トライオン株式会社

2018年1月取材

※ 記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

スタートから2年半で8校をオープン
快進撃を続けるトライオンの経営戦略

「1年で英語がマスターできるプログラム」として英会話スクール「トライズ(TORAIZ)」を運営するトライオン株式会社。2006年12月の設立以来、デジタル教育事業を展開してきた同社は、2015年6月よりフェイス・トゥ・フェイスによる英語教育事業をスタートし、2年半の間に東京・大阪に計8ヵ所のセンターを開設させている。2018年1月に開校した「東京秋葉原センター」を中心に、同社の教室づくりや経営戦略についてお話を伺った。

プロジェクト担当
一色 恭輔 氏

トライオン株式会社
取締役

一色 恭輔 氏

はやわかりメモ

  1. 「英語は1年でマスターできる!」という信念から生まれたトライズ
  2. 英語教育事業に取り組むきっかけは三木代表の著書を読んだ読者の言葉
  3. 三幸エステートの豊富な物件情報を基に開校候補ビルをマッピングする
  4. 立地するエリアごとのイメージを内装デザインに反映させる
  5. 高級感より中身が大切。自宅のような居心地の良さを目指した学習環境

「英語は1年でマスターできる!」
という信念から生まれたトライズ

文部科学省によると2018年4月より段階的に小学3年生からの英語学習を導入し、2020年までに完全施行する計画だ。若い世代だけでなく、それ以前の世代も10年前後にわたって英語教育が身近にあった。しかし、これだけ長い時間をかけているにも関わらず、英語を話せない人が多いのは何故だろうか?

「日本の英語学習というのは、長い時間をかけている割にあまり成果が上がっていません。考えてみれば、これはおかしな話です。私たちは『英語は1年でマスターできる』と考え、これを実践するためのスクールとして『トライズ』を立ち上げました」

トライズ(TORAIZ)とは、社名にも含まれている「試みる・挑戦する」などを意味するトライ(Try)と、「上昇する」を意味するライズ(Rise)の音との合成語であり、語尾のZはアルファベット26文字の最後の文字として「到達点・ゴール」を意味しているという。すなわち、習得するのが難しいとされる英語学習に挑戦し、英語力を上達させ、「自由に英語が話せるようになる」というゴールに到達する、という同スクールの受講生たちを象徴している。

「当スクールの受講生は30~50代のビジネスパーソンが中心です。しかし最近では20代の若い方や60~70代といった人生経験の豊富な方も。つまり受講いただいている方の年齢層が幅広いというのも特長になっています。受講生の英語レベルも一人ひとり異なっていれば、英語を学ぶ目的も人それぞれです。この人たちを一律に大教室に詰め込んだり、いきなりネイティブ講師と英語だけでやりとりさせたりする従来の英会話スクールのやり方では、成果が上がりにくいのではと考えています」

そこで、トライズでは英語を習得するのに必要な学習時間を「基本1,000時間」と定義し、受講生と個別に相談しながら各自のレベルや目標とするゴールによってこれを増減させる、という教育方針を打ち出した。1,000時間を1年間で学習するには、1ヵ月に約90時間、1日当たり3時間という計算になる。これを自分だけの力でやり遂げるのは容易ではないが、トライズの受講生には、プログレスチェック(進捗度確認)や個別のカウンセリングを行うコンサルタントと呼ばれるスタッフがついている。

「結局、自分自身で努力して身につけるしかないのですが、ゴールも自分の現在位置もわからないまま学習しても効果は望めません。コンサルタントが受講生に寄り添って学習を進めていくのがトライズの『コーチング英会話』です。ネイティブの講師も大勢いますが、面談は日本人のコンサルタントが担当し、日本語で相談できます。そして、受講生のレベルが上がれば、プログレスチェックなどもすべて英語に切り替えることも可能です」

英語教育事業に取り組むきっかけは
三木代表の著書を読んだ読者の言葉

トライズを運営するトライオン株式会社は2006年12月、当時ソフトバンクグループの中で運営していたE-Learning部門から別会社として独立する形で誕生した。同社代表の三木雄信氏や一色氏をはじめ、経営陣にはソフトバンクグループの出身者が多い。当初はソフトバンク時代から継続しているデジタル教育事業を中心に展開していたが、創業10年目からは第2創業期と位置づけ、新たな事業の柱を模索していたという。

「2015年頃のことですが、ある大手企業の役職者の方からこんなご相談をいただきました。『貴社の三木代表の書かれた本を読み、とても感銘を受けました。あの本に書かれている通りの方法で私にも教えていただけないでしょうか? また今後貴社でサービスとして事業化する気はないでしょうか?』。この一言が、当社がこのトライズにつながる英語教育事業に取り組むきっかけとなりました」

