株式会社大広 東京本社

2009年5月取材

※ 記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

「わたし発想ではなく、わたしたち発想で考える」
クリエイティブなアイデアが生まれるオフィス環境へ

大手広告会社の株式会社大広は、2008年6月2日、港区赤坂5丁目にある赤坂パークビルの7、8階および6階の一部に東京本社を移転した。
1944年に関西地区の広告会社の統合で生まれた近畿広告株式会社を前身とする大広は、現在では東京・大阪・名古屋など全国6カ所の事業所と、国内外に17の連結対象グループ会社を持つ規模である。そして2003年10月には株式会社博報堂、株式会社読売広告社と共同持株会社である博報堂DYホールディングスを設立。12月には3社のメディア部門を分割移転して総合メディア事業会社、博報堂DYメディアパートナーズを設立した。

今回の東京本社移転はこれらの経営改革の一環として行われたもので、新時代のワークスタイルを目指した「ファジーアドレス」「5style office」「マネジメントツールの装置化」といった斬新なコンセプトを実現し、社団法人日本ファシリティマネジメント推進協会(JFMA)主催の第3回ファシリティマネジメント大賞(JFMA賞)において奨励賞を受賞するなど、その成果は広く注目されている。

プロジェクト担当

畠山 秀人氏

株式会社大広
畠山 秀人氏

総務局局長 兼
総務1部部長

小田 英司氏

株式会社大広
小田 英司氏

東京プロモーション・
プランニング局
第1プランニング
グループ部長

小佐田 透氏

株式会社大広
小佐田 透氏

総務局付

小澤 清彦氏

株式会社ミダス
小澤 清彦氏

取締役
設計グループ担当
一級建築士
認定ファシリティ
マネジャー

浅沼 伸哉氏

株式会社ミダス
浅沼 伸哉氏

設計グループ
チーフデザイナー

倉品 正伸氏

株式会社ミダス
倉品 正伸氏

設計グループ
デザイナー

はやわかりメモ

  1. グループ経営視点によるオフィスの集約
    大広は博報堂DYグループとしての経営視点、そしてメディア部門の協力関係の強化などを目的に、赤坂へのオフィス移転を計画。立地やビルのグレードの評価から赤坂パークビルを選択した。
  2. コンセプトは「個から共へ」
    移転で最大のテーマは働き方を変えること。特にコミュニケーションやコラボレーションをより一層重視する「個から共へ」のコンセプトを明確にし、新オフィスの方向性を定義した。
  3. フリーアドレスを進化させたファジーアドレス
    旧本社オフィスが約1,800坪あったのに対し、新オフィスは約1,500坪とスペースは縮小。フリーアドレスを検討する過程で、パイロット的に一部門でテスト導入し、そのフィードバックをもとに完全なフリーアドレスではなく、部門ごとに境界を曖昧にしてアドレスを割り当てる方式(ファジーアドレス)を実施した。
  4. 5style office
    社員にとって、帰るべき「巣(Nest)」のような場所として部門単位のアドレスを設定し、そのエリアを中心にSession、Relax、Search、Thinkというワークアクティビティのための場を用意した5styleofficeにより、創造性を発揮するワークスタイルの活性化を図った。同時に、部門長と事務担当を固定席とすることでマネジメントの効率化にも配慮している。
  5. 人気のロングソファーテーブル
    ファジーアドレスのデスクの横にフロアを貫くロングソファーテーブルを設け、気軽な打ち合わせができるように工夫。他にも出会いや情報交換の機会を演出する工夫で、「場所を選べるオフィス」を創造。全て合わせると席数は人数分の120%にも及ぶ。
  6. 「Meet」&「Present」
    ミーティングエリアの会議室は「出会いの場」を意図した「Meet」、プレゼンテーションルームは「顧客にプレゼントを渡す場」と捉え「Present」とネーミングすることでそこで行われる行為を強調。また中華テーブルや掘りごたつ風などの多様な空間も用意。
  7. オフィスは人の働き方を変える!
    移転後もオフィスは当初の企画内容通りに使われ、環境が変われば働き方も変わっていくことを証明できた。

