三菱商事アセットマネジメント株式会社

2019年2月取材

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※ 記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

社員の意見や要望を随所に取り入れて
自社にとって理想的なオフィスをつくりあげた

三菱商事株式会社が長年培ってきた投資経験と金融分野のプロフェッショナルが融合して1999年に設立された三菱商事アセットマネジメント株式会社。設立以来、オルタナティブ投資に特化した資産運用会社として躍進を続けている。2018年3月、慣れ親しんでいた丸の内のオフィスビルを離れ、本社移転を行った。今回の取材では、その移転の背景やオフィスづくり、新設した設備のポイントについてお話を伺った。

中江 清貴 氏

三菱商事アセットマネジメント株式会社
取締役 管理本部長

中江 清貴 氏

Board Room

Board Room

Contents

  1. オルタナティブ投資に特化した資産運用をサポートする
  2. いくつもの課題を解決するために本社オフィスの移転を決断する
  3. 内装工事を進めるにあたりオフィス移転の専門会社に依頼する
  4. 社員の要望を聞き取りながら働き方を変えるオフィスに
  5. これからも社員の意見を採り入れてオフィスのあるべき姿を追求していく

オルタナティブ投資に特化した資産運用をサポートする

三菱商事アセットマネジメント株式会社は、総合商社である三菱商事グループの金融商品取引業者で、約50名の役職員が勤務している。日本で初めて「投資顧問業」と「証券業」を兼ね備えるフルライセンスの会社で、金融機関や年金基金等の機関投資家に向けて、オルタナティブ投資(株式や債券とは異なる資産の投資法式)の分野にフォーカスした多種多様な運用機会を提供している。

「三菱商事の100%子会社ということもあり、三菱商事が有するビジネスネットワーク、アセットに対する目利き力、幅広い産業領域との接点、投資ノウハウを活用して、お客様の運用ニーズと産業界の資金ニーズを結び付けられるのが一番の強みです」

同社の組織は、商品の組成・企画を行う「商品企画室」、商品の販売や一任運用受託の獲得を担当する「営業本部」、運用戦略の提案や運用管理を主業務とする「アセットマネジメント本部」、金融機関としてのオペレーションや、総務経理や人事といった会社のインフラ周りを担当する「管理本部」、牽制機能である「法務監理室」「内部監査室」で構成される。

いくつもの課題を解決するために本社オフィスの移転を決断する

設立以来、「丸の内」の大型ビルに本社オフィスを構えていた。千代田線「二重橋前」駅近くに立地する歴史のあるオフィスビルだった。

「約285坪の面積を50名ほどで使用していました。フロア内を壁で区切るなどして部屋をつくっていたのですが次第にかなり非効率な使い方になっていました」

入居していたのはオフィスビルの1階フロア。エントランスを中心に左右に分かれたレイアウトになっていた。そのため社員同士のコミュニケーションにも悪影響を与え、まさにそこが同社の最大の課題であった。

「築年数が経過したビルでしたのでフロア内に柱もかなりありました。そのため柱の周辺はデッドスペースとなり、同じ部署内であっても分断されている感覚がありましたね」

そのため「部屋型の良さ」は移転条件の一つであった。無駄なスペースの改善はランニングコストの削減にも繋がる。さらに効率的なレイアウトにすることでコミュニケーションの向上を可能にすると考えた。

移転計画自体は4~5年前から社内での議論が重ねられていたという。金融業という性質からもセキュリティを強化する必要性が叫ばれていたためだ。移転ではなく、全面的なリニューアル工事で解決できないかを探ったこともある。その時は十分な費用対効果が認められず、またリニューアルしながら業務をこなすのは困難という結論で断念することになったという。

「近隣のオフィスビルを移転先の候補として検討したこともあります。最終的には部屋型がL字型だったため見送りとなりました。それから継続的に物件情報を収集していたものの希望条件に合ったビルに出合えないまま時間だけが過ぎていきました」

