パーソルキャリア株式会社

2017年6月取材

※ 記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

新たなグループブランドへの変更を機に
コラボレーションワークを実現最大化できる環境に

人材派遣の『テンプスタッフ』はパーソルテンプスタッフに、人材紹介・求人広告の『インテリジェンス』はパーソルキャリアに、システムソリューション・ICTアウトソーシングの「インテリジェンス ビジネスソリューションズ」はパーソルプロセス&テクノロジーに、そして持ち株会社である『テンプホールディングス』はパーソルホールディングスに2017年7月から商号変更、新たなグループブランドの「パーソル」を冠する社名に変わった。今後、新ブランドの認知度を高め、グループ一体となって雇用や労働に関する社会課題の解決を目指すという。それを機にオフィスを増床。今回は、そのプロジェクトを担当した槌井紀之氏にお話を伺った。

プロジェクト担当

槌井 紀之氏

パーソルファシリティマネジメント株式会社
代表取締役社長

槌井 紀之氏

上)Big Stadium全景   下)Cafeteria

上)Big Stadium全景   下)Cafeteria

はやわかりメモ

  1. 「働く人々」の課題解決を目指すために、刺激を与え合うオフィスを構築した
  2. 『choose the best place for your activity』から得られる「刺激の最大化」
  3. いくつかの段階を踏んで、ワーカーに「働きやすさ」を意識してもらった
  4. エナジャイズが発揮できるオフィスはセキュリティにも不安なし

「働く人々」の課題解決を目指すために、刺激を与えあうオフィスを構築した

現在、国内外90社を超える企業群で構成されるパーソルグループ。「人と組織の成長創造インフラへ」の実現のために、労働・雇用の課題解決に総合的に取り組んでいる。「PERSOL」は、「PERSON=人の成長を通じて」と「SOLUTION=社会の課題を解決する」の造語で、「働く人の成長を支援し、輝く未来を目指したい」という想いが込められている。

グループブランドの創設によって、583万人にのぼるとされる「労働力不足」※ の対応のために、「多様性のある働き方の実現」や人材配置の最適化による「ミスマッチの極小化」に取り組み、労働・雇用課題の解決に力を注ぐ。

※ パーソル総合研究所『労働市場の未来推計』2016年


今回は、そんなパーソルグループのファシリティ全般を担当している槌井紀之氏にお話を伺った。その「オフィス論」はとても明快だ。

「ワーカー側から見たオフィスは、単なる『働く場』としてしか捉えていません。一方、経営側から見るとオフィスは『投資』になります。造って、維持して、そして回収を行う。分母を投資とすると分子は生産です。投資を生産が上回らなければなりません。使ったコストに対して、そこで働いている人が何を生み出すか。それによってオフィスの価値が決まると思っています」

生産を最大化するためにどのようなワークスタイルが重要で、それを実現するためにはどのような「環境」を提供すべきか。槌井氏の仕事は、投資の最適化を考えることだという。

「昨今話題の "働き方改革" 、という話になった時、そのソリューションの一つに『サテライトオフィス』というのがあります。サテライトって、言葉だけが先行していませんか。単に家の近くや利便性の高い主要ターミナルに働くスペースがあるみたいな。便利なのは間違いありませんが、一人で仕事をして生産して。それって本来のオフィスの目的とは違う気がしますよね」

同社のオフィスから生まれる「生産」とは、工場で生み出される「商品」とは大きく異なる。工場の場合、同質のものをどれだけ多くつくれるかになるが、同社が提供しているのは労働環境や転職、派遣サービスといった無形の商品群となる。そこに集まるワーカー同士の「知の結集」をどのように生産し磨くのか。そんな考えの中で、ABW(Activity Based Working)の採用となった。ABWは、行動目的などによって作業スペースを選択するやり方で、最近注目を集めているワークスタイルの一つだ。

「会社において行う作業は、コワーキング、ソロワーキングなど、業務によってまちまちです。その中で、他者に刺激を与えている人は一体どれくらいいるでしょうか。多くの人は誰かに刺激をもらっているか、刺激のないまま一日を終わっているかではないかと思います。そうした人の場合、極論をいえば家で仕事をしているのと変わりがありません。せっかく同じ目的を持った人たちが働いているのですから、相互に刺激を与えあわなければ意味がない。ですから今回のオフィスでは『刺激』をテーマにしたのです。その結果、コワーキングエリアを中心としたオフィスの構築となりました」

『choose the best place for your activity』から得られる「刺激の最大化」

「コワーキングワークの良さをもう少し違った角度から説明しましょう。例えば、誰かが打合せを提案します。多くの方は、まず「参加メンバー」を考えます。次は「いつ行うか」ということです。つまり「行動する人たちの予定」と「部屋が空いている」という2つの条件を満たす必要があります。オープンスタイルを採り入れることで施設都合という外的要素を取り除き、コワーキングが速やかに実行できるのではと考えました」

