楽天株式会社

2018年7月取材

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※ 記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

新潟に誕生した楽天「ラクマ」の
大規模なカスタマーサポートセンター

楽天が運営するフリマアプリ「ラクマ」。この度、業務拡張を理由にラクマ専門のカスタマーサポートセンターを新潟市内に新設した。同社の考える新潟市の魅力、新潟市の中で現物件を選んだ理由、実際に構築したオフィスの特長など、今回の新設におけるポイントをお聞きした。

齋藤 高輝 氏

楽天株式会社
新サービス事業
C2C事業部 ジャパンラクマ課
カスタマーサポートグループ
マネージャー
齋藤 高輝 氏

リラクゼーションエリア全景

リラクゼーションエリア全景

Contents

  1. フリマアプリ「フリル」との統合で専用のカスタマーサポートセンターが必要となった
  2. BCP(事業継続計画)と将来的な採用面を考えてカスタマーサポートセンターの新設先を検討した
  3. オフィスコンセプトは「リフレッシュ&コミュニケーション」
  4. ラクマのTVCM放映が追い風となりスムーズに現地スタッフの採用ができた
  5. カスタマーサポートセンターだからこそコミュニケーションを大事にしていく

1. フリマアプリ「フリル」との統合で専用のカスタマーサポートセンターが必要となった

近年、個人間の売買はネットオークション型からフリマアプリ型にシフトされつつある。それは希望の価格でスピーディに取引ができる手軽さが評価されてのことだ。日本で初めてサービスを開始したフリマアプリは株式会社Fablic運営の「フリル(FRIL)」。フリルはファッションや美容関係の出品が多く、若年女性層からの支持を集めていた。

「今でこそ『個人間の商品売買』をスマートフォンで行うアプリは数多くリリースされていますが、それらの主要フリマアプリはフリルのプラットフォームをベースにしているものが多いのではないでしょうか」

楽天株式会社も2014年からフリマアプリ「ラクマ」を提供している。当時のラクマは家電などの高価格帯の商品に強みを持っていた。そうして拡大傾向のあるフリマ市場の中で、異なる顧客層や出品カテゴリを補完し合い、さらなる業務拡大を目的に2つのフリマアプリ「フリル」と「ラクマ」は統合されることになる。それが2018年2月からスタートした新生「ラクマ」だ。

楽天本社ビルの中にカスタマーサポート部門は設けられていた。しかしC2C市場全体の拡大に応じて問い合わせ数も増加傾向にある。既存のリソースでは不十分で、サービス向上を図るためにもカスタマーサポートセンターの増設が検討されていた。

「それに加えて今回の事業統合です。取扱総額の増加やユーザー層の拡大が見込まれます。そこで猶予のない対応が求められていました」

カスタマーサポートへの多様な問い合わせ内容に対して、迅速に対応することも人員を割かなければならない理由の一つとなっていた。

「私どもの業務は、出品者と購入者をトラブルなく結びつけることです。問い合わせ内容を大まかにカテゴライズすることはできますが、実はそれぞれ微妙に違う内容となります。つまり内容をきちんと把握しないことには、その案件ごとに相応しい回答を示すことができません。AIを活用して効率よく処理することも考えられますが、C2Cサポートの分野ではまだまだ人の手による対応が必要とされています。迅速に、そして的確に。それが私どもの信頼につながっているのです」

2. BCP(事業継続計画)と将来的な採用面を考えてカスタマーサポートセンターの新設先を検討した

そうしてカスタマーサポートセンターの新設エリアの検討に入る。

「まずBCPの観点で考察する必要がありました。そうなると当然に本社と同じ関東エリアに立地させるのは高いリスクがあります。関東以外の主要都市を調査してみると、コールセンターやサポートセンターといった業態は札幌市や仙台市、福岡市に多く集積していることがわかりました。競合が多いということは、今後の採用面や物件確保の部分で必ずバッティングすることになります。そこで逆に企業進出が少ないエリアを検討しようと思ったのです」

それから各自治体が発表している補助金や企業誘致制度を一覧表にして見比べたという。

「自治体の制度を比較してみると新潟市の条件が目を引きました。新潟市には競合といえる企業はそれほど多く進出していません。さらに市内の人口構成をみると僕らがターゲットとしている若年層が多いこともわかりました。しかも専門学校や大学も多い。これらの性質はいずれ採用を考えたときに優位になると思ったのです。また、東京からのアクセスも申し分ありません。調べれば調べるほど新潟市への想いが強くなっていました」

新潟市を候補として、オフィスマーケットや今後の再開発計画、そもそも希望している広さの空き物件があるのかなど、三幸エステートに相談をする。そうして新潟市内の物件について打ち合わせが始まった。2017年12月のことだった。

「オフィスを新設するにあたり必須条件は広い面積。1フロアで最低でも150坪は必要と考えていました。その他、公共交通機関でのアクセス、人の集積度合いなど。採用にフォーカスした理由が多いですね。2月には3棟に絞り込み、内見を行いました」

最終的には、広さや利便性だけでなく、積雪を想定した冬場の通勤環境も比較して現在のビルを選んだという。3月にはビル側との諸条件を調整し、契約を締結した。

3. オフィスコンセプトは「リフレッシュ&コミュニケーション」

入居ビルが確定し、内装デザインのフェーズに入る。今回は特に大掛かりなプロジェクトチームを組むことなく、数人規模で進めた。デザイン会社2社に企画コンペを依頼。同社のオフィスコンセプトは「リフレッシュ&コミュニケーション」であることをコンペ2社に伝えた。

