Vol.6 テレワークの推進か?オフィスの維持か?その答えは企業ごとの働き方にある

テレワークの推進か?オフィスの維持か?その答えは企業ごとの働き方にある

2020年8月取材

※ 記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

今回の「テレワーク特集」では、実際にテレワークを導入している企業4社に取材を行いました。各社の課題や効果を知ることでより一層理解が深まったのではないでしょうか。
今回が連載の最後となります。特集の結びとして、東京大学大学院で「オフィス学プロジェクト」の研究に取り組んでいる稲水伸行准教授にお話をお聞きしました。

稲水 伸行 氏

東京大学大学院 経済学研究科
准教授

稲水 伸行 氏

早わかりメモ

  1. オフィスがワーカーのパフォーマンスに与える影響を科学的に研究している
  2. 新型コロナ感染対策を目的にテレワーク導入企業が増えてきた
  3. ABWの機能の一つに「在宅」が加わるのがベストな考え方
  4. 働き方先進国の事例に見るテレワーク導入後のオフィスの姿

オフィスがワーカーのパフォーマンスに与える影響を科学的に研究している

東京大学大学院経済学研究科の稲水伸行准教授はフリーアドレスオフィスの効果についての論文を約5年前に執筆。それをきっかけに企業の皆様との連携が始まり、「オフィス学プロジェクト」がスタートしたそうです。

「プロジェクトでは、オフィス空間を建築やデザイン設計の分野で捉えるのではなく、経営学や組織論の視点で研究を行っています。現状では組織への貢献意欲である『エンゲージメント』を評価指標の一つとした調査を行っています」

今後は、社員の持つスマートフォンの位置情報を分析し、「オフィス内の社員の行動範囲」「コミュニケーションが与える成果」「オフィス内の人口密度とコミュニケーションの変化」といったテーマを科学的数値に基づいて研究を進めていくそうです。

新型コロナ感染対策を目的にテレワーク導入企業が増えてきた

都内企業のテレワーク導入率は昨年に比べて大幅に拡大していることがわかりました。その理由は新型コロナの感染対策を受けての動きと見られています。

「近年の『働き方改革』の影響で大企業を中心に少しずつマインドが変わりつつあります。テレワークを導入するための技術やセキュリティといったITインフラが整備されていた企業も決して少なくはなかったでしょう。しかし多くの企業は導入に踏み切れていませんでした。そんな背景の中で今回の新型コロナ感染対策のタイミングと重なりテレワーク導入につながったと考えています」

そして今回テレワークを導入した企業は新型コロナが収束に近づいたとしても当面はその運用を維持するだろうと予測しています。

「今後も企業の新たな働き方の一つとして適切に活用されていくのだろうと思います」

ABWの機能の一つに「在宅」が加わるのがベストな考え方

その一方で、稲水氏はクリエイティビティを高めていく業務ではリアルなコミュニケーションが最も重要だといいます。それこそが新たな発想やアイデアの創出の原点だと考えているからです。そこで多くのメディアで唱えられている「オフィス不要論」に対しての意見をお聞きしました。

「自社にとって何が一番適しているのかを考えて結論を出すべきだと思っています。それによって従来のオフィス面積が必要なければ一部を返却するべきでしょうし、逆にオフィス面積を増やすことでコミュニケーションが円滑に進むと考えるならばそれに適したオフィスを構築すればいいのです。もちろんテレワークだけで業務が成り立つと考える企業でしたら、オフィスを解約してランニングコストを削減する方法もあるでしょう。働き方の選択肢が増えることはとてもいいことです。だからこそ、ひと括りにオフィスは要らないと結論づけるのは早急だと思っています」

次に稲水氏の考える理想的なオフィス像についてお聞きしました。

「近年、ABWActivity Based Working)の考え方が多くの企業に注目されています。ABWとはワーカーが自分の業務内容に合わせて働く場所を自由に選べるワークスタイルのことです。そのワークスタイルを運用するために、オフィス内にミーティングスペースや集中スペース、コラボレーションスペース、カフェスペースなどの多様な機能を構築します。ABWの機能はオフィス内に限ったことではありません。ですから機能の一つとして『在宅』が加わるのがベストな考え方だと思っています」

働き方先進国の事例に見るテレワーク導入後のオフィスの姿

1年前、研究を重ねる中で稲水氏は北欧のフィンランドの企業に訪問しました。フィンランドは「働き方先進国」といわれており、実態調査を行うには相応しい国だといいます。

「当時からすでにフィンランドは働き方に対する柔軟性が高く、その多くの企業でテレワークが導入されていました。しかし、テレワーク導入企業でも同時にABWを推し進めており、オフィスデザインや多様な働き方の空間を用意しています。そこでなぜテレワークが充実しているのにここまでコストをかけてオフィスを構築するのですかと質問したんです」

するとオフィス担当者がこう答えました。

「テレワークが進んでいくと誰もオフィスに立ち寄らなくなりました。すると次第にリアルなコミュニケーションの喪失に加えて、組織文化の継承や社員同士の一体感、アイデンティティが薄れていったのです。オフィスには思っていた以上に重要な役割があると気づかされました」

それから何度も役員会議が重ねられたそうです。現在は、「ローテーションを組んで定期的にオフィスに出社する」ことがルール化されるように。それがその企業にとってパフォーマンスをあげるための最善の方法ということでした。

「よく費用対効果について聞かれることがあるのですが、回答が非常に難しいですね。ただ、企業の存在意義は事業存続のために適正な利益を確保することです。そのため企業は業務目標を定め、目標を達成するために何をすべきかを考えてきました。今後は、自社に適した働き方という課題に対しても考えていく必要が出てくるのではないでしょうか。働きやすいオフィスは二次的な効果として人事採用や人材育成にもつながってきます。多様な働き方を検証しながら自社にとって最良のオフィスをつくっていく。オフィスづくりは投資の一つとして考える時代になったのかもしれませんね」

オフィス学プロジェクト

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