グリー株式会社

2019年7月取材

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※ 記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

オフィスの全面リニューアル計画で自社の「モノづくり」の姿勢を表現

グリー株式会社が、現オフィスビルに移転を完了させたのは2010年7月のこと。それ以来、課題はあったものの大きな改善をすることもなく時間だけが経過していた。2016年、オフィス移転も視野に入れて色々な角度からオフィスのあり方を検討する。結論として今回は移転をせずにオフィスの全面リニューアルを行うこととなった。今回はそのプロジェクトの流れ、背景、新設された機能について、同社のファシリティマネジメントチームにお話を伺った。

野長 兄一氏

グリー株式会社
法務総務部
組織法務総務グループ

ファシリティマネジメントチーム
マネージャー

野長 兄一氏

熊澤 恵梨氏

グリー株式会社
法務総務部
組織法務総務グループ

ファシリティマネジメントチーム


熊澤 恵梨氏

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Vtuberの「いそら真実(まなみ)」がグリー株式会社のオフィスを紹介しています。
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エントランス全景

エントランス全景

Contents

  1. ゲーム事業を主軸に、広告・メディア事業、ライブエンターテインメント事業で構成
  2. 色々な方向性を検討。ブランディング力、採用力を考えて現ビルに残ることにした
  3. 全面リニューアルにあたり部署を横断したプロジェクトチームが発足する
  4. オフィスコンセプトは「モノづくりを発信する」 12フェーズに分けて工事を実施した
  5. 各種データを分析しながら今後のオフィスづくりに生かしていく

ゲーム事業を主軸に、広告・メディア事業、ライブエンターテインメント事業で構成

2004年に独自で開発したSNS「GREE」の運営を目的に設立したグリー株式会社。以来、成長を続け、2010年に現在入居する六本木ヒルズ森タワーに本社を構えた。当初は「一体感」をグリーのオフィスポリシーとしていたためグループ会社含めて一拠点に集約していた。

その後、会社ごとのアイデンティティの重視、BCP対策を理由に、いくつかのグループ会社を別のオフィスビルに分散させる。2018年1月に取材を行ったファンプレックス株式会社もその事例の一つとなる。(参照記事

現在グリーは、ゲーム事業、広告・メディア事業、投資事業と展開。最近はライブエンターテインメント事業にも力を入れているという。

「ライブエンターテインメント事業はバーチャルYou Tuber(VTuber)に特化した業務となります。具体的には動画番組の企画・制作・配信、スタートアップなど。この業界は日々技術や機材が進化していますので、そのスピード感に負けないように柔軟に働く環境を整えています」(野長 兄一氏)

「部署を問わず常に環境改善のための相談はあります。業務内容に適したオフィスの提案、地方拠点のオフィスのあり方、イベント開催でファンと交流しやすいレイアウトなど、インハウスならではの要望が多いですね」(熊澤 恵梨氏)

色々な方向性を検討。ブランディング力、採用力を考えて現ビルに残ることにした

三幸エステートとは将来的なオフィス移転を見据えて全国の賃料相場や空室に関する定例会を行ってきた。今回のリニューアル計画は本社移転計画を検討する延長戦で始まった。

「ゲーム事業と広告・メディア事業は利益率が大きく異なっています。その部分を考えずに同じ賃料負担でいいものなのか。そんな疑問から検討が始まりました。そして『4,000坪超の空室を確保できる物件の有無』『採用面を考慮した相応しいエリア』『入居時期の調整』『入居条件の整理』など色々な角度からの検討を、時間をかけて行いました」(野長氏)

物件資料を比較し、候補物件を見学する。慎重に時間をかけた末に同社が出した結論は、現ビルでの再契約だった。ただし働く環境の向上のために、全フロアのリニューアルが決定した。

全面リニューアルにあたり部署を横断したプロジェクトチームが発足する

そうして2017年春、同ビルでの再契約を締結した。そこからワーカーに対して個別ヒアリングが始まる。

「大規模リニューアル計画ということで部署を横断したプロジェクトチームを発足させました。皆さん、積極的に取り組んでいただきました。ここにきて約7年、特に大きな改善もしていなかったのでさまざまな思いがあったのでしょう」(熊澤氏)

