スマートニュース株式会社 

2014年5月取材

※ 記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

「働きやすい環境」をコンセプトにソフト面を重視したオフィスを構築する

「世界中の良質な情報を必要な人に送り届ける」ことを目的に2012年に設立されたスマートニュース株式会社。設立2年足らずながら、すでに300万ダウンロードを突破。アップルが運営するApp Store、グーグルが運営するGoogle Playで2013年のベストアプリに選出された。
オフィスの移転は2013年10月。オフィスづくりのコンセプトは「働きやすい環境」だという。今回の取材ではその「働きやすさ」を中心にお話を伺った。

プロジェクト担当

藤村厚夫氏

スマートニュース
株式会社
執行役員 事業開発担当

藤村厚夫氏

佐々木 真由美氏

スマートニュース
株式会社

佐々木 真由美氏

江原理恵氏

RE株式会社
代表取締役社長

江原理恵氏

オフィスの中心に配置されたバーカウンター

オフィスの中心に配置されたバーカウンター

はやわかりメモ

  1. "口コミ" を評価してランキング。新機能を組み入れたニュース配信サービス
  2. 設立は2012年。新たなニュース配信の可能性を信じて2名からスタートした
  3. わずか3ヵ月で全ての移転作業が完了。ワーカーが働きやすい環境を意識
  4. ワーカーには二つの空間があるべき。気分転換できる場所をオフィス内に用意する
  5. オフィスはソフトの部分が重要。今後の課題は運営面への投資

"口コミ" を評価してランキング 新機能を組み入れたニュース配信サービス

インターネット上でのニュース配信サービス。従来のニュース配信というと、報道機関が自社のニュースを提供するやり方と、各社メディアのニュースを人が整理して配信するやり方が一般的だ。しかし、スマートニュースの配信サービスは、そのどちらにも属さない。

「当社はニュース配信を行う会社の中では、後発にあたるかもしれません。その中で差別化を図るために画期的な配信サービスを実現しました。一つはスマートフォン上で閲覧しやすい快適なインターフェイスをつくり込んだ点、もう一つがリアルタイムで話題のニュースをシステムが選んで配信する点です。つまり、今日はこんなニュースが面白そうなので配信する、と人が決めるのではなく、機械が自動的に配信するニュースを選んでいくのです」(藤村厚夫氏

とはいえ、ニュースの面白さを機械に判定させるのは困難を極める。そこで同社は "口コミ" に注目した。

「最近は、面白いと感じたニュースがあればインターネット上の交流を通じて友達に紹介するといった行動が増えています。そこで私どもは、『紹介する記事 = 注目されている記事』という仮説を立てました。現在、1,000万件ほどの情報を収集。国内、政治、経済、エンタメ、スポーツなど、多彩なジャンルに分類して話題性の高いニュースを厳選して提供。その中には一般には広まっていない面白いニュースも含まれています」(藤村氏

そうして、新しい機能を組み入れたスマートフォン向けニュース閲覧アプリケーション「SmartNews(スマートニュース)」は次第に広がりを見せる。

「グーグル社が運営している『Google play Best of 2013』に続き、アップル社が運営しているAppストア『App Store Best of 2013』でもベストアプリ賞に選出。両プラットフォームでの受賞ということもあり、そこからダウンロード件数が一気に伸びました。2014年2月時点で300万件を超えています」(藤村氏

設立は2012年。新たなニュース配信の可能性を信じて2名からスタートした

会社を創業したのは2012年6月。当時はシェアードオフィスで業務を行っていた。

「創業当時はわずか2名。それから数名のメンバーが加わり、同年12月にアプリのリリースをし、ニュース配信を開始しました」(藤村氏

その後、最初にリリースしたiPhone版に加えて、AndroidやiPadへの対応など、課題解決のためにエンジニアを中心に増員。シェアードオフィスでは窮屈なためオフィス移転を検討した。たまたま近くのビルに空室があり入居を決めたという。移転条件であった「渋谷区内」、「今後の増員計画を考えた面積」という2つの必須条件をクリアした最適の物件だった。

「現在、オフィスの広さは125坪。現在のスタッフは15名弱ですから随分と贅沢に使っていますが、今後は規模も業務内容もどんどん拡大していきます。そのために多くのエンジニアを採用していく予定です」(藤村氏