その本とは、2014年11月に出版された『海外経験ゼロでも仕事が忙しくても「英語は1年」でマスターできる』(PHP研究所 刊/三木雄信 著)である。三木代表はソフトバンク社員時代、孫正義社長の秘書として海外出張に同行したとき英語がまったくわからず、大いに面目を失ったという。この苦い経験から、三木代表は多忙な実務の中で英語を学び、1年で習得した。その実体験を綴ったノウハウ本である。

「当社としても、ちょうど第2創業期における事業展開を試行錯誤していた時期でした。ソフトバンク時代のE-Learningから10数年間蓄積したデジタル教育のノウハウを活かしつつ、新たな教育事業の可能性を考えていました。また、日本人はデジタル教育によって1人でストイックに学ぶより、周囲に共に学ぶ仲間がいる環境の方がより学習効果が上がる傾向があります。そこで、受講生に足を運んでいただき、フェイス・トゥ・フェイスで英語教育ができる体制を整えることにしました」

同社の英語教育事業のスタートは2015年6月。本社オフィス内にある会議室を教室として使用していた。

フリースペース

フリースペース


三幸エステートの豊富な物件情報を基に
開校候補ビルをマッピングする

「仕事に必要な英語だけを集中して学習する」「英語学習に必要な『読む・書く・聞く・話す』の4要素のうち、『聞く・話す』に特化する」など、三木代表が著書に記したメソッドは、合理的であり説得力がある、と多くの読者から評価されていた。ただし、実際に受講生を教室に集め、対面形式の英会話スクールをビジネスとして成立させるためには、クリアしなければならない課題がいくつもあった。

「開校当初はともかく、トライズを事業の柱とするためには、まず教室スペースの確保が必要でした。受講生も一定数以上集めなければなりませんし、ネイティブの講師を含めて受講生をサポートする側の人材の充実も不可欠です。スタート直後は本社オフィスの会議室一室のみでしたが、すぐに大幅なレイアウト変更を行い、社員の詰める執務室部分に隣接してオフィス内に複数の教室を設置することになりました。これが現在の『東京六本木一丁目センター』です。その後、2016年3月には再度レイアウト変更を実施して教室スペースをフロア全面に拡張し、執務室部分は近接する別のビルへ移転することにしました」

なお、同社の登記上の本社所在地は現在も旧ビル内に設置されているが、ここには最小限のセンター常駐スタッフのみを残し、本社の社員は同じ六本木の徒歩圏にある「サポートオフィス」で勤務している。

「受講生を集めるために、一般的な英会話スクールなどでは広告宣伝に力を入れ、積極的に営業をかけていくことになると思います。当社の場合は、WEB広告を中心としています。他には口コミや受講生からのご紹介も多くいただいております。お問い合わせをいただいたお客様に対して私どものスタッフが、英語に関するこれまでの取組みやお悩み、どのような場面で英語を必要とされているのか、ゆっくりお話をお伺いします。その後、私どもトライズでの取組みをご説明させていただく形となります。ですから、当社では営業ではなく、『コンシェルジュ』と呼んでいます」

1号店である「東京六本木一丁目センター」が本社機能と分離した2016年3月以降、トライズの教室開設の攻勢は加速する。同年7月には早くも2号店となる「東京新宿センター」をオープンするが、このとき初めて、新センター戦略担当役員である一色氏と三幸エステートの営業担当が出会うことになった。

「新宿での物件探しは、お互い初めてだったこともあり、初回は30ヵ所以上も候補物件を見て回りました。しかし2回目以降は三幸エステートさんも当社のニーズを正確に把握していただいたので無駄がなくなり、ピンポイントで有望な候補物件に足を運べるようになりました。また、考えていなかったような意外な物件を候補としてご紹介いただくこともあり、大いに助かっています。三幸エステートさんのサポートなくして現在のトライズはありません」(一色氏)

その後、一色氏は、三幸エステートの協力のもと、「マッピング」の作業を行った。これは、都内にある開校可能な床面積を持つオフィスビルと受講生が多く勤務されている業種が入居するビルを一つひとつピックアップし色を付けていく、という地道な作業であった。完成までにかなりの時間を要したが、これによって同社の開校戦略は大幅にスピードアップしたのである。

