楽天株式会社

2017年4月取材

※ 記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

「個々の能力を最大限発揮できる環境」を用意した新本社オフィス

インターネットサービスを中心に、グローバルに事業展開している楽天株式会社。企業としての成長、M&Aや業務提携などによる人員増に対しては、本社オフィス近隣に分室を設けて対応してきたが、その施策も限界に。2015年8月に大規模な統合移転を実施し、最優先課題であった手狭感の解消を行った。本移転ではオフィス内の福利厚生施設もさらにバージョンアップさせ、社員の満足度を高めている。今回は社員に対する福利厚生の必要性をテーマにお話をお聞きした。

プロジェクト担当

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楽天株式会社
総務部ファシリティ
マネジメント課
シニアマネージャー

高橋 朋之氏

小川 史行氏

楽天株式会社
総務部総務課
福利厚生グループ

小川 史行氏

上)フロア間を結ぶ内階段  左下)ゆったりとした共有スペース  右下)カフェテリア

上)フロア間を結ぶ内階段  左下)ゆったりとした共有スペース  右下)カフェテリア

はやわかりメモ

  1. 最優先課題は人員増により分散されたオフィスの集約。「1棟借り」をキーワードに移転先を探す
  2. 竣工前のビルを選んだメリットはゾーニング計画から参加できたこと
  3. 社員からの要望は、理由や目的を明確にしプラスの効果を考えることが重要
  4. オフィスコンセプトの根底にあるのは「一つ屋根の下にみんなが集まれる場所」
  5. 楽天新本社「クリムゾンハウス」の機能を見ていこう
  6. 能力を最大限発揮できる環境を用意することが会社の役目

最優先課題は人員増により分散されたオフィスの集約。
「1棟借り」をキーワードに移転先を探す

楽天株式会社は1997年に港区愛宕で創業。以来、20年の間に5度のオフィス移転を行ってきた。その理由のほとんどが人員増により分散されたオフィスの非効率さだと語る。

「新卒や中途採用者だけでなく、近年はM&Aや関係会社との業務提携により毎年人員が増えています」(高橋朋之氏)

「使用面積としては、六本木ヒルズと周辺のオフィスで借りていた物件を統合して2007年に東品川のオフィスビルに移ったときは約31,000㎡。そして今の二子玉川オフィスでは約66,000㎡を借りています」(小川史行氏)

同一ビルの中で増床ができない環境の場合、近隣に分室を求めて対応をしてきた。分室が増えていくことで次第に業務の効率性が悪くなり、全従業員が入居できる大規模オフィスビルに移転を行う。今までその繰り返しだった。

「前回から移転先を選ぶ条件の一つに『1棟借り』というキーワードが追加されています。そのため今回の移転に関してもエリアに対するこだわりはありませんでしたが、必然的に新築の数棟に絞られてしまいましたね。議論となったのは、高い賃料を払ってまで都心にオフィスを構えるメリットがあるかということ。最終的には、竣工時期や諸条件などでさらに絞り込み、入居ビルを決めました」(高橋氏)

竣工前のビルを選んだメリットはゾーニング計画から参加できたこと

竣工前のビルを選んだメリットは、ビル全体のゾーニング計画から参加できたことだった。

「ビル側が工事開始前でしたので仕様変更の要望を提出できました。例えば、停車するエレベータの本数。設計図の段階では大規模な会議や行事などが行われる4階に停止するエレベータは1系統のみでした。これでは入居後に館内の大混雑が想定されるため、設計変更を依頼。変更のおかげで、入居後はスムーズな館内移動ができています」(高橋氏)

そのほかにも、フロアごとのトイレの増設、重要フロアを結ぶ内階段の新設、自動販売機設置場所の改修など、新築ビルを1棟借りるメリットを充分に活かしている。

社員からの要望は、理由や目的を明確にしプラスの効果を考えることが重要

移転先を確定させたのが、まだビルが竣工する前の2012年初め。そこから3年近く掛けてオフィスづくりの計画から構築までを実施する。

「移転プロジェクトは、ファシリティマネジメント課を中心に進めました。過去の移転と違うところは、ブランドチームや広報チームも巻き込んだチーム編成にしたことです。それだけデザインやブランドイメージにもこだわったのです」(高橋氏)

今回の移転にあたり、社員からの要望もきちんと受け止めたという。ただし、すべてをただ聞き入れるのではなく、正式なプレゼンテーションによる提案に限定した。

「要望提出用のフォーマットを用意しました。そのシートに基づいて、どのような理由で、何が必要で、どのような効果が生まれるのかをプレゼンしてもらったのです」(小川氏)

プレゼン内容を検討後、移転の担当役員に報告。その結果、いくつかの新機能が誕生したという。リサーチルームの新設もその一つだ。これによってユーザーの目線や動作を再確認でき、ユーザビリティの向上を可能としている。そのほか、4階に新設した採用面接専用の部屋。これも今まで無かったオフィス機能である。

「新卒や中途採用があまりに多いための対策です。それだけでなく全体的に、応接室は不足気味でした」(高橋氏)

