本格的なジンジャービアの提供で関わる全ての人を笑顔にする

2020年2月取材

「世界を変える起業家 ビジネスプランコンテスト in さいたま2019」で見事にグランプリを受賞した株式会社しょうがのむし。今後、日本初となる本格的なジンジャービアの製造・販売をグローバルに展開していくという。今回の取材では起業のきっかけや現在の活動、将来的な展望について語っていただいた。

周東 孝一 氏

株式会社しょうがのむし
代表取締役 周東 孝一 氏

大学卒業後、大手酒類販売店に入社。3年後、将来への不安から退職する。台湾へ渡り中国語を習得後、現地の日本料理グループ会社で専属利き酒師として勤務する。並行して語学力を生かし翻訳業務を開始。2015年、日本に帰国し、翻訳会社を設立する。翻訳会社を運営しながら新規事業について思案するようになる。2019年、地元産クラフトジンジャービアの企画を立案し「世界を変える起業家 ビジコンinさいたま2019」に応募。同年12月にグランプリを受賞、同時に協賛企業賞も6社から受賞する。それを機に「株式会社しょうがのむし」を設立する。

人々に笑顔を与えるジンジャービアで地元の活性化を決意する

「地元さいたま市の資源を活用して世界に発信できるクラフトジンジャービアをつくる」。そのプランが「ビジネスプランコンテストin さいたま2019」でグランプリに輝いた。受賞したのは株式会社しょうがのむし。5年以上にわたって翻訳会社を運営してきた周東孝一氏が代表となる。

「大学卒業後、お酒好きが高じて大手酒類卸会社に入社しました。その後、会社員としての将来への不安と、世界への好奇心から台湾へ。我ながら思い切った決断でしたね」

その後、台湾で利き酒師として働く傍ら、語学力を生かして仲間と中国語の翻訳業務を行っていると、クラフトビールの大手台湾メーカーから、日本法人設立の相談があったという。

「設立サポートのために帰国しました。ところが、彼らの日本法人設立までに予想以上に時間を要することがわかって。ただ待機しているわけにもいかず、副業として行っていた翻訳業務で自活するべく訳国株式会社を設立しました。設立時は爆買いを目的とした中国観光客が増加している時期と重なり、広告代理店や化粧品会社、ディスカウントショップからの依頼が増えて。業務のやり取りに使用していたクラウドワーキングサイトでは、中国語翻訳の部門で顧客満足度、過去実績などで1位を獲得するまでになっていました。しかし翻訳会社の業績が好調でも、結局は「お酒の世界」が好きだったんでしょうね。気が付くと、今度はお酒の小売ではなくメーカーとしてこの世界へ舞い戻ってきてしまいました」

「きっかけは妻の実家がある台湾に帰省した時の話です。ご近所からいただいた生姜が山積になっていて。台湾では自家醸造が違法ではないこともあり、ジンジャービアをつくってみようと思い立ったのです。インターネット検索でレシピを探して大量につくって義父母に飲ませたのです。義父母は喜んで、ご近所にも配り始めてしまい、そこでもすごく喜んでいただいて。それを見ていたらジンジャービアは人を笑顔にする力を持っている、という強烈な印象が残りました」

その感動を胸に日本での日常生活に戻る。

「自分は自然や植物が好きで、普段の生活でも野菜や卵は農家から直接購入していました。いつもの農家に向かう道中のこと、運転中に次々と休耕地が視界に入ってきまして。そこで自分の目指すべき姿が一つにつながったのです」

「さいたま市内の農家に生姜を生産してもらうことで休耕地を減らすことができます。生産した生姜でジンジャービアを製造・販売することで地域の活性化を図ることもできます。そして何よりもジンジャービアにはアルコール発酵をさせない製法もありますので、世代を超えて楽しんでもらえると思ったのです」

製造・販売だけでなく、体験事業による商品啓蒙と社会貢献も目論む

酒類の製造に関してはさまざまな認可をクリアする必要があるため、スタート時は川口市内でクラフトビールを提供しているブリュワリーによりOEMでの製造となる。

「できるだけ早くオリジナルブランドを確立させたいですね。そこで1年後の行動目標として醸造所建設の着手を掲げています。ビジネスコンテストの受賞の際に、市からはできるだけバックアップしますとありがたいお話をいただきました。現在、醸造所の土地探しなども手伝っていただいています。市の所有する遊休地を有効に使って、結果としてそれが市の財源やアピールに繋がればいいと思っています」

周東氏の現時点での課題は、「どこよりも美味しいジンジャービアをつくること」。毎日が試行錯誤の連続だという。

「何しろ『美味しい』の基準は人それぞれですから。生姜も種類によって味が違うため、ジンジャービアも1種類だけではなく充実したラインナップを揃えようと思っています」

また、ジンジャービアの製造・販売だけではなく、醸造体験ができるツアーの企画も構想中だ。「生姜の植え付けや、副原料となる果実や蜂蜜の採集、加工、醸造といった過程を経て体験し、最後はお世話になった地元農家の皆様を交えての試飲会。参加者と地元農家を繋げます。このツアーによって、参加者が定期的に街を訪れ、弊社は一種の観光資源としての役割を担えますし、ジンジャービアはノンアルコールもつくれますので、食育の良い機会にもなります。ジンジャービアについて知ってもらえる良い機会にもなります」

社名の「しょうがのむし」には2つの意味がある

「社会的意義、地元貢献をしながら会社も成長させたいと思っています。そして初めて台湾でジンジャービアを振る舞ったときに感じた気持ちを忘れないように『全ての人を笑顔にする』を企業ビジョンとしました」

その後、会社設立の準備は円滑に進む。2020年2月2日、自分が育った川口市内で商品のテストリリースを行い創業、その後さいたま市で会社登記の手続きも完了した。会社名である「しょうがのむし」は2つの意味を持つという。

「一つは、生姜に対していつまでも熱中し続けたいという自分の気持ちです。『勉強の虫』『読書の虫』などと同じ使い方です。もう一つが、ジンジャービアを自家醸造するときに使用する酵母液の名前から。ジンジャーバグ(Ginger Bug)というのですが、それを日本語に直訳すると「しょうがのむし」。多様なイメージに膨らませることができるよう、また日本らしさを大切にして、あえてひらがな表記にしています」

まずは行動することを大切にし周囲の力を借りながら成長していく

今回の起業にあたっては、副業から始めた翻訳会社の起業時と違い、何も無いところから立案しなければいけなかった。その中で事業の道筋をつけるヒントとなったのが、ビジネスプランコンテストの応募だと語る。

「参加した『世界を変える起業家 ビジコンinさいたま』は、参加のために書類の提出が必要で、その書類というのが既に事業計画書のような構成になっていて。おまけにこの書類によって一次審査がなされるということでしたから、これを期限内に記載し、提出するだけでも相当な勉強になりました。また、これに参加することで、色々な経営者に出会うチャンスも得られ、その中で自分の気持ちや思いも発信し、アイディアはより具体的になりました。アドバイスを頂くことでプランのブラッシュアップも促されましたね」

そして今ではそこでつながりを持った方々とのネットワークに広がりをみせている。

「起業にハードルがあるとすれば、それは『まず自分が動き出すこと』、これだけだと思っています。知識や経験は、必要な時に必要な分を身に着けていけばいいですし、起業にあたっては、そもそも自分自身の中に既に必要な経験や知識が有る程度備わっているはずです。そうでなければ、その事業で起業したいとは思わないでしょう。ですから、まずは動き出す。アクションを起こすことが最善だと考えます」

※ 記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。