わずか3ヵ月で全ての移転作業が完了 ワーカーが働きやすい環境を意識

そうして移転計画が開始されることになる。驚くべきことは、これだけのオフィスをわずか3ヵ月でつくり上げたことだ。

「2013年10月からの入居が決定していました。実際にビルが決まったのが7月ですから、全てそこからの作業でしたね」(藤村氏

「私は7月中旬に入社をしまして、そこから移転プロジェクトを担当することになりました」(佐々木 真由美氏

移転プロジェクトマネジメント、オフィスのデザイン設計および施工を担当したのは、株式会社ヴィス。加えて、スマートニュースのスタッフとコミュニケーションをして、目指すオフィス環境を念頭に、什器や植栽の選択や配置などデザイン全般のコーディネーションを担当したのはRE株式会社の代表を務める江原理恵氏だ。これまで植物を使ったデザインや企画制作、空間デザインを通じて企業のスタートアップを支援してきた。今回も所々に置かれた植物が目を引くオフィスとなっている。

「担当したのはオフィス全体のコーディネートです。オフィスはもしかしたら自宅よりも長く過ごす場所になりますので、"ワーカーが働きやすい環境" を意識しました」(江原理恵氏

「移転プロジェクトをお願いしていた会社からデザインの提案がありました。我々はそれを受けてこの雰囲気でいいのかとか、こういう方法もあるよねといったことを江原さんに相談していきました。江原さんも色々なアイデアをお持ちで、我々とデザイナーさんとの間の通訳みたいなそんな役割をしていただきました」(藤村氏

「オフィスをつくるにあたってエンジニアそれぞれにヒアリングをして。さまざまなニーズがあることが分かったので、こちらが多様な選択肢を用意したというよりは、統一感を持たせながらタイプが異なる人でも仕事がしやすい場所が見つけられるように家具をオリジナルに制作することも含めて選定しました。」(江原氏

期間にしてたった3ヵ月であるが、その間には社内で色々な議論を重ねたという。

「『ワーカーが働きやすい』をテーマにしているため、エンジニアが落ち着いて仕事が出来なくなることは防ごうと。仕切りのない空間ですから遮音性を高める仕組みにこだわりました。二重ガラスの仕組みと可動式の間仕切りを取り入れようとしたのですが、どれだけ効果があるのかカタログだけでは分かりません。間仕切りの専門会社のショールームに出向き、一つ一つ時間をかけて検証しながら選びました」(藤村氏

「天井の壁を外したときに床もコンクリートのままで、という案が出ました。色々と議論を重ねる中で、最終的には女性の目線で『冷える』『ヒールの音が響く』ことをお話し、全面的にカーペットを張り替えることで落ち着きました」(佐々木氏

ワーカーには二つの空間があるべき 気分転換できる場所をオフィス内に用意する

「オフィスづくりをするにあたって『働きやすい環境』というのが最大のコンセプトでした。そのためには固定席とは別の自由な空間が必要だと考えたのです。アイデアが煮詰まってしまったときに気分転換ができる場所をオフィス内に用意する。そんな場所があると素敵だと思いませんか」(藤村氏

「もともと世界中から新しいアイデアが集まるニューヨークに興味があって海外のオフィスデザインやインテリアを見ていた時期がありました。そこで得たイメージを思い浮かべながら、デザイナーさんと一緒に形にしていったのです」(江原氏

そうして出来上がったのが、オフィスの半分が固定席ゾーン、その半分がフリーゾーンとするレイアウトだった。まるで公園のように寝転がったり、ベンチに座ったり、ハンモックを使ったりできる自由な空間だ。

「固定席で自分の居場所を確保しながら、そこから抜け出してくつろげる"場" 。一人で二つの空間を使うことを想定したデザインを考えてもらいました。そしてこれからも、ただ空間効率だけを考えて人をギュッと押し込むのではなく、余裕のある空間を維持していきたいと思います」(藤村氏

今回のレイアウトは、経営陣で方向性を定めたあとに社員全員にディスカッションや意見交換をしながら少しずつ決定していった。それも執務スペース内の真ん中で議論を進めていたため自主的な集まりになったという。それは、とても有意義な時間となり、色々なアイデアが出された。