「会議のタイプも目的別に考慮しなければなりません。会議によって目的やゴールが異なるため、部屋の機能についてもバリエーションが必要だからです。ディスカッションをするのであれば参加者全員が向き合ったほうがいいでしょうし、1つの情報を多数で共有するのであれば大きなスクリーンやモニターがあったほうがいい。内容によってはできるだけ多くの方が会議室に入れるような工夫が必要になる場合もあるでしょう。『見える場所にいろんな選択肢があること』で、それに行うに最適なファシリティをその場でチョイスできる。それが重要なのです」

槌井氏は、組織間の壁を越えた協業を示す「オープンコラボレーション」を実現できる環境がオフィスの本来のあり方だと語る。同社のオフィスコンセプトは『choose the best place for your activity』。この考えの下、理想的な環境の構築を目指した。

「コワーキングエリア構築のためのポイントは『いかに状況が見えて、いかに聞こえるか』だと思います。例えば顧客からクレームの電話をいただいたとしましょう。その対応を聞いていた上司や同僚には、そこで新たな学びや気づきが生じる。もちろん一緒に解決策を考えるでしょう。これこそが会社で行われるべきコワーキングであり、そうした機会を創出する仕掛けとして、オフィスというファシリティはその必要性や存在価値を発揮するんだと思っています。我々ファシリティマネージャーが真剣に知恵を振り絞る重要なテーマですよね」

「刺激には『連続型の刺激』と『非連続型の刺激』があるといわれています。『連続型の刺激』は、計画的に場所や時間、参加者を決めて行うもので、得られる刺激も想定することが出来ることが多いですね。それに対して『非連続型の刺激』は、その瞬間まで予期していなかった題材、自分がノウハウを持っている題材、自分が今まで気になっていた題材などが偶発的に行われるため、限りなく多くの刺激が得られることになります。ですから『非連続型の刺激』が最大化するための環境を整えることが重要で、それこそがオフィスに課せられた使命だと思っています」

Co Working / Client Space

Co Working / Client Space

いくつかの段階を踏んでワーカーに「働きやすさ」を意識してもらった

「刺激の最大化」をテーマに、細部にまでこだわったオフィスを構築した。実はここに行き着くまでにいくつかの段階を経ているという。最初は4年前のこと。「脱会議室」を採り入れたことから始まった。

「以前のオフィスは会議室が足りなかったことが課題でした。ある議題に対して会議を行おうとする。だけど部屋が空いていないため、会議が次週になってしまう。なぜメンバーの予定が調整できているのにすぐにできないのか。『会議ができない』の理由が『部屋がない』というのはおかしいことだと思いました。そこで思い切って『脱会議室』を提案しました。会議室という固定概念の個室ではなく、予約不要の会議エリアの利便性を実証したかったのです」

次の段階では、別のオフィスで「脱会議室」に「ワーカー選択型オフィス」をプラスして検証を試みた。

「同じフロアの中で、画一的でないファシリティをワーカーが選んでいくという検証を行いました。このときのコワーキングスペースは全体の35%程度。65%はマルチ型の自席スペースです。このように段階的に時間をかけて、『働きやすさ』や『ワークスタイルの変化』を徐々に意識してもらったのです」

そうして自社のワークスタイルを確立させていった。その最終形が現在のオフィスになる。

「ノンテリトリアルでオープンなコワーキングを行う。そしてイノベーションがもっと加速するように、グループ会社全員が使える環境に整備したのです。現在、オフィス面積約600坪の中に280名程度が入居。席数は300席以上あります。仮に300人が集まった場合でも、必ず席に座ることができます」

しかし、そうしたオフィスに対する強い思いやこだわりに反してプロジェクト期間はわずか半年ほどで完了した。

「プロジェクト担当になったのは、2017年2月のことです。同月に設計・内装工事を行うパートナー会社を選びました。約1ヵ月で設計内容を詰めて4月半ばから内装工事を開始。何とか予定していた5月8日にオープンできました。本当はもっと適切なリードタイムでプロジェクトをマネジメントすべきで、力技で進めたことを大いに反省しています」

今回のオフィスプロジェクトは、パートナー会社にも大きな影響を与えたという。オフィス完成後は、パートナー会社の多くの担当者が自社の社員を連れて同オフィスの見学に訪れた。それほどプロの目から見てもオープンコラボレーションの成功事例として完成度が高い。

「プロジェクト期間としては短いですが、細部を決めるときは週2~3回は打合せをしていましたね。彼らの本来の目的は『いかに自社の製品を提案するか』だと思うのですが、次第にそれ以外の部分に楽しみを見出してもらえて。その一つが会議室の壁紙です。一般的にはオフィス設計では候補にもあがらないものを、僕の方から積極的に提案しました。するとだんだんとパートナー会社も興味を深め、これまで利用したことのないデザインの壁紙を集めてくれるようになったのです。やがてそれを見ている周りの設計チームも気になってくる。そうして互いに刺激を与え合うことができました。私たちとパートナー会社の間に新たなコワーキングが生まれたんだと思います」