「最初のフェーズでは、各部署の責任者へのインタビューです。インタビューシートは僕らが独自で考えたものを使用しました。単純な質問を交えながら行ったのですが、項目ごとに理路整然とした回答を得ることができました」(野長氏)

例えば、「オフィス内に社員食堂は必要か?」の質問に対して、各事業部の部長以上の全てが「必要無し」との回答だったという。理由を聞くと、「グリーはそういった思考ではない。無料でランチを提供することが必ずしも従業員満足度を高めるわけではないし、働きやすさに繋がるわけではない。施設利用度を上げることや、社員同士のコミュニケーションを向上させる施策としては別の方法もあるはず」と。フリーアドレスに関する項目に関しても、全員が「導入不要」であった。

「『現在、一つのプロジェクトごとに関連性のあるメンバーがまとまって座っています。普段からその場ですぐに打ち合わせができるので、それがモノづくりがしやすい。逆にミーティングスペースまで移動するほうが時間のロスに繋がると考えます。開発メンバー中心のため外出もさほど多くありません。ですから固定席がベストなのです』という回答でした」(熊澤氏)

「一方で、西新宿に広告・メディア事業オフィス統合計画では、外出での業務が多いこともあってフリーアドレスの採用を予定しています。オフィスは同じ環境が正しいとは限りません。そこを使用するワーカーの業務内容に合わせたスペース計画が必要だと思っています」(熊澤氏)

ちなみにライブオフィスやスタンディングデスクも検討の結果、不採用となった。

「ライブオフィスに関してはセキュリティ的にも難しくて。その結果、社員と一緒ならば入室できるエリアを設けることにしました。スタンディングデスクに関しては、参加者の大多数がモニターを見ながらじっくりと時間をかけていく討論形式での会議が多いため、当社には合わないという結論でした。一応、実験的にオフィス内に2部屋つくってみましたがやはり使用率は高くありませんでした」(野長氏)

オフィスコンセプトは「モノづくりを発信する」 12フェーズに分けて工事を実施した

本プロジェクトのオフィスコンセプトは「グリーのモノづくりを発信する」とした。それは同ビルに入居した当時は来客もイベントも多くて活気があったことを思い起こし、もう一度初心に戻って自らを見つめ直したいとの思いからだ。

オフィスコンセプトが確定後、それに基づいたデザイン案を固める。そして2018年2月から内装工事が始まった。全体の工事スケジュールを12フェーズに分け、社内イベントと重ならないようにそれぞれをパズルのように組み合わせていく。居ながら行うという条件のため、平日夜間、土曜・日曜日しか工事ができない。時間調整が困難ではあったが、社内からのクレームもなく進行できたという。全社的なノートPCの利用、ペーパーレスの推進などが工事をスムーズにさせた要因だろうと語る。

「そして何よりものポイントは全社員と丁寧なコミュニケーションをとったことだと思っています。また、プロジェクトメンバーには内装会社を含めた定例会にも参加してもらいました。会議に臨む心構えは、『自分の考えを持つ。誰かに忖度した発言をしない』。工事の最終段階に入るエントランスの床材を決める際には、デザイン会社に相当数のサンプルを持参いただいて最後まで議論を重ねました」(熊澤氏)

そうして2019年5月に工事が完了する。最初のヒアリングから実に2年を要していた。

それでは同社の思いがたくさん詰まったオフィスを紹介していこう。

「一番大きく変わったのが12階の来客用フロアとなります。12階はエントランスから外周をぐるりと半分くらいをオープンエリアとしています。それぞれ『エントランス』『ラウンジ』『カフェ』『フューチャーラボ』『セミナールーム』と名付けました」(熊澤氏)

