株式会社モンスター・ラボ

2013年8月取材

※ 記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

業務の効率さを求めてフリーアドレスを廃止し、
月1回の席替えルールを導入した。

音楽配信サービスの企画・運営事業を核に業績を伸ばしているモンスター・ラボ。設立以来、働く人の快適さや居心地の良さを感じさせるオフィスづくりを心がけているという。今回はオフィスへのこだわりと具体的な工夫についてお聞きした。

モンスターラボ

多目的エリアであるモンスターカフェの全景

プロジェクト担当

?川 宏樹氏

株式会社モンスター・ラボ
?川 宏樹氏

代表取締役社長

浅野 麻里氏

株式会社モンスター・ラボ
浅野 麻里氏

広報・
マーケティングマネジャー

良質な音楽に誰もが出会える仕組みづくりを目的に起業した。

2006年2月に、独立性の高い音楽の配信サイト「monstar.fm」の提供を目的に設立されたモンスター・ラボ。2010年には店舗向けBGMサービス「monstar.ch」を、2012年には同じ「monstar.ch」とうい名称で個人向けストリーミング音楽サービスを開始するなど、音楽サービス事業を核に急成長を遂げている。

「もともとは経営コンサルティング会社に従事していたのですが、ものすごいスピードで世の中を変えていくインターネットの世界に興味を持ちまして。その後、ITベンチャー企業に転職し上場も経験。マネジメントとITの両面の経験を積みながら、2006年にモンスター・ラボを設立させました」(?川宏樹氏)

当時は、特に音楽業界に精通していたわけではない。ただ多くの素晴らしい音楽が世に出ず埋もれてしまうのが悲しかったという。

「実は、弟が音楽をやっていることもあって、多様なジャンルの多様なアーティストが発信する場を設けることができたらいいなと思ったんです」と起業のきっかけを語る。

「それまでの音楽って、マスメディアから提供された情報しか手に取ることができなかったじゃないですか。しかし、現在はインターネットの発達によって、メディア側が発信する以外の情報も閲覧が可能となってきました。決してメジャーではないけれど、良質な音楽をアイデアとテクノロジーを駆使して、誰もが出会える仕組みをつくる。それが自分たちのミッションだと考えたのです」(?川氏

モンスター・ラボの社名も、そうしたミッションに関連する。

「会社名のモンスターとは、『monster(怪物)』ではありません。フランス語の『mon(私の)』と英語の『星(star )』を組み合わせた創作語で、『私にとってのスター』を表しています。モノや情報が溢れている時代の中から、本当に自分に必要な情報を探してもらいたい。そのための会社であり続けたいと思って名付けました」(?川氏

そして、その思いをいつまでも継続させるために、モンスター・スタイルという企業理念を掲げた。

はやわかりメモ

  1. 良質な音楽に誰もが出会える仕組みづくりを目的に起業した
  2. 自宅オフィスから始まり、分室は近くのアパートの四畳半に
  3. フラットな会話を心がけることで、社員の不満が見えてくる
  4. コミュニケーションの活性化を目的として考えられた取り組み
  5. 音楽の力でオフィス内の知的生産性向上を可能にする

自宅オフィスから始まり、分室は近くのアパートの四畳半に。

「もともと1軒家を4人でシェアハウスとして借りていたんです。事業立ち上げ時は資金もないので、そこの自室をオフィスにしました。ですが、次第にメンバーが8人くらいに増えたときは、さすがにもう限界。向かいの古いアパートの和室四畳半を借り増しました。すぐ近くだったので電話の子機も使えて結構便利でしたよ。今では笑い話ですが、当時は本社、支社として呼んでいました」?川氏

その後、さらなる増員のため下北沢に移ることになる。

「アルバイトも含めると10人以上に増えたので、移転をしようと。ライブハウスが多く立地し、インディーズアーティストと触れ合う機会が多いことに魅力を感じ、下北沢を選びました。下北沢には2年くらいいましたね」(?川氏

下北沢に移り、2年が経過。メンバーが20人以上に増え、また移転を検討するようになる。結局、下北沢を出るときには25名になっていたという。そして、次にオフィスとして選んだ場所は、原宿(神宮前)だった。

