株式会社ambr

2023年6月取材

この事例をダウンロード
バックナンバーを一括ダウンロード

※ 記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

「Playground」をコンセプトとし、
遊び心のあるオフィスをつくりあげた

仮想空間の可能性を信じて2018年に設立された株式会社ambr。その後の事業計画、人材確保も順調に推移し、2023年1月にオフィス移転を行った。新オフィスは「Playground」をコンセプトにした開放感のある空間となっている。今回の取材では、新オフィスの概要や新機能を中心にお話をお聞きした。

西村 拓也氏

株式会社ambr
代表取締役CEO

西村 拓也 氏

番匠カンナ氏

株式会社ambr
CXO

番匠カンナ 氏

Contents

  1. 新しいエンターテインメントの可能性をVRに感じて創業した
  2. 旧オフィスの立地は東中野に。モノづくりの空気感を共有するための戦略だった
  3. 今回、移転を検討した理由は手狭感の解消と働くエリアの再考
  4. オフィスコンセプトは、企業ビジョンと重ね「Playground」とした
  5. 仕事をする場から人と会うための場に。オフィスの役割が変わっていく

コーヒーカウンター

コーヒーカウンター

新しいエンターテインメントの可能性をVRに感じて創業した

2018年8月に株式会社ambrを設立した西村拓也氏。学生時代は法律・政治を専攻しており、特別にVRとの関わりが深かったわけではない。

「幼いころからエンターテインメント、特にハリ―ポッターやデジタルモンスターのような世界観がものすごく好きでした。その世界観は、その後の人生観や自己形成において大きな影響を受けています」(西村氏)

一昔前であれば、そういった世界への入口は本を読む、映画を見るといった、文字や画面越しの体験で成り立っていた。しかし現在はVR技術を使うことで容易に別世界への体験が可能になっている。

「それも今まで想像することすらできなかったような体験です。その世界は日々進化し続けています。そんな世界をつくることに参加したい。そして仮想世界の可能性をもっと広げていきたい。そんな思いで起業しました」(西村氏)

起業当時はすぐにビジネスとして成立するとは考えていなかったという。まずは多くの人に楽しんでもらい、人々の生活に感動や喜びを伝えたい。そうすることで、おのずと結果はついてくると考えていた。

そんなビジョンに共鳴して2021年から参加しているのが、現在CXO(チーフ・エクスペリエンス・オフィサー)という肩書の番匠カンナ氏だ。

「私は、約8年にわたって設計事務所で働いてきました。そこでのゴールは設計した建物を完成させることです。しかしVRの世界では、建物をつくる行為はあくまでも体験づくりの一つに過ぎません。最終目的は、ユーザーに心に残るような強い体験をしてもらうこと。空間で流す音楽やインタラクションによって、体験する内容が大きく変わってきます。ですから全体を俯瞰的に見なければいけません。そこが今までの設計に無かった魅力になります」(番匠氏)

ちなみに社名のambrであるが、特に何かの意味を示唆しているわけではない。仮想の世界をつくる会社ということもあり、あえて意味のない文字列を並べた結果だという。

旧オフィスの立地は東中野に。
モノづくりの空気感を共有するための戦略だった

起業後、インキュベーション施設で開発を行っていたが、人員の増加によりオフィス移転を実施。新オフィスに移転する前は、東中野に立地するオフィスビルを本社としていた。

「多面的にコンテンツ事業を手掛けていく方針の中で、アニメ会社が集積するエリアに身を置き、コンテンツカルチャーの空気感や文化を共有したいと考えました。実際に協業した事例はありませんが、エリアの持つ雰囲気を感じるだけでもプラスに作用すると思ったのです」(西村氏)

60坪の面積であったが、移転直前には入居人数も30人超に増えていた。会議室は1室だけ。机が並んでいるだけのオフィスだったという。

「新型コロナの発生前は原則出社で、緊急事態宣言時に在宅勤務制度を導入しました。宣言の解除後は週1回の出社ルールにし、その運用は現在も続けています」(西村氏)

今回、移転を検討した理由は手狭感の解消と働くエリアの再考

今回のオフィス移転には、オフィスの手狭感、打ち合わせスペース不足といったオフィスの「広さ」に関する改善点に加えて、働くエリアを再考したいという目的があった。

「今まではクリエイティブを重要視して東中野というエリアで成長してきたわけですが、次なる課題は技術力だろうと。そうしてテクノロジーが強いエリアを移転先の候補としたのです」(西村氏)

20227月から物件探しがスタートする。広さ、空気感、賃料などを総合的に検討していく。広さは中長期的な採用計画を想定して、200坪前後の広さを求めた。その結果、文京区内に条件が一致するオフィスビルを見つけることができた。

VRを含めた先進の技術力を強みにしている企業が集積しているエリアです。私どもにとってベストな移転先でした」(西村氏)

入居を検討していたフロアは、全方位に窓があり、200坪という広い面積でありながら密閉感がなかったのも魅力の一つだったという。

オフィスコンセプトは、企業ビジョンと重ね「Playground」とした

移転先が決まり、オフィスの構築フェーズに入る。オフィス内装会社に打ち合わせから参加してもらい、デザインの提案を受ける。その提案に対してクリエイティブディレクションとして番匠氏が要望を返していく。

9月に、一回目のレイアウト案が提出されました。以降、4名のプロジェクトメンバーで意見を出し合って進めていきました」(番匠氏)

「当社には『The World is a Playground』という企業ビジョンがあります。その訳を『楽しみに満ち溢れた世界』としています。私は、エンターテインメントの作品にワクワクすることで、世界を前向きに捉えることができました。今度は、当社が制作するVRで、色々な体験を提供していきたい。そんな思いをビジョンに込めています」(西村氏)