「リニューアル前は白を基調とした広いエントランスでしたが、実は社内からの評価が低くて。今はもう、移転したての頃のグリーのフェーズとは異なる。見栄えはいいがグリーらしさがないと。もっと素材感を大事にしたグリーのモノづくりが伝わるデザインにしたいとの要望があり、今回改善しました」(野長氏)

エントランスベンチ席

エントランスベンチ席

エントランススタンディングスペース

エントランススタンディングスペース

エントランスの周囲には来客用応接。6~8席を中心に多様なサイズで15部屋配置した。待合用のベンチ席もどの角度が座りやすいか、導線として成立するかを検証したという。そのほか、以前はなかった作業デスク風の打ち合わせスペースも新設している。

「実は床面の一部分に当社の育成シミュレーションゲームのキャラクター『クリノッペ』が隠れています。ぜひ見つけてください」(野長氏)

続いて奥に進むと「ラウンジ」が現れる。スライディングウォールを操作することで、エントランスと一体のスペースに変化する仕掛けだ。

ラウンジ

ラウンジ

「来客者が最も多い14時以降は扉を開放しています。エントランススペース同様に待合せや打合せがここでも行われています。イベントが出来るようにプロジェクターやステージも用意しました。椅子やテーブルは容易に移動できるため、イベント内容や人数に合わせて自由に組み合わせてレイアウトを組んでいます」(野長氏)

ラウンジの奥が「カフェ」となる。窓際のファミレス風のミーティング席と中央の広いオープン席で構成されている。ここでも社内外のイベントが行われる。同社の思惑通り、イベントの実施数は以前に比べて2倍近く増えているという。イベント内容や集客人数によっては、「ラウンジ」「カフェ」の両スペースを繋げて使うことも可能だ。

カフェ

カフェ

「ちなみに『ラウンジ』と『カフェ』の途中の部屋に『VRスタジオ』が置かれています。最新の機材を配し、作成した映像をリアルタイムで配信。今後はよりクリエイティブが高まったコンテンツを提供できると思います」(野長氏)

VRスタジオ

VRスタジオ

カフェを抜けると「フューチャーラボ」が姿を現す。ここが「モノづくり」の現場だ。ファンミーティングなども行われるという。まさにグリーファンにとっての聖地である。イベントの内容をSNS配信で拡散。新たな相乗効果の創出を目指している。

フューチャーラボ

フューチャーラボ

9階と13階が執務エリアとなる。両エリアとも同様のゾーニングで、建物のコア側にはマグネット効果を意識してコーヒーメーカーやリラックス席を配置した。そこから中央エリアに執務席、窓際にはクローズドのミーティングエリアを設けた。その数は大小30室。余裕を見ながら設計しているため、稼働率は予想通り8割前後となっている。

執務室内リラックス席

執務室内リラックス席


各種データを分析しながら今後のオフィスづくりに生かしていく

同社では多くのワーカーの行動データを収集しており、そこから導き出した分析データを今回のオフィス改善のバックデータとしている。

「毎月、イベントの開催数、開催時間、部屋ごとの開催数、部屋ごとの開催時間、座席の稼働率、会議室ごとの稼働率、子会社の座席稼働率、平米当たりの電気料・・。とにかくデータを集めています」(野長氏)

リニューアル前の会議室は26室前後であったが、分析データに基づいて1割増やした。それにオープンスペースを加えたので、ミーティングを行えるスペースは格段に増え、従業員の会議室予約に対するフラストレーションを軽減している。

「イベント参加者にも毎回アンケートを行っています。それらの要望がファシリティマネジメントで解決できるかもしれませんので、アンケートを実施することはとても意味のあることだと思っています」(熊澤氏)

企業としてのオフィス構築の考え方にも変化が出てきたという。

「今まではオフィスポリシーに基づいて、グループ会社や国内外の拠点であっても画一的なオフィスの構築を目指していました。しかし私たちの目的は、ワーカー一人ひとりがベストパフォーマンスを発揮できるオフィスをつくることです。これからもインハウスのファシリティマネージャーとしてどこまでも極めていきたいと思います」(野長氏)

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