インキュベーションセンターからスタート。
当面はここのメリットを活用していく

2018年7月取材

「自宅訪問型母親産後ケアサービス」を提供する産後ヘルパー株式会社。産後に生じる急激な女性ホルモンバランスの変化や生活リズムの乱れ、将来的な子育ての不安などのストレスから母親を守るためのケアを行っている。その具体的な事業内容とサービスについてお話を伺った。

明 素延氏

産後ヘルパー株式会社
代表取締役 明 素延氏

韓国での出産後、慶應義塾大学産業研究所共同研究員に復帰。慶應義塾大学の博士課程の単位取得退学の後は「少子化と経済-産後ケア」を研究テーマとする研究を進める。自分の出産時の経験から産後の母親をケアする必要があると考え、2014年2月産後ヘルパー株式会社を設立。現在に至る。

自らの経験から産後の女性を応援できる事業をスタートさせた

第一子を両親のいる韓国で出産した明氏。そのときに産後の母親に対する韓国と日本のケアの違いに愕然としたという。

「韓国では少子化対策として産後ヘルパーの制度が充実しています。産後ケア専門の宿泊施設でのサポートもあり、施設をうまく利用すれば2ヵ月近く身体を休ませることもできます。なぜそこまで支援しているかというと、その時期に無理をして家事や育児を行うことは、将来年を重ねたときに関節炎や膀胱炎、冷え性などを発症する可能性があるといわれているからです」

そうして韓国での産後ケアを利用した後、夫が待つ日本に帰ってくる。しかしベビーシッターはあるが、母親の身体をケアするためのサービスは見当たらなかったという。

「夫は仕事で帰宅は遅いですし、親戚も近くにはいません。そうこうしているうちに子供を保育園に預けて職場に復帰するのですが、長時間母乳を与えてないことで乳腺炎になってしまいました。次第に『産後うつ』の症状に。寝不足や疲労も重なり精神的なバランスも崩れていました」

当面子供は一人で十分と思っていたのですが、数年経って第二子を授かる。そのとき自分が経験した産後でのつらかった思いを活かせないかと考えたという。

「『女性が働きやすい環境』や『赤ちゃんを産みやすい社会』を実現したいと思いました。それから韓国で産後管理士の資格を取得、産後ヘルパー株式会社を設立しました。しかし実績不足ということで一般のオフィス物件を借りることができません。そこでインキュベーションセンターが充実している横浜市でオフィスを探すことにしました。幸いなことに横浜市は夫の転勤予定先であり、私も大学時代に過ごした場所。なじみのある都市です。すぐにインキュベーションセンターに入居するための事業計画書を提出しました。その後、入居審査も通過し、補助金をいただくこともできました。2014年2月のことです」

日本初の「自宅訪問型母親産後ケアサービス」が誕生した

出産から8週くらいまでの産じょく期が、母親がお産で変化した身体を元に戻す大切な時期となる。この時期は心身ともに不安定になりやすく何らかのサポートが必要だといわれている。

「そこで出産で疲労した母親の精神と身体をケアする『母親ケア』、授乳サポートやオムツ交換といった赤ちゃんをケアする『新生児ケア』、母親に変わって家族の家事を代行する『家事ケア』のサービスを用意しました」

これが日本初の「自宅訪問型母親産後ケアサービス」となる。これらのサービスは専任の女性産後ヘルパーが母親と赤ちゃんをサポートする訪問ケアサービスだという。

産後ケアは女性だけの問題ではない。男性への理解を深める活動もしていく

経済活動人口減少や労働生産性向上は、産後サポートと大きく関わっていると語る。

「『産後うつ』は決して女性だけの問題ではありません。最近では、慣れない家事、赤ちゃんの夜泣きによる寝不足、それによって起こる会社での集中力低下など男性にも大きく影響を及ぼしているようです。だからこそ企業の福利厚生に加える必要があると思っています。将来的には母親だけではなく、父親を対象にした産後ケアのセミナーや講演会を開催したいですね」

産後ケアは、心身ともに病気にならないように予防するためのもの。しかし多くの人が重要なのは出産までと考えている。なぜならば産後の重要さを知る機会がないからです。まずは知ってもらう。結果的に当社を選ばなかったとしても、少しでも多くの方に産後ケアの重要さを知る機会を与えたいという。

インキュベーションセンターから新たなコミュニティを広げていく

創業当時は都心でのオフィス開設を考えていたという。しかしインキュベーションセンターへの入居は大いにプラスに転じているという。

「インキュベーションセンターへの入居のおかげで神奈川県の『かながわビジネスオーディション2015』に応募することができました。結果は見事に奨励賞を受賞。その他、いくつものコンテストに参加できています。当社のビジネスモデルが評価されるごとにブランド力や信頼度がアップしている感じがしますね。横浜市のなでしこブランド(女性の活躍を推進するためにサービスや商品を認定し、女性の潜在力を活かした地域経済の活性化を図る事業)に認定されてからは、中小企業を中心とした交流会にも参加もでき、新たなコミュニティが広がっています」

同社のこれからの課題は良質なサービスの継続だという。

「チャレンジすることもなく無難な道ばかりを選んでいたら会社に成長はないでしょう。そのためにも優秀なスタッフを確保しながら一歩一歩進んでいきます。いずれ規模が大きくなった時にオフィス環境も変えていかなければと思っています。それまではこのオフィスならではのメリットを活用していきたいですね」


※ 記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。