株式会社フォトシンス

2019年7月取材

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※ 記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

社名の由来でもある「光合成」の魅力を具現化させるオフィスを構築した

IoTとクラウドを活用した「Akerun入退室管理システム」の開発・提供を行っている株式会社フォトシンス。2014年9月の創業以来、「成長」を意識し、増員とともにオフィス移転を繰り返してきた。新オフィスは、過去にはない明確な企業ビジョンを打ち出したデザインを採用しているのが特長となる。今回の取材では、そのオフィスコンセプトを中心にお聞きした。

河瀬 航大氏

株式会社フォトシンス
代表取締役社長

河瀬 航大氏

オープンスペース内のブランコ席

オープンスペース内のブランコ席

Contents

  1. IoTの将来性に魅了され専門的に取り組むために起業した
  2. エリア、ビルグレード、広さ。さまざまな条件を満たしたオフィスビルに移転
  3. 今回のオフィス移転は企業ビジョンを周知させる絶好のタイミングだった
  4. 新オフィスの運用にあたり1年かけてルールブックを作成した
  5. 新オフィスは一つの営業ツール。思いもしなかったメリットも

IoTの将来性に魅了され専門的に取り組むために起業した

知らない人同士でも容易にコミュニケーションを取りあえる。そんな時代の背景にはソーシャルメディアの拡がりが欠かせないだろう。創業者である河瀬航大氏は、学生時代からそんな「つながり」に強いビジネスの可能性を感じていた。

「大学卒業後はソーシャルメディアのマーケティング会社に入社しました。企業側がソーシャルアカウントを立ち上げてエンドユーザーとつながりあう。そんなマーケティングが主流になり始めていたころです」

「C to C」だったソーシャルメディアが「B to C」というつながりも増えていく。世の中が革新的に変わるステージに移ろうとしていた。

「当時、新事業のチームに配属されまして。ちょうどインターネット選挙がスタートした時でした。ソーシャルメディアを使ったつながりは今後も成長し続ける。そう思いながら業務を行っているうちに、『人と人』だけではなく、『人とモノ』、『モノとモノ』といった『つながり』の概念が変わりつつあることに気づきました。この面白い世界観をさらに専門的に突き詰めたい。そうして起業したのです」

河瀬氏が「つなぐ」に選んだのは「物理的な鍵」。クラウドと鍵をつなぐことで、セキュリティ対策はもちろんのこと、自動での勤怠管理、複数拠点での鍵の一元管理、遠隔地からの施錠や解錠、24時間体制などの充実したサポートを可能とする。同社のオフィスセキュリティを格段と向上させる製品は世界で初めて後付けができるスマートロックを活用した入退室管理システムとして注目されている。

エリア、ビルグレード、広さ。さまざまな条件を満たしたオフィスビルに移転

創業は2014年9月のこと。マンションの一室からスタートした。

「五反田(品川区)に立地するマンションで、広さは10坪程度でした。業務を続けていく中で、さすがにマンションの一室では来客対応ができないこともありマンションからの卒業を決めました。起業からわずか5ヵ月後、近隣のオフィスビルに移転を実施。面積も33坪に広げました」

それからわずか1年足らずで社員が倍以上に増える。「手狭さの解消」を求めてオフィスの拡張を検討することになる。

「その時はタイミングよく同じビルの中で66坪の空室を確保することができました。その後も順調に業績がアップし、社員も増えていきます。そこでちょうど隣のフロアに空室が出たこともあって、合計100坪を借りることにしたのです」

以降も業務は順調に推移していく。再びスペース不足の課題が表面化し、オフィス計画を検討することになる。しかし今まで本社を置いていた五反田では思うような空室の確保が難しく、エリアを広げて検討することになった。

「東京の南側を中心に探しました。賃料や周辺環境、面積などを総合的に比較して。少なくとも30棟は内見しましたね。焦る気持ちもあったんですが、それよりも当社イメージに合う物件をきちんと探したいという気持ちが強かったです」

