- コミュニケーション環境と業務効率を改善するオフィスのワンフロア化
- 移転に際しては部門横断的にメンバーを選出したPJチームを編成する
- 内装から立地選定まで、多くのケースに共通するトレンドと変化の兆し
コミュニケーション環境と業務効率を改善するオフィスのワンフロア化
2016年に「先進オフィス事例」で取り上げた企業は、規模の拡張・縮小を問わず、複数棟あるいは複数フロアに分散されていたオフィスをワンフロアに統合した、という移転のケースが目立った。
フロア分散によるデメリットは、コミュニケーションの寸断のほかに、機能の重複やデッドスペースの発生がある。例えば、別々のビルに入居していた場合、受付や会議室といった機能を各ビルに備える必要がある。ワンフロア化することでこれらを集約することができ、しかも社内の風通しを良くすることが可能となる。中には「株式会社エイチーム」のように、上下フロアを内階段で結ぶケースもある。

フロア間のコミュニケーションを円滑にし、移動時間の短縮、ストレス解消、運動不足解消にも役立っている内階段(エイチーム)
「ワンフロア化」というトレンドは、数年前からオフィス移転の主流となっており、この背景には、近年の都心部再開発による大規模ビルの大量供給と、テナント側の意識の変化がある。市場にワンフロアの面積が500坪~1,000坪超の大規模面積を持つ新築ビルが増えていく一方で、テナント側も従業員同士のリアルコミュニケーションをこれまで以上に重視するようになってきた。面白いことに、ITによるデジタルコミュニケーションがこれほど発達しているにも関わらず、それらを使いこなしているはずのIT関連企業ほど、リアルコミュニケーションを重視する傾向が強いように思われる。
移転に際しては部門横断的にメンバーを選出したPJチームを編成する
オフィス移転は、想像以上にパワーを要する業務となる。小規模な企業の場合は、トップが自ら陣頭に立ち、「独断」ですべてを決定する場合も。ベンチャー企業などでは、どのようなオフィスになるか従業員には事前に何も知らせず、トップがサプライズ演出を狙うというケースもよく耳にする。2016年3月に取材を行った「株式会社バーグハンバーグバーグ」などがその典型といえる。

社内に設けられたマルチスペース(バーグハンバーグバーグ)
もう少し企業の規模が大きくなると、移転担当の役員と総務部門が中心となって動くことが多い。そして、最近増えているのが総務部門のほかに営業部門や開発部門など、部門横断的にメンバーを選出し、移転PJチームを立ち上げるケースだ。「ラクスル株式会社」「株式会社エイチーム」「株式会社永和システムマネジメント」「freee株式会社」「株式会社ニューバランスジャパン」「株式会社マネーフォワード」など、それぞれ数名から20名前後のメンバーでPJチームを編成し、定期的に打合せを重ねながら実務にあたっている。

移転PJチームによる「旧オフィスの分析」から誕生したオープンミーティングスペース(ラクスル)
PJメンバーを部門横断的に選出することには、それぞれの立場から改善提案や要望を吸い上げるという目的がある。これについては、全従業員を対象に社内アンケートを実施している企業もあり、「株式会社エイチーム」や「トリップアドバイザー株式会社」などはアンケート結果を詳細に分析してオフィスづくりの参考にしている。また、「株式会社永和システムマネジメント」の場合は、アンケートではなくPJメンバーが個々の従業員と対面形式でヒアリングを行ったという。現場の声を聞き反映することで、従業員の要望を採り入れたオフィス環境の実現を可能とする。

社員の要望から設けられたボルダリングウォール(トリップアドバイザー)

コワーキングスペース(永和システムマネジメント)
時間をかけて良いオフィスを構築するのは、「生産性やコミュニケーションの向上を考える」「移転を機に企業ブランディングの強化を図る」といった理由が多い。そして企業側は大きな予算をかけているだけに業者選定にも厳しい目を向けている。「株式会社グノシー」では旧オフィスを担当したデザイン会社を含めて複数の業者によるコンペを実施した。「株式会社ニューバランスジャパン」では最終決定までに46回のレイアウト変更をくり返したという。

オフィスの一角に設けられたひな壇状の多目的スペース「スタジアム」(ニューバランスジャパン)