株式会社マネーフォワード

2016年5月取材

※ 記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

急成長を続けるマネーフォワードの社員の力が最大限に発揮されるオフィス

「お金を前へ。人生をもっと前へ。」をビジョンに掲げ、さまざまなサービスを通して、個人や企業のお金に対する悩みや不安を軽減。日々の暮らしの改善や夢の実現をサポートすることを事業目的とする株式会社マネーフォワード。2012年5月にマンションの1室からスタートした同社は、急激な増員計画の中でオフィス移転を繰り返してきた。今回は現在の本社オフィスの移転の経緯やコンセプトなどを中心にお話をお聞きした。

プロジェクト担当

柏木 彩氏

株式会社マネーフォワード
社長室広報部長

柏木 彩氏

金井 恵子氏

株式会社マネーフォワード
デザイン戦略室 室長

金井 恵子氏

HIROBA全景

HIROBA全景

はやわかりメモ

  1. 増員による増床で2フロアに。その結果、コミュニケーション不足に
  2. PJチームを立ち上げ、アクセスの良い田町エリアを中心に物件を選定
  3. 生産性向上につながる改善提案とブランディングを意識したデザイン
  4. 従業員のアイデアから生まれた「MokuMoku Room」と「HIROBA」
  5. 入居ビル自体の設備も充実しており、さらなる活用の可能性が広がる

増員による増床で2フロアに。その結果、コミュニケーション不足に

個人向けの自動家計簿・資産管理サービス「マネーフォワード」をはじめ、ビジネス向けクラウドサービス「MFクラウド会計・請求書・給与計算・マイナンバー・経費清算・消込」など、クライアントの「お金」に関する各種サービスを提供する株式会社マネーフォワード。6人のメンバーでマンションの1室で創業した同社は、ほどなく事業拡大に伴う増員に対応したスペースの確保を求められ、取引先からの紹介を受けて渋谷区恵比寿のビルへ。その後、短期間で港区三田のオフィスビルへと移転する。そのオフィスでは、2フロア計150坪弱の面積を使用していたが、なおも増員傾向が続き、従業員数は最終的に80人以上に達した。さすがに執務スペースが手狭となり、さらにもう1フロア増床するか、別のビルへ移転するかの二者択一を迫られていた。

「『事業拡大を目的として増員を図った』というよりも、お客様からのご要望にお応えするためにサービスを充実していく中で事業が拡大。それに伴い、必然的に多くの人が必要になってきたということです。移転間際は所狭い中で机を並べていた状態でした」(柏木彩氏)

同社の場合、業種的にエンジニア職の採用だけでなく、営業やカスタマーサポート職の採用にも力を入れているという。多くの人が集まってくる職場は、とても魅力的で働きやすい職場環境であることは間違いない。ただし、多くの従業員を抱えることで、一時的にせよ職場環境の悪化を余儀なくされるという面も存在する。以前のオフィスでは、スペースの狭さからいくつかの課題が持ち上がっていた。

「80人以上が2フロアに分かれて勤務していたために、従業員同士の横のコミュニケーションが取りづらくなっていました。毎月メンバーが増えているわけですから、新しいメンバーの顔を覚えるのも一苦労です。しかも、当時は彼らがお互いに顔を合わせてコミュニケーションを取るためのスペースもありませんでした」(柏木氏)

PJチームを立ち上げ、アクセスの良い田町エリアを中心に物件を選定

同社内で今回の移転計画が持ち上がったのは、2014年の秋頃。三田のオフィスへ移ってから、まだ1年も経ってはいなかったという。10月には物件探しのプロジェクトチームが立ち上げられ、本格的に移転を検討し始めることになった。プロジェクトチームのメンバーには、前職などでオフィス移転に携わった経験のある人間も選抜されていた。

「三田のオフィスへ移転した直後は、増員ペースが今ほど急激ではなかったこともあり『これで当分は引っ越さなくて済むだろう』などと考えていたのですが、予想していたよりもずいぶん早く、その時期がやってきてしまいました」(柏木氏)

旧オフィスは、その立地の面についても改善の余地があったという。最寄り駅としてJR線・田町駅、都営三田線・三田駅、都営浅草線/京急線・泉岳寺駅の三駅が利用可能ではあるが、どの駅へも徒歩10分以上はかかるという微妙な距離にあった。

「ただし三田・田町というエリアの魅力は申し分ありません。都内はもとより、新幹線へのアクセス、さらには浜松町でモノレールに乗り換えて羽田空港にと、日本全国どこへ行くにも便利で、それでいて賃料相場も比較的手ごろ。今回、そんな希望のエリア内でまとまった面積を確保することができました」(柏木氏)

