msb Tamachi(ムスブ田町) 田町ステーションタワーS

2017年10月取材

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記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

JR田町駅東口に誕生する新たなランドマーク

JR田町駅東口で進行している大規模再開発。その第一弾である「msb Tamachi 田町ステーションタワーS」が2018年5月に竣工を予定している。事業者は三井不動産株式会社と三菱地所株式会社。日本の街づくりのパイオニアである2社がコラボレートして事業者となる画期的なプロジェクトだ。今回の取材では、そのコンセプトや特長、目指すものなどをそれぞれの担当者にお聞きした。

杉本 健祥 氏

三井不動産株式会社
ビルディング事業二部
事業グループ
グループ長

杉本 健祥 氏

細野 徳重 氏

三菱地所株式会社
都市開発二部
ユニットリーダー

細野 徳重 氏

街づくりのリーディングカンパニー同士がコラボレートした大規模再開発

外観完成予想CG

外観完成予想CG


三井不動産株式会社と三菱地所株式会社。いずれもオフィスビルから物流・流通関係の施設、レジデンスまで不動産全般を取り扱うデベロッパーの最大手である。両社は、東京駅を挟んで、「日本橋」側が三井不動産、「丸の内」側が三菱地所と、それぞれの本社所在地を中心として大規模な都市再開発事業に取り組んできた。

レジデンス事業およびタウンマネジメントにおいては過去に何度か協力関係を結んだことのある両社だが、オフィスビル開発事業においてはこれまで一貫して切磋琢磨する関係にあった。その中で今回、初めてタッグを組むことになったのが、2018年5月に竣工を予定する「msbTamachi 田町ステーションタワーS」である。旧プロジェクト名は「TGMM芝浦プロジェクト」。TGMMとは、地権者である東京ガス株式会社と、デベロッパーである三井不動産・三菱地所の頭文字となっている。

その他に街区全体では、東京ガスが開発事業者となる2020年春竣工予定の「msbTamachi 田町ステーションタワーN」と2018年秋に開業予定の中層ホテル「プルマン東京田町」で構成される。なお、プロジェクトの街区全体の名称は「msb Tamachi (ムスブ田町)」に決定した。複合機能を持つ街づくりを目指す中で、「ONとOFF、伝統と革新、三田と芝浦など、人・モノ・コトを有機的に『結ぶ』役割を果たし、街の発信力を高めていく」という想いが込められているという。

「三井不動産さんと私ども三菱地所とは、長年切磋琢磨してきた関係と周囲から見られています。その両社が力をあわせたプロジェクトということで注目を集めています。しかし注目していただけるのはありがたいのですが、開発の主役は何といっても地域の方々。複合的な『街づくり』の部分に目を向けてほしいと考えております」(三菱地所・細野徳重氏)

「本プロジェクトの中心にあるのは、東京ガスさんをはじめ、たくさんの地権者さんや、地域の皆さんの『田町駅東口を変えたい』という想いです。我々デベロッパーは、あくまでそれを形にするお手伝いをするだけです」(三井不動産・杉本健祥氏)

両社が共に取り組むまでの経緯と当時の田町駅周辺の開発状況

2社によるプロジェクトはいかにして誕生することになったのか。その始まりは約10年前までさかのぼるという。いわば本プロジェクトの原型にあたる芝浦口周辺エリアでの再開発案件であった。

「本プロジェクトは、周辺の基盤整備と合わせて、東京ガスさんが所有している土地と港区さんの土地を交換することで、港区施設の機能更新をはかりながら開発を行なう『連鎖型再開発』が前提となっていました」(細野氏)

じつはこの頃、駅前で店舗等を営む地権者の方でも独自に駅周辺の再開発を計画していた。両社がコンソーシアムを組んで東京ガス主導の再開発に乗り出したのとほぼ同時期に、駅前でも再開発事業を推進するための協議会を設置していたのである。この駅前再開発事業と東京ガスのプロジェクトは、当初は別々の計画として途中まで進行していたが、これをとりまとめて一体の街づくりとなる。これにより、「田町駅前東口地区第一種市街地再開発事業」と「(仮称)TGMM芝浦プロジェクト」は一体で進められることになったという。

「当時、田町駅周辺のオフィスは、駅の西側である『三田口』に集中しており、東側の『芝浦口』はオフィスエリアとしての認知度は低いものでした。芝浦口は商店街が中心でしたから。そんなエリアに大規模複合再開発を行うのですから地元の期待も大きく一つのチャレンジでしたね」(杉本氏)

