東京駅前常盤橋プロジェクト A棟

2019年10月取材

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記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

約7,000㎡の緑豊かな広場と2つのサービスフロアがワーカーのポテンシャルを引き出す

東京駅日本橋口前で進行している再開発計画「東京駅前常盤橋プロジェクト」。3.1haにおよぶ敷地面積を10年超の期間をかけて段階的に開発を行う。全体の開業は2027年度を予定。完成時には日本一の高さを誇る390mのオフィスタワー(B棟)と7,000㎡の広場を有する新たな東京のシンボルが誕生する。今回はプロジェクトの第一期として2021年に竣工予定のA棟プロジェクトについてお話をお聞きした。

宮ノ内 大資 氏

三菱地所株式会社
常盤橋開発部
事業推進ユニット兼
開発企画ユニット兼
開発戦略室兼ビル営業部 統括

宮ノ内 大資 氏

牛尾 莉緒 氏

三菱地所株式会社
常盤橋開発部
事業推進ユニット兼開発戦略室

牛尾 莉緒 氏

完成イメージ(夜景)

完成イメージ(夜景)Mitsubishi Jisho Sekkei Inc.


10年超の歳月をかけて東京に新たなシンボルを誕生させる

常盤橋は東京都千代田区大手町と中央区日本橋本石町の間を流れる日本橋川に架けられた橋で、江戸城の玄関口として栄えていた要衝であった。現在、その地で進められている大規模再開発が「東京駅前常盤橋プロジェクト」となる。

対象エリアはJR東京駅日本橋口前一体の街区で、東京メトロ駅「大手町」「三越前」「日本橋」からも徒歩圏内という高い利便性を誇る。

三菱地所株式会社が進める本プロジェクトは、大規模複合ビルとなるA棟とB棟、地下変電所のC棟、下水ポンプ施設のD棟、大規模広場、常盤橋公園の整備で構成される(棟名は仮称)。変電所や下水ポンプ施設といった都心の重要インフラ機能を機能更新しながら工事を段階的に進めている点が特長的といえる。プロジェクトの第一ステップは開発街区内の日本ビルの一部解体工事からで2016年にスタートした。

A棟の竣工は2021年6月末、B棟は2027年度を予定している。B棟は地上61階、高さ390mを予定し、完成後は日本一の高さを誇るシンボルタワーの誕生となる。

「日本一という高さにこだわったわけではありません。今回の開発は国家戦略特別区域の認定事業であり、『都心の重要インフラの維持・更新』『国際競争力強化を図る都市機能の整備』『高度防災都市づくりと環境負荷低減』などの都市再生の貢献項目を集約することで1,760%(予定)という非常に高い容積率を認めてもらうこととなりました。一方でインフラ更新とともに大規模広場の整備も与件になっておりますので、大規模空地を確保しつつ、その容積の最適配置を検討した結果、日本一の高さになったのです。もちろん『日本一の高さ』という分かりやすい要素をうまく活かすことで、あらゆるヒト・モノ・コトを集めて発信できる施設にしたいと思っています」(宮ノ内氏)

「建物の下に都市インフラの重要施設があることで機能更新の妨げになっていました。しかし困難だといって立ち止まってしまっては永遠に都市機能の更新はできません。そこで大手町連鎖型都市再生プロジェクトの第四次事業と位置付け、施工方法としても段階的にビル、インフラ機能や大規模広場を改修・施工していくことで本プロジェクトの推進が可能になりました」(牛尾氏)

和のテイストをうまく融合させた特長的なデザインを採用した

A棟は地下5階・地上38階建、1フロア面積約780坪の無柱空間で、フレキシブルな働き方に対応可能な大規模複合ビルとなる。

「A棟の外観は歴史を継承し、次世代を切り拓いていくという想いから、未来を拓く『刀』を意識した外観フォルム、歴史や伝統を感じさせる『重ね』や『格子』を意匠のアクセントとして表現しています。一方でオフィスエントランスは軽やかで柔らかな雰囲気を創出すべく、木調の素材や穏やかな光を映した『障子』をモチーフとした壁面などで構成します」(宮ノ内氏)

