株式会社セールスフォース・ドットコム

株式会社セールスフォース・ドットコム 白浜オフィス

2016年1月取材

※ 記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

総務省の地域実証事業に参画し、南紀白浜にサテライトオフィスを開設する

クラウド・ソーシャル・モバイルのテクノロジーを企業で活用するためのクラウドアプリケーション及びクラウドプラットフォームの提供を主幹事業とし、CRM(顧客関係管理)の提供では世界シェアトップ※を誇る米セールスフォースの日本法人である株式会社セールスフォース・ドットコム。本社オフィスの取材は2014年12月に行い、当サイトに掲載されている通りだ。今回の取材では、2015年10月に和歌山県白浜町に開設された同社白浜オフィスについて、その成立の理念と経緯、詳細についてのお話をまとめた。

※2014年のCRMソフトウェア世界市場におけるシェア1位
 ( Gartnerが2015年5月に発表したレポート「Market Share Analysis: Customer Relationship Management Software, Worldwide, 2014」より)

プロジェクト担当

野上 恭平氏

株式会社セールスフォース・ドットコム
リアルエステイト&ワークプレイス サービス
ファシリティ マネージャー

野上 恭平氏

株式会社セールスフォース・ドットコム

はやわかりメモ

  1. クラウドを利活用した「ふるさとテレワーク」と地域イノベーション
  2. セールスフォース・ドットコム初のサテライトオフィスを南紀白浜に開設した理由
  3. テーマは「テレワークの可能性」と「生活直結サービスの整備と検証」
  4. テクノロジーを通じて人々の交流を促進するデザインコンセプト
  5. パートナー企業とともに実現するSalesforce Village構想

クラウドを利活用した「ふるさとテレワーク」と地域イノベーション

総務省は2015年3月31日、日本経済再生のカギを握る地域創生に向けた「ふるさとテレワーク推進のための地域実証事業」の公募を開始した。同年7月7日に発表された同事業の委託先候補の一つに、株式会社セールスフォース・ドットコムが和歌山県白浜町で推進する「白浜町におけるクラウドサービスを利活用した先進的テレワーク及び生活直結サービス構築・検証事業」が選出された。同社はただちに実現に向けて着手し、同年10月15日には「セールスフォース・ドットコム 白浜サテライトオフィス」の開所式を行い、同日より現地での業務を開始している。

「クラウドサービスは、『いつでも、どこでも、誰でも』同じように使うことができるというのが最大の特長です。クラウドを利活用すれば、日本中どこへ行っても、東京本社とまったく同じ仕事をすることができるはず。当社では常々そのように考えており、お客様にもそのようにご案内しております。ならば、私たち自身が、それが机上の空論ではないという事実を証明していかなければなりません。『白浜オフィス』はそのための実証実験の場として立ち上げられました」

日本という国は明治維新以降、150年近くにわたって中央集権体制が続いており、首都である東京への一極集中が進められてきた。21世紀の現在もなお、企業の7割以上が依然として東京に拠点を構えており、政府による「地域創生」もかけ声ばかりという現状が続いている。こうしたなかで、近年のネットワーク環境の拡充とクラウド技術の進化は、地方におけるテレワーク推進の上でまたとない追い風になっている。

「東京は確かに、何をするにも便利な場所ですが、私たちの仕事や暮らしの上で『絶対に東京でなければならない』という必然性は、実はそれほどないのではないかという見方もあります。何しろ東京は、土地は狭いし物価は高い。都心に住もうと思えば家賃が高くつきますし、安いところへ住めばそれだけ通勤時間が長くなり、朝夕の通勤ラッシュも大変なストレスです。そう考えていくと、同じ仕事ができるのであれば、必ずしも東京にこだわる必要はないということに気づくはずです」

もちろん、企業にとっては、東京にオフィスを構える意味はあるだろう。東京は交通の要衝であり、世界中の物資と情報が集積する場所であり、都心一等地に構えられたオフィスは企業の社会的なステータスを担保する。ただし、そこで働くすべての従業員が東京オフィスに通勤しなければならないとすれば、それはむしろ非合理的なのではないかと野上氏は指摘する。

「私たちセールスフォース・ドットコムは、誰でもITを利用できる『ITの民主化』を推進してきた企業であるといえます。地方でも東京と同じように働ける、もっと言えば『東京と同じ仕事ができる』ことを実証することは、いわば私たちに課せられた"義務"だと言ってもいいかもしれません」

セールスフォース・ドットコム初のサテライトオフィスを南紀白浜に開設した理由

米セールスフォース・ドットコムはサンフランシスコに本社を置き、世界各国に現地法人を立ち上げ、拠点を展開するグローバル企業である。その日本法人である同社も、千代田区丸の内の東京本社の他、大阪と名古屋にオフィスを置いている。だが、今回のような「遠隔地において、本社機能の一部を移転して業務を遂行する」純然たるサテライトオフィスの開設は、セールスフォース全体としても初の試みだという。