「下北沢はサブカルチャーの原点みたいな街ですから、できれば離れたくありませんでした。しかし35名が入れるオフィスビル自体が少ないこともあり、渋谷近辺で探すことにしたんです。会社のカルチャーを考えると、一般的なオフィス街ではなく、クリエィティビリティが高まりそうな場所の方がいいだろうと。そういった検討を重ねて最終的に原宿への移転を決めました」(?川氏

続いて2012年3月にさらなる業務拡張のため、移転することになる。渋谷から近いエリアで少し広い面積が確保でき、さらにカルチャーを感じられる場所として選んだのが中目黒だった。それが現在入居しているビルである。

「色々な候補ビルを見ましたが、中でも中目黒の街並みは当社のカルチャーに相応しいと感じ、移転の段取りを決めたのです。もちろん賃料条件もあるわけですけど」(?川氏

そうして中目黒に移ったわけだが、当然、立地だけ良ければいいわけではない。最も大事なことは、働く人の快適さ、楽しい、ほっとできる、居心地がいい、などを感じさせるオフィスづくりをどれだけできるかである。

「内装デザインも企業カルチャーを感じさせるものであるべきと考えました。そこで、全ての業務の共通認識として掲げている『多様性を活かす仕組みを創る』もオフィスデザインに適用させなければならないと思ったのです。そうしてオフィスのキャパシティを考慮した利便性やデザイン、カルチャーを感じさせる色彩などを取り入れました」(?川氏

そうして出来上がったオフィスは外国籍の応募者やクライアントからも評価が高いという。

「以前、米国企業に勤務している方から、『シリコンバレーのようなオフィスですね』という言い方をしていただいたことがあります。このように、いい意味で日本の企業らしくないオフィスという声は多いですね」?川氏

全員が私服というカルチャーも、日本の企業らしくない要因の一つなのだろう。

「もちろん営業でお客様に会う予定のある人は、その辺をわきまえた服装をしています。個々のバランス感覚に任せており、特にルールがあるわけではありません。運営している中で自然に形成されたわけです。極論を言えば、お客様に不快な印象をもたれなければ、たとえ金髪だろうとなんでもアリだと思っています」(?川氏

モンスター・スタイル

  • 創造的、革新的なことにチャレンジする
    既存の仕組み、答えの無いことにチャレンジし、新しい価値を生み出す姿勢を持ち続ける。自分たちにしかできないことに強くこだわっていきたいと思っています。
  • 国境を超える
    インターネットにもアートにも国境はありません。サービスを提供する私たちも国境を超えて事業展開をしていきたいと思います。
  • 素人であり続ける
    その世界に一旦浸かると自然と常識に縛られ、制約をつくり出します。良い意味で、素人の視点を持ち続けたいと思っています。
  • チームとして最高のパフォーマンスを出す
    1人でできることには限りがありますが、チームになった時には無限の力を発揮することが可能です。互いの価値観、意見を尊重し、全員で良いチームをつくっていきたいと思っています。

フラットな会話を心がけることで、社員の不満が見えてくる。

「以前のオフィスの不満ですか。増員による手狭感はしかたないとしても、トイレの個数が少なかったのが不満でしたね。当時は男女比が9:1であるにもかかわらず、男子トイレには洋式が一つだけ。圧倒的に少ない。それだけは我慢できず、エンジニアがトイレが空いているかどうかを知らせるセンサーをつくるという提案までしてきました。あとは不満というわけではありませんが、エレベーターがなかったこと。毎回、階段で3階まで上り下りしていました」(?川氏

その他、従業員とのフラットな会話の中で感じ取ったことも多い。

「『何とかしてください!』といった、絶対的な不満ではないんですが、『そろそろ引越しを考えないんですか?』といった間接的な質問から不満を感じとることもありました。移転場所や移転後のレイアウトなどについては、社員全員にアンケートをとるなどして、相談しながら進めました」(?川氏