施工費は、ネットワークセキュリティや設計費を含めて坪単価で通常の半分くらいの費用で納めることができた。施工に関する詳細に至るベンチマークを駆使し、施工方法まで知り尽くしたインハウスのFM実践ノウハウの結晶であろう。

エナジャイズが発揮できるオフィスはセキュリティにも不安なし

槌井氏が理想とする「ワーカー同士がエナジャイズされるワークスタイルを発揮できる環境」は、新オフィスを通して徐々に形になりつつあるようだ。それは、実際に働くワーカーたちの行動からも感じ取れるという。

「想定していなかった場所でワーカーが仕事をしていることがあります。改めて自席が重要ではないということを思い知らされますね。ワーカーの働き方に対する考えも広がりを見せています。昔だったら『集中して生産的に働く=コンセントレーションブース』となっていたのですが、現オフィスを見ると決してそれだけが正解ではないと感じています。ワーカー自身がガヤガヤ環境の中で集中する術を習慣化していますし、何よりブースに籠っていては刺激量は増えませんから」

それではいくつかのオフィス内の機能を写真とともに紹介していこう。

エントランスに位置するのが「Co Working/Client Space」だ。チームミーティングだけでなく外部との打合せやセミナーにも使用されている。広いオープンスペースのため、低セキュリティの使用が中心となる。

執務室に入ると「Solo Work/Collaboration」「Drawing board Meeting」「Concentration Work」といったゾーンに分けられている。誰かと一緒に考える、書いて整理する、ソロワークに徹するなど、自らの業務に合わせてそれぞれが移動する。どれもが外部からの刺激を受けやすいオープンなつくりになっている。

執務室の中央には「Future Center」と名付けられたディスカッションのためのエリアを設置。ディスカッション当事者以外も、周囲からその様子を伺い自由に参画することを推奨するように敢えて外野スペースが設けられている。スペース内のテーブルは基本的に4人掛けの正方形。人数に応じてテーブルを自由に組み合わせて使用する。さらにその周りには小上がりの席。それら一体で「Big Stadium」と呼ぶ。数台のスクリーンやサブモニタを用意しており、150名が一堂に集まれる。社内プレゼン、営業会議のほか、朝礼などにも利用されている。

最奥部には休憩、ランチなどに使われることが多い人気エリア「Garden」。リラックスが目的のため土足厳禁となっている。

窓際の陽のあたる場所には「Sofa Booth」。「ファミレス風の」と表現されることも多いが、その目的は情報をシェアするための機能となる。

その他、「Standing Work」「Library」。いくつものコラボレーション機能を用意した。個人ロッカーもスペースの効率化を考えて、ロッカー上でスタンディングワークができる高さになっている。

執務室中央には唯一の個室型ミーティングルーム「City」(6474 City)と「Circus」。どちらも8席。透明なガラスによるクローズの部屋で、TV会議などの用途によって使い分けられているという。

最奥には制作担当者のためのエリア「Creation Work」。基本はノンテリトリアル。モニターの大きさやインストールされているソフトウエアがまちまちで業務の用途によって席を選ぶ。その手前は、営業との打合せ用スペースとして「Cafeteria」を配置。日々、熱い議論が交わされていると語る。

Solo Work

Solo Work

Concentration Work

Concentration Work

Future Center

Future Center

小上がり席

小上がり席

Big Stadium

Big Stadium

このようなオフィス全体がオープンな環境の中で、オープンだからこそ「セキュリティ」や「プライバシー」を守ることにつながると槌井氏は語る。

「オープンコラボレーションを活かせる環境というのは、人が見えたり、話が聞こえたりすることです。周りが『社外の人と仕事をしている』と気付く状況が大切なのです。それに気付くと『ちょっと離れた場所で打合せをしよう』と自然に遠ざかります。人は周りが見えることによりいつの間にか自分にとって最適な場所を選んでいるものなのです」

Garden

Garden

Sofa Booth

Sofa Booth

Library

Library

Standing Work

Standing Work

Circus

Circus

Creation Work

Creation Work

現状では、同社にはこのようなコワーキングが最良の策だと感じている。しかしそれだけに固執しているわけではないという。

「今まで数多くのトライアンドエラーを繰り返してきました。その中で考えたオフィスですから、現段階ではこのスタイルが正解だと思っています。しかし、これが完成形にはならないでしょう。そのために頻繁にここに足を運んでワーカーの働き方を観察しています。自分自身がナレッジワーカーとして、『昨日より少しでも賢く』『以前より、ちょっとでも良いもの』を考え、産み出す存在でいたいです」