「サテライトオフィス開設の構想は2015年春ごろからスタートして、西日本を中心に5か所ほど候補地を絞り込んで検討を重ねて参りました。その中で、最終的に白浜町を選択させていただいたのは、主に次の3つの理由によるものです」

「第一に、交通アクセスの利便性。最寄りの南紀白浜空港は小規模な地方空港ながら、1日に3往復、羽田空港からの直行便が発着します。旅客機を降りて約3分で空港正面のロータリーに出ることができ、そこからタクシーで約5分で市街地までたどり着けるのです。第二に、社員のモチベーションアップ効果。南紀白浜は著名なリゾート地であり、温暖な気候と美しい景勝に恵まれ、アフターファイブには美味しい食事を楽しめる店も多い。慌ただしい東京での仕事に疲れた社員たちのリフレッシュ効果も期待できると考えました。第三に、自治体関係者による受け入れ体制の充実。和歌山県および白浜町は、自治体を挙げて地域活性化のための企業誘致に力を入れ、ITインフラも整備してきた。白浜町にある観光地の多くで防災用にWi-Fiの無料接続が可能で、テレワークの拠点を置くにも好都合でした」

「白浜オフィスの構成メンバーは、オフィス長以外全員が東京本社からとなります。オフィス長は家族を連れて東京から現地へ移住し、他のメンバーは3ヵ月単位のローテーションという形で会社の用意した宿舎に入っています。独身者が中心ですが、家族連れで行ったメンバーもいます。やはり遠隔地ですから、上からの業務命令ではなく希望者から行ってもらうようにしています」

テーマは「テレワークの可能性」と「生活直結サービスの整備と検証」

総務省の「ふるさとテレワーク推進のための地域実証事業」への同社の参画が決定したのが7月7日、同社が和歌山県および白浜町との進出協定を締結したのが同月15日。それから10月15日の開所式までは、わずか3ヵ月という短期間であった。この間に、同社はサテライトオフィスを設置する物件の選定、サテライトオフィスの事業コンセプトとデザインコンセプトの策定、出向メンバーの人選、内装工事と什器機器の搬入など、社内外に関わる膨大な作業を次々に消化していったという。

「物件選定について言えば、現地には賃借用のオフィスビルがほぼ皆無という状況でした。そこで、現地にある企業の保養所や大学の合宿所などの施設をいくつか視察しましたが、最終的には、白浜町が数年前に企業誘致のために買い上げた『白浜町ITビジネスオフィス』という施設をお借りすることにいたしました。これは高台の上に位置する鉄筋コンクリート2階建ての建物であり、当社の入居スペースは1階に配置しましたが、海側の窓から白良浜の美しい海岸線が一望できる絶好のロケーションとなりました」

メインオフィススペース

メインオフィススペース

なお、総務省による実証事業自体は2016年3月までの期間限定となっているが、同社は実証事業終了後もサテライトオフィスでの業務を継続し、将来的には現地採用による地域の雇用創出にも貢献していくという。これを踏まえて、オフィスはその場しのぎの急ごしらえではなく、永続的な機能性が要求された。

「施工は現地の工務店にお願いしましたが、現地ではそれまでオフィスビル建築の需要がほとんどないため、オフィスづくりの経験やノウハウを蓄積する機会もなかったと思われ、おそらく相当苦労されたのではないかと思います。しかし、お願いした工務店さんはとても優秀で、初めて扱うような資材も直ちに手配してくれるなど、こちらの細かい要望にもスピーディかつ的確に対応していただきました。素晴らしい工務店さんにめぐり会うことができたのは、誠に幸運であったと思います」

また、サテライトオフィスの事業コンセプトとしては、「テレワークの可能性」と「生活直結サービスの整備と検証」の2つがテーマとされた。前者は、クラウドサービスを利活用することにより、遠隔地でも東京本社と同等の業務遂行が可能であるかどうかを検証することだ。現地での具体的な業務内容は電話による営業であり、これは東京本社とまったく同じだが、営業電話中に窓の向こうに見える風景はまったく違う。本取材時点で、現地での実務を開始して約3ヵ月になるが、こればかりは実際に白浜町で一定期間業務を行ってみなければわからないことも多い。現時点では特に問題はなく、社員のリフレッシュ効果も業務の生産性も上がっているとのことだ。

また、後者は、白浜町における地域特性や地域ニーズを踏まえて、地域住民と移住者、観光客が必要とする観光サービス、防災サービス、子育て関連などの行政情報提供サービス、地域課題解決とボランティアのマッチングサービスの4つのサービスを整備し、有効性と効果検証を行うというものだ。これらのサービスについては、今回のプロジェクトに伴い同社とともに白浜町へ進出したパートナー企業や、地元企業などと共同で開発に取り組んでいくことになった。
遠隔地とのTV会議風景