「敷地内に誕生する『広場』の面積は約7,000㎡です。東京駅前でこれだけ広大な環境創造をするプロジェクトは唯一無二といえるのではないでしょうか。A棟の竣工時には約3,000㎡分を先行して整備を行います。広場には多くの芝生や桜の木等を通じ、屋外ならではの心地よさ、日常的なにぎわいや憩いを演出していきます。また災害復旧活動拠点の側面も持っており、帰宅が困難になった方を受け入れるスペースとしても使われることになります」(牛尾氏)

「本街区と隣接する日本橋・八重洲エリアは桜の並木道が多い場所になっていますので、連携ができれば。桜の並木道を目的として集まる来街者の方々にとってのたまり場としていただきたいですね。低層部の飲食店や、キッチンカー等、食を通じて盛り上げたいと思います。当エリアは、大規模広場が私有地で車が通りませんので、安心してくつろげます。また、新幹線の乗降口となる東京駅日本橋口の目の前という、全国の都市との行き来が便利な最高の立地を活かして、自治体と共同で地方を発信するイベントも企画していきたいですね」(牛尾氏)

完成イメージパース完成イメージパース Mitsubishi Jisho Sekkei Inc.

隣接の常盤橋公園も、プロジェクトの街区内として2027年に向けて改修をしていき、5,000㎡超の大きな公園につくりかえる計画だ。現在、行政から要望を聞きながら進めているという。都心の巨大ターミナル駅でありながら、その目前に緑あふれる魅力ある空間が創出される。

大規模広場

大規模広場 Mitsubishi Jisho Sekkei Inc.


先進の制振設計を採用してワーカーに高い安全性を提供する

A棟の竣工後は多種多様な企業が入居する予定だ。事務室の貸付面積は約2.3万坪。約8,000人の就業者を見込んでいる。当然、BCP対応に優れた設計で災害時には高い安全性を提供する。特長の一つは粘性系制振装置(オイルダンパーや粘性系制振壁)を採用したこと。これは階高の大きい低層階に集中的に配置する効果的な制振システムで減衰性能を確保する。長周期地震に対しても制振効果を有するマスダンパーを設置し、強風時、地震時の揺れを低減させる。

非常用発電は3,000kVA×2台の発電機をビル内に設置する。うち1台は中圧ガスでの運転を可能に。これらの発電機によってガス供給があれば約10日間稼働をし、万が一、ガスが途絶えた場合でも敷地内に貯蔵された重油で72時間の可動を実現する。

「非常用発電室や特高電気室など、機械室は地上4~7階に設置していますので浸水対策も万全です。テナント企業の皆様の事業継続をサポートいたします」(牛尾氏)

また、同社では「ESG(Environment、Social、Governance)の先進企業としての地位確立」を目標に掲げた。世界的な指標に基づき「グリーン」を強いメッセージとする「グリーンボンド」を発行。それは総合不動産デベロッパーでは国内初のことだという。そのほか、グリーン調達ガイドラインの制定、生物多様性、環境配慮型広場認証の取得予定、国内の複合型開発プロジェクト初となるSITES(敷地内のランドスケープに対して、設計デザイン、建設、適用の3つの観点から環境不可低減の取り組みを評価・認証する制度)取得を目指すなど、多くの取り組みに挑戦している。

「今までテナント企業の皆様が移転先を探す際には、主に立地や面積、建物スペック、経済条件が主なポイントだったと思います。しかし近年は、『省エネの取り組み』『環境への配慮』といった点にも注目する企業も増えてきました。当ビルでの新たな施策は、環境意識の高い企業へのメッセージとなると思います」(宮ノ内氏)

同ビルの開発コンセプトは「人が動く。熱が生まれる」

「東京駅前常盤橋プロジェクト A棟」は、同社の本社移転後の最初の大規模再開発となる。同ビルの開発計画では、新本社の運営で得ることができた「働き方改革」の実証結果やノウハウを所々に盛り込んでいるという。そうして新たな視点でつくられたビルディングプランで働き方をサポートしていく。A棟の開発コンセプトは、「人が動く。熱が生まれる」。時間や場所にこだわらない働き方となっている時代だからこそ、柔軟に人が動き、新たな発見ができる。そんな人と人がつながる空間を提供したいという。