芝浦口周辺の開発の歴史と地域社会と一体となった開発

田町駅に芝浦口が開設されたのは、1909(明治42)年の駅開業から17年後の1926(大正15)年のことである。駅開業の時点では、芝浦口周辺一帯はまだ陸地でさえなく、遠浅の海岸線が現在の駅前近くまで迫っていたという。その後、1913(大正2)年に埋め立てられ、芝浦は工業地帯として発展していくことになる。そして、埋立地が海へ向かって広がっていくにつれ、駅周辺では徐々に商店街が形成されていった。しかし駅前の店舗等建物も次第に老朽化しつつあった。

「そういう意味では、今回の開発は『タイミングが良かった』部分もあると思います。とはいえ、駅前地権者の皆さまと私どもの考える再開発との間に、最初はギャップもありました。駅前地権者の方々は個々の事業者であり、日々の商売は充分に成立しているわけです。ですから、当初はなかなか魅力を感じて頂けてなかったのかもしれませんが、協議を重ねることで、一体の街づくりが実現していくことになりました」(細野氏)

「まずは私たち自身が地域のことを知るべく、地域のイベントに積極的に参加させていただきました。芝浦地区では毎年、『芝浦運河まつり』という夏祭りを開催しており、3人乗りのゴムボートによる『地域対抗ボートレース』を行っています。msb Tamachiプロジェクトとしてもメンバーを募って参加し、ボートレースに出場しました」(杉本氏)

ちなみに、このときボートレースに出場した社員たちはお揃いの某人気ゲームキャラクターのコスプレ衣装で参加し、地域の子どもたちから熱い声援を送られたという。

田町駅からのアプローチ完成予想CG

田町駅からのアプローチ完成予想CG

国内外のあらゆる地域を『結ぶ』開発

現在、JR山手線の品川駅と田町駅の間に、1971年開業の西日暮里駅以来となる新駅計画が進行中だ。本取材が行われた2017年10月時点では未だ駅名さえ正式決定していないものの、東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年には暫定開業の予定とされている。この新駅開業に伴い、周辺約13haの大規模再開発が計画されている。

「新駅の噂自体はかなり以前から耳にしていました。新駅周辺の開発も含め、東京都内のビジネス地区の中で、新橋~品川というエリアがこれまでになく盛り上がってきており、都内における新たなオフィスエリアとしてテナントの選択肢が広がってきているのだと感じています」(杉本氏)

街づくりの方向性として、今日では「グローバル展開」というキーワードは欠かせないが、田町駅は、これを実現するための必須条件である交通アクセスの利便性に優れている。まず、山手線外回りで1駅隣の品川駅で新幹線に連絡。内回りに1駅隣の浜松町で羽田空港行きモノレールに乗換え。さらに3駅先の東京駅では、新幹線の他に成田空港行きの成田エクスプレスも利用できる。山手線沿線でも屈指のアクセシビリティの高さといえるだろう。

「msb Tamachiという街区名称は、『結ぶ』という想いを込めたネーミングですが、重層的にさまざまな意味を持たせています。例えば、国内外のあらゆる地域と田町とを『結ぶ』という意味もありますし、概念上の言葉だけでなく物理的に街区の中にインフラとして実在するものもあります」(杉本氏)

それが、田町駅の三田口と芝浦口に設けられているペデストリアンデッキだ。

「もともと、三田口、芝浦口とそれぞれでペデストリアンデッキを構築していて、2つのデッキを結ぶ『東西自由通路』も1970年代には開通していました。その後、2000年代初頭には自由通路の拡幅工事が行われています。本プロジェクトでは、2018年の「msb Tamachi 田町ステーションタワーS」竣工時にはJR田町駅から本物件までの延伸、そして2020年の「msb Tamachi 田町ステーションタワーN」竣工時には隣接の公共街区まで繋がるペデストリアンデッキの延伸が計画されています。さらには現行の自由通路に隣接して、新たに自由通路を設けるという計画もあります。これら一連の工事によって、田町駅とのアクセス性を高め、完成時には街区内の収容人口として1万5,000人以上を想定しています」(細野氏)

新しい価値を創造し、ある物と共存するミクストユースの開発

本プロジェクトでの共通認識として、働き方改革をサポートするいわゆるミクストユース(複合利用)の開発を目指している。これは要するに、必要なモノがひと通り全部揃っていて、その中で大抵のことは自己完結できる街づくりという考え方だ。「職住近接」は当然の大前提として、病院から保育所、学校や飲食店など、日常生活に必要な施設がコンパクトにすべてまとまっている街区を目指す。

「もともと芝浦口には『愛育病院』『港区立しばうら保育園』など、既存の施設が存在していました。再開発とは、基本的に『新たな価値を創造する』との考えですが、周辺の地域に目を向けずにつくっていったら、資源の大きなムダになってしまいます。そこで『既にある物と共存する』という考え方が重要になってくるのです」(杉本氏)