遠隔地とのTV会議風景

地域からの雇用や地元企業への人材育成、運用モデルの構築など、持続した活動ができる基盤づくりを支援するため、これらのサービスに関わるプロジェクトには、地域の団体や、大学など教育機関の協力を受けているだけでなく、同社と同時期に白浜町での地域実証事業に参画している大手ソリューションベンダー系企業もプロジェクト支援に加わっていくという。

「南紀白浜での生活直結サービスはテンプレート化し、他の自治体への横展開を想定したサービス提供モデルを構築していきます。テンプレートには拡張性・柔軟性の高いパブリック・クラウドサービスを活用しているため、自治体ごとの固有の要件に応じて自由にカスタマイズすることができ、他の自治体でも簡便にサービスを導入することが可能となります。将来的には、この南紀白浜での経験をベースに、他の自治体や地域への展開も視野に入れています」

テクノロジーを通じて人々の交流を促進するデザインコンセプト

白浜オフィスの内装デザインに関しては、丸の内の同社東京本社をはじめ、世界各地のセールスフォースオフィスを手がけてきたデザイン会社Genslerが担当。セールスフォース・ドットコムで国内初のサテライトオフィスということで、採算を度外視して熱心に取り組んでもらった。南国ムードのあふれる海辺のリゾート地であり、ハワイ州の姉妹都市でもある南紀白浜の土地柄にふさわしく、ハワイ語の「Ka Pilina」(カ・ピリーナ。「絆」「つながり」などの意)をキーワードとして、「テクノロジーを通じて人々の交流を促進する」というデザインコンセプトが定められた。

「デザインプロセスとしては、まず、実際に白浜の町を歩いてみて、白浜ならではの生活風景をいくつも見つけ出し、イメージボードにまとめました。そこから白浜のライフスタイルにおける象徴的な要素をピックアップして、オフィスデザインに導入することにいたしました。メインオフィス(執務室)、ミーティングルーム、体験スペース、コワーキングスペースなど、それぞれの使用目的に応じてテーマを定め、『白浜らしさ』を表現したデザインとなっています」

いわば、オフィス内に白浜のミニチュアを創出しようという取り組みであり、その狙いは、「人」「情報」「体験」「地域」「世界」を繋げる中継地として、人々が気軽に集まり、新たな価値観や働き方が生まれる場の提案である。具体的には「選べる環境」「繋がる環境」「ブランドを表現する環境」「地域に密着し貢献する環境」という 4つの環境をそれぞれの部屋のテーマとし、各部屋に「Beach(砂浜)」「Harbor(港)」「Park(公園)」「Market(市場)」と命名してオフィスづくりを進めていったという。

Beach(砂浜)

Beach(砂浜)

「白良浜を望む『Beach』は、全員靴を脱いで働いており、人々が砂浜でビーチシートを自由に広げるように、スタッフがワークスタイルに応じて家具をアレンジできる自由度の高いスペースです。すぐ隣の『Harbor』と呼ばれるスペースは、セールスフォース・ドットコムの最新コミュニュケーション技術により、白浜と世界が繋がる"情報の港"です。

またここには、来社した方の名前をプレートに書いてもらったブロックを増やしていく仕組みや、滞在した記憶を積み上げていくカレンダーなどの仕組みを取り入れています。廊下を挟んだ部屋は、人工芝を敷き詰めた、子どもを含む白浜の人々がセールスフォース・ドットコムのクラウド技術を体験できるように開放されており、地元とセールスフォース・ドットコムが触れ合う『Park』です。そして、入口の左側に位置する部屋は、セールスフォース・ドットコムとパートナー企業の方々が出会い、それぞれの特色を備えたパートナーシップを構築する『Market』に例えています」
Harbor(港)

Harbor(港)

来訪者のネームプレート

来訪者のネームプレート

Park(公園)

Park(公園)

Market(市場)

Market(市場)

パートナー企業とともに実現するSalesforce Village構想

今回の白浜サテライトオフィス開設に伴い、同社のパートナー企業4社がそれぞれ人員を派遣し、地域実証事業に参画することになった。オフィスの広さは100坪前後で、そこに同社の社員10名のほか、パートナー企業4社が入居し、合計20名ほどが働いており、同社を含む5社による「Salesforce Village」を形成しているという。

「Salesforce Villageとは、クラウドサービスを有効活用した戦略的テレワーク拠点です。当社のパートナー4社からも社員が移住または長期滞在しており、将来的にはさらなる事業規模の拡大や、場合によっては現地法人として別会社を独立させるといった展開も視野に入れています」

もっとも、前述のように白浜町にはオフィスビルの物件がほとんどないため、将来的にはスペースの確保も課題となってくると考えられるという。

「現地では、今回のサテライトオフィス開設をきっかけにセールスフォースのことを知っていただいたお客様もおられます。また、このようなオフィスを白浜につくったこと自体、広く世間へのPR効果が期待できます。今後は、地元での雇用創出などを通じて、中長期的な地域貢献を目指して参ります」