株式会社レーサム(霞が関コモンゲート)

2008年2月取材

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※ 記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

「成長のステップ」に応じた経営戦略があるように
オフィスのスタイルも変えていかなければならない

不動産による資産運用事業、証券化事業、プロパティマネジメント事業などで急成長を遂げてきた株式会社レーサム(旧社名:株式会社レーサムリサーチ)は、2008年1月、西新宿から霞が関への本社移転を行った。

地下鉄虎ノ門駅に直結する霞が関コモンゲート西館の35階と36階に新しく生まれたオフィスは、全社員が利用する「オフィスゲート」をセンターに置き、そこから左右に広がる執務エリア、多様なコラボレーションコーナー、くつろげるバーラウンジと、さまざまな新機能を盛り込んでいる。それまであまり意識しなかった「オフィスの効果」に着目したのは、新しい経営ビジョンを社内外に強く示し、移転を景気にした業務変革を進めるためだったという。

新しい経営ビジョンを社内外に強く示し、移転を景気にした業務変革

プロジェクト担当

田中 剛氏

株式会社レーサム
田中 剛氏

代表取締役社長

飯塚 達也氏

株式会社レーサム
飯塚 達也氏

常務取締役
事業企画ユニット長

小町 剛氏

株式会社レーサム
小町 剛氏

常務取締役
経営企画ユニット長
兼 社長室長

伊澤 成人氏

株式会社
CWファシリティ
ソリューション

伊澤 成人氏

代表取締役社長

綱川藤男氏

株式会社
CWファシリティ
ソリューション

綱川藤男氏

チーフ
コンサルタント

はやわかりメモ

  1. 設立から第一の成長期は高いコスト意識を
    事業が軌道に乗るまでは無駄なコストは極力減らすのが経営の基本。この段階ではオフィスへの投資も控えてきた。
  2. 第二の成長期への変革はオフィスから
    業務変革を推進するにはオフィス移転によって環境を変えるのは効果的。そのときには中途半端に予算を制限するよりも、思い切った投資で社内外に改革の意志をアピールすることが重要だ。
  3. デスクの収納をなくせばスペース効率は高まる
    フリーアドレスでなくても私物は個人ロッカーに入れることにすればデスクのサイズを小さくできる。また「奥行き」の広いビルはレイアウトの自由度が高まり、結果としてスペースの有効利用が可能。
  4. 共有部のマグネット効果を最大限に活かす
    エントランスに全社員が利用する施設を集中させ、マグネット効果を高める。さらにそこに幹部席を設けることで、組織横断的なコミュニケーションを促進することもできる。
  5. 機能的なスペースを分散させて社内の移動を促進
    コラボレーション、集中作業、リフレッシュなどの「機能」を明確にしたコーナーをゾーニングに合わせて分散させることで社員の移動機会が増え、コミュニケーションの活性化につながる。ただしそのためには、各コーナーを「利用したい」と思わせる魅力的なものにしなければならない。
  6. 社外の人も利用できるラウンジで情報交換を
    新しいビジネスのチャンスは外部の人からもたらされる。魅力あるバーラウンジなどを設置すれば、情報は自然に集まってくる。
  7. 社内負担なしのドリンクサービス
    飲料メーカーが設置し、供給や清掃、管理などのオペレーションを全て行ってくれるサービスがある。リフレッシュコーナーの機能と魅力の向上に効果が期待できる。

「コストはかけない」方針の会社が大胆なオフィス改革を進めた理由。

オフィスの内装などについて多少なりとも知識を持った人であれば、株式会社レーサムの新本社を目にした途端、素直に驚くはずだ。社員が座る椅子は最高級のグレードのものだし、執務スペースの所々に配置されているコラボレーションコーナーの家具もほとんどがオリジナル仕様だ。さらに本格的なラウンジが併設されているほか、パブリックゾーンのミーティングルームや応接室に至っては、従来の日本企業では考えられないほどの落ち着きと風合いが感じられる。

しかし、これらの設備を紹介するにあたり、代表取締役社長である田中剛氏は、きっぱりこう言い切った。

「オフィスに無駄な金はかけないというのが私のポリシーです。その考え方は、今でも全く変わっていません」
そう考える田中氏が、なぜ、今回のオフィス改革を進めたのか。それを知るには、この会社の歴史から語っていかなければならない。