「トライズの新規開校先は、基本的にオフィス物件です。ところが、教室の開校に関しては、オーナーサイドから受け入れ許可を得られないケースも少なくありません。そこで仲介業者さんに間に入っていただくわけですが、三幸エステートさんは無理なネゴシエーションは決してせず、丁寧に説明して、オーナーさんが心から理解し納得していただけるように話してくれます。おかげで、当社のような歴史の浅い会社でも、そうそうたる大手デベロッパー各社様とお付き合いいただけるようになりました」

2016年12月には3号店となる「東京田町三田センター」、翌2017年3月には「東京赤坂センター」と「大阪梅田センター」、同年9月には「東京銀座センター」と「横浜みなとみらいセンター」をそれぞれオープン。そして2018年1月に通算8号店となる「東京秋葉原センター」がオープンした。

「こうして振り返ってみると『気づいたら、ここまで展開していた』という印象があります」

立地するエリアごとのイメージを
内装デザインに反映させる

本取材時点(2018年1月)で最新の教室となる「東京秋葉原センター」の場合、同ビルに空室が出た時点でただちに準備にとりかかった。同年11月に正式に契約を交わし、約3週間の工期で年内に内装工事を完了。無事に年明けのオープンを迎えることになった。

「この教室で初めて、三幸エステートさんにご紹介いただいた施工業者さんが工事を担当することになりました。今までの教室同様にエリアのイメージを考えながら構築していただいています。その結果、石や木などの天然素材を効果的に使ったデザインになり、全体の雰囲気も他センターとは違ったものに仕上がりました」

FARM

天然素材を使用した壁


各センターのデザインに関する考え方だが、当初は「どの教室も画一的なデザインが望ましい」という意見もあった。しかし受講生やスタッフのドキドキ感を大事にしたいという思いから、「機能は同じ、ただしデザインはセンターごとにそれぞれ変える」という方針に落ち着いたという。

例えば「横浜みなとみらいセンター」では、港町・横浜という立地に合わせて、世界の風景をモチーフとする壁紙に白で統一した什器を配し、大海原に浮かぶ帆船をイメージしたデザインになっている。

「既存のセンターについても、オープンからしばらくすると自然に個性が出てきました。例えば、『東京銀座センター』はプロフェッショナル集団で落ち着いた大人の雰囲気、『東京新宿センター』は元気で活気溢れる雰囲気という具合です」

トライズの各センターには平均200名強の受講生が在籍しているが、基本的に4~5名単位でグループレッスンを行う中教室と、マンツーマンレッスンを行う小教室、フリースペース、スタッフが詰めるバックオフィスという空間構成になっている。「東京秋葉原センター」では、中教室(5人部屋)を4室、小教室(2人部屋)を8室、それにフリースペースとバックオフィスが用意されている。ここのフリースペースの一角には、秋葉原という立地の特色を反映して、ネットカフェ風の個人ブースが設置された。

ライブラリ

窓際フリースペース


教室通路

教室通路


小教室

小教室


個人ブース

個人ブース


バックオフィス

バックオフィス


「フリースペースは、希望者が自由参加で英語に触れあう機会を持てる場所として設けています。受講生はレッスン前後の空き時間に自習するのはもちろんのこと、予約の入っていない日にふらりと立ち寄って自主的に学習することもできます。また、受講生の多くはビジネスパーソンですから、空き時間にここで仕事の続きや準備をするなどノマドスペースのように活用していただいてもOKです。また、クリスマスなど年に数回パーティを開催しており、そのときもフリースペースがパーティ会場になります」

高級感より中身が大切
自宅のような居心地の良さを目指した学習環境

トライズ事業のスタート当初、同社では「高級感」などのブランドイメージも持っていたという。しかし、スタートから2年半余を経た現在では少し違った考えを持つようになった。

「トライズの考える最も効果的な学習環境は『人と人』。高級感よりも中身が大切で、自分の家のようにリラックスできる居心地の良さを目指しています。例えば、『大阪梅田センター』ではフリースペースのことを『リビング』と呼んでいますが、このネーミングは受講生とスタッフの距離感や関係がとても近いものであると感じたことから、自宅のリビングにいるときのようにくつろいで過ごせる環境をデザインに反映することを目指したからです」

受講期間の途中で他のセンターへ「転校」する受講生もいるという。これは「職場から通学しやすい」などの理由のほか、「担当コンサルタントの異動に伴う転校」や「今のセンターに不満はないが、他のセンターにも興味がある」などの声もあるそうだ。

「今期はあと3センターのオープンを控えています。今後も三幸エステートさんとタッグを組んで需要の高い都内を中心に展開していきたいですね」

フリースペース全景

フリースペース全景