- オフィス分散を見直す時期
急激な事業展開を行ってきた企業のオフィスが分散しているケースは多い。組織の改編が頻繁に続くならそのままでもいいが、ある程度、人員計画が立てられるならオフィス統合を視野に入れるべき。学研では4カ所のオフィスを西五反田の新本社に統合。 - 自社ビル建設は慎重なほどいい
学研では新本社用の土地を早くに取得していたが、統合・移転を決意するまでには5年以上の期間がかかっている。しかしその間に充分な検討を行い、理想のオフィスについても多くの議論を重ねたことが今回の成果につながった。 - 他社のオフィス事例は必ずチェック
オフィス担当者にとっても新本社の建設や全社的な統合移転は「一生に1回あるかどうか」の大プロジェクト。それだけに評判のオフィスの見学やケーススタディを学ぶことは重要。 - デザインコンペでは条件を明確に
ビルの規模や予算だけでなく、どんなオフィスにしたいのか、環境への配慮はどうするかなど希望条件を明確にしておくことが大切。ここがあいまいになるとデザインもぶれてしまい、適切な判断ができない。 - ユニバーサルプラン+バッファ
標準スタイルのデスクを並べ、組織変更でもレイアウトを変えないユニバーサルプランはオフィスの効率化には不可欠。バッファとなる余剰デスクや多目的スペースなど多く設けることで、多様な業務や人員の増減に対応できる。 - 統合の目的であるコミュニケーションを重視
オフィスを統合する最大の目的は、部門間のコミュニケーション促進による新しい価値の創造。従って、社内の可視性を高めたり、共有部分を増やしたオフィスにすることで、統合の効果をさらに高める工夫を。
分散したオフィスを統合することで得られるメリットとは?
株式会社学習研究社(学研)といえば『週刊パーゴルフ』、『歴史群像』、『BOKB』(アイドル誌)、『capa』(カメラ誌)、『教育ジャーナル』(教育専門誌)など30以上のジャンルに及ぶ雑誌や、生活実用書、文庫・新書、絵本、児童書、図鑑、事典、学習参考書、辞書、医学書などの書籍の出版で広く知られる会社だが、実はこれらの出版は事業のほんの一部に過ぎない。総務部長の中村雅夫氏はこう言う。
「『学研教室』を中心に、0歳児から大人までを対象に対応できる総合教育ソリューションを行う教室・塾事業、人間形成期の教育を総合的にサポートする幼稚園・保育園向け事業、創業以来培ってきた多様なコンテンツを活用して教育現場をサポートする学校向け事業、乳幼児から小中高生向けの家庭学習用教材による家庭教育事業など多くの経営の柱を持っています。また出版事業も創業当初の学習雑誌からエンターテイメントまで含む総合的な内容に拡大しており、組織的には常に成長を続けてきたのです」1947年創立の学研は日本の出版社としては老舗企業の一社だが、1960年代以降、これらの事業拡大が急激に進められたこともあり、オフィスに関しては「足りないのが当たり前」だったという。
「高度成長期に百科事典ブームが起き、学研でも従業員が急激に増えました。その後、事業領域が多岐に渡るようになり、オフィスは拡張、拡張の歴史を続けるようになったのです」
こう語るのは、中村氏の前に学研の総務部長を務め、今回の新本社への移転プロジェクトに初期段階で係わった中島康雄氏だ。現在は学研グループのビル総合管理会社で代表取締役に就任している。
「学研は、昭和36年(1961年)に竣工した大田区上池台のビルを本社として使用していました。しかし実質的には、その後建設した大田区仲池上の学研第二ビル、品川区不動前の学研第三ビル、そして編集部などが入っていた五反田のテナントビルの計4カ所がそれぞれ、本社機能の一部を果たしていたのです」(中島氏)
ちなみに、各ビルの役割は以下のようになっていたという。
- 本社ビル(大田区上池台)
本社部門、資材調達・制作進行部門、直販雑誌や書籍制作部門など - 第二ビル(大田区仲池上)
直販系事業部門及びこの支援部門、コンピュータ部門、直販教材や書籍編集制作部門など - 第三ビル(品川区不動前)
学習塾部門、IT系制作営業部門、市販トイホビー部門など - テナントビル(五反田駅周辺)
市販雑誌編集制作部門、広告営業部門、市販営業部門、クロスメディア部門など
「多様な事業領域を持つ会社なので無理に統合する必要はないという意見もありました。しかし、建物ごとに収容される部門の業務領域が違うため、拠点ごとに業務文化や言語、生活パターンなどが異なっていて、価値観や情報の共有に悩んでいました。クリエイターが集まる会社なのでお互いが同じである必要はありません。しかし、お互いに理解し合って融合していくことが重要なのです」(中島氏)
このため多くの社員の心の中には、「ずっと分散したままでいいのか?」という疑問がいつもあったという。
「ビルが違う限り、社員たちはお互いを知らずに、まるで別会社の人間のように過ごします。しかしそれでは学研という会社の文化を基にした発想や、コラボレーションによる新しい文化の創出、価値の創造は困難です。従って、経営戦略の一環として、本社の統合というテーマが徐々に浮上してきました」(中島氏)