株式会社レーサムは非常に個性的な不動産会社として知られている。扱っているのは住居、オフィス、商業ビル、複合および開発案件とさまざまだが、共通しているのは、直接投資により資産価値を高める「再生」に力を入れているところだ。そして長期的な収益性を見極めた上で商品として組成し、投資家に提供していく。その独自の技術やノウハウは、海外の機関投資家からの注目を集めているほどだ。

「結果だけをみれば収益性の高いビジネスを続けているように思われるのですが、不動産の資産価値を高めていくのは簡単ではありません。ときには他の不動産会社が敬遠するような案件に対しても、こつこつと手を入れることで再生していきます。つまり、手間のかかる作業を地道に続けてきたからこそ、これまでの成長があったのです」田中氏

そんなまじめな経営方針を貫いてきただけに、オフィスに対しても「最低限のスペースさえあればいい」という考え方でいたという。
「1992年に5人のメンバーで設立したときには場所があるだけでありがたかったし、数年後に社員数が40人弱になったときにも小さなビルの50坪くらいのオフィスで我慢してきました。とにかく無駄なコストを省き、贅沢をしないというのが私たちのポリシーだったのです」田中氏

その後、事業拡大とともに社員は増え、1998年には新宿住友ビルに本社を移転する。増床を重ね、最終的には約700坪にまで拡張するが、それもあくまで必要に迫られての対策に過ぎなかった。
「そのころから私たちの不動産再生力が評価され、海外の投資家などが訪れてくるようになったのです。しかしスペースの関係で、ゆっくり話をする場所もない。さすがに、もう少しいいオフィスが必要だと思い始めました」田中氏

加えて、不動産の証券化による運用商品の開発や組成といった新しい事業の成長もあり、会社は創業15周年を迎えて新たなステップに進もうとしていた。
「レーサムが変わるということを社内外に強く示すには、オフィスを新しくするのが一番です。つまり今回の投資は、決して無駄ではないと考えるようになりました」田中氏

オフィスから意識改革を進めるには中途半端な妥協をしてはいけない。

2007年に入り、レーサムでは本格的に本社オフィスの移転プロジェクトがスタートする。このとき、田中氏は自らに言い聞かせるように大英断を下した。

「オフィスを刷新することで会社を変えていこうと決めたからには、コストに対する持論は封印しようと決めたのです。中途半端に『予算が・・・』などと言ってしまっては、せっかくの変革のチャンスを失ってしまいますからね。従って、プロジェクトが進んでいる間は、私からはお金のことにはいっさい口出ししていません」

そして新しいオフィスの設計内容についても、社長としてではなく社員の一人として意見するのに留めたという。代わって実務を担当したのが、常務取締役の小町剛氏飯塚達也氏だった。

「私自身も、地道で一生懸命というレーサムの文化は残しつつ、次々と新しいサービスを展開していける情報に敏感な会社にしていくべきだとの考えがあったので、オフィス改革には賛成でした。ただ、経営課題はいくつかあったものの、それをどうやって具体的なオフィスの形にしていけば解決できるのか分からない。このため、スペシャリストである株式会社CWファシリティソリューションにパートナーになっていただいたのです」小町氏

「西新宿の本社は、いわゆる島型対向デスク配置の『普通のオフィス』だったため、コミュニケーションスペースを多用した大胆な提案を受けたときには驚きました。しかし、移転を契機に業務を変革したいという思いは経営陣に共通したものだったので、オフィスのスタイルが全く変わることに抵抗はなかったのです」飯塚氏

スペースを大幅に拡張しなくてもゆとりを持ったレイアウトは可能だ。

それでは、2008年1月にオープンしたレーサムの新本社オフィスについて見ていこう。

入居した霞が関コモンゲート西館は地上38階建で、1フロアは2,015.81㎡(609坪)、賃貸部分は35階と36階の合計1.5フロア分だ。

「移転前は約700坪でしたから、全体としては3割ほど増えていますが、36階をミーティングルームと応接室のあるパブリックゾーンとしたので、執務スペースは35階全フロアと、それほど拡張しているわけではありません。それでも広くなったと感じてもらえるのは、このビルが使いやすい設計になっているからです」CWファシリティソリューション・伊澤成人氏

多くのオフィスを手掛けてきた伊澤氏がビルを評価するとき、大きなポイントと考えているのが窓からコア部分までの「奥行き」だという。

「最近ではオフィス内にさまざまな機能のあるスペースを配置し、社員が自由に動けるようなレイアウトを採用するケースが多くなっています。レーサムさんの場合も、社員間、部門間のコミュニケーションを活性化させたいという目的から、そのようなオフィスを希望されていました。そうなると奥行きに20mはほしい。幸い、このビルはその条件を満たしていたため、全体にゆったりしたレイアウトを実現できたのです」伊澤氏