「応接室の不足は以前から課題になっていました。しかし部屋を増やすだけでなく、分析・改善もしっかりと行っています。応接室不足という問題に対し、まずは使用状況の現状を調査。調査結果で空予約が多いことが判明したため、可視化ツールを導入することとし、さらに社内用会議室については予約時間から入室が無いまま一定時間を経過すると自動的にキャンセルになる機能を追加しました。このように安易に部屋を増やすだけでなく、課題解決に向けての施策もしっかりと行っています」(小川氏)

「オフィスづくりは、機能ありきで物事を考えては成功しません。経営として何を望むのか、そのために何が必要なのか。社員が欲しいといったからつくるのではなく、それによってどのようなプラスの効果が生まれるのかを考えることが重要なのです」(高橋氏)

オフィスコンセプトの根底にあるのは「一つ屋根の下にみんなが集まれる場所」

同社の代表取締役である三木谷氏は、新オフィスに「創業時から大切にしてきた働く環境のこだわり」を求めたという。

「オフィスは、雑談の中から仕事に展開できるようなアイデアが生み出される場所になればいいと思っています。そういった効果を少しでも誘引できるように個人デスクはできるだけ密集させて、その横にゆったりとした共有スペースを設けました。プライベートタイム中であってもサポートする環境を構築していきたいと考えています」(高橋氏)

社員をサポートするために福利厚生施設を充実させた。その目指すものは、「社員の暮らしと心身の健康をしっかり支えるオフィス」である。

「同じ釜の飯を食べて社員を家族のように思う」。これは三木谷氏の言葉だ。そんな考えから六本木オフィスからカフェテリアの設置が始まったという。ただしその時は補助制度にすぎず、完全無料での提供は次の東品川オフィスからだった。

「すべての従業員が直接恩恵を感じられるカフェテリアは、福利厚生機能の中でも最も重要視しています。新オフィスではさらに多くの方が利用できるように低層階と高層階の2フロアに十分なスペースを確保しました。食堂としての運営時間は、7時半から8時半が朝食、11時から14時がランチ、19時から21時までが夕食です。朝食と夕食は、早出や残業社員のためのサポート機能となっています」(小川氏)

現在、各フロアともに750席を用意した。1日に延べ1万人が利用しているという。さほど待ち時間も無く食事ができると語る。

「経営側から見たときに、カフェテリアの充実は生産性や時間効率を向上させるための施策になっていると思っています。例えば、もしも食堂がなかった場合、一旦外出しなければならないですし、入ったお店で並ぶかもしれない。それって無駄な時間ですよね。どんなに時間がない場合でも、『栄養計算された食事』を提供する。それが経営陣の考えになっています」(小川氏)

楽天新本社「クリムゾンハウス」の機能を見ていこう

今回の移転の最大の目的は「手狭感の解消」。加えて「旧オフィスの課題解決」「社員の健康増進」がそれに続く。それでは具体的に新しいオフィス機能を見ていこう。

まず、来客者が始めに接するのが2階の総合エントランスだ。フラッパーゲートの外側が来客用スペースとなる。

「木製の階段で繋がる2階と3階が来客用の応接スペースとなります。旧オフィスでの応接室不足の課題を解消するために部屋毎の収容人数をかなり調整しました」(小川氏)

総合エントランス

来客用応接スペース

上)総合エントランス  下)来客用応接スペース

4階は大ホールとセミナールームを集積させたフロアとなる。社員がビルの外から入室する場合は、3階まで続くエスカレーターが主要の動線となる。

「大ホールでは、毎週朝会(あさかい)が行われ2,000人が集まります。そのほか、各種セミナーの開催時に使用する大・中のホールを備えました。ホールは可動式の間仕切り壁を使って新入社員のための研修会場や勉強会などにも活用。稼働率を高めています。これだけ頻繁に使用していると、外部に会場を借りるよりも断然安いですね。もちろん、費用面だけでなく、移動コストや移動時間、講師派遣の時間調整など、そこには余りあるメリットが存在します」(小川氏)

「当社は、創業時から朝会をとても大事な会議として扱ってきました。ですからできるだけ多くの従業員に参加してもらいたいのですが、残念ながら全員が入れるわけではありません。そこで自席でも参加できるように、各フロアの執務室内に数台のモニターを設置しています」(高橋氏)

そのフロアの上層階である5階から8階は一般の執務室となる。新本社では、「心身の健康をしっかり支える」ために、「電動昇降型デスク」が導入されている。

「『長時間にわたり同じ姿勢でいることは身体に害を与える』ため、その改善策として採用しました。様々な体格にも対応できます」(小川氏)

「採用までのステップとしては、まず代表の三木谷が試用。その良さを理解してもらったうえで全社員に導入しました。よく特定の部署から実験的に試用する会社もあると思いますが、それですと全社員に浸透するまでに時間がかかるため、当社では一気にすべてのデスクを入れ替えたのです」(高橋氏)

そして9階がカフェテリアとなる。メニューの特長はハラル料理も用意していることだ。

「カフェテリアと名付けていますが、もちろん食堂が目的ではありません。社内外ミーティングや個人の勉強の場、社内サークルやグループサービスの告知など様々な使い方をしています。中でもファミレス席では資料を広げて打合せをしている光景がよく見られます」(小川氏)