グループによる事業所集約の機会を利用して
経営ビジョンに合ったオフィス機能の見直しを。

株式会社大広の東京本社は、約25年間、港区芝大門のダヴィンチ芝パーク(旧、秀和芝パークビル)に置かれていた。このため、場所と会社のイメージは広く定着していたのだが、2003年10月に株式会社博報堂、株式会社読売広告社と共同持株会社である博報堂DYホールディングスを設立。グループ視点からオフィスの移転が検討されることになった。

「持株会社の発足に続き、同じ年の12月に3社のメディア部門を分割統合して総合メディア事業会社『博報堂DYメディアパートナーズ』を設立しました。メディア事業は広告会社にとってのコアビジネスの一つであり、その分野で一緒に動く機会が多いことを考えると、お互いのオフィスはできるだけ近いほうがいい。最初に博報堂と博報堂DYホールディングス、博報堂DYメディアパートナーズが新築の赤坂Bizタワーに入居することが決まり、続いて私たちも近隣で物件探しを開始。そして、赤坂Bizタワーに近く、しかもビルグレードが高い赤坂パークビルにスペースが確保できると分かり、移転計画は一気に進んだのです」

こう語るのは、総務部門として東京本社新オフィスの移転プロジェクトの事務局長をしてきた小佐田 透氏だ。

ちなみに読売広告社も同ビル内に本社を移転することが決まり、「博報堂DYグループの連携機能を高める」という目的を果たすことができた。
「会社としての機能向上を目指して移転するのですから、当然、オフィス内部の企画やデザインについても、それなりの取り組みが必要だと考えました。新しい時代のワークスタイルを実現するための新機能を盛り込みたい。そんな考えから、今回のプロジェクトではできるだけ多くの社員に参加してもらい、他人事ではなく『自分ごと』としてオフィスづくりを進めてもらおうと決めたのです」小佐田氏

この方針に基づき、やがて社内には、文書管理プロジェクト、引っ越しプロジェクトなどさまざまなチームが生まれ、かなりの社員が何らかの形で移転に携わっていくのだが、その先陣をきる新オフィスのコンセプトワークを進めるチームのリーダーに抜擢されたのが小田英司氏だった。
「大学で建築を専攻していた関係で、空間プロデュースなどの仕事もいくつか手がけてきました。今回のオフィスづくりを進めるにあたり、フレキシブルで創造的なワークスタイルの構築を念頭にプロジェクトを推進していきました」

プロジェクトの方向付けにリーダーシップを発揮してきた小田氏だが、コンセプトワークにおいては、社内のクリエイティブ・ディレクターやアカウントプランナー、若手~中堅の営業マン、システム部門のスタッフとの度重なるブレーンストーミングでまとめていったという。
「オフィスは社員みんなが使うものですから、どんなにいいものであっても強制しては根づきません。それより、新オフィス構築を『自分ごと』だと思ってもらえるようにしていくことが最も重要だと考えたのです」小田氏

一定のコミュニケーション効果はあるものの
組織管理の面からは課題の多いフリーアドレス。

今回のオフィス移転にあたり、延べ面積の縮小という大きな課題が課せられた。
「芝大門では大広単体だけで4フロア、約1800坪のスペースを使っていました。しかし赤坂パークビルでは2.5フロア、約1,500坪しか確保できないことはわかっていましたが、現状のオフィスの縮小版を目指すのではなく、アイデアの創造に最適でリアルなコラボレーションをどうやって実現していくかが最大の課題だったのです」小田氏

最初に頭に浮かんだのは、固定席を無くしたフリーアドレスオフィスだった。
「コンセプトワークを進めていた当時、多くの企業がこの新しいオフィススタイルを導入していたので、私たちも検討材料の一つにしたのです。確かに省スペース効果は大きいものの、一方で、うまくいかずに失敗したケースも多く、そのまま導入していいものか、充分な検討が必要だと感じました」(小田氏

小佐田氏も、似たような感想を持ったという。
「固定席を無くす本当の意味は、省スペースよりもコミュニケーションの活性化にあるように思いました。それだけに、完全にフリーで座る場所がバラバラになってしまうような方法は、私たちの会社が目指す方向とは違うように感じたのです」