さらにスペースを有効活用するため、ゾーニングの段階からさまざまな工夫をしている。担当したのはCWファシリティソリューションの綱川藤男氏だ。

「最大の特色は、入り口を中央部の1カ所とし、そこに個人ロッカーを置いて『オフィスゲート』としたことです。今回、フリーアドレスは導入を見送り固定席としましたが、私物は全てこのロッカーに保管し、自席には収納を設けませんでした。実はそれが、全体の面積をあまり増やさずにゆったり感を実現するノウハウなのです」

導入したデスクは120度の角度を持つ変形L字形のもので、3人単位で「島」をつくっていけるためレイアウトの自由度は高い。そして通常1,200mmのサイズであるのに対し、綱川氏は10cm短い特注品を用意した。

「この10cmが大きな効果を生みます。島一つで通路分くらいのスペースは確保できますからね。もちろんデスク周りの収納をなくすためには全社的なペーパーレス化も同時に進めなければなりません。今回のプロジェクトでは社内システムを含めた全面的な改革が行われたからそれが可能だったわけで、移転を契機に本気で働き方を変えようという経営者の強い意志が画期的なオフィスを生んだ最大の力といえるでしょう」綱川氏

オフィスゲートのマグネット効果を活かし会社の動きに「気付く」仕掛けを導入。

ところで、今回、新オフィスを設計するにあたり、コンセプトとして掲げられたのは次の3点だった。

  • 不動産事業の構造変化への対応
  • 部門間/社員同士のコミュニケーションの活性化
  • 全社員への「気付き」のための空間づくり

これらは具現化するために、最も重要な場所と位置付けられたのが、先ほどあげたオフィスゲートである。

「ここには個人ロッカーがあるだけでなく、庶務などのサービスを行うオフィスコンシェルジュのデスクや、ライブラリー、打ち合わせコーナーなどが集中していることから、全社員が頻繁に行き来します。このマグネット効果を最大限に活かすために、これまでのオフィスでは考えられないような"仕掛け"を導入しました」綱川氏

それは、会社の中枢部門をオフィスゲート周辺に集めてしまうという大胆なゾーニングプランだった。

「オフィスゲートの周囲にはオープンな雰囲気の社長室があるだけでなく、全ての事業部門のリーダーの席を並べることにしました。つまり、一般的なオフィスのように上司と部下でワンセットと考えず、全社単位で幹部とメンバーの居場所を分けたのです。その結果、部門間のコミュニケーションが活発になるだけでなく、社員たちは自分が担当していない仕事の動きについても、知らず知らずのうちに『気付く』ことになります」綱川氏

このレイアウトについては、社長である田中氏も「期待以上の効果があった」と絶賛している。

「役員の会議もオフィスゲート横のオープンなスペースで行いますから、社員たちは会社が、今、何をしようとしているか、すぐに分かるのです。また、経営の透明性をアピールする意味でも、誰もが見える場所で幹部が情報交換をする意味は大きいのではないでしょうか」田中氏

一つだけ懸念されたのは、「部門のリーダーとメンバーの席が離れてしまうこと。意志の疎通が不充分になるのでは......」という点だったが、実際にはその問題はほとんどなかったという。

「上司と部下は必要なときだけ情報を伝えれば、四六時中一緒にいる必要はないのです。それより、幹部の席は近いことで、経営のスピードは確実に速まったように感じますね」小町氏

「デスクスペースにもちょっとした打ち合わせのできるコラボレーションコーナー『Cholabo(チョラボ)』が何カ所も設けられているので、必要があればそこで共同作業もできます。以前の居場所が固定されたオフィスに比べれば、機能ごとのさまざまなスペースが用意されている今は、格段に仕事の効率が上がったと思います」飯塚氏

社外の人の利用も期待したバーラウンジリフレッシュに向かう動線も交流に貢献。

レーサムの新オフィスで、もう一つ、画期的な施設が広々としたラウンジだ。夜景を含めた眺望が楽しめる大きな窓、高級感あふれる調度品、明るいスモーキングコーナー、専任のバーテンがいるカウンターなど、一般客向けに営業してもおかしくないレベルになっている。実際、社員が打ち合わせやリフレッシュ目的に使うだけでなく、今後は社外の人にも積極的に利用してもらう計画だという。