「このオフィスはあくまでもラクマのカスタマーサポートセンターです。問い合わせに対する応対が主業務になります。そんな体系的な業務をより効率的にするためにはリフレッシュできる空間とコミュニケーションが必要だと考えました。その考えをオフィスデザインにも採り入れようと思ったのです」

カスタマーサポートの業務には目に見えにくい色々なストレスが存在する。そのため気持ちの切り替えやメリハリを持たせる仕組みづくりが重要だと語る。

「カスタマーサポートということもあり固定席にせざるを得なかったのです。ですから集中して業務を行うスペースと開放的なスペースとのバランスの取れた強弱あるオフィスを目指しました。同時に今まで新潟市内になかったスタイリッシュなオフィスデザインをリクエストしました。見ただけで働きたくなるようなオフィスにしたかったのです」

またカスタマーサポートは個人プレーの業務だと思われがちだが、思いのほかコミュニケーションを頻繁にとらなければ成立しないことがたくさんあるという。

「業務自体は各自のメール返信で完結します。しかし全員が自分の対応に自信を持っているわけではありません。そんな不安や成功例を共有するためにミーティングを何度も行っています。それを日々積み重ねていってナレッジが蓄積されていくのです」

それでは色々な工夫やアイデアが詰まったオフィスを紹介していこう。

エレベーターを降りると木目調の落ち着いたエントランスが姿を現す。エントランスを抜けると社内外で使用するための会議室が3室。うち1室は楽天本社とテレビ会議ができる環境を整えている。

エントランス

エントランス

テレビ会議室

テレビ会議室

執務室

執務室

リラグレーションエリア2

リラグレーションエリア2

リラクゼーションエリア3

リラクゼーションエリア3

オフィス入室にはICカードを使用。足を踏み入れるとそこは壁のないオープンな環境が広がる。その中心には多目的のリラクゼーションエリア。50名前後が一堂に集まることが可能だ。そこにも一つのデザインの工夫が採り入れられている。

「デザイン会社からの提案で、リラクゼーションエリアは執務エリアとの境界のように床を一段高く設けています。高さの変化はワーカーの視点を変えることになり、それにより新鮮な発想を生むことに繋がると考えました。同様の考えで一段低いゾーンもつくりました。ここはリラックスが目的のため土足厳禁としています。柔らかい発想で色々なアイデアが生まれる場所として社内からの評判も上々ですね」

リラクゼーションエリアの前には2台のスタンディングデスク。簡単なミーティングを行う場所として使用頻度も高いと聞く。窓際には個人作業に適したカウンターエリア。その隣にはチームミーティングなどを行うファミレスエリアを設置。ファミレスの座席下は空洞になっており、今後は備蓄品や防災グッズなどを収容する予定だ。

現状、執務室エリアの座席数は130席を用意している。

「執務室エリアではロングテーブルをオーダーしました。ですから急な増員があったとしても大幅にレイアウト変更をすることなく容易に座席の追加が可能です」

スタンディングデスク

スタンディングデスク

カウンターエリア

カウンターエリア

ファミレスエリア

ファミレスエリア

ロングテーブル

ロングテーブル

4. ラクマのTVCM放映が追い風となりスムーズに現地スタッフの採用ができた

オフィス開設時点での採用目標は40名。年内には160名を目指す。できるだけ新潟市内の在住者を雇用するという方針となった。採用計画を達成するために早い段階から採用活動が進められた。

「オフィスの完成を待っていたら採用が到底間に合いません。そこで地場のエージェントと打ち合わせを行い3月から採用活動を行うことにしたのです」

春先という時期がよかったのか、エントリー数は予想以上に多かったという。

「ちょうどTVCMを中心にPR活動を行っていたタイミングと合致したのも良かったのでしょう。求人媒体にはラクマのロゴを載せるだけで効果がありましたね。9割は女性からの応募者です。応募者のほとんどがフリマアプリユーザーだったことも特長的でした。実際に慣れ親しんでいる方ばかりでしたから、スムーズな流れで面接に進めました」

そうして3月、4月と順次採用試験および面接を行う。6月初旬のオフィス開設時には当初の予定通り40名の第一期生が出社してきた。

「出社後は全体の業務を掴んでもらうために数日かけてのオペレーション研修。その後、実務トレーニングを行いました。そこに1ヵ月くらいかけましたね。そうしてようやく一人でこなせるようになるのです。この業務にタイピングの速さは求めていません。むしろ相手に納得いただける内容の文章を打てるかどうか。少しずつ知識を積み重ねていくことがお客様への信頼につながると思っています」

5. カスタマーサポートセンターだからこそコミュニケーションを大事にしていく

「現在のメンバーが以前働いていた会社は、典型的な島型対向型のオフィスが多かったようです。それに対して僕らがつくったのはワーカーが自由にリラックスでき、コミュニケーションを高められる機能を持ったオフィスです。皆さん、最初にこのオフィスを見たときは衝撃を受けていましたね」

オフィスの使い方は、初日にワーカー全員に対して説明を行った。

「業務自体が個々の判断で進められることも多いため、少しでもワーカー同士がコミュニケーションを取りやすいように工夫をしています。例えば、休憩時間が重なるようにスケジュールを調整しました。その甲斐あってメンバー同士の距離が縮まるのも早かったですね。その他、定期的にリラクゼーションエリア内で懇親会を行っています。とても簡易的なものではありますがプライベートな会話を楽しむきっかけになりました。そういった催しは今後も続けていきたいですね。そうすることで少しでもストレスフリーな職場環境につなげてもらえればと思います」

同社では、精神的なストレスからの解放を最重要課題として捉えている。

「ここは今後もカスタマーサポートセンターであることに変わりはありません。個々で行う業務中心だからこそコミュニケーションを取り合うことが大切なのです。これからもその考えは変わらないでしょう」

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