同社では現在、大阪・名古屋・福岡・札幌の4大地方都市に支店を設けており、これらの地方拠点や地方のクライアントなどとのコミュニケーションを密にするためにも、アクセスの良さは譲れない条件の一つであった。なお、同社の従業員は年齢的に30代が多いため、あえてベンチャー企業が多く集積している渋谷や新宿よりも落ち着いた雰囲気を持つ場所が好まれる傾向にあるという。

「前回、恵比寿から三田へ移転した際、通勤に便利なように田町駅周辺に引っ越した従業員も少なくありませんでした。この人たちを含めて、従業員の通勤に支障の出ないようにという配慮もありました」(柏木氏)

生産性向上につながる改善提案とブランディングを意識したデザイン

2014年12月、プロジェクトチームの立ち上げからわずか2ヵ月で移転先が内定する。具体的な物件選定は経営陣の主導に委ねられた。10棟ほどの候補物件を見学したという。最終的に移転先として選ばれたのは、港区芝の大手食品メーカー本社ビル内にあるテナントフロアであった。ここは田町駅直結という抜群のアクセシビリティに加え、1フロア330坪と、旧オフィスに比べて2倍以上の面積を確保することができた。

「旧オフィスでの最終年は、とにかく空間に余裕がないため、営業チーム、カスタマーサポート、エンジニアチームなどの執務エリアが混在しているような状況で、生産性が低下していたように思います。今回、執務エリアに余裕が生まれたことによるオフィス移転の効果は大きいですね」(柏木氏)

また、同社のサービスの軸となるのは個人向けとビジネス向けの2つがある。
ビジネス向けの営業対象となるのは会計事務所が中心となる。基本は「ごく普通の営業スタイル」。すなわち、顧客先に足を運び、直接相手と対面しての促進活動が中心となる。そこで、駅に直結した立地環境は、営業が顧客先を訪問するフットワークを軽くする。

「『営業力の強化』という経営課題に対しても、間違いなくプラスになっていると思います」(柏木氏)

その後、移転先のオフィスビルの内定とほぼ同時のタイミングで、引越しを担当する会社とオフィスデザインを行う会社が選定された。内装デザインの会社はベンチャー企業同士のネットワークを通じてご紹介いただいた会社だという。そして、今回のプロジェクトでは、新オフィスのデザインに関して、デザイナーの視点から社内の意見やアイデアを出していくために、デザインチームのリーダーである金井氏もプロジェクトチームに加えられた。

「オフィス選定に関しては以前もお世話になった会社でしたが、引越しと内装デザインに関しては今回が初めてのお付き合いとなる会社でした」(金井恵子氏)

金井氏が特に意識したことは、「生産性の向上」だという。

「そのデザイン案を採用することで、『働きやすい環境が構築できるか?』『効率の良いオフィス環境になるか?』などです。加えて、すべての要素が『マネーフォワードらしいか?らしくないか?』。それを常に念頭に置いて考え、私どものブランディング戦略から外れていないかを確認していきました」(金井氏

2015年1月から2月にかけてビル側との調整があり、デザイン会社への発注は2月、内装工事の着工は3月の下旬であった。5月9日の入居、同11日からの営業開始はすでに決定していたため、ほとんど時間的余裕のない中での作業となった。

「デザインイメージは、その場で確認をしなくてはならない。そのためには事前の打ち合わせできっちりとイメージを刷り合わせておく必要がある。かなり慌しい進行になりました」(金井氏)

プロジェクトチームの意見としては、マネーフォワードらしさを根底に持ち、モノづくりの会社であることやベンチャーとしてまだ成長過程であるというイメージを取り入れる。それでいて顧客に対して信頼感や温かみを感じさせるオフィスデザインにすることだった。

「エンジニアやデザイナーのモチベーションアップ、生産性向上のために多少の『遊び心』は必要ですが、それがあまり過剰になってはいけない。かといって、あまり真面目過ぎても息苦しくなってしまうので、その辺のバランスが難しかったですね」(金井氏)

また、これに先立って従業員からの意見も吸い上げられていた。
それまでは特に不満の声などは聞いていなかったというが、いざ移転が確定となると、いろいろな要望が寄せられたという。こうした従業員の声は、主に社内ネットワークツールを通じて集められた。

「『腰が痛くなるのでもっと良いイスを入れてほしい』『仕事に集中できるように、私語厳禁のスペースが欲しい』『自席で食事されると周りの気が散るので、食事ができる場所がほしい』『靴を脱いで裸足になれるスペースが欲しい』等々、オフィスに関する要望だけでなく、仕事に関する改善提案などもたくさん寄せられました。これらについて一つひとつ、『できる、できない』ということを検討していきました」(金井氏)

