都市の記憶

~歴史を継承する建物~

「旧新橋停車場」復元駅舎 後編

オフィスマーケット 2003年5月号掲載

※ 記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

田原幸夫氏

建築家(日本設計)
旧新橋停車場復元設計JV総括

田原幸夫氏

 

新橋停車場竣工式

新橋停車場竣工式(「ザ・ファー・イースト」より  横浜開港資料館所蔵)

明治の精神と平成の技術――詳細な分析に基づく“外観”復元

平成9年(1997)に企画がスタートした「旧新橋停車場」の外観復元プロジェクトだが、その基本実施設計にあたっては通算で実に3年もの年月が費やされた。

「もともと“復元”(Reconstruction)という行為には多くの議論があります。ただ、基礎の石積が発掘されたことによって平面寸法が厳密に確認できた。そこで、地下に実際の遺構を埋め戻した上部の空間に『推測を極力排除した外観の復元』を目指すということになったわけです」

責任者として設計にあたった田原幸夫氏は「復元という行為が人々に対して歴史への誤解を生じさせるのでは、本末転倒であるばかりか、史跡としての価値を損なう結果にさえなりかねない」と語る。
復元駅舎はあくまでも現代建築であるという認識のもと、解明可能な部分についてはできうる限り正確を期すという方針で設計作業は進められた。幸い、当時の有力英字誌“ザ・ファー・イースト”などに掲載された古写真は極めて精細・明瞭に竣工当時の駅舎の姿を伝えており、コンピュータによる分析で作成した3次元データと基礎実物の計測寸法をすり合わせることで、駅舎の高さや窓などの垂直寸法もほぼ正確に割り出された。最終的に決め手となったのは現地で発見された正面階段の段石で、蹴上げが170ミリ、踏み面が300ミリ。これを基準物差しとして最終寸法が決定されていったという。

25メートルの範囲で再現したホーム石積

25メートルの範囲で再現したホーム石積。 屋根はあえて造らず、当初の姿をイメージできるよう柱とフレームをデザインした

一方、文献などから当初の主要な材料はほぼ特定できたが、その多くは、すでに入手不可能か、仮に入手できたとしても建材として現代の基準を満たさないものである。そこで、外壁の主要材料であったと考えられる砂質系凝灰岩「伊豆斑石」は、現在も一般的な外装用建材として用いられている凝灰岩である「札幌軟石」に変更した。コーナー部分、ベース部分も現実に使用可能な材料を用いて設計した。

「外観の意匠で一番問題だったのは、正面中央の貴賓専用と思われる出入口。写真では陰になっていて、正確な姿が解らなかったため、改めてコンクリート製のアーチでデザインし、明治の意匠の再現ではないことを表明しています。また、錦絵以外にほとんど資料のない建物内部は、歴史的・様式的な意匠を安易に模倣せず、用途に合わせた現代的空間にしてあります」

さらに、建築基準法における耐震基準を満たし、同時に地下の遺構を傷めずに保存する配慮が必要だった。史跡上に置いたマットスラブと一体化したRCを基本構造とすることでこの問題をクリアしたが、このため建物の接地レベルは過去に比していささか高くなっているという。

「とはいえ、それが史跡の保存と新築復元を両立させるギリギリの線。現行法規の適用除外措置などは一切ありませんからね。スロープや車椅子対応エレベーターなど都条例に基づくバリアフリー対策、エネルギー取り込みのためのボックスの設置……多くの制約がありましたが、明治の中央駅の精神を平成の技術で実体化する――“歴史の衣をまとった現代建築”を成立させるという本来のテーマは、なんとか達成できたのではないかと思っています」

建物両脇のエネルギーボックスを歴史的意匠とは対照的なガラスケースとしたのは、現代の付加物であることを明確にするためである。田原氏が明かしてくれたところによると、実は、駅舎の外観を形づくるパーツのうち、新たにデザインしたものについては、目立たないものの「2003」という西暦年号が浮彫りや刻印で明示してあるという。「推測を排除した外観復元」には、こんな遊び心も含まれていた。「旧新橋停車場」を訪れたら、あちこちをくまなく観察して、隠れている4桁の数字を探してみるのも一興だろう。

出自を表明する年号数字

現代の意匠で新たにデザインされたパーツには、 出自を表明する年号数字が。「平成の復元」にあたっ た設計者の良心だ

エネルギーボックス

歴史的意匠とは対照的なガラスケー スでつくられたエネルギーボックス

石材は代替品だが、壁面と角部のコントラストな どがよく再現されている

石材は代替品だが、壁面と角部のコントラストな どがよく再現されている。明治と現代の意匠が融合して違和感がない

窓上部の石材に施された印象的な装飾彫刻

窓上部の石材に施された印象的な装飾彫刻。 "明治の精神"を伝えるため、平成の名工たちが腕をふるった

外観はディテールまで正確に再現されている

外観はディテールまで正確に再現されていることが、古写真との比較でわかる。明治建築の威厳が周囲の高層ビルと拮抗している

竣工当時の新橋停車場ホーム部分

竣工当時の新橋停車場ホーム部分(「ザ・ファー・イースト」より  横浜開港資料館所蔵)

復元された駅舎の正面

復元された駅舎の正面

 
 
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