テレワーク特集 Vol.2~テレワーク事例 TRIPORT株式会社~

Vol.2 テレワーク事例 TRIPORT株式会社

2020年6月取材

※ 記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

採用も教育もテレワークで。TRIPORTが重視する「心理的安全性」とその解決策。

2014年7月の設立当初から「テレワーク実施率100%」を実践してきたTRIPORT株式会社。創業7期目を目前に控えた2020年5月に同社が実施した社員募集は、応募者が殺到して100倍以上の倍率となり、時節柄マスメディアで大いに注目を集めました。総務省、厚生労働省、経済産業省、国土交通省と連携を取りながら全国へのテレワーク普及を進めている一般社団法人日本テレワーク協会に、「究極のテレワーク実践企業」と言わしめた同社の取り組みはどんなものか、創業経営者である代表取締役社長CEO 岡本秀興氏にお話を伺いました。

岡本 秀興 氏

TRIPORT株式会社
TRIPORT社会保険労務士法人
代表取締役社長CEO/代表

岡本 秀興 氏

早わかりメモ

  1. 困難とされる面接から採用後の教育まで、フルリモート環境下で実現
  2. 5名の採用枠に600名近い応募が殺到。誰もが働きたい会社の条件とは
  3. 月1回、任意参加の全体出社日を設け、交通費・宿泊費は全額会社負担

困難とされる面接から採用後の教育まで、フルリモート環境下で実現

クライアントの企業情報や経営方針を元に、受給できる可能性のある各種助成金の情報提供から申請支援までをトータルサポートする『助成金コーディネート』事業。従来の社労士との顧問契約などによって提供されていた人事・労務関連の各種サービスを、まるでクラウドサービスを利用するかのようにオンラインで提供する『クラウド社労士コモン』事業。TRIPORTは、この2つを主軸に事業展開しています。

「これらのサービスは、全てがオンライン上で完結できるという点も大きな特長の一つです。もともとITリテラシーの高いメンバーが集まっていたこともあり、創業当初から在宅やコワーキングスペースを借りるなどして、業務全般をテレワークで行ってきました」

創業時のメンバーは岡本氏を含む3名。それから7年経ち、社員数は30~40名と10倍以上に増えましたが、「業務全般をテレワークで」行っている点は現在も変わっていません。

同社の拠点としては新宿の本社オフィスをはじめ、東京近郊だけで計3ヵ所、札幌にも1ヵ所サテライトオフィスを設け、その他、必要に応じて各地にコワーキングスペースを確保しています。さらには、人材採用や教育など、従来であれば対面せずに行うのは難しいと考えられていた業務についても、フルリモート環境下で実現しているといいます。

TRIPORT株式会社
テレワーク風景

「従来の人材採用は、募集から応募受付までがオンライン上で、書類選考後の面接はオフィスへ呼び出して対面で行うのが一般的でした。それに対して、当社では、面接はもちろん、採用後の教育研修もすべてオンライン上で行っています。これにより、住んでいる地域や家庭環境に制限されない採用活動が可能になりました」

5名の採用枠に600名以上の応募が殺到。誰もが働きたい会社の条件とは

同社で働く社員の中には、ワンオペで育児中だったり、老親の介護をしていたり、あるいは配偶者の転勤に伴って短期間に引っ越しをくり返していたりと、従来であれば安定した職に就くことが難しい、という人たちが少なくありません。彼ら彼女らは、本人の能力や意志とは無関係の制約によって活躍の機会を奪われている、と岡本氏は指摘します。

「当社で採用している社員たちは、能力値は非常に高いものの、地方在住などの場所的制約や、フルタイムで勤務できない時間的制約がネックになっていた皆さんです。テレワークであれば、これらの制約にとらわれず自由度の高い働き方ができるため、当社の採用力の強化とともに離職率の低下にもつながっています」

設立当初は知名度も低く、資金力も乏しいベンチャー企業ということで、そのまま募集をかけても応募は少なく、せっかく採用できても中にはすぐに辞めてしまう社員も出てくるのではないかと容易に想像できたため、初めての採用から、柔軟な働き方、つまり、働き方における"場所的制約・時間的制約"を極限まで除外した労働環境を用意することで、優秀な人材確保ができないものか試行錯誤してきました。結果、今では2020年5月に求人サイトに中途採用の募集を10日間ほど掲載しただけで、5名の採用枠に対して倍率100倍を超える600名以上の応募が殺到しました。コロナ禍の影響で職を失ったり、職場の先行きに不安を感じている人が多いだけでなく、テレワークという働き方に対する世間の認知度が高まり、積極的にテレワーカーを志望する層が増えているようです。

