株式会社TBM

2017年4月取材

※ 記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

企業理念をそのまま形にした成長ベンチャーの新オフィス

石灰石を主成分とした新素材「LIMEX(ライメックス)」の開発・製造・販売を行っている株式会社TBM。創業後わずか5年で多くの国内企業と業務を提携。事業を積極的に展開している。さらに株式会社日揮、サウジアラビア国家産業クラスター開発計画庁とLIMEXの開発・製造における基本合意を締結。本格的なグローバル展開へ向けて動き出した。

同社の主製品が、世界中から注目を集める革新的な新素材ということもあり、今回は、通常のオフィス移転の取材に加え、製品開発のきっかけや製品コンセプトなどについてもお聞きした。

プロジェクト担当

笹木 隆之氏

株式会社TBM
執行役員
コーポレート・コミュニケーション本部長

笹木 隆之氏

エントランス

エントランス

はやわかりメモ

  1. 地球上に豊富に存在する石灰石を資源として活用した、グローバルビジネスに可能性を信じて参入
  2. 自社開発した新素材の名称は「石灰石」と「無限の可能性」の組み合わせ
  3. 創業時からの企業理念を継続し今後も地球環境に貢献していく
  4. 銀座の持つブランド力に魅力を感じ自社の事業展開への期待を重ねた
  5. オフィス構築の一番のこだわりは尊敬する世界的デザイナーへの依頼
  6. TBMの革新的で柔軟な創造性と時代の架け橋となるミッションを体現した
  7. 今後は、会社の進化に合わせてオフィスも日々改善させていく

地球上に豊富に存在する石灰石を資源として活用した、
グローバルビジネスに可能性を信じて参入

大量の水や木材を原料に使わずに紙や、石油の使用量を抑えてプラスチックの代替製品をつくる新素材「LIMEX(ライメックス)」を開発・製造・販売している株式会社TBM。現在、日本国内を含む世界43ヵ国で特許を取得(一部申請中)、世界中から注目を集めている。

「その歴史は創設者である代表の山﨑敦義が、2008年に初めて石灰石を主成分とした紙『ストーンペーパー』に出会ったことから始まります。山﨑は、ストーンペーパーを製造している台湾メーカーを知人に紹介され視察。日本における輸入代理権を取得しました。原料となる石灰石は世界中にほぼ無尽蔵に存在し、天然資源の乏しい日本でも鉱物資源の中で唯一100%自給が可能の鉱石です。そんなところも面白味を感じた部分だったそうです」

販売を促進するためにストーンペーパーの環境性と経済性について業界紙に広告を掲載したところ、大手商社や広告代理店などを中心に多くの企業から反応があった。あらためてこのストーンペーパーの商品力を思い知らされたという。しかし、当時のストーンペーパーは通常の紙と比べて重く、紙の厚みや品質を均一に保てない。さらにコストも割高だった。この商品を使ったビジネスを成功させるためには、現状の課題をいち早く解決しなければならない。そうした状況下の中で、元日本製紙の専務取締役(現、同社取締役会長)だった角 祐一郎と出会うことになる。その当時いただいた色々な角からのアドバイスはとても貴重だったと語る。しかしそれらのアドバイスを基にした要望書を台湾のメーカーに提出してもなかなか改善されない。そこでとうとう自社開発に踏み切ることにしたという。

「角は、山﨑と同じように素材の可能性に魅力を感じ、一緒に世界を目指そうと背中を押してくれたそうです」

そうして2011年に会社を設立する。

「社名である『TBM』は、Times Bridge management の頭文字です。事業を通じて『時代の架け橋』となりたい。そんな思いを社名に込めています」

しかし創業はしたものの、自社工場もなく改良実験も思い通りにできない。信用も実績もない中で、協力してくれる会社も皆無だった。

「日本のベンチャー企業というのは、いわゆるIT系企業が主流で、当社のような『ものづくり』のベンチャーというのはあまり類をみません。どれだけ素晴らしい経営コンセプトであっても、設備投資が必要となる。工場がなければスタートラインにも立てないわけです。特に、リーマンショック後ということもあり、資金調達には苦労しましたね。思うように前に進まない。そんなフラストレーションが溜まる毎日でした」