ただし、既存の施設と「共存する」ためには、それらをより使い勝手の良い場所へ移転したり、設備を更新したりすることは必要だ。ペデストリアンデッキの拡幅・延長によって「雨の日でも濡れずに移動できる」あるいは「高齢者や身体の不自由な方でも移動しやすいようにバリアフリー化する」など、一つひとつの施設を見直すことが重要となる。さらに、隣接する品川やお台場など、周辺エリアの主要な施設へ送迎するシャトルバス乗り場なども田町駅前に整備された。

「全体完成時には、ペデストリアンデッキは田町駅の芝浦口から出発して、msb Tamachi街区を通過し、さらにその先の公共街区にまでつながります。デッキ上を通って駅から徒歩で往復できるようになるのです。公園内はもちろんですが、デッキ下の通路沿いに植えられた街路樹のほか、デッキ上にも多くの植栽を配しており、緑に満ちあふれた環境となる予定です」(杉本氏)

「外装デザインは米国を代表する建築設計事務所であるKPF(コーン・ペダーセン・フォックス:Kohn Pedersen Fox Associates,)が担当しました。KPFからは、msb Tamachi街区は線路や運河の近くにあり、直線のラインが多いため、土地の持つDNAを外観フレームに採り入れた提案を受け採用に至りました」(細野氏)

また、街区内に生活利便施設がなかったため、「msb Tamachi 田町ステーションタワーS」1階に大型スーパーを誘致する予定だという。これは「共働きの夫婦が勤務時間後にオフィスの下で買い物をして帰る」というライフスタイルの提案でもある。

敷地配置図

敷地配置図

スマートエネルギーネットワークなどで競合への優位性を確保する

「msb Tamachi 田町ステーションタワーS」のビルスペックについても紹介しておこう。地上31階・地下2階建。オフィスフロアは6階から30階となる。1フロア面積は約1,000坪。無柱の大空間でありながら6ゾーン74分割の決め細やかな温度調整を可能とする。天井高は2,800mm、省エネに貢献するLED照明、遮熱・断熱効果の高いLow-Eガラス、センサーによる自然調光の採用など多くの先進機能を備えている。

BCPの面では、制振部材として長周期地震や強風時、大地震後の後揺れに有効な「履歴系部材の座屈拘束部レース」と「粘性系部材のオイルダンパー」を併用。建物のコアフレームに制振部材を配置し、高い耐震性能・耐風性能・居住性能を確保する。また、来街者に対しても、大規模災害時にはタワーSとホテルとの間の1階商業共用部に帰宅困難者を誘導し、室内で一時滞在してもらう機能も用意した。

そして本プロジェクトの最大のポイントはエネルギーカンパニーの最大手である東京ガスが共にいることだ。それによって共に新しいビジネス街区のあり方を考えることができた。それが、スマートエネルギーネットワークを確立させることになる。

「プロジェクトの一環として、東京ガスの子会社である東京ガスエンジニアリングソリューションズが、公共街区には第1スマートエネルギーセンターを、msb Tamachi街区には第2スマートエネルギーセンターを設置します。2つのエネルギーセンターを連携し、熱の相互融通を行う『スマートエネルギーネットワーク』を構築します。なお、各エネルギーセンターには高効率ガスエンジンコージェネレーションを設置し、平常時の熱電併給を行うとともに、停電時にも送電可能なシステムを構築します」(細野氏)

「その結果、停電となっても中圧ガスにより72時間以上の電力と空調の供給を可能とします」(杉本氏)

2つのスマートエネルギーネットワークを連携するのは日本初のシステムで、競合への優位性を確保できるものとなった。

基準階平面図

基準階平面図

先進の開発を通じて目指すのはエリアマネジメント

「お互いにほぼ毎日のように顔を合わせていて、ほとんどこの開発チームは1つの会社のようです。街づくりに対するお互いの方向性は一致していたので、やっていて違和感を覚えることはありません。東京ガスも含めた3社のパイオニアが結集して、近未来を見据えて誕生する大規模複合開発となります」(細野氏)

「開発を通じて目指しているものはエリアマネジメントです。竣工までは我々主導でマネジメントを進めていくことになりますが、開業後は入居テナントも巻き込んでエリアマネジメントへの参加を促していくつもりです。竣工して終わりではなく、今後も先進的で魅力的な街づくりを推進していきたいと思っています」(杉本氏)

オフィスタワー前広場完成予想CG

オフィスタワー前広場完成予想CG

取材協力:三井不動産株式会社、三菱地所株式会社
掲載のパースは完成予想のものであり、今後変更となる場合があります。

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