そんな時、JR田町駅徒歩圏内で建築中のオフィスビル情報を入手した。

「低層フロアしかできていなかったのですが早速見学に行きました。エントランスやビル全体の雰囲気、自然を感じさせるつくりなど、考えていたイメージとぴったりでしたね」

そうして1フロア面積227坪、15階の眺望の良いフロアを確保。条件を詰めて2017年9月に契約を締結する。

今回のオフィス移転は企業ビジョンを周知させる絶好のタイミングだった

入居時期を2018年3月に設定した。その間、6ヵ月。コンセプト立案、社員アンケート、設計、工事、告知と移転プロジェクトにおいてやるべきことは山ほどある。それによって本来の業務をおろそかにしてしまっては本末転倒だ。そこで河瀬氏はプロジェクト全体のマネジメントをPM会社に依頼をする。

社内の移転プロジェクトメンバーは河瀬氏を含め3名で行った。移転にあたっては全社員に要望シートを配布し、多くの社員とのブレストも行った。もちろん全ての意見が叶うわけではない。それでも集めたさまざまな意見を一つひとつ精査していく。そうして詳細を決めていった。オフィスコンセプトも多くの意見を参考にしてまとめていく。

最終的に決定したオフィスコンセプトは起業時の想いをよみがえらせるものだった。

「学生時代に光合成の勉強をしていまして。光合成は地球上の生命の源になっているもので、人口的につくることは現代技術をもってしても不可能といわれています。なかなか実現できないようなものをつくりたい。そんな強い思いから光合成の学名である『Photosynthesis』が社名のベースとなっています」

新オフィスでは原点に立ち戻り、オフィスコンセプトを「光合成」とした。

「『光合成を関連させるオフィスを構築する』という思いは常に持っていたのですが、どうしても今までは広さを優先していたため、コンセプトまで考える余裕はありませんでした。ですから今回の移転は、当社のビジョンを初めてオフィスで表現できる絶好のタイミングだったのです」

それでは光合成を具現化した新オフィスを見ていこう。

オフィス全体を1枚の葉っぱに見立てた特長的なオフィスとなっている。その第1のポイントは日照量がテーマとなる。

「光合成をキーワードにするからには日照量が重要と考えました。社員にとっても、自然の光を浴びることは健康に繋がります。ですからどの時間帯でもたくさんの日光を浴びることができる物件を探していました。この高層階、ワンフロアといった物件を見たときに、このコンセプトが生かせることを確信しました」

「第2のポイントは細胞壁(セル)です。細胞壁とは葉っぱの細胞膜の外側にある小部屋のようなもので細胞や組織を支える働きをしています。新オフィスの会議室や個室は細胞壁を意識しガラス面を多く取り入れた不規則な構造にしました」

そして第3のポイントが細胞内循環となる。

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葉っぱに見立てたオフィス

「新オフィスを葉っぱに例えたとき、そこで働く人が水や養分にあたると考えました。ですから一つのところに滞留するのではなく活発に人が循環できるような設計がベストだと思ったのです。旧オフィスは、個室や会議室を長方形につくっていました。機能的ではあったんですが、結果的に動線が直線的で。日本特有のセクショナリズムを生みやすい構造でした。広さこそ違いますが、執務室のほか、会議室、開発ルーム、カフェとオフィス機能は新旧ともに一緒となります。ただ、新オフィスでは『自然と交流が生まれる循環(動線)』にこだわりました」

応接エリアには5つの応接を配置した。それぞれ「Watt」「Hertz」「Tesla」「Bit」「Newton」と電気系の単位として名前が残っている科学者の名前を付けた。4人部屋、6人部屋、8人部屋、12人部屋とサイズを変えているため、用途に応じて使い分けられている。これら応接室の名前は社内公募で決定したという。

「その他、通路の位置、開発室の排煙機能、ホワイトボードの増加、リフレッシュスペースの充実、スタンディングデスクの新設、応接ガラスに不透明シートの採用など、数多くの社員の意見を採用しています」