従業員のアイデアから生まれた「MokuMoku Room」と「HIROBA」

エントランス

エントランス

正味1ヵ月半というタイトなスケジュールで完成した新オフィスは、プロジェクトメンバーの想いと従業員の要望を反映しつつ、経営課題解決にも十分貢献するものとなった。

まず、エントランスはシンプルに。余計な装飾はせずにベースは木目。木目の間から執務室の様子が外から見えるようになっている。温かみを感じさせ開放感があり、すっきりとまとまっている。外来者を迎えるオープンエリアには応接室が並び、人数や目的に合わせて6人部屋・4人部屋・10人部屋などに分割されている。ちなみに応接室の名称は、ドル、元、ユーロなど、外国の貨幣の単位が付けられている。これも社員のアイデアによるものだ。さらに、執務エリアは部署やチームごとに分かれ、その中央にフリーのスペースを用意。ここを境に動線が切り替わるようにしている。

フリーアドレスエリア

フリーアドレスエリア

フリーアドレスエリア

フリーアドレスエリア

スタンディングデスク

スタンディングデスク

書棚

書棚

「このスペースは、仕事の環境を変えたいときに利用されていて、エンジニアを中心に、さまざまなメンバーに活用されています。また、固定席のない営業メンバーもよく活用しています」(柏木氏)

フリーアドレスを本格的に導入したことに伴い、従業員用ロッカーの使用ルールなども新たに設定された。また、今回の新オフィスの目玉の一つとして新設したのが、「MokuMoku Room」と呼ばれる私語厳禁のエリアだ。文字通りに「黙々」と仕事に集中するための場所となる。

「ここは2時間が上限なのですが、誰にも邪魔されずに集中できるスペースとしてつくりました。ソファ席とボックス席、靴を脱いで作業ができるカーペットのスペースがあり、それぞれ思い通りの姿勢で仕事ができます。利用者はたいていイヤホンを装着し、周囲の雑音を遮断して作業に没頭していますね」(柏木氏)

「MokuMoku Room」は特に事前の予約などは不要で、空いていれば誰でも使用できる。利用中の連絡手段としては、社内のチャットなどで返信があれば在席確認は取れるという。「背後に人に立たたれることのない環境」は、原稿書きや資料まとめなどの仕事が捗ると従業員からも好評だ。

「こうした新機能をオフィスに追加することが、従業員の力を最大限に発揮することに繋がると信じています」(柏木氏)

MokuMoku Room(ソファ席・ボックス席)

MokuMoku Room(ソファ席・ボックス席)

MokuMoku Room(カーペットスペース)

MokuMoku Room(カーペットスペース)

「執務室の中央に設けたフリースペースは『HIROBA』と命名しました。ここのデザインについては、基本的にデザイン会社からの提案をそのまま採用しています。床の一角がステージ状に一段高くなっており、夜間はここだけ暖色系の照明を灯すことで気分の切り替えができます。また、最大60人まで入れる広さがあるので、ステージに立って背後にスクリーンを下ろせば全社会議などにも使用できますし、社内の懇親会なども開催できます」金井氏

もう一つの目玉である「HIROBA」の用途としては、社外の人間を招いてのセミナーや勉強会、懇親会などの各種イベント開催にも利用されているという。

HIROBA

HIROBA

入居ビル自体の設備も充実しており、さらなる活用の可能性が広がる

「時間のない中で、これだけのオフィスに仕上げていただいたのは、さすがプロの仕事だと思いました。完成して最初に見たときには『広い!開放感がある!』と感動しました」(金井氏)

「見学会などは旧オフィスでも行っていましたが、ごく小規模なものに限られていました。現在はビル自体の設備が非常に充実しているため、仮に『HIROBA』の収容人数を超える大人数でのセミナーを開催する場合でも、ビル内のセミナールームを借りることで対応できます」(柏木氏)

また、食品メーカーの本社ビルだけに、ビル内に設置されている社員食堂は入居テナントが利用できるようになっている。栄養バランスのとれたメニューがリーズナブルで提供され、従業員からの人気も高い。

「移転後は、お陰様で各方面から取材をしていただく機会も増えています。これはオフィス移転の効果だけでなく、当社の事業そのものの注目度が上がっていることも大きな要因だと思っております」(柏木氏)

同社はビジネス拡大に伴い、2017年度は新卒採用も予定している。現ビルへの移転からわずか1年間で従業員数が大幅に増えていることからも、同社の驚異的な採用計画が窺われる。

「これだけ人数が増えてくると、どうしても社内の一体感をつくるのが難しくなります。それと同時に、創業以来の『ベンチャーマインド』が薄れてしまうのではないかという懸念もあります。そこが悩ましいところでもあり、今後の課題となるでしょうね」(柏木氏)