最終的に、日立造船に協力していただくことが決定。その後、国内で特許を申請できる環境ができた。経済産業省の補助金の対象となり、2015年に宮城県白石市に第一プラントが完成する。

「地域の雇用創出を考えた被災地復興という位置付けもあり、白石市を選びました。現在、第一プラントには研究開発と製造を行うために40名弱が正社員として働いています」

まさに、社名につけた思い「時代の架け橋」がスタートした瞬間であった。

自社開発した新素材の名称は「石灰石」と「無限の可能性」の組み合わせ

同社が石灰石から開発した新素材は「LIMEX(ライメックス)」と名付けられた。

「石灰石を意味するライムストーンと無限の可能性を表す『X』の組み合わせです。新素材では、今までのストーンペーパーとは異なる製造過程で紙の代替品が製造可能。それにより厚さの均一性を可能にし、重量の軽量化に成功しました」

メディアからは、まだまだ「石灰石から紙をつくる会社」と紹介されることが多い。もちろん間違いではないが、LIMEXからは紙だけでなくプラスチックの代替製品の開発も行っている。紙代替とプラスチック代替。紙といっても耐水性にも優れているため屋外用のポスターやラミネート加工された紙製品に適し、プラスチックでいうとクリアファイルやスマートフォンケース、など多様な商品群の開発に取り組んでいる。アプリケーションの可能性は、今後さらに広がる予定だ。

創業時からの企業理念を継続し今後も地球環境に貢献していく

「どんなに会社が成長を続けても、企業理念を継続しなければ意味がありません。そして理念の一つである地球環境への貢献度を測るためには、科学的に環境影響評価を行うことが重要であると考えます。当社製品は、通常の紙やプラスチックと比較し、ライフサイクルアセスメント(LCA)を用いた検証を東京大学沖研究室と共同で定量的に行っています。その手法でプラスチックの原材料調達から製造工程までの温室効果ガス排出量を試算した結果、実に37%の削減が証明できました。まさに世界が抱える今後の環境問題に対してとても有益な製品といえるのです」

その他、LIMEXと本来のプラスチック製品の違いとして、製造時に石油を使用する割合が少なくなったことがあげられる。それにより低コストなプラスチックが生産できることになる。素材自体のコスト比較でも、石油と石灰石では圧倒的に石灰石のほうが安価だ。将来的に大量生産の環境が整えば、さらに安く供給することも可能になる。

「また、日本には『容器包装リサイクル法』に基づき、プラスチック容器などを製造する事業者にはリサイクル相当量をお金に換算した支払義務が生じています。しかし石灰石50%以上で製造された製品は対象外になるため容器を扱うメーカーにとって大変有利となります。そんな背景からも、将来的にはさまざまな企業との連携が考えられるのです」

全世界の紙の消費量は約4億トン(2014年調査)といわれている。それが2030年の消費量は、約8億トンと2倍に膨れ上がる試算ができる。紙の消費量に比例して、原料となる木材や水はさらに大量に使用されることになる。そんな全世界規模のマーケットを見据えて、海外への進出を強化している。

「2016年7月に米国サンフランシスコに海外子会社『Times Bridge Management Global, Inc』を設立しました。ベンチャーが集積する施設の中で活動をしています。現在、海外だけで150社を超える企業からの具体的な引き合いをいただいています」

そして、資源問題の解決を提案するベンチャーは2016年に米国シリコンバレーのPlug and Playにて、「世の中に最も社会的影響を与える企業 - ソーシャルインパクトアワード」を受賞した。今後は、紙やプラスチックにとどまらず、建材や自動車部品など、あらゆる分野の素材になりえる可能性も模索していくという。

用語解説①

LIMEXの可能性

LIMEXは、原料である石灰石(英語名 Limestone)を50%以上含んだ複合材料で、紙やプラスチックの代替となる。これからの未来へ向けた新素材といわれている。

【石灰石の埋蔵量】
・日本/約240億トン
・中国/数千億トン以上
・インド/約750億トン

【LIMEXの紙】
・製造時に使用する水、一般的な印刷用紙の平均と比較して、約98%削減
・木材パルプの一切の使用なし
・軽量化に成功
・非常に高い耐久性
・経年劣化に強く、半永久的にリサイクル可能