2017年に入り「霞が関」駅近辺で、移転先の条件と一致するビルの空室情報が届いた。提案されたビルは旧オフィスの最寄り駅から2駅隣。大手デベロッパーによる新築ビルだった。同年6月にビルの見学を行い、8月後半に社長含めて役員に確認。申込書を提出後、すんなりと家主審査を通過。その後、親会社との調整に時間を要したものの、「オフィスは会社の顔。オフィス立地やイメージの良さは、国内外から訪問される取引先や今後の採用活動にもプラスの影響を与えるはず」といった考えを示して役員を説得。10月末に家主との正式契約を締結させた。

「丸の内は日本で一番オフィス賃料が高いエリアです。それだけエリアのステイタスがあるともいえます。丸の内から移転するだけでコストメリットは生まれるのですが、とはいえ賃料が安くなればどこでもいいというわけではありません。大手金融機関等との頻繁なやり取りがあること、地方出張のことを考えて東京駅に近い立地であること、金融業としてのステイタスを感じさせるイメージであること。さらに移転後に社員のモチベーションが下がってしまうことは避けたかったので、グレード感のあるオフィスビルに入居する必要があると思っていました」

新オフィスは何よりも整形無柱の部屋型が魅力的だった。さらに4線4駅が徒歩5分圏内という良好な交通アクセス、快適なビルスペック、先進のBCP対策、万全なビルセキュリティシステム。想定していた全ての希望条件が備えられていた。そうして移転先が決定する。しかし入居完了予定の3月末までは残り5ヵ月。そんなタイトなスケジュールでもあった。

内装工事を進めるにあたりオフィス移転の専門会社に依頼する

「何としても年度内に移転を完了させなければならない。しかし我々にはオフィスをゼロからつくった経験はありません。そこで移転プロジェクト全体をマネジメントしてもらえる専門会社のサポートが必要だと考えました。数社にご提案をいただいたのですが、提案力、費用の明確さ、IT担当との相性などを総合的に判断し、三幸エステートさんにお願いすることにしたのです」

時間がないとはいえ、単に格好がいいだけのオフィスにはしたくなかった。しっかりとオフィスの課題に対するアンケート調査、ヒアリング、現状調査・分析といった各フェーズに時間をかけていく。その後、三幸エステートが主体となって内装デザイン会社の数社コンペを実施。同社にふさわしい設計・デザイン会社が選ばれた。

「具体的に内装デザインを提案していただく段階のとき、当社からコンセプトとして『一体感』を提示しました。50名規模の会社ですから、せめて全員の顔が見える環境にしたいと。それによって旧オフィスの課題であった『コミュニケーション不足』を解決するための一歩を踏み出したのです」

社員の要望を聞き取りながら働き方を変えるオフィスに

オフィスに何が必要か、どうあるべきか。オフィスづくりにおいて各部門から担当を出してもらい意見交換の場を設けた。細かい会議室の数やサイズについても社内からのアンケートに基づいて確定させていく。今回、設計・内装デザインを担当したのは株式会社インターオフィスと株式会社ブルック。両社ともハイクォリティの空間デザインづくりで評価の高いデザイン会社だ。社内外のメンバーたちが一体となって打ち合わせが重ねられていく。

「とにかく最初は社内からの意見を吸い上げることに注力しました。『自分たちのオフィスだから自分たちでつくっていこう』。それが当時の経営陣の方針だったのです」

設計のコンセプトは「Simple and Solid」。もともと色々な要素をミックスさせるのが好きでなかったということもある。

「移転をしたからには今までと違った特長を出さなければ。自分たちにも、お客様にも、親会社にも何かを感じてもらえるような仕掛けが必要だと思ったのです。そこで『コミュニケーション』を促進するための多様な機能を採り入れたのです」

旧オフィスは使用面積が広かったため、一人当たりの面積も広いというのが当たり前になっていた。そのため、最初に設計図が提出された段階では「極端に狭くなった」というマイナスイメージの部分が強調されてしまったという。

「トータル面積で70坪ほど削減となりましたが、整形無柱空間のため一切の無駄がないオフィスレイアウトを可能にしました。それも家具・什器、個人席などをうまく配置させただけではなく、新たに数多くの機能を備えることもできたのです」

