるところにマンガをイメージさせたデザインが散りばめられている。

3階のエントランスを入ると、真ん中にebookjapanのロゴを配した大きな白い壁がある。よく見ると、めくられた本の表紙を連想させるように壁の端が少しだけカーブしている。そのまま中に入ると来客用の会議室エリアとなる。来客用会議室にも、マンガを中心に扱う会社ならではのこだわりが随所に見られる。

「8つの会議室の名前はマンガや出版に関する専門用語になっています。最初の部屋は『MONOLOGUE(モノローグ)』で始まり、『TONE(トーン)』『BETAFLASH(ベタフラッシュ)』『KOURYOU(校了)』『KAKEAMI(カケアミ)』『MADO(マド)』『NAME(ネーム)』『JUHAN(重版)』と続きます。ちなみに役員会議では『校了』を使用することが多いですね。この部屋で最終決定したものがこれから世の中に出ていくというイメージです」(高橋氏)

エントランス

エントランス

会議室

会議室

全ての会議室の窓枠はマンガのコマ割りの形に。それによって会議中の人がマンガの登場人物のように見えるようになっている。また、窓枠やふきだしの形は実際のマンガの有名シーンを使っているという。
さらに使用中の会議室のブラインドを下すと、会議室名の横に「執筆中」の文字が重なるようになっている。ドアノブはあるベストセラーマンガのサイズ、厚さを模ったというほどの徹底したこだわりぶりだ。

「マンガの原稿用紙って基本的には白色の背景が多いですよね。ですから会議室の壁の色も白にしました。ここから僕らの物語(ビジネス)が始まるというイメージを伝えることが出来ればと思っています」(辻氏)

マンガのコマ割りを模した窓枠

マンガのコマ割りを模した窓枠

さらに進むとフリースペースエリアが広がる。そこはランチ、ミーティング、100人以上を集めた全社朝礼、新卒採用の説明会など幅広い用途で使われる。入口近くには4面で囲われた大型の本棚を設置。同社とゆかりのある作家のサイン色紙、形状がユニークなオブジェ、まだ電子化されていないマンガなどが置かれている。フリースペース内の景観の良い窓際には、靴を脱いでゆっくりとくつろぐことができるスペースも新設した。そのほかカウンター席やソファ席も配した。将来的な採用、特にバリアフリーを意識して段差、境目があまりない人にやさしい設計となっている。

カウンター席

カウンター席

ソファ席

ソファ席

本棚

本棚

そして4階フロアが執務室エリアとなる。

「4階の執務スペースも、一部の固定エリアを除きフリーアドレスとなっています。自分のいる場所を共有するための目印として配色されたカラフルな柱には『J』『M』というようにアルファベットを表記しました。ランダムに見えるアルファベットは、実は国内で販売されている主要マンガ雑誌の頭文字となっています」(辻氏)

固定席は30席ほど。出版社から預かったデータを電子化する作業を行う部門や、大きなデータベースを扱うエンジニアなどが使用している。また顧客の個人情報を扱う業務は、ほかの社員が入室できない厳重なセキュリティ対策が施された部屋で行われている。

「フリーアドレスにしたことで仕事終わりには社員一人に1つずつ割り当てられたロッカーに個々の資料を入れて帰るというルールができました。当初は不満の声もあったものの、データ化やペーパーレス化を進めていたことも手伝い、今では問題なく運営しています。また、社員の動線を考えてロッカーはできるだけ真ん中の入口に集中させました。それによって朝夕はロッカー付近が会話の生まれる場所になったのです」(高橋氏)

執務室全景

執務室全景

フリーアドレスを導入してから各自が考えて仕事をするようになった

移転プロジェクトを立ち上げたメンバーがその後のオフィスもメンテナンスしていく。今後、社員の細かい要望にもできる範囲で応えていく予定だという。

「フリーアドレスといっても必ず違う場所に座らなくてはならないというルールはありません。本当に自分が仕事のやりやすい場所に座って仕事をしてもらえればと思っています」(辻氏)

「業務に合った場所とか時間の使い方、働き方に対して各自が考えて仕事をするようになりました。3階のフリースペースで仕事をするデザイナーは、以前はデスクトップのPCだけが自分の持ち場でしたが、今は業務内容を考えながら場所を選んでメリハリをつけています」(高橋氏)

誰かからの指示ではなく自分自身でクリエイティブな時間をつくれるようになった。結果として、そこから新しい発見が生まれることが多くなっているという。

さらにオフィスが変わったことで採用面にも効果が現れていると語る。

「新オフィスになってから採用者の内定後の辞退率が激減していますね。当社は特許や資産があるわけでもなく、基本的には人材がベースの会社です。ですからいい人材の入社はとても重要なことなのです。オフィスを訪問した学生からはここで働く社員が楽しそうだから一緒に働きたくなったという声も聞きます。考えていなかった移転効果ですね。今後も、想定していなかった何らかの効果があるかもしれません。その部分に大いに期待をしたいと思います」(高橋氏)

この事例をダウンロード

バックナンバーを一括ダウンロード