都市の記憶

~歴史を継承する建物~

「明治生命館」明治安田生命ビル街区再開発プロジェクト 後編

オフィスマーケットⅣ 2005年9月号掲載

※ 記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

日比谷通りから見たコリント様式の列柱(明治生命館)

日比谷通りから見たコリント様式の列柱(明治生命館)

名建築へのオマージュ――記憶を継承するための試み

今回のプロジェクトが着工される以前、この街区には明治生命館に隣接して「三菱地所」設計による3棟のビルが建っていた。都市の記憶をたどる本企画として、やはり失われたこれらのビルについても言及しておきたい。
千代田ビルヂングは昭和36年に竣工した鉄骨鉄筋コンクリート造、地上9階・地下4階、横長窓を持つL字型平面のオフィスビルであった。明治生命新館は、本館に接続するように軒高を合わせて建てられていたもので、昭和43年の竣工という。意匠も本館を継承して違和感のないよう配慮されたが、これにより本館東面の外壁は塞がれて一部破損を余儀なくされた。
もう1棟の明治生命別館を合わせて3棟の建物を解体して、明治生命館の全面保存と明治安田生命ビル(丸の内MY PLAZA)の新築が行なわれたわけだが、まさしく「丸の内第一世代と言われる赤煉瓦の三菱二号館も含め、この街区にはレイヤーのように折り重なった都市の記憶が存在する」のだ。それだけに、新築部分の設計に当たっては“記憶の継承”を企図する配慮が随所になされることとなった。
ガラス屋根で覆われた高層ビルと明治生命館との間のスペースはパサージュとアトリウムとして機能するが、これは昭和30年代の「丸の内改造計画」による仲通り拡幅以前に存在した路地を復活させる試みでもあったという。陽光の射し込む開放的な空間は、人々の自由な通行を確保すると同時に、仲通りからアトリウム越しに皇居を望むという新たな景観を創出している。高層部も採光と眺望に配慮した空間を企図しており、外観デザインは明治生命館の外装石(岡山県北木島産)に似たイタリア産花崗岩を使用し、ファサードの特徴である列柱に近似した間隔で配列した。ディテールは現代的な仕様によるものの、これによって明治生命館と背後に聳える高層部の違和感が抑制され、軒高を合わせた低層部と合わせて、一つの街区としての調和的デザインを実現している。また、高層部4階会議室ロビーに解体された明治生命新館(当時)入口の装飾面格子(ブロンズ製)を移設するなど、直接的な“記憶の継承”も各所で図られた。
「一つの街区としての調和」は、明治生命館の改修工事においても十分に意識された。同館内部のテナントスペースは、明治安田生命ビルから熱源・電源を取り入れることで、現代のニーズを充たす機能性・居住性を確保している。また、大規模な屋上緑化を行なうことで、超高層ビルからの眺望や環境への配慮もなされた。その一方で、外観保存にかかわる窓のダブルサッシュ等は一切変更していない。取り外して洗浄してから再度設置したのだが、開閉など非常にスムースで建物としての質の高さを改めて認識させられたという。
本体の歴史的意匠をできる限り活かした改修がテーマのため、内外装ともになるべく手を加えないリニューアルを心がけたという。大きな改修部分としては東側外壁(かつての新館との接続部)の復元が挙げられるが、幸い当時の設計図、図書や写真等の資料が残っていたため、より竣工時に近いかたちに戻すことができた。
この外壁補修には70年以前と同じ石が使用され、精緻な実測・解析等によって失われていた東側外観が見事に甦った。また、その過程で、敷地のずれから生じた目地割の不規則性を視覚的に調整した設計技術等の新発見も得られたという。ほかに、建物本体を傷めない洗浄の手法など、今回の改修で得られた知見の数々は、他の歴史的建造物保存に際しても重要な役割を果たすことだろう。
関係者誰もが「このような建物は今後二度と建てられない」と異口同音に語っていたことが印象深かった。ならば、名建築を“残す”ために積極的に“活用”するという視点は、これからいっそう重要性を増すはずだ。「建物は書割りではないのだから、外観と内部空間は一体として考えるべきです」(東京大学教授・鈴木博之氏)。最高の立地を誇り、基準階における直天井部分の高さ3.2メートルの快適なオフィス空間を内部に有する“重要文化財”は、ユーザーにとっても魅力的な存在ではないだろうか。多くの利用者が集い、可能な限りこの建物を長寿たらしめんことを願って止まない。

明治生命館と明治安田生命ビルの間に設けられたパサージュ

明治生命館と明治安田生命ビルの間に設けられたパサージュ

ガラス屋根で覆われた明治生命館と明治安田生命ビルを結ぶアトリウム

ガラス屋根で覆われた明治生命館と明治安田生命ビルを結ぶアトリウム

西側ファサードの窓と装飾(明治生命館)

西側ファサードの窓と装飾(明治生命館)

明治安田生命ビルエントランスから見た明治生命館ファサード

明治安田生命ビルエントランスから見た明治生命館ファサード

写真:建築写真家/増田彰久
文:歴史作家 吉田 茂

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