- 慣れ親しんだ市ヶ谷から表参道への移転 分散オフィスを統合して1フロアに
- 働き方を経営課題として捉え新たな役職CWOを誕生させた
- オフィス内にメリハリは大事 全ては知的生産性の向上のために
- Sansanらしさを表現したエントランスの石垣とフリースペース
- オフィスはつくって終わりではない これからも随時進化させ続けていく
2014年6月取材
※ 記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。
企業向け名刺管理クラウドサービス「Sansan」の企画・開発・販売を手がけるSansan株式会社。設立時から一貫して「ビジネスの出会いを資産に変え、働き方を革新する」というミッションに挑んできた。2012年からは個人向けの名刺管理クラウドサービス「Eight」も開始。ユーザー数は早くも50万人を突破するなど急激な事業拡大を果たしている。それに比例してエンジニアの採用も積極的に実施。オフィススペースの確保が急務となっていた。
2014年3月3日、"サンサン" の日にオフィス移転を実施。今回は、その移転コンセプトや事業内容を象徴させたさまざまな工夫についてお話を伺った。
2014年度 第27回日経ニューオフィス賞 受賞オフィス
Sansan株式会社
広報部
磯山江梨氏
たくさんの希少な植物が置かれたフリースペース
"ビジネスの出会いを資産に変え、働き方を革新する" というミッションのもとにSansan株式会社(当時は三三株式会社)は誕生した。
「Sansanの "San(さん)"は、英語の "Mr." や "Ms." にあたる日本人を呼ぶときの敬称です。出会いの象徴である名刺から新たな価値を生み出したい。人と人を繋げて働き方に革新をもたらしたい。そんな想いを社名に込めています」
Sansan株式会社(以下Sansan)は2007年6月にわずか5名で設立。自社サービスを通じて「世界を変える新たな価値を生みだす」という強いビジョンを掲げての起業であった。設立後は順調に業績を伸ばし、随時組織の拡大を続けていく。そして増員のたびにオフィス移転を行っていた。
「設立からずっとJR市ヶ谷駅周辺を本拠地としていました。交通アクセスが良く離れる理由がなかったというのが実情です」
ここに移転する前も、JR市ヶ谷駅から徒歩2分圏内のビルに入居。1フロア150坪を1.5フロア使用していた。
「当初1フロアで収まっていたのですが、業務拡張により1.5フロアに増床。増床分は開発部門が専用フロアとして使用していました。しかし次第に社員同士のコミュニケーション不足が課題になってきまして。それで社員全員を1フロアに収容できる広さを持つオフィスビルを探すことになりました。市ヶ谷周辺でも条件に合うビルはあったと思うのですが、これを機に環境を変えたいと考えました。そこで市ヶ谷以外のエリアにも目を向けることにしたのです」
そうして長年親しんだ市ヶ谷を離れて表参道にオフィスを構えることになる。
「多くのITベンチャー系企業同様に渋谷や六本木という選択肢もありました。しかし当社はクラウド型の名刺管理サービスを提供しながらその裏側をオペレータによる人力の入力で支えている、IT部分とアナログ部分が融合したような会社です。ですからいかにもITといったイメージの場所にオフィスを構えるのも何だか違和感がありました。色々検討した結果今のオフィスにめぐり合えてよかったと思います。場所、ビルともに大満足です」
「今回、移転プロジェクトの途中からCWOという役職が誕生しました。CWOというのは、チーフワークスタイルオフィサーの略で "働き方の革新" に取り組むことを目的としています」
誕生のきっかけは、Sansanが徳島県神山町に開設したサテライトオフィス「神山ラボ」にある。同町では20年以上にわたり、現地NPO法人グリーンバレーによる過疎化対策の活動を行っていた。その施策の一つが仕事を持っている個人や企業を町に誘致する「ワークインレジデンス」というもの。Sansanではちょうど「働く環境」について議論を重ねていたときでもあり、2010年に同町を訪問。グリーンバレーの支援により、即座に古民家を借りることにした。それから現在まで4年。その中で経験してきた新しい働き方から得られた成果を通じて "Sansanでは「働き方」を経営レベルで意識して取り組もう" という結論に至った。
