- 最優先課題は人員増により分散されたオフィスの集約。「1棟借り」をキーワードに移転先を探す
- 竣工前のビルを選んだメリットはゾーニング計画から参加できたこと
- 社員からの要望は、理由や目的を明確にしプラスの効果を考えることが重要
- オフィスコンセプトの根底にあるのは「一つ屋根の下にみんなが集まれる場所」
- 楽天新本社「クリムゾンハウス」の機能を見ていこう
- 能力を最大限発揮できる環境を用意することが会社の役目
最優先課題は人員増により分散されたオフィスの集約。
「1棟借り」をキーワードに移転先を探す
楽天株式会社は1997年に港区愛宕で創業。以来、20年の間に5度のオフィス移転を行ってきた。その理由のほとんどが人員増により分散されたオフィスの非効率さだと語る。
「新卒や中途採用者だけでなく、近年はM&Aや関係会社との業務提携により毎年人員が増えています」(高橋朋之氏)
「使用面積としては、六本木ヒルズと周辺のオフィスで借りていた物件を統合して2007年に東品川のオフィスビルに移ったときは約31,000㎡。そして今の二子玉川オフィスでは約66,000㎡を借りています」(小川史行氏)
同一ビルの中で増床ができない環境の場合、近隣に分室を求めて対応をしてきた。分室が増えていくことで次第に業務の効率性が悪くなり、全従業員が入居できる大規模オフィスビルに移転を行う。今までその繰り返しだった。
「前回から移転先を選ぶ条件の一つに『1棟借り』というキーワードが追加されています。そのため今回の移転に関してもエリアに対するこだわりはありませんでしたが、必然的に新築の数棟に絞られてしまいましたね。議論となったのは、高い賃料を払ってまで都心にオフィスを構えるメリットがあるかということ。最終的には、竣工時期や諸条件などでさらに絞り込み、入居ビルを決めました」(高橋氏)
竣工前のビルを選んだメリットはゾーニング計画から参加できたこと
竣工前のビルを選んだメリットは、ビル全体のゾーニング計画から参加できたことだった。
「ビル側が工事開始前でしたので仕様変更の要望を提出できました。例えば、停車するエレベータの本数。設計図の段階では大規模な会議や行事などが行われる4階に停止するエレベータは1系統のみでした。これでは入居後に館内の大混雑が想定されるため、設計変更を依頼。変更のおかげで、入居後はスムーズな館内移動ができています」(高橋氏)
そのほかにも、フロアごとのトイレの増設、重要フロアを結ぶ内階段の新設、自動販売機設置場所の改修など、新築ビルを1棟借りるメリットを充分に活かしている。
社員からの要望は、理由や目的を明確にしプラスの効果を考えることが重要
移転先を確定させたのが、まだビルが竣工する前の2012年初め。そこから3年近く掛けてオフィスづくりの計画から構築までを実施する。
「移転プロジェクトは、ファシリティマネジメント課を中心に進めました。過去の移転と違うところは、ブランドチームや広報チームも巻き込んだチーム編成にしたことです。それだけデザインやブランドイメージにもこだわったのです」(高橋氏)
今回の移転にあたり、社員からの要望もきちんと受け止めたという。ただし、すべてをただ聞き入れるのではなく、正式なプレゼンテーションによる提案に限定した。
「要望提出用のフォーマットを用意しました。そのシートに基づいて、どのような理由で、何が必要で、どのような効果が生まれるのかをプレゼンしてもらったのです」(小川氏)
プレゼン内容を検討後、移転の担当役員に報告。その結果、いくつかの新機能が誕生したという。リサーチルームの新設もその一つだ。これによってユーザーの目線や動作を再確認でき、ユーザビリティの向上を可能としている。そのほか、4階に新設した採用面接専用の部屋。これも今まで無かったオフィス機能である。
「新卒や中途採用があまりに多いための対策です。それだけでなく全体的に、応接室は不足気味でした」(高橋氏)
「応接室の不足は以前から課題になっていました。しかし部屋を増やすだけでなく、分析・改善もしっかりと行っています。応接室不足という問題に対し、まずは使用状況の現状を調査。調査結果で空予約が多いことが判明したため、可視化ツールを導入することとし、さらに社内用会議室については予約時間から入室が無いまま一定時間を経過すると自動的にキャンセルになる機能を追加しました。このように安易に部屋を増やすだけでなく、課題解決に向けての施策もしっかりと行っています」(小川氏)
「オフィスづくりは、機能ありきで物事を考えては成功しません。経営として何を望むのか、そのために何が必要なのか。社員が欲しいといったからつくるのではなく、それによってどのようなプラスの効果が生まれるのかを考えることが重要なのです」(高橋氏)
オフィスコンセプトの根底にあるのは「一つ屋根の下にみんなが集まれる場所」
同社の代表取締役である三木谷氏は、新オフィスに「創業時から大切にしてきた働く環境のこだわり」を求めたという。
「オフィスは、雑談の中から仕事に展開できるようなアイデアが生み出される場所になればいいと思っています。そういった効果を少しでも誘引できるように個人デスクはできるだけ密集させて、その横にゆったりとした共有スペースを設けました。プライベートタイム中であってもサポートする環境を構築していきたいと考えています」(高橋氏)
社員をサポートするために福利厚生施設を充実させた。その目指すものは、「社員の暮らしと心身の健康をしっかり支えるオフィス」である。
「同じ釜の飯を食べて社員を家族のように思う」。これは三木谷氏の言葉だ。そんな考えから六本木オフィスからカフェテリアの設置が始まったという。ただしその時は補助制度にすぎず、完全無料での提供は次の東品川オフィスからだった。
「すべての従業員が直接恩恵を感じられるカフェテリアは、福利厚生機能の中でも最も重要視しています。新オフィスではさらに多くの方が利用できるように低層階と高層階の2フロアに十分なスペースを確保しました。食堂としての運営時間は、7時半から8時半が朝食、11時から14時がランチ、19時から21時までが夕食です。朝食と夕食は、早出や残業社員のためのサポート機能となっています」(小川氏)
現在、各フロアともに750席を用意した。1日に延べ1万人が利用しているという。さほど待ち時間も無く食事ができると語る。
「経営側から見たときに、カフェテリアの充実は生産性や時間効率を向上させるための施策になっていると思っています。例えば、もしも食堂がなかった場合、一旦外出しなければならないですし、入ったお店で並ぶかもしれない。それって無駄な時間ですよね。どんなに時間がない場合でも、『栄養計算された食事』を提供する。それが経営陣の考えになっています」(小川氏)