【LIMEXのプラスチック】
・石油の使用量を削減
・容器リサイクル法に基づく支払義務が不要
・製造時の温室効果ガス排出量を約37%削減

用語解説②

ライフサイクルアセスメント(LCA)とは

特定の製品やサービスの「資源採取」「原料生産」「製品生産」「流通・消費」「廃棄」「リサイクル」といったライフサイクル全体を通じて投入されるエネルギー量や原料の使用量、排出される二酸化炭素や環境汚染物質などを算出し、環境負荷を定量的に評価する手法のこと。LCAを導入することによって、企業にとっては環境負荷の低減や生産や設計時での合理化が進み、経済的、経営的なメリットを生み出すことができる。

銀座の持つブランド力に魅力を感じ自社の事業展開への期待を重ねた

「現在のオフィスに移転したのは、2016年10月のことです。もともと丸の内の建替え計画ビルに入居していたので、オフィス移転のことは当初から考えていました。広さは約150坪。従業員40名弱で1年半くらい入居していましたね」

丸の内に立地するオフィスビルを選んだ理由は、「建替え計画によりコストパフォーマンスが良かった」、「日本の『ものづくり』の力で挑戦していく事業を考えたときに、丸の内のイメージが相応しいと思った」などがあげられるという。

「日本の高度経済成長の要因の一つには、当時の良質な技術力があげられます。そして日本の経済・金融の中心である丸の内は、当社の役員や顧問にとって特別な思いがある場所でもあったのです」

旧オフィスは、東京駅からも程よい距離で立地的な不満は全く無かった。

「製造拠点および研究開発として『白石蔵王駅』に第一プラントを建設しました。東北新幹線の停車駅ということもあり、行き来を考えると最高の立地でした」

そこから銀座中央通沿いの一等地に立地するオフィスビルに移転することになる。

「事業を継続していくにつれ、次第に海外の企業からも注目されるようになりました。お客様の多くが銀座をよく知っていて、良いイメージを持っていたことがこの場所を選んだ理由です。ここならばしっかりとした『おもてなし』もできるだろうと。銀座の持つ強力なブランドに魅力を感じましたね。社員の話を聞いても、『ポジティブな銀座の空気』に満足する声が多いことがあらためてわかりました」

旧オフィスは、広い空間にただ机が並んでいただけの普通のオフィスだった。そのため今回の移転を機に内装デザインに力を入れようと思っていたという。まず、旧オフィスの社員全員にアンケートを実施するなどして、自由な意見を求めた。

オフィス構築の一番のこだわりは尊敬する世界的デザイナーへの依頼

今回のオフィス構築の一番のこだわりは、ニューヨークを拠点に活躍している曽野正之氏にデザインを依頼したことだろう。

「曽野氏は、2015年にNASAが主催する火星住居設計コンペティションで優勝した経験があります。そのときの作品のテーマは『MARS ICE HOUSE(火星の氷の家)』。他のデザイナーの方の多くが火星表面の放射線を意識して地中に住居を設計したのに対して、これほどのダイナミックな自然を目にできないのはもったいないと、あえて地上に住居を構えた案を発表しています。火星の地表に存在する水を使い、氷の壁で高度の放射線を遮るという斬新な設計でした。それも単なるデザインに終わるのではなく、徹底的に資料を読み込み、科学的、物理的に根拠のある実現可能な提案になっているそうです」

実は、曽野さんとの出会いは5年前に遡る。当時、曽野さんがコンペディションで優勝した作品を見たときに衝撃を受けたという。

「それは『SEPTEMBER 11 MEMORIAL』というテロで亡くなった方のための慰霊碑でした。曽野さんは亡くなったすべての消防士の家族に連絡をとり、一人ひとりの顔を象ったものを壁に飾っていました。また、イーストビレッジにあるBOOK SHOPの設計を手がけたときは、本棚全体を曲線でまとめたデザインになっています。これも『美しさ』だけを追求したのではなく、お客様の視線を考え、どの角度からも書籍のタイトルが見やすいように曲線を使った設計をしたそうです」

ストイックに、人と人との繋がりや社会的な意義を考えて仕事をする姿勢に感動したという。

「新オフィスのデザインは誰かに依頼しなければならない。それならば断られるのを覚悟の上で、まずは曽根さんに相談してみようと。相談してよかったです。快くお返事をいただくことができましたから。それが2015年の年末のことです」