もともとモンスター・ラボには、企画やデザインが好きで入社してきた社員が少なくない。オフィスデザインに関しても、社内の有志メンバーとディスカッションを重ねて、現在のレイアウトを完成させた。「コストの制約がある中で、どれだけクリエイティブな環境をつくれるかが焦点でした。外部の内装デザインの専門会社の方と時間をかけて悩んだだけあって、思い描いていた通りのオフィスがつくれたと思っています」(?川氏

「社員の満足度も確実に上がっていますね。旧オフィスに比べてミーティングスペースが増えたことが評価の高い理由の一つになっているのだと思います」(浅野麻里氏

コミュニケーションの活性化を
目的として考えられた取り組み。

昔はフリーアドレス制度を導入していたが、今は継続していない。それはフリーアドレスの本来の目的を見直したところにある。その結果、効率的に仕事をするにはプロジェクトごとに固定席を用意するのが最適だと結論を出した。そしてコミュニケーションの活性化を図るのならば、別の方法もあるのではと検討したという。

それでは、モンスター・ラボのオフィスの特長とコミュニケーションづくりの取り組みを紹介しよう。

エントランス

モンスター・ラボの理念である「CREATE A PL ATFORM FORDIVERSITY(多様性を活かす仕組みを創る)」が掲げられたエントランス。壁一面のイラストは、モンスター・ラボがインターネットを通じて全世界と繋がるイメージを表現している。
エントランス

ミーティングルーム

社内外の打合せで使用しているミーティングルーム。以前のオフィスには、一つしか用意していなかったが、今回は三つの個室を用意。
それぞれ、
ニュートン、エジソン、アインシュタインと多大な業績を上げた科学者の名前が付けられている。床面のデザインは、エントランス同様にモンスター・ラボから発信する情報が全世界に伸びているイメージに。

モンスターカフェ

オフィスの端に設けられたモンスターカフェという名称のカフェ風スペース。新卒者の説明会や毎朝8時半から始まる新規事業会議がここで行なわれている。その他、多目的エリアとしてさまざまな用途で使用される。

「気分転換をする者、打ち合わせをする者、集中して作業をする者など、誰もが自由に使える場となっています。特に滞在時間に関する運用ルールは設けていませんが、混んできたら自然に入れ替わるなどしているようです」浅野氏

モンスターカフェ

毎月席替え

「当社は音楽配信サービスが主要業務のため、社内に選曲チームがいます。各自好みの音楽を聴きながら仕事をしていますので、その近くに座る人への影響を考えなくてはなりません。また、開発プロジェクトも頻繁にチームメンバーが入れ替わるので、月に1回、必ず席替えを行うことにしています。席替えを頻繁に行うことで、今まで会話のなかった人同士が話すようになりました」(?川氏

会議への参加

「モンスター・ラボでは、会議の参加を自由にしています。たとえ別部署の会議であっても、入社歴の浅い社員だとしても、自由に参加できます。それによって誰もが他部署や興味のある事業に対して自由に発言することを可能にしています。これはフリーアドレス以上に、風通しの良さがあるシステムではないでしょうか」(浅野氏

グループランチ

「グループランチという制度を行っています。ランチ代は会社が負担し、月に2回ランダムで決まった4、5名のメンバーでランチに行く制度です。仕事以外の会話で盛り上がっているようですね。ランダムに選んだメンバーというのがポイントで、今後もコミュニケーションの高まりに期待しています」浅野氏

ケータリングパーティ

「毎月1回開催している全社会議の終了後に、参加者全員を対象にしたパーティーを行っています。金曜日の夜に行なうことが多いためか、全員で夜遅くまで盛り上がっています」(浅野氏

音楽の力でオフィス内の知的生産性向上を可能にする。

音環境と知的生産性に与える影響については、一定の関係性があると日本音響学会でも論じられており、今後より研究されるべき分野だと言われている。

「最近では、店舗向け、事務所向けの音楽配信事業も好調で、音楽の持つ影響力への理解が高まってきました。サウンドマスキングとして会議室へ導入する企業も増えてきています。今まで一般消費者向けだった当社の音楽配信サービスが、ビジネスユーザーの皆様にも役立てばいいですね」?川氏