「今回は時間との兼ね合いもあり、断念した案もありました。楽しみは今後の改善時に取っておこうと思います」(佐々木氏

「どうしても仕事を突き詰めてやろうとすると結果的に長時間オフィスにいることになります。そのためには気持ちよく過ごせる場所が必要なのです。もちろん会社ですから、規模が大きくなればなるほど制約が増えてくるものですが、今後ももっと面白いオフィスを追求していきたいです」(藤村氏

受付

間接照明でロゴマークを引き立てた受付。お洒落なウエイティング用のベンチが中央に配置されている。
受付

閉ざされた会議室

多くの会議室がオープンなつくりのため、面接などの聞かれたくない内容があるときに使用される小規模の会議室。
閉ざされた会議室

ミーティングエリア

固定席エリアの反対に設けられたフリーゾーン内のミーティングエリア。30席超の座席を配置でき社外の方を招いての勉強会もこのスペースを使用する。学校のイメージを求めて、中古の図工椅子や女子大学の講堂で使われていた中古の椅子を購入。雰囲気を盛り上げている。

ミーティングエリア

バーカウンター

オフィス中央に置かれたバーカウンター。用意されているものは基本無料で飲食できる。人が集まるための動線として活用されている。
バーカウンター

ファミレス席

ファミリーレストランのシートなら長時間いても疲れないのでは、という発想から実現。実際のレストランに行き、採寸をして制作をした。
ファミレス席

土足厳禁エリア

靴を脱いで割とリラックスできる空間。備え付けられているハンモックは、ファッションとしてではなく、集中するために必要な機能として採用した。

土足厳禁エリア

固定席エリア

オフィス中央に置かれたバーカウンター。用意されているものは基本無料で飲食できる。人が集まるための動線として活用されている。
固定席エリア

女子部屋

今後、女性社員が増えることを想定してつくられた女性専用の部屋。そんなに広くはないが、女性のための部屋があるということに価値がある。
女子部屋

オフィスはソフトの部分が重要 今後の課題は運営面への投資

現在のオフィスはハード面で特長的な工夫がたくさん詰まっている。「自由度の高さ」「ゾーニングのない空間」「固定席プラス自由席」「多様性」・・。これらの一つ一つが関心をひくのか、数々のメディアで紹介されている。今は、まずオフィスに興味を持ってもらう。それからじっくりと業務内容を知ってもらえばいいと考える。

「定期的に金曜日の夜、TGIF(Thanks God, It's Friday.)というパーティを開催しています。気軽にオフィスに来てもらうことだけが目的です。社員の知り合いを気軽にお誘いすることから始めていますが、多種多彩な分野から気軽に集まっていただけるようにと企画しています」(佐々木氏

「知らない業界の方と話をするのは面白いですよね。もちろん名刺交換もしますが、まずは当社に好印象を持っていただく。そうすることでネットワークをさらに広げていくことができるのです」(藤村氏

ワーカーの働きやすさにハード面の充実は欠かせない。しかし、スマートニュース社はオフィスづくりにはソフトの部分こそ最も重要と考えている。そのためいずれは社員全員から満足度調査を行いたいという。

「社員全員から評価を聞くことは必要なことだと思っています。今は定量化するような形で測定をしていませんが、いずれは実施しなければと思っています。適切に現状の評価を聞きながら次に活かしていく。次回の移転のときにさらに満足度の高いオフィスを構築したいと思います」(藤村氏

「オフィスは常に変化していくものです。つくって終わりではありません。もちろん時間の経過に伴って劣化することは防ぎようがありませんが、少しでも抵抗したい。継続的にテーマを決めて課題を解決していきたいですね」(原氏

「オフィスを維持・運用していく難しさは感じています。ワーカーが気持ちよく働くためには隠れたところでフォローしていくことが求められることを知りました。生活という視点も忘れずに、もっと全体に目が行き届くようにしたいですね」佐々木氏

「会社としては、もっとオフィスの運営部分に投資をしなければと思っています。それによって生産性が高まるかもしれませんし、採用にも影響するかもしれない。なによりもクリエイティブな環境を醸成できます。これから人数が増えていくにつれ、それ自体が重要な業務となりえる。そういったソフトの部分の重要さは理解しているつもりです。働く空間をいかに高いレベルでマネジメントしていくか。これは一つの課題ですね。今後も江原さんに提案していただきながら常にチャレンジしていきたいと思っています」藤村氏

特徴的なフリースペース

特徴的なフリースペース