「このビジョンは、全ての従業員のものです。それならば、新たに働く空間にも適応すべきと考えました。それでオフィスコンセプトを『Playground』としたのです」(番匠氏)

新オフィスには多様な部分に「遊び」が演出されている。

エレベーターを降り、ガラス扉の中に入る。手前にはコーヒーカウンターを配置。よくありがちな無人受付システム用iPadはどこにもない。

「来訪者に気づいた人が取り次げばいい。そんな単純な考えです」(西村氏)

「オフィスに入って、無人受付があって、内線して。一般的にはそれが良しとされていることでも、『Playground』というコンセプトを活かそうと思った時に違った方法が見えてきたのです。このコーヒーカウンターには、常駐で誰かが座っているわけではありません。ただ、美味しいコーヒー目当てに人が集まる。そんな自然発生的な場所にしたかったのです」(番匠氏)

「受付には壁もなく、視界が遮られることもありません。これなら当社に訪れた方々に風通しの良い社風を伝えることもできます。特にこれからの人材採用はファーストインプレッションが重要といわれています。今のところ、狙い通りの結果が出ています」(西村氏)

よく見ると、コーヒーカウンターの上部だけ天井がない。

「私が指示を出しました。まだまだ成長過程の会社でもありますので、あえて造作を完成させない方が、当社らしいと思ったのです。また、こうすることでより開放感をデザインできると考えました」(番匠氏)

従業員からの要望は大きく2つ。1つは会議室が足りない点だった。そこでエントランス左側の大空間「Play Area」内に会議室3室を用意した。コンセプトである「Playground」にあわせて、それぞれ室名を「Swing」「Seesaw」「Sunaba」としている。「Swing」「Seesaw」は6名用、「Sunaba」は10名用となっている。

会議室よりPlay Areaを臨む

会議室よりPlay Areaを臨む

Play Area全景

Play Area全景

会議室

会議室

「全従業員が出社する木曜日だけは、社内ミーティングが多いため稼働率がとても高いですね。それを想定してたくさんのオープンスペースを用意しています」(番匠氏)

2つ目が開発チームからの要望でVR検証エリアの新設だった。そこでPlay Area内にVR専用のエリアを確保した。

「音響機器にもこだわりました。最新のシステムでVRの体験ができます」(西村氏)

その他、全社の報告会や軽食をとりながらのワークショップ、スクリーンに投影しながらのゲームイベントや映像鑑賞などを行う場として活用される。このエリアが外部向けのコミュニティエリアとなる。

「この空間から新たな交流が生まれ、さらには採用にも影響を与えるようなスペースになることを願っています」(番匠氏)

ちなみに同社には「Play to Learn」という社内福利制度がある。ゲーム機やエンタメへの補助、ワークショップでの食事代、プレゼン発表者への商品費用など、「遊びながら学ぶ」を実践している。

執務室はエントランスから向かってカフェカウンターの先の奥側に配置した。このエリアは内部向けのコミュニティエリアと設定されている。手前には卓球台を配置。自由な時間にプレイでき、リフレッシュや発想の転換に役立てばと考える。卓球台は、大手卓球メーカー製で打ち合わせスペースとしても使用される。

Communication Area

Communication Area

卓球風景

卓球風景

窓際はカフェゾーン。丸テーブルや懸垂器具が置かれる。その奥が執務室ゾーンとなる。同社は、企画、開発、営業、バックオフィスで構成されている。デザイナーや開発スタッフが半数以上を占めるため、固定席を採用している。席数は約100席。今後の採用計画を見据えてレイアウト計画を行った。

開発風景

開発風景

「オフィス全体のオープンな雰囲気は、神奈川工科大学内のKAIT工房という建物を参考にしました。鉢植えが単純に置かれているように見えて、実は細かく計算されている。ここはそこまでの計算はしていませんが、そんな雰囲気を目指しています」(番匠氏)

仕事をする場から人と会うための場に。オフィスの役割が変わっていく

「全員が同じベクトルに向かって一つのものをつくりあげていく。モノづくりをしていると、その熱量がとても大事だと感じることがあります。熱量は何よりもフィジカルな体験で生まれやすいと思っています。そんな働く環境をつくりたかったのです」(西村氏)

VRの開発会社ではあるが、バーチャルオフィスの検討は全くしなかったという。

VR技術が進化しているといっても、まだまだ進化途中にあります。そこにオフィスの機能を全部持たせられるかというと足りないことだらけです。もちろん、以前と比べたらVR導入のハードルは低くなりつつあるのかもしれません。しかしどんなにVRが進化しても、仕事終わりに軽く一杯、といった部分は不可能です。そうなるとバーチャルと対面でのいい部分の使い分けになるのだと思います」(番匠氏)

「当社が唱えている『楽しみに満ち溢れた世界』の実現のために、従業員がいつでも集まれる場が不可欠でした。そのためには費用をかけてでも絶対的にオフィスは必要だったのです」(西村氏)

「近未来の世界では、オフィスのあり方はだいぶ変わるはずです。ただし、これまでのような執務室を中心としたオフィスではなく、コミュニケーションシーンを目的としたオフィスが主流になると思っています。それを考えると、全面芝生のような、机のないオフィスでも成立するかもしれません。それでもオフィスは必要だと考えています」(番匠氏)


株式会社ambr
創業以来、VRSNSの開発や仮想空間のプラットフォームの構築など、メタバースクリエイティブスタジオとして展開してきた株式会社ambr。世界三大ゲームショーの一つである「東京ゲームショー」のVR会場の開発など、日本を代表するVR開発の会社として成長し続けている。

この事例をダウンロード
バックナンバーを一括ダウンロード