ソニー企業株式会社

2013年8月取材

※ 記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

従来のオフィスの課題を改善し、フレキシブルなオープンスペースに。

銀座を象徴する建物の一つであるソニービル。今回は、そのソニービルの管理・運営を行っているソニー企業株式会社のオフィス移転事例を紹介する。旧オフィスの課題とは、課題解決のためにどのような方法を行ったのか、新オフィスのオフィスコンセプトは、などを中心にプロジェクト担当者にお話を伺った。

ソニー

プロジェクト担当

唐崎 澄人氏

ソニー企業株式会社
唐崎 澄人氏

総合戦略室 室長

山村 治一氏

ソニー企業株式会社
山村 治一氏

プロパティマネジメント室
プロパティマネジメント課
総務担当プロデューサー

小鷹 義和氏

ソニーコーポレート
サービス株式会社
小鷹 義和氏

Gp 会社サイト業務部

はやわかりメモ

  1. 改善すべき課題の再確認
    たとえ少人数の会議であっても相応のスペースがないため、大会議室を使用せざるを得ない。そんな悩みを抱えていた。
  2. お客様へのサービスを向上するために
    同じ会社であるのに見えない壁があることに社員全員が不満を感じていた。やはり社員が一丸となってお客様へのサービスを行うことが理想。
  3. オフィスの課題を明確にする
    時間をかけてヒアリング手法を用いるグリッド法を使う。それによって50以上の問題点が明確になった。
  4. 仕事のやり方を変えるための仕組みづくり
    自分の領域というのを自分で決めないでもっと幅広くかかわる。領域を広げ、より少ない人数で仕事を進めるようにする。そこで余ったパワーを違うクリエイティブの面に回す
  5. 地道にワーカーの声を聞き続ける
    時間をかけて設計をしても、いざ使ってみると使いにくさが分かることも。そのため、常にワーカーの声を聞いて改善していくことが重要になる。

立地、スペースの使い方など改善すべき課題を再確認する。

以前は、日比谷駅近くの賃貸オフィスビルに入居していたソニー企業。ソニーのグループ会社の移転に関しては、ソニーコーポレートサービス株式会社(以下SCOS)が包括的に業務をすることになっている。

「SCOSの小鷹さんには、移転計画、設計、工事監理といった移転全般をフォローしていただきました」山村治一氏

「立地に関してですが、ビルの建築中にすでにここを候補に決めていました。予算内での賃料で、ソニービルに数分で駆けつけることができる場所を探していましたので、まさに理想の場所でした。ですからこのビルの存在がなければ移転はしていなかったかもしれません」唐崎澄人氏

「当社創業時は、現オフィスの建て替え前のビルに入居していたんです。数寄屋橋富士ビルという名前でした。その後、業務拡張で品川に移転。それから分社化によって品川から日比谷へ。そしてまた発祥の地である銀座に戻ってきた。これも一つの運命だと思っています」唐崎氏

日比谷のオフィスでは、72坪を使用していた。今回の移転による新オフィスの面積は86坪。面積だけを比較すると多少広くはなっているが、その分増員もあったため、1人当たりの面積は減っている。

「今考えると日比谷のオフィスはかなり無駄なスペースの使い方をしていたと思います。今回の移転ではオフィススペースの使い方を改善することも目的の一つでした」山村氏

以前は入口を抜けると廊下が続き、その左側に会議室。反対側には収納スペース。そのまま進むと島型対向に机が並べられたオフィス空間。そしてその奥に社長室と役員室が配置されていたという。

「応接室はセキュリティゾーンの外にあり、もう少し簡易的な打ち合わせスペースが欲しいと思っていました。会議室はスペースの関係で1室のみ。それもソニービルに入居いただいているテナント企業の担当者の方が全員集まれる場所として大きな面積が必要でした」唐崎氏

今回の移転に際して、過去1年間に行われた会議の数を調査したという。そこで少人数の会議もかなり行っていたことが判明。たとえ少人数の会議であっても相応のスペースがないため、大会議室を使用せざるを得ない。そんな悩みを抱えていた。

働き方の提案。社員が一丸となってお客様へのサービスを向上するために。

ソニー企業では、ソニービルの実質的な運営を行う約7名はソニービル内にスペースを確保して常駐し、それ以外の企画管理を行う約25名が日比谷のオフィスに入居していた。スペースの関係とはいえ、長年にわたって分散したオペレーションを続けており、同じ会社であるのに見えない壁があることに社員全員が不満を感じていたという。

「やはり社員が一丸となってお客様へのサービスを行うことが理想でした」唐崎氏

このビルならば、ソニービルに常駐している運営部隊を呼び寄せることができる。しかもそれによって、新たに生まれたソニービル内の空室に別のテナントを誘致し、収入を得ることも可能である。まさに経営面からもベストなビルであった。