その上、10階から15階までは執務室フロア。16階が社内用会議室のフロアとなる。16階には、実に大小合わせて51室が用意されている。

「レクチャーホール(マネージャー会議や部内会議用の会議室)とボードルーム(役員会議室)と2つの大きな会議室を設けています。どちらも講演者が使いやすいように奥行きを計算した特注の演台を採用しています」(小川氏)

そして会議室フロアの上、17階から21階が再び執務室となる。

「すべての執務室フロアにはフリースペースを備えているのですが、そこに置かれているテーブルの高さは1,050mm。このテーブル専用の椅子は座っていても立っている人と目線が同じになる工夫をしています」(小川氏)

22階はカフェテリア。9階のカフェテリアにハラル料理が用意されていたのに対し、22階ではインド系ベジタリアン対応のお弁当を提供する。

「さらにカフェテリアの一角にはコンビニも設置。ここでは焼きたてのパンも提供しています。食堂の運営時間外はコンビニでお弁当などを購入して食べている方もいますね。また、夜になるとアルコールも販売しますので、飲みながらコミュニケーションを深める方もいます」(小川氏)

「カフェテリアは、あえてエレベータ停止階である執務室と執務室の間に設置しているので、違う部署同士で打合せをする場合、中間点となるカフェテリアで待ち合わせるケースもあるようです。当初のゾーニング計画で考えた通りの動線になっていますね」(高橋氏)

9階フロアには専門のトレーナーも常駐する本格的なフィットネスクラブも完備している。

「就業時間以降は、すべての機械がフル稼働するほど人気の施設ですね。普段仮眠室として開放している部屋があるのですが、そこは卓球やキックボクシング、ヨガなどの教室に転用しています。クラブ内にはシャワールームやサウナも用意しました。健康な身体を維持するためにトップダウンでつくられた施設となります」(小川氏)

そして22階の高層フロアにはクリムゾンクラブと名付けられた有料レストランが用意されている。接待にも使える内容で、和・洋食ともに、昼食時間はいつも満席状態だという。夜はワインセラーもあるほど本格的なレストランになっている。

別棟には、「Rakuten Golden Kids」という社内託児所が完備されている。

「託児所は、移転後に誕生した新機能になります。これからの働き方を意識したもので、子育てが理由で優秀な人材が復職できないのは会社の損失だろうと。産休者の早期サポートを目的につくられました。現在、約50名が登録をしております。当社らしいといえば、ネイティブによる英語プログラムを使用していることで、子どもたちに早い段階から英語に馴染んでもらうのが目的です」(小川氏)

そのほか、鍼灸、クリニック、クリーニング、搾乳室、祈祷室など、社員の暮らしや健康をサポートする環境を充実させている。

執務室内の昇降型デスク

執務室内の昇降型デスク

カフェテリア内のファミレス風スペース

カフェテリア内のファミレス風スペース

Lecture Hall

Lecture Hall

カフェテリアの一角にあるコンビニ

カフェテリアの一角にあるコンビニ

フィットネッスクラブ

フィットネッスクラブ

ゲスト対応レストラン クリムゾンクラブ入口

ゲスト対応レストラン クリムゾンクラブ入口

クリムゾンクラブバンケット

クリムゾンクラブバンケット

楽天市場のワインを揃えたワインセラー

楽天市場のワインを揃えたワインセラー

クリムゾンクラブ 和室

クリムゾンクラブ 和室

「カフェテリアの設置効果」

設置効果:個人
・大幅な時間の節約
・バランスの取れた健康食
・食のダイバーシティに対応
・コミュニケーションの増加
・休憩、仕事、自主学習の場
・恩恵を直接的に感じるサービス

設置効果:集団
・会議
・パーティ
・内外サンプリング

設置効果:会社
・広報(社内外)
・ブランディング
・リクルーティング、離職率の低減
・地域活性化活動
・セルフサービスによる残食の減少
・社内サービスの積極活動

能力を最大限発揮できる環境を用意することが会社の役目

新本社の内装工事が終わり、引越しは2015年6月から順次行った。

「業務のストップは避けなければなりません。そのため、週ごとに数百席を順番に移動させていきました。そうして3ヵ月後の9月に移転が完了。まさに一大イベントでした」(小川氏)

「今回のオフィスを俯瞰的に見ると、『上手くパッケージに収まった』と感じています。しかし人員採用計画の中で、そのバランスは次第に崩れてくることでしょう。オフィス運営は常に課題発生の連続ですから、完全に完成することはできないのかもしれません。だからこそ個々の能力を最大限発揮できる環境を用意していくことが会社の役目だと思っています」(小川氏)

「最近、ワークライフバランスという言葉をよく聞きますが、仕事とプライベートを明確に分けることは難しいというのも事実ではないかと思います。「ワーク」に使っている時間だけを見ても、1日の中で大きな割合になります。なので、仕事と生活、双方にいい影響を与えられるような、様々な要素が入り組んでいるオフィスこそが、これからの時代に適しているように思うのです」(高橋氏)