TBMの革新的で柔軟な創造性と時代の架け橋となるミッションを体現した

曽野氏の仕事は、過去の作品同様に徹底的なTBMへの「理解」から始まった。

「具体的な打合せの開始は2016年4月ですね。まずはお互いが理解しあえる人間関係づくりから始めました。そして全体イメージをつかむために、起業時の苦労、沿革、石灰石の可能性などをじっくりと話したのです。もちろん第一プラントの見学も行いました。おかげで当社代表の山﨑も曽野さんもお互いの考えに共感しあえることができたようです」

最初に時間をかけて「理解」を深めたことが6ヵ月という短期間の中ですんなりと進められた要因だと語る。

それではエントランスから順にオフィスの特長的なところを見ていこう。

「エントランスの中心には、当社を象徴する石灰石でつくったピラミッドを置きました。地面から現れる石灰石がオフィスの起点となります」

実は、この石灰石は曽野氏が実際の鉱山に出向いて、一つひとつを手に取り選んできたものを組み合わせているという。

「執務室は固定席とフリーアドレスが混合され、遮るもののないオープンな環境を提供します。その途中には、ショールームと一体化したカウンターを設けました。ここでは自由なコミュニケーションの誘発を目指します」

「そして3室の会議室。壁はすべてガラスを使用しています。それぞれ現在、過去、未来をテーマにし、各室に設置されたディスプレイにはテーマにあったイメージ映像を流しています」

「奥にはゆったりできるフリースペース。社員が自由に使えるエリアとして用意しました」

「今後はシニア層と女性社員、海外の方が共存していくことを想定し、奥のエリアにキッズスペースを含めたフレキシブルスペースを新設させます」

「天井と床には、時を刻む年表を象徴した白いストライプを配しました。巻物のような曲面の壁とあわせて、当社の軌跡を表現しています」

いわゆるベンチャー企業の場合、信用や信頼を獲得するのは大変な努力が必要になる。そのため、まずオフィスに来てもらいたい。その次にサンプルを手にとってもらう。そして同社の考えや思いを感じとってもらいたい。それができるのが、曽野氏とつくりあげたこのオフィスだと自信を持って語る。

執務室全景

執務室全景

ショールームカウンター

ショールームカウンター

会議室

会議室

フリースペース

フリースペース

年表を象徴した天井と床のストライプ

年表を象徴した天井と床のストライプ

今後は、会社の進化に合わせてオフィスも日々改善させていく

「オフィスも日々進化していく必要があると感じ、移転後、社内のデザインチームを中心にオフィス装飾部というサークルをつくりました。気がついた部分から少しずつ改善していく活動です。社員紹介を行うビデオをディスプレイで流す、過去受賞したアワードの内容が分かるようにPOPをつくるなど、すでに実行に移しているものもあります。日々の変化に応じて変えていくことは、曽野さんにも了解をいただいています」

それ以外にも、お客様に対する意識変革を行った。お客様が来社し、応接室に向かう際に社員全員が立ち上がって「いらっしゃいませ」と大きな声で挨拶をする。たったそれだけのことでも社外からの評判はすこぶるいい。ちなみにその目的のために、あえて応接室を執務室の奥に設けたと語る。

「僕らは、まだまだ色々な方のお力をお借りしながら事業を展開しているわけです。お客様は、当社のために来ていただいているわけなので、その方々にお礼を言わないなんてありえないと。その気持ちを伝える方法が、『いらっしゃいませ』なのです。そこは当社がどんなに成長してもこだわりたい部分ですね」

以前のオフィスに比べると、断然社員間のコミュニケーションは増えている。これもオフィスレイアウトをフラットな関係にしたのが良かったと語る。今後はラウンジやカウンターをもっと有効に使い、さらなるコミュニケーションの誘発を図りたいという。

「将来的には、来客用のテーブル、お客様にお出しするお茶のコップなど、このオフィス中の大半をLIMEX製品にしたいですね。それによってお客様とのコミュニケーションを活発にする。それが企業ブランディングの向上にもつながる。そんなオフィスを目指したいと思っています」