「本当に理想のビルに巡り会えました。費用をあまりかけずに移転を行うというミッションを守ることができる、ソニービルに常駐していた社員と一緒になることで会社が一丸となれる、ソニービルの空室から家賃収入を得ることができる、など移転メリットはかなりありますから」唐崎氏

それらは以下の移転コンセプトにまとめられた。

  1. 現地主義と、社員一丸となったお客様へのサービス向上
    メンバーの集結とシナジー効果
  2. 社員の生産性向上を促すオフィス
    働き方を変える
    サイロを崩す...コミュニケーションを活発にする仕掛け
    場所に束縛されない、自分で考えて行動できる知的生産の場
  3. FMの視点
    オフィス移転費用を使っても中長期的に判断して収入増になる移転

グリッド法を使って漠然としたオフィスの課題を明確にする。

現状のオフィスに対する問題点や不満を明確にするために全社員を対象にアンケートを行った。しかし本音を聞き出すまでには至らなかったという。

「アンケートでは、なかなか本音が見えてきませんでした。質問の中間点に回答をポイントする人が多いからです」山村氏

「そこで時間をかけてヒアリング手法を用いるグリッド法を使うことにしました。グリッド法とは、比較要素を出してそれに対して、検証していく方法です。質問は一つだけです。それは、『あなたは今のオフィスに何点付けますか?』というものだけ。設問の回答に、「なぜ?」「具体的には?」といった問いかけを追加していき抽象的な価値、感覚的価値、具体的価値をそれぞれ見出していきました」小鷹義和氏

「ヒアリングは小鷹さんが行い、我々は人選や時間調整を担当しました。人選のポイントは、偏らないことです。男女、運営部隊、管理部隊、役職者などをバランスよく8名を人選しました。回答はポストイットに書き入れて表に貼っていきます。時間をかけてヒアリングすることで、問題点や不満、要望などを聞き出すことができました。そうしてやるべきことを分類したのです」山村氏

グリッド法によって50以上の問題点が明確になった。少し抜粋してみよう。

  • 定例ミーティングのための資料づくりに多くの時間を費やしている。
  • パッと集まり、パッと解散のスピード感がない。
  • ヒエラルキーが丸見え。
  • 横の連携がやりにくい、誰が何をしているのかが判らない。
  • 会議、ランチ、井戸端など、コミュニケーションスペースが不足。
  • 現場の状況が見えにくい。
  • 客用スペースと社内スペースが混在している。
  • セキュリティ的に問題あり。
  • 雰囲気がよどんでいる、など。

これらの問題点を「見える化」「共有化」「参加一体化」の3つに分類し整理を行う。ヒアリングに約1カ月を要し、2カ月を使って分析を行った。
実施した施策が以下となる。

見える化

  • 無線LAN、モバイル環境の導入で、どこでも仕事ができる環境に。
  • 誰が何をやっているかが分かるオープンスペース。
  • 自然な動線計画によるセキュリティゾーンの区分け。
  • ガラス貼りの会議室を中央に。
  • WEBを活用したソニービルのリアルタイム映像の視聴。

共有化

  • 個人席は最小化、共有部分は最大化。
  • 多様なコミュニケーションスペースの設置。
  • 資料のセンターファイル化。
  • パソコン上で確認できる、外部の書類倉庫の積極利用。
  • ハブコーナーで、事務処理、破棄物を集中管理。

参加一体型

  • 什器は全てキャスター付でどこへでも移動可能。
  • 全員が同じワークステーション。
  • デスク類は手づくりで、社員参加の象徴に。
  • カフェを中心としたコミュニケーションのためのゾーニング。
  • 多様な使い方が可能な多目的コーナー。

仕事のやり方を変えるための仕組みづくりが重要。

「最初は、ソニー企業の社長から、仕事のやり方をも変えるようなオフィスデザインにしてほしいと強い要望をいただきました」小鷹氏

ここに従来の業務と今後の働き方の図がある。よく見ると図には、隙間がかなりあることがわかる。つまりそれだけ取りこぼしが多いということを意味する。その考え方は、プロジェクト当初から出ていたそうだ。

漠然としたオフィスの課題を明確に

「社長は、個人の業務の領域を組織の形で決めるのではなく、もっと自由に幅広くかかわりなさいと。領域を広げていき、より少ない人数で仕事を進めるようにしたい。そこで余ったパワーはもっとクリエイティブな時間に回したいと言われていました」小鷹氏