「これまで当社が丸の内を中心に付加価値として提供してきたオフィスサポート機能を集約することで、就業者の方の時間価値を最大化するオフィスを提供できると考えています」(牛尾氏)

同ビルでは、新しい「働く」を生み出すために、3階と8階にワーカーのためのサービススペースを拡充する。3階には人と人が「食」を通じてつながるスペースとしてカフェテリアを配置。魅力ある食事メニューと会話を楽しめる空間を用意する。8階にはラウンジ・カンファレンスエリア等、4つのカテゴリーで分類し、各ビジネスシーンを演出する。

ビルディングプランビルディングプラン
カフェイベントゾーンカフェイベントゾーン Mitsubishi Jisho Sekkei Inc.
ワーカーズラウンジワーカーズラウンジ Mitsubishi Jisho Sekkei Inc.

隣接の常盤橋公園も、プロジェクトの街区内として2027年に向けて改修をしていき、5,000㎡超の大きな公園につくりかえる計画だ。現在、行政から要望を聞きながら進めているという。都心の巨大ターミナル駅でありながら、その目前に緑あふれる魅力ある空間が創出される。

大規模広場

大規模広場 Mitsubishi Jisho Sekkei Inc.

また、3階カフェテリアのキッチン設備を備えるイベントスペースでは、同社が大手町・丸の内・有楽町を中心に展開する「食育まるのうち」や地方創生の仕掛け、会社の垣根を超えたネットワーキングの仕掛けができないかを検討しているという。

「働き方の変革でオフィスの価値がより問われていくことになると思いますが、人と人がリアルに集まって会話をしたり、目的やミッションを共有したりする価値は普遍的なものだと思っています。そこで人が集まるためのトリガーとして『食』に注目しました。食というのは一番原始的な欲求で、そこの場に行くきっかけになりますし、一緒に食事をすることで緊張がほぐれ、より本音での会話を促すことができると思いますので」(宮ノ内氏)

「今まで丸の内エリアに足りなかった会員制の機能も追加しました。来客の方とスムーズな流れでそのままビル内のラウンジで食事や接待をご利用いただくこともできます」(牛尾氏)

「東京駅前という圧倒的な利便性をワーカーの様々な層の方に存分に使いこなして頂くことを目指して、3階と8階の2つのサービスフロアを企画しています」(宮ノ内氏)

このようにフレキシブルな機能でビジネス環境をサポートする。テナント企業が入居するスペースは執務空間とし、ランチや会議、ミーティングは3階と8階の共有フロアを利用してもらう。そうすることでテナント側の使用スペース削減も可能となる。

さまざまな機能と立地を活かして情報発信のハブをつくる

最後に2027年度の全体の開業にも触れておこう。漠然とした計算ではあるが、B棟の貸付面積はA棟の3倍。街区全体の就業者は3万人が見込まれている。同社としてもここまでの規模の開発は久々で、都心では丸ビル、新丸ビルに続く代表的な基軸となると語る。

「本開発は国際競争力の強化が都市再生への貢献における役割でもあります。ですから、この常盤橋街区が『国際金融センター』構想の実現に資するビジネス交流機能、日本の文化や魅力を世界に発信できるような都市観光機能等の都市機能の集約も計画していきます」(牛尾氏)

「B棟はオフィスだけでなく、商業施設や都市観光施設の機能も加わる予定です。したがって街が完成した後は、多様な価値や体験を求めて休日もかなりの方が訪れる街になるでしょう。当社の強みは東京駅周辺の企業・機能が集積された街づくりと長年そのエリアマネジメントを継続してきた実績と経験です。今まで培ってきたノウハウを活かしながら、東京駅前の新たな魅力を引き出せるような街づくりを実現していきたいと思っています」(宮ノ内氏)

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