そこで、新設されたある部門と共同で、フリーアドレスのトライアル導入を行っている。その結果、コミュニケーション量の増加やメンバー間の情報共有の面では大きな効果が確認できたものの、やはりいくつかの問題点が浮かびあがってきた。
「一つは、仲間や先輩に囲まれた空間が仕事や成長に大きな効果をもたらすが、フリーアドレスではそれを阻害してしまうという点です。そしてもう一つ、目の届く範囲に部下がいないのは、表情や話しぶりなどから気持ちを察することができないので、マネジメントが困難になるという点も強く指摘されました。『1日中オフィスにいても部門のメンバーと顔を合わせないことがあるなら、組織をつくる意味がないのではないか』との部門長の意見が重要なポイントになりました」(小田氏

こうしたフィードバックをもとに、ネスト(巣)というコンセプトを核とした新オフィスの構想が固まってくる。それが「ファジーアドレス」「5style office」「マネジメントツールの装置化」といったアイデアに結実した。
「ベースになったコンセプトは、『個から共へ』というものです。これは決して『個』と『共』を対立概念として捉えているのではなく、『個』が知恵を出し合い、刺激し合うことで、集団としての『共』(共有知)が強化され、そこでの経験が『個』としての突破力も強くする。そんな相互作用を目指しています。『強い個』を肯定しながら、個人の占有スペースよりも共有スペースを重視することでコミュニケーションの活性化やコラボレーションの促進を図っていくために、固定アドレスとフリーアドレスのいいとこ取りを可能にするにはどんな方法があるか、考え抜いた結果なのです」小田氏

なお、「個から共へ」というコンセプトは、「わたし発想ではなく、わたしたち発想で考える」という新しいワークスタイルのビジョンを示すキーフレーズとして社内にもアピールしていった。
「誰も体験したことのない新しいワークスタイルの導入には、必ず誰もが不安になるはずです。そのとき、構想に至った経緯を理論立てて説明できなければ社員の共感は獲得できません。そういう意味では、最初にコンセプトを明確にすることが、プロジェクトを軌道に乗せる最大のポイントといえるのではないでしょうか」(小田氏

受付カウンター前の打ち合わせスペース

受付カウンター前の打ち合わせスペース。

部門ごとに「巣」を形成していきながら
中では自由席としたファジーアドレス。

それでは「ファジーアドレス」「5style office」「マネジメントツールの装置化」について詳しく説明していこう。

ファジーアドレスとは...

  • 「どこにも席がない」のではなく「どこにでも席がある」という考え方。
  • 自分専用の固定デスクは存在しないが、局単位の固定エリアが存在する。
  • 部門内マネジメント(固定アドレス型)と部門横断コラボレーション(フリーアドレス型)の両方の長所を取り入れた形態である。
  • 原則として、自部門のネスト(巣)の中で、毎朝、好きな場所を選んで座る。
  • 原則、ネストにおける席数は100%以上の設置を前提とする(対象社員数約500名)。
  • プロジェクトベースで、期間を決めて特定のエリアを占有することを認める。
  • プロジェクトベースでなくても、他部門の関係者が横の席で打ち合わせをしたり、半日同席して業務  を進めることが可能となる。

「組織内の縦のまとまりにメリットがあって管理しやすい固定アドレス(固定席)の長所をそのままに、横のつながりを密にしてスペース効率を高めるフリーアドレスのメリットを加えた方式です。個人デスクではなく部門占有エリア内では自由席とすることで、曖昧な許容を持った『自分たちの空間』を実現しました」小田氏

5style office とは...

  • 自部門のベース(巣=Nest)を中心に、Session、Relax、Search、Thinkの5つのエリアを目由に選択できるというワークスタイルである。
  • これまでの「自席←→会議室←→ブース」という単線的なワークスタイルから、5つのエリアを移動することによる多面的なワークスタイルを実現する。