「これからの企業は、社内で情報を回しあうだけでなく、外部の人をどんどん招いて交流を深めていくべきだと思います。その結果、有益な情報を得られれば、それをヒントに新しいサービスや事業を展開できるかもしれない。そう考えると、ラウンジを設けて運営するのも、充分、経営に見合ったコストになるはずです」飯塚氏

さらにレーサムの場合は、魅力あるラウンジを設けることで、新オフィスのコンセプトでもある「部門間/社員同士のコミュニケーションの活性化」の効果をいっそう高めようとしている。

「全体のゾーニングを考えていくとき、ラウンジはオフィスゲートから最も離れた、オフィスの端に設けるしかありませんでした。しかしこれを逆手にとれば、ラウンジを最高に居心地のいい空間にすることで社員の移動機会を増やすことができる。組織横断的なコミュニケーションを活発にするには非常に効果的なはずです」(綱川氏)
今回、新設されたオフィスを通していえるのは、このような明確な目的と機能を持った施設が、それぞれ効果的な場所に配置されているということだ。オフィスゲート、ラウンジ、コラボレーションコーナー、集中作業コーナーなどを上手に分散させ、社員たちができるだけ社内を移動するように工夫されている。そしてそれは、この会社が次に目指す方向性と完全に合致しているのである。

「レーサムではこれまで、各社員が高い目標を持ち、自分なりに仕事を管理することで成長を遂げてきました。しかし次のステップとしては、社員間、部門間のより強固な連携が課題になります。新しいオフィスはゾーニングの工夫によって、それを可能にする環境を実現したのです」小町氏

オフィスは単なる箱ではなく、経営に役立つ機能を備えた装置でなければならない。それはCWファシリティソリューションがずっと主張してきたことであり、レーサムの新オフィスは、まさにその実践の場だった。

「このオフィスは、まさに機能の塊です。それが実現できたのは経営の方向が明確だったからで、私たちにとっても理想のワークプレイスをつくれたという喜びを感じることができましたね」伊澤氏

その思いは、レーサム側も同じだ。

「私自身、みんなと一緒になって新しいオフィスをつくっていく作業は楽しかったですね。環境が良くなったことで社員たちの顔つきは明らかに変わった。それだけでも、充分に効果はあったと思っています」田中氏

オフィスサービス最前線

手間がかからずいつもドリンクが楽しめる新スタイルのリフレッシュメントコーナー

株式会社レーサムの新本社オフィスで導入した新しい試みの一つに、CWファシリティソリューションと東京コカ・コーラボトリングのコラボレーションによる新しいスタイルのリフレッシュコーナーがある。

システムとしては、ホットドリンクやアイスドリンクの自動サーバーや自販機、ペットボトル飲料などを常備した冷蔵庫、浄水器、排水トレーといった設備一式を東京コカ・コーラボトリングが設置し、補給や清掃などのオペレーションも行う。このため、利用者側は飲んだ分だけを支払えば、ほかには一切コストや手間もなく、常に清潔な環境で飲み物を楽しめるのだ。

「通常のコーヒーサーバーだと、社内の誰かがセットや清掃をしなければなりませんし、コーヒーが煮詰まってしまうため頻繁な管理も必要です。しかし私たちの設置するカフェコーナー『フラビア』は1杯ごとに抽出しますので、いつもフレッシュさを保てます」

ちなみに、コーヒー1杯あたりのコストは、1日に延べ70人ほどの利用があれば、だいたい100円程度だという。
「フラビアはコーヒーだけでなく紅茶や緑茶など豊富なドリンクに対応していますし、カップ自販機の『カフェマティック』や簡単な操作で抽出できるエスプレッソマシンも併設すれば、もっとメニューを増やすことができます。またスナック菓子などのフード類も供給可能なので、私たちに任せていただくだけで、充実したリフレッシュコーナーが実現できるのです」

リフレッシュメントコーナー

小林 篤儀氏

オフィス内に入ってオペレーションサービスを行うことから、東京コカ・コーラボトリングでは、社員スタッフを固定担当とし、セキュリティ上の問題が生じないようにしている。

「おいしいドリンクが楽しめるだけで、人々はそこに集まり、自然にコミュニケーションが生まれます。私たちのサービスがそのお手伝いになれば、こんなうれしいことはないですね」

東京コカ・コーラボトリング株式会社 開発本部 常務執行役員
小林 篤儀氏

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