「ただし、当社も最初から成功したわけではありません。テレワークの効果を最大限発揮するには、次に挙げる『3つの整備』が必要不可欠でした」

その3つとは、「STEP.1 ICT等インフラ整備」「STEP.2 社内制度整備」「STEP.3コミュニケーション環境整備」であり、このうちどれが欠けてもテレワークの効果は十分に発揮できない、と岡本氏は提言します。

月1回、任意参加の全体出社日を設け、交通費・宿泊費は全額会社負担

「3つのSTEPのうち、STEP.1に当たるICT等のインフラ整備は比較的簡単で、他社事例を参考にしつつICT等への投資予算をかければ比較的どの会社でも可能でしょう。ただ、これだけでテレワークを導入できたと考えてしまいがちですが、それは大きな間違いです。次のSTEP.2である社内制度の整備ができていなければ、テレワーク導入後に必ず何かしらの問題が表面化します」

社内制度整備とは、例えば、テレワークという働き方を想定して定めるべき「在宅勤務規定」や「情報セキュリティ規定」など、会社独自の運用ルールを整備することです。一例ですが、前者は在宅勤務中の勤怠管理方法や、経費(電気料金や通信費、印刷費等)清算方法などを会社としてどのように負担するか。後者はICT等によるセキュリティ対策だけでは担保できない部分について、社員にどこまでセキュリティを意識させ、責任を求めるか等を取り決めたものと言えます。

「例えば『在宅勤務規定』における経費精算方法等については、全社員に『テレワーク勤務手当』を支給しています。また、パソコンの買い替えや回線工事など、まとまった出費に対しては会社判断で個別に清算することもあります。『情報セキュリティ規定』については、社員のセキュリティに対する意識・リテラシーを高め、意図的な情報漏洩を防ぐ抑止効果もあります」

手当の金額は、同社のそれまでの実績と経験から算出したとのこと。単なる机上の計算ではないため、社員にとっても妥当性のある金額設定になっているようです。また、社員から「自宅では仕事に集中できない」とか「仕事とプライベートのオン/オフの切り替えをしたい」という要望があれば、必要に応じて、自宅の近くにあるサテライトオフィスやコワーキングスペースも会社判断により利用可能としています。そして、同社が最も苦労したのが、最後のSTEP.3となるテレワーカー相互のコミュニケーション環境の整備でした。

「当社では『心理的安全性』ということを最重視しています。テレワークでは、相手が見えない環境で働いているのが当たり前だからこそ、相手が見えない環境であっても、社員が安心して気持ちよく働けることが大事です。離れた場所で仕事をしていると、『彼は本気で仕事に取り組んでいるのか?』とか『自分だけ大変な想いをしているのではないか?』というネガティブな感情が湧いてきがちです。このようなコミュニケーションに関連する諸問題を解消するためにも、いろいろ試行錯誤してきた結果、例えば一解決策として、月1回、任意参加の全体出社日を設けることにしました」

この取り組みは、例えば東京の会場に、北海道から九州・沖縄まで全国に点在する同社の社員たちが直接顔を合わせる機会をつくることが目的です。オンライン会議で毎日のように顔を合わせていても、やはり直接対面してのコミュニケーションは貴重です。また、一堂に会さなければできない研修を実施したり、夜には酒を酌み交わして親睦を深めます。

飛行機代を含む交通費や、遠隔地から来た社員のための宿泊費は原則、会社が全額負担しています。育児をしながら働いているママさんも多く、家庭の事情もそれぞれであるため任意参加としていますが、毎回20名前後の社員(全社員数の5割強)が全国から集まってきます。

月一回の全体出社
月一回の全体出社

「現在はコロナ禍のため全体出社を中断していますが、いずれ様子を見て復活させるつもりです。なぜなら、『集まる=顔を合わせる』ことは絶対に必要だと考えているからです。ただし、『月1回の全体出社』が必ずしも最善であるとは考えておりません。もっと頻繁に、また気軽に対面コミュニケーションを活性化させる方法もあるかもしれません。今後もさらに工夫を重ね、より効果的な方法を模索していきます」

*今回の取材は「オンライン」で行いました。

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