  • Nest
    ビジネスの拠点となるエリアで、部門内のスタッフが自由に席を選択できる「場」。
  • Session
    軽いミーティングが可能な「ロングソファーテーブル」、気軽に集まってブレストができる「アイデアキッチン」など、偶然の出会いからアイデアを生むフリースペース。また、多様な設えでそれぞれ個性を持つ会議室もSessionのエリアになる。
  • Relax
    6面のモニターや展示コーナーなどがあり、リラックスして情報収集や情報交換ができる「ギャラリー&ラウンジ」。
  • Search
    さまざまなジャンルの書籍や資料を揃えた図書閲覧スペース「ナレッジ・ライブラリー」。閲覧しながら企画もできるテーブル席も用意している。
  • Think
    窓際に設置した「ビューカウンター」で、アイデア開発に集中できる。

「社員にとっては、今まで以上に多様なエリアを利用でき、これらを合わせると席数は人数比の120%以上用意しました。移転にあたっては、やはり固定席が無くなることにネガティブな反応を示す人もいましたが、こういう内容を説明することで理解・納得してもらうように努めました」小田氏

マネジメントツールの装置化とは...

  • ファジーアドレスには管理機能の固定化が必要。とりわけ組織の単位である局のマネジメントに注力が不可欠。
  • 機密性が高く、密なコミュニケーションと、責任を高めるために、ライン局長には次のものを用意する。

  • ミーティングテーブルのある個室
  • ステーション機能

「部門占有エリアが曖昧な許容を持つだけに、核となる部門長の居場所は個室とし、しかもそこに打ち合わせ機能を設けることでマネジメントをしやすくしました」小佐田氏

40mのロングソファーテーブルがフロアを貫く斬新なデザインで
エリアの多様性を演出。

このようにコンセプトと計画の方向性を明確にした上で、大広ではオフィスの具体的なデザインを依頼するためにいくつかの専門会社に話を聞いた。そしてパートナーに選んだのが、多くのオフィスデザインを手掛ける株式会社ミダスだった。
「提案されたデザインは必ずしも全て採用したわけではありませんが、ミダスさんには『広告会社に相応しいクリエイティブなオフィスをつくろう』という熱意が感じられ、プロジェクトのパートナーになっていただきました」小田氏

一方、ミダスの小澤清彦氏も、今回のプロジェクトにおける大広側の意気込みの高さに感動したという。

「お話しをいただいた時点で、オフィスに対する明確な方向性やコンセプトが定まっていましたので、今回の役割は、デザイン事務所としていかにコンセプトの具象化をお手伝いするかであると思いました」(小澤氏

フロアレイアウトを具体化する過程で一つのブレークスルーになったのは、「ロングソファーテーブル」の採用だった。
「5style officeによるさまざまなアクティビティの展開を可能にするには、デスクワークと会議という異なる機能を柔軟に併せ持つ『打ち合わせも個人作業もできるコーナー』の設置が重要だということです」浅沼伸哉氏

窓際の「Think」用スペースであるビューカウンターとの境界にもなるロングソファーテーブルは1ラインが40mほどになり、他に例を見ない大胆なレイアウトになっている。
「レイアウト上のさまざまな制約条件に対応するうちに、一時、オフィスの設えがこのまま標準的なものに納まってしまうのではないかという危惧を抱いた時期がありました。丁度そんな時ロングソファーテーブルというアイデアが浮上してきたのです」(小田氏
「デザインを詰める段階では一番煮詰まっていた時期でした。そんなとき、ミダスさんがたまたま出張で行ったオランダのカフェレストランの写真を見て、すぐに『そういう感じにしよう』と決めたのです。そして色も、オレンジや赤などの強いものを使うことで、このエリアを目立たせるように工夫しました」(小田氏
「意匠的な部分への落とし込みにおいては、あくまでも大広さんのコンセプトやアイデアを継承し引き立たせるためのデザインというものを第一に考えました」(ミダス・倉品正伸氏

今回、デザインワークは浅沼氏と倉品氏が中心となって進めたが、小澤氏はリーダーとしてその作業を見つめながら、一つ気づいたことがあるという。
「ここに使ったソファは、比較的、硬めのもので、座り心地でいえば決して最高ではありません。しかしファミレスのような日常のカジュアルな空間体験を喚起させるイメージを実現するには最適なアイテムだったのです。僕らは機能性に関して、人間工学的な観点からのみ判断する傾向がありますが、この場合は『気軽に情報交換をする場所の実現』にとって、こういうソファのほうが実は機能的なのです。大広さんとの打ち合わせの中で、そういうことにも気づかせてもらいましたね」