CWOの業務は大きく分けると3つ。一つは神山市のサテライトオフィスに関する業務。次に在宅勤務や振替出勤など、社内制度や人事制度に関する業務。最後にオフィス全般に関する業務だ。プロジェクトごとに人事や総務、広報などと連携を取って推進していくフローとなっている。
移転先のビルが決まってからは、CWOを中心に半年かけてプロジェクトを進めた。
「まずは内装デザインのパートナー会社を決めなければいけないということで、数社でコンペを実施。依頼する会社が決まってからは社員からの要望を取り入れながら移転プロジェクトを進めていきました」
社員からの要望に対しては、部署ごとに「どのようなオフィスにしたいか」と宿題を出すことから始めた。予想以上に意見が集まったという。
「その多くは、集中スペースや打合せスペースの追加に対するものでした。そのほかには可動式のホワイトボードの設置や、室内に自然を取り入れてほしいという要望。神山ラボでの勤務を経験したことで、社員それぞれが生産性をあげる環境について自分ごととして考えるようになり、具体的なリクエストが多かったですね」
それでは今回のオフィスの工夫ポイントについて紹介していこう。
エレベーターを降りると近未来的なステージが広がる。受付はタッチパネルを採用。その横の壁にはバランスよく石垣がデザインされている。Sansanのアナログな側面を表現したこの石垣は神山ラボのある徳島県神山市で採掘した天然の青石を用いているそうだ。
デジタルとアナログを表現したエントランス
「『和と洋』『デジタルとアナログ』と、相反する組み合わせを並べることで、既存のカテゴリーにとらわれない当社の姿を表現しています」
エントランスを抜けると自由な空間と、きっちりと机が配置されている執務室とに分けられている。以前のオフィスは最初こそゆとりがあったが、増員の繰り返しの中で最後はリフレッシュスペースも執務エリアに変わり無機質なものになっていた。そこで今回の移転ではさまざまなワークスタイルに対応できるオフィスづくりが課題だった。
「何度も検討を重ねて誕生したのが、この多目的なフリースペースです。執務室ときっちりと使い分け、メリハリをつけることによる気分転換が知的労働には有効だと考えました。来客用の応接対応は他に個室を用意していますので問題ありません。ここは社内打合せが中心となりますが、もちろんお弁当を食べる、休息するなど、仕事以外の使い方も自由です」
配置している机や椅子は全てオリジナルで制作。だから畳み易く持ち運びしやすい。
「移動させるのが容易なため、フレキシブルにレイアウト変更ができるのが良いですね。夜はSansanのユーザー企業様をお招きしてのセミナーやエンジニア向けの勉強会の開催、立食形式のパーティなど、頻繁に社外の方と交流できるようになりました」
何度も検討を重ねて誕生したフリースペース
エンジニア向けのセミナー会場例
オフィスの中庭的存在となるフリースペース。何と言っても一番の特長は、置かれているたくさんの希少な植物だ。
「ここに置かれている植物はプラントハンターとして色々なメディアで紹介されている西畠清順氏の協力によるものです。世界各地から希少な植物が集められました。おそらくその数は40種類を超えているでしょう。私どもが取り扱う名刺が多彩であることとリンクさせて、同様に置かれる植物も多彩にしようという提案を受けてのことです」
もともと東京の環境でも適応しやすい植物を選んで、定期的にメンテナンスが入るため管理上の負担はそれほどないという。
「植物は日々成長して変化していくのがいいですね。花が咲いたとか、芽が出たという小さな発見があります。自然の力は偉大というか。これからもっと変化するでしょうし、品種も増やしてジャングルのようにしたいですね」