もちろんスペース計画はレイアウトの工夫だけではない。移転に際してかなりの量の書類が整理されたという。自らのオフィスの改善のためにここでも社員が一体となった。

「部門ごとに削減目標を定め、クリアさせるために書類削減プロジェクトを組成しました。全体の50%程度の書類削減に成功しました。それによって個々の袖机も大幅に減らすことが出来たのです。今後は自らが書類の必要性を考えながら定期的に整理をしていきます」

それでは新オフィスの特長的な部分をエントランスから順に見ていこう。

エントランスは旧オフィスに比べてシックにまとめた。

「旧オフィスと比べるとかなり面積を削減しました。当社の場合、一度に大勢のお客様が殺到することはありませんので広さを抑えたといってもまったく不自由さは感じません。当社のイメージにフィットしたデザインになったと思っています」

執務室手前には来客者用応接室が4室。6人用、8人用、10人用、そして30人が収容できるボードルームを備えた。

「会議室の稼働率は高いですね。少し余裕を持ちながら使用できています。結果的に適正な室数を用意できました。大・中・小と収容サイズに変化を持たせたのも上手くいった要因の一つだと思います」

執務室は、営業部門で構成する「Front Office」と管理部門で構成する「Back Office」の2つの島に分かれる。

「見通しの良さを考えてパーテーションを低く設定しました。また、当社の場合、人数が少ないこともあって一人でいくつもの業務を兼務することがあります。打ち合わせがスムーズにできるように個人机ではなく長テーブルを採用しました」

そして2つの島の間に、マグネット効果を生み出すためのミーティング兼作業台や複合機を配した。金融機関では一般的にフロントとバックの間にウォール(壁)が必要という考え方と、『コミュニケーション』のためには無柱のスペースを大切にしたいという、矛盾した課題に対して、このスペースは無柱空間における目に見えないウォールの役割を果たすことにもなりました。

「実際はスタンディングミーティングスペースとしての使われ方が多いようです。『Front Office』と『Back Office』の中央に配置することで、どちらの部門でも使いやすくし、部門間での打ち合わせもここを積極的に活用していこうという方針でした。想像していた以上に管理部門と営業部門間のコミュニケーションが取れているようですね」

エントランス

エントランス

Front Office

Front Office

Back Office

Back Office

窓際にはオープンスペース。ソロワーク席が3席、ファミレス風スペースが2席、そしてドリンクカウンターで構成されている。

「時間帯によっては、ここでランチをとる社員もいます。旧オフィスではランチ時は無機質な会議室で食べていました。今考えると食事には向かない殺風景な空間でした」

旧オフィスでは、「Front Office」エリア内に1ヵ所だけコミュニティエリアが設けられていただけ。インフォーマルの会話の中心は給湯室で行われていたという。

「新オフィスではフォーマル、インフォーマル問わずファミレス風スペースの利用度が高いです」

その他、社内用にもクローズの会議室を用意した。オープンな打ち合わせだけでなく、守秘を要する内容のときもあるからだ。

ドリンクカウンター

ドリンクカウンター

ファミレス風スペース

ファミレス風スペース

ソロワーク席

ソロワーク席

これからも社員の意見を採り入れてオフィスのあるべき姿を追求していく

今回の新オフィスに採用した数々の機能は他社のオフィスを見学し、かつ三幸エステートやデザイン会社からの提案の中で誕生したものが多くあるという。

「今回の移転プロジェクトはまさに協力いただいた皆様のサポート無しでは成立しませんでした。移転がこれほどまでの時間や労力を使うことを全く分かっていませんでしたね。特に移転全体のマネジメントに入っていただいた三幸エステートさんには本当に感謝です。何しろスケジュールに合わせて行動していれば良かったので。実際に単純にデザイン会社に提案を要請するのではなく、コスト面を考えながらの細かい指示、社員アンケートの実施時期や内容の提案、コストを切り詰めるためのアイデアなど、全て当社の目線に立って動いていただきました」

そうして社員一人ひとりの想いがたくさん詰まったオフィスが誕生した。

「当社社員、PMの三幸エステートさん、実務デザインを担当したインターオフィスさん、ブルックさん。全員がつくり上げたオフィスです。今後も皆さんの意見を聞きながらオフィスを、そして働き方を進化させていきたいと思います」

ミーティング兼作業台

ミーティング兼作業台

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