会議室に「Meeting Room A」ではなく
あえて「Meet A」と名付けた理由。

ここで、大広の新本社オフィスのその他のコーナーについても紹介しておこう。

総合受付&ラウンジ

エントランスからは斜めに置かれた受付カウンターが奥行きを感じさせるようなデザインになっている。その前にはカフェをイメージしたラウンジが設けられ、接客や簡単な打ち合わせができるようになっているほか、ガラス張りでウッドブラインドにより目隠しも可能な応接室も用意されている。

ミーティングエリア

いわゆる"会議室"が並ぶエリア。グループインタビューに最適な中華テーブルスタイルの部屋、カラフルなカーペットがカジュアルな感性を刺激するFLEXルーム、「和」の空間を演出した掘りごたつスタイルの部屋、ガラストップのホワイトボードとプロジェクターでアイデアを出し合う部屋、大型プロジェクターを設置したプレゼンテーションルームなど、多様なデザインのスペースを用意している。
カラフルな床のFLEXルーム
カラフルな床のFLEXルーム。

「地味ではなく、しかも落ち着いた雰囲気にするにはどうしたらいいか、社内のデザイナーを交えて何度も検討を続けてつくったエリアです。個々の部屋のネーミングも、『~ルーム』とせず、「Meet」「Present」というようにそこで行われる行為を名称にしたことで利用する目的を明確にした。また、それぞれのドアに使用する最適な人数をアイコンで示すなど工夫を加えました」(小田氏
何度も検討を続けてつくった会議室

アイデアキッチン

部門間の橋渡しとして設置された、自由に使える場。ダイニングルームのように気軽に立ち寄りながら、そこで出会いと情報交換をしながらアイデアを生み出していくスペースにしている。喫煙室・ベンダー室とも隣接し、壁にはモニターなども設置され、刺激を感じられるような演出も行っている。

ビューカウンター

窓際に設置された集中作業用のスペース。会話量の多いコア側執務エリアからはロングソファーテーブル、そしてキャビネットにより遮られており、気が散らない空間になっている。

ナレッジ・ライブラリー

広告会社だけに、さまざまなメディアやマーケティング資料を閲覧用に用意。以前はただの図書館のようになっていたのに対し、移転後はラウンジをイメージした明るい空間に一変した。

「オフィスが変われば、働き方が変わる」
その言葉の正しさを証明したプロジェクト。

新本社オフィスへの移転にあたり、小田氏が心配していたことに、運用開始後の管理の問題があった。
「昔は広告会社のオフィスといえば書類が溢れていました。私自身、山積みの書類の中で仕事をしていたほどです。今回の移転にあたり大胆に書類の整理とペーパーレス化を進め、個人の書類関係は一人当たり段ボール2箱分になりました」(小田氏

ファジーアドレスであるため、運営上は、デスクの上に書類を残すことはできず、「段ボール2箱分」が収納できるキャビネットとロッカーだけが個人の使えるスペースとなる。これまでの経験から、これらのルールが守られるのか心配していたが、移転から1年弱たった現在、オフィスはオープン当初の姿を保ち続けている。これには、昨年東京本社に異動し、この4月新しく総務局長に就任した畠山秀人氏も驚いているほどだ。
「実は東京に先んじて大阪本社を2005年11月に移転したのですが、固定席ということもあり、時間が経つとともに書類で溢れてしまったのです。それに比べると東京本社はきれいで、オフィスは人を動かし、働き方を変えていくのだと、改めて気付かせてもらいましたね。また、ファジーアドレスであるため大がかりなレイアウト変更の必要もなく、コスト削減にもつながっていると思います」(畠山氏

そんな効果こそが、オフィス移転の最大の目的である。
「経営トップが『オフィスが変われば働き方も変わる』という考え方を持ち、変革に積極的だったことが、私たちの背中を押したのです。オフィスと経営は一体化したものなのですから、トップの理解なくして改革などできません。そういう意味では、社員、経営、そして社外のパートナーと強いチーム力を発揮できたのが、プロジェクトを成功に導いた最大の理由だと思っています」小佐田氏