応接室

応接室

応接エリア通路

応接エリア通路

リフレッシュスペース全景

リフレッシュスペース全景

応接室の不透明シート

応接室の不透明シート

Akerunを解錠し、オープンスペースから執務エリアに入ると、エリア内は部署を問わず全て固定席となっている。

「窓際に『壁スペース』と呼んでいるエリアがあり、そこでは社内会議が頻繁に行われています。その他、個人での集中スペースも配していますので、業務の用途に応じて席を変えて仕事をしています。きっちりと数値に落とし込んでいるわけではありませんが、コミュニケーションや笑顔、会話は確実に増えていますね」

実は、当初は部署ごとに意向が全く違っていたという。

「開発系はより集中できるように他の部署と遮断してほしいという意見もありました。しかし部署ごとに最適化するのではなく、『全体最適』としての考えを優先させました。部署ごとに文化が変わってしまうことで会社がバラバラになってしまう。事業に弊害を生じさせる原因をつくりたくなかったのです」

執務エリア全景

執務エリア全景

執務エリア 内壁スペース

執務エリア 内壁スペース

新オフィスの運用にあたり1年かけてルールブックを作成した

オフィスに関しては、厳しい運用ルールを用意した。実行まで1年かかったという。

「当社で大事にしている企業マインドを細かくオフィスに適用したものです」

【フォトシンスの企業マインド】
■未来志向
「遊び心をもって、夢中で発明し、顧客に未来を届けます。」
鍵を無くすクラウド業者として、可能な限りモノをクラウド化させたワークスタイルを実現させる。鍵、書類、書籍、キャッシュ、卓上カレンダー、卓上時計などは、机の上に一切置くのを禁止とする。

■挑戦
「本質を問い続け、変化を楽しみ、果敢に挑戦します。」
急成長ベンチャー企業として、急な人員増員や環境変化に耐えうるオフィス環境を整えておく。いつでも席替えやレイアウト変更ができる状態にしておく。空間が属人化すると仕事も属人化し、身動きがとりにくくなるためフレキシブルに対応できるように準備しておく。

■自責
「自分と向き合い、成果にこだわり、徹底的にやりきります。」
モノづくりの企業として、5S(整理、整頓、清掃、清潔、しつけ)を徹底し、「守ることを決めて、決めたことを守る風土」をつくる。それが品質・安全・顧客サービスを向上させるために不可欠な人づくりの基礎となる。

「整理整頓や余計なモノを置かない、といった以外に、ブラインドの閉め方も徹底しています。せっかく景観のいいオフィスに入居したのですからスラットの凸凹面の向きを考えて景色が見えるように調整をするように指示を出しています。細かくルールを決めた背景には、会社のマインドとして必要なことだったからです。オフィスルールを徹底することによって会社の文化を築きあげていくことを意識しています。新オフィスでようやく自分たちのビジョンを具現化させることができました。今後はフォトシンスマインドによって、人づくりができる空間を目指します」

これらのオフィス運用ルールは、オフィス選定委員会と河瀬氏が一緒になってつくりあげた。今後の運用やルールを守るための指導は、人事総務や各部署長に任せていくという。

「僕らはセキュリティやモノづくりを行っている会社ですから、たとえ厳しいルールでも厳守しなければなりません。この運用マニュアルは企業ビジョンと同様に新入社員研究の資料として使用しています。そうして浸透させることが会社を理解してもらう第一歩だと考えているからです」

新オフィスは一つの営業ツール。思いもしなかったメリットも

「移転後は、セミナーやオフィス見学に来られるお客様が増えました。そのため営業効率がとても向上しています。このオフィスが完全に一つの営業ツールになっていますね。また、以前と比べて採用率も上がっています。色々な分野や経験をお持ちの方に入社いただくことで、今までと違う企業価値をさらに生み出すことが可能となるでしょう」

フォトシンス エントランス

フォトシンス エントランス

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