フリースペースの窓際には2枚のハンモックが吊るされている。神山ラボで社員に好評だったため、新オフィスでも採用した。
「神山ラボでは、ノートPCを持ってきて仕事をする人もいれば、あえて何も持たずに考えごとをする人もいました。そんな自由な使い方でもさまざまなアイデアが生み出されたのです。ですからハンモックも大切な仕事場の一つだと考えています」
スペースの隅には足場を組んだミーティングルームを配置。
「上部の足場部分にはモニタを設置して、神山ラボの2階から見た風景をライブカメラで映しています。これも四季の変化や神山とのつながりを感じさせるためのツールとなっています。最上部は屋根裏部屋風のスペース。ここは横になって仕事をする人が多いですね。つまりフリースペース内のどれもが気分を変えるための道具となっています。そして神山ラボと同様に "転地効果" を意識しています」
一方、執務室はフリースペースの反対側、ガラス壁で遮られた向こう側となる。ガラス壁の端には工事現場で使われるような巨大カーテン。来客の際はこれらで防音対策と目隠しを行っている。
足場を組んだミーティングルーム 右写真は屋根裏部屋風スペース
フリースペースとガラス壁で遮られた執務室
室内は整理された机が並んでいる。営業部門はフリーアドレスを採用し、そのほかの部門は固定席となる。そのほか、営業部門の横にはオンラインブース。テレビ会議システムを利用して日本国内全域・海外のサポートエリアとの営業活動やコンサルティングを行う部署が主に使用する。防音環境を完備した専用のブースである。
営業部門のフリーアドレス
オンラインブース
オフィス移転は遅れることなく無事完了した。新オフィスにはあえて各席にゴミ箱を置くのをやめたという。
「美観のため、ゴミ箱は執務室の中に2つ、フリースペース内に1つだけです。ゴミはその都度捨てに行くか、各人でコンビニなどのビニール袋にまとめておいて捨てるか。最初は面倒だと思いましたが、いざ運用してみると全く問題はありませんでした」
どんな些細なことでもまず実践してみる。そして問題が生じれば元に戻す。このような繰り返しで今まで会社運営を行ってきた。そういう働き方に慣れているからこそ、社員からの声にも迅速に対応が行えるのかもしれない。
「当社の場合、今後も新規事業を立ち上げるということは一切考えていません。名刺管理サービス一本で勝負します。顧客にどれだけ高い価値をご提供できるか、軸をぶらさず常に可能性を追求していきます。オフィスもいかに社員の生産性向上につながる環境を創るかに注力し、既成観念に捉われずに進化させていきたいと思っています」
徳島県名西郡神山町の古民家を利用してつくられたサテライトオフィス。それが「神山ラボ」だ。地デジ移行の際に光ケーブル回線を強化したため、IT企業が行うデータ転送量にも充分耐えられることとなった。同町では、こうした企業誘致を見越し、このエリア周辺のいたるところにWi - Fi を設置している。ここに神山ラボを開設した本来の目的は、生産性向上のため。もともとはエンジニアの使用が多かったが、今では営業部門の合宿や新入社員研修にも使われている。
[新入社員研修の目的]
●仕事の本質をつかむ
●集団生活を通じて自らの強みを発見する
●東京と同じ業務を神山ラボで行うことで新しい働き方を実践する
ネクタイを締めて通勤電車に乗って会社に来て、オフィスでパソコンの前に座って、上司に指示されて作業するという型だけが「仕事」ではない。神山ラボという都会とは全く異なる環境下で働く経験をして「仕事」の本質をつかむ。2012年には、納屋を改装してワークスペースを新設。子育て中の社員も一緒に田舎暮らしをしながら東京と同じ環境で業務を行えるようになった。従来、対面で行っていた営業やコンサルティングサービスもオンライン化を推奨。時間や場所に捉われない新しい働き方に取り組んでいる。
「Sansan」 http://jp.sansan.com
「Eight」 https://8card.net