「今回のスペースを最初に見たときから、このレイアウトが思い浮かびました。真ん中にガラス貼りの会議室を置くことで、執務ゾーンとコミュニケーションゾーンを分けることができる。小規模のオフィスで必要な機能を配置していくと、このレイアウトしか考えられません。壁はつくらないと決めていました。ですから仕切りはこの2つの会議室だけです。お金がかかっているオフィスに見えるかもしれませんが、実は、そうでもありません。例えば、執務室内のデスク。これは、シナベニアで天板をつくり、市販の足を付けただけなんですよ」小鷹氏

それでは具体的に特徴的な部分を紹介していこう。

1. モニターやネットワークの活用

「ビル管理は、ソニービル内の常駐スタッフが行っていましたが、今回の移転で、道路一本とはいえ離れてしまったわけです。移転によってサービスを低下させるわけにはいかない。そこで、WEBカメラを活用してタイムラグなく監視作業を行えるようにしたのです」小鷹氏

「また、オフィス移転に合わせてネットワーク対応のテナント管理システムを新しく導入いたしました。システム導入前は、各テナント様との情報の伝達や報告は、回覧をプリントして店舗まで訪問して配っていました。反対にテナント様が工事などの連絡を行う場合は、わざわざ管理室まで届出書類を提出してもらっていました。しかし、システムを導入してからは全てネットワーク上で情報伝達、申請、承認が可能となり、ソニービル内に常駐することなく、新オフィス内で運営管理業務を行うことが実現できました。また店舗スタッフの方々も持ち場を離れずに申請ができるようになりましたので、距離が遠くなったデメリットはなく、むしろ効率はよくなったといえるでしょう」唐崎氏

2. 見通しの良いオフィス

「今回のオフィスは、端から端までが見通せるので、オフィスがとても広く見えるのも特徴の一つです。視線が通るので、どこに誰がいるのかが瞬時にわかります。また、通常ですと管理職が部員を見渡せる位置に机を置くのですが、今回は並列に机を配置しました。つまり従来のヒエラルキーを机や椅子の形状、配置によって表すことを思い切って廃止しました。それによってスペース効率と配置の自由度が増し、コミュニケーションが取りやすいオフィスとなりました」唐崎氏

3. 多目的コーナーの必要性

先にも述べたが、オフィス移転のプロジェクトに際して、過去1年間のミーティング数の調査を行った。加えてソニービル常駐だった新しいメンバーが増えたときにどのくらいのミーティングが増えるのかも想定して数をはじき出した。

「各種ミーティングをこの多目的スペースで行います。簡易的な間仕切りを使うことで、簡単に人数に合わせた部屋をつくることが可能です。今までのところ、うまく使いこなせていますね。今までにない環境ができたおかげで、ミーティングが増えてコミュニケーションが格段と向上したような気がします」山村氏

「最初にヒアリングによってワーカーの要望をしっかりと聞いているのもよかったのでしょうね。自分たちの要望が形となって叶ったわけですから。決して上から押し付けたものではない。モチベーションのアップにつながりますよね」唐崎氏

4. 中心にはカフェコーナー

「このカフェで仕事をしても構いません。とにかく使ってくださいと声をかけています。もちろん多目的コーナーでコーヒーを飲みながらの打ち合わせも自由です。床に電源がありますので長時間コンピュータを使える環境です。ですからちょっとしたフリーアドレスの要素も入っています」山村氏

5. セキュリティを考えた中央会議室

「2つの会議室はあえて一つにできないようにしています。会議室間の通路は、お客様と社員を分離する役割があり、セキュリティ区域となっています。日比谷のオフィスでは、執務室奥に社長室があり、お客様がオフィスの中を通っていました。ワーカーはとても動きにくかったようですね。そのため、セキュリティをしっかりと意識してデザインをしました。大きく改善できたと思います」小鷹氏

移転後の要望。地道にワーカーの声を聞き続けることが重要。

「移転後、約1年が経過しました。うれしかったのは、『もう、昔のオフィスには戻れないね』と誰かが口ずさんでいたことです」山村氏

移転後、3カ月後くらいにアンケート調査を行った。質問項目を4段階にして、使い勝手やレイアウト、什器・家具、共有スペースなどを質問。4点満点の中で平均が3.3点と、高い満足度であったという。

「ワーカーからの要望というのは常にありますね。例えば、当初は会議室のガラスにはどこにもスモークシートがありませんでした。そのため通常業務を行っている人と会議室にいる人とで目が合ってしまう。とはいえ、壁をつくってしまうとコンセプトが変わってしまう。試行錯誤しながら真ん中部分にだけスモークシートを貼ることにしました。多目的コーナーにも、当初はパーテーションを用意していませんでした。しかし、いざ使ってみると話しにくいと。それで可動式のものを備えることにしました。このようにワーカーの声を聞いて常に改善していく。その姿勢は今後